現地法人を設立した荷主の通関申告は、日本支店よりも書類が増えて手間が倍になります。
現地法人設立における最もわかりやすいメリットの一つが、税率差を活用した節税効果です。日本の法人税の実効税率は約30%前後ですが、世界に目を向けると大幅に低い国が数多く存在します。
代表的な例を挙げると、シンガポールの法人税率は一律17%です。さらに、新設法人向けの部分免税制度を活用すれば、課税所得のうち最初の1万シンガポールドルには75%免税が適用され、実効税率が6%台になるケースもあります。タイでは20%、カナダでは15%、ハンガリーに至っては9%という低水準です。つまり、日本と同じ利益を上げても、進出先の国によっては支払う税金が半分以下になる計算です。
通関業に従事する立場から見ると、この節税メリットは顧客企業の海外進出動機の一つであり、荷主が現地法人を設立するきっかけにもなります。つまり、税制の話は通関業務と無縁ではありません。
ただし、注意すべき点もあります。日本の「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」が適用される場合、現地で稼いだ所得が日本側で合算課税されることがあるからです。
節税が条件です。単に税率の低い国に法人を置くだけでは不十分で、実質的な事業活動を行っていることが要件になります。
| 国・地域 | 法人税率 | 日本との差 |
|---|---|---|
| 日本 | 約30%(実効税率) | — |
| シンガポール | 17%(実効6%台も可) | ▲13〜24ポイント |
| タイ | 20% | ▲10ポイント |
| カナダ | 15% | ▲15ポイント |
| ハンガリー | 9% | ▲21ポイント |
JETRO(日本貿易振興機構)のQ&Aでは、各国の進出形態ごとの税制差異を詳しく解説しています。
JETROによる米国進出形態別の税制解説(支店・現地法人・LLCの比較)
「現地に法人がある」という事実だけで、取引先や現地の行政機関、金融機関からの評価が大きく変わります。これが体感しにくくも見えて、実は最も実務に効いてくるメリットです。
海外支店や駐在員事務所の場合、現地企業からすると「日本本社の出先機関」というイメージが強く、契約や与信の面で不利になることがあります。一方、現地法人は現地の会社法に基づく正式な法人格を持つため、現地企業と対等な立場で商談・契約・雇用ができます。
通関業者の視点でいえば、荷主が現地法人を持つと、その法人が輸入者(インポーター・オブ・レコード=IOR)として申告主体になります。これは書類の記載内容や申告ルートに直接影響します。IORの所在が現地か日本かで、通関に必要な書類や税関手続きの内容が変わってくる点は、業務担当者として押さえておくべきポイントです。
また、現地法人の設立によって荷主企業は現地での人材採用がしやすくなります。現地スタッフが通関手続きの発注を担う場面も増え、日本側の通関業者との関係性が変化することもあります。いいことですね。
現地の信用力に関する具体的な制度について、東京都中小企業振興公社が詳しくまとめています。
現地法人とは?海外支店との違いやメリット・デメリットを解説(東京都中小企業振興公社)
現地法人を使って製造や調達を行うと、コスト面で大きな恩恵が得られます。これは通関業従事者にとっても無縁の話ではありません。
具体的には、現地で原材料を調達・加工することで「輸入品に対してかかる関税そのものを回避」できる場合があります。たとえば、日本から半製品を輸出して現地で加工・販売する場合、日本側では輸出通関、現地では加工品を国内販売するためにわざわざ輸入申告をしないケースもあります。これは通関業務の構造が変わることを意味します。
また、東南アジアを中心とした新興国では、日本に比べて人件費が低い傾向にあります。タイやベトナムに現地法人を設けて製造拠点とした場合、製造コストが日本の3分の1以下になるケースも珍しくありません。製造コストが下がれば、製品の競争力が上がり、輸出入量の増加にもつながります。
つまり現地法人の設立は、通関業者が扱う貨物量の増加にも間接的に寄与するということです。これは使えそうです。
一方、注意が必要なのは、国ごとに輸入関税の免税制度や保税制度の条件が異なる点です。たとえばタイのBOI(タイ投資委員会)認定を受けた現地法人は、機械輸入税や法人所得税の減税・免税措置を受けられることがあります。このような優遇措置を顧客企業が受けているかどうかによって、通関実務での申告方法も変わってきます。
現地法人設立にはメリットだけでなく、見落としてはいけないデメリットも存在します。初期費用だけで500万〜3,000万円程度(国や規模による)かかることがあり、これは東京ドームのグラウンド整備費に相当するとも言われるほどの投資規模です。さらに、設立後も会計・税務・法務・人事管理のコストが継続的に発生します。
通関業従事者としてとくに頭に入れておくべきデメリットは、「荷主が撤退するときのリスク」です。現地法人の清算手続きは、国内での解散より時間も費用もかかります。中国の現地法人の場合、清算完了まで1〜2年を要することも珍しくありません。荷主企業が撤退プロセスに入ると、輸入申告の業務が突然停止するケースがあります。厳しいところですね。
また、カントリーリスク(政情不安、法律の突然の変更、為替変動)も無視できません。2021年度時点で日本企業の海外現地法人数は25,325社に達していますが、その多くが何らかの形でカントリーリスクの影響を受けています。
通関業者側としては、荷主企業の現地法人の状況(清算手続き中かどうかなど)を早めに把握しておくと、業務の急変に備えることができます。荷主の海外法人状況の変化が通関業務にも直結することを、チームとして共有しておくのが原則です。
海外進出の方法8選|手順・コスト・リスクを比較(Digima〜出島):初期費用や撤退コストの実態が解説されています
海外拠点には現地法人以外に「海外支店」「駐在員事務所」があり、それぞれ通関実務への影響が異なります。ここを整理しておくと、荷主との会話でも一歩先を行けます。
駐在員事務所は市場調査・情報収集が主な役割で、取引行為を原則行えません。つまり、荷主が駐在員事務所しか持っていない段階では、輸入者(IOR)は日本本社のままであることがほとんどです。この段階では通関実務の構造はシンプルです。
海外支店になると、日本本社の一部として営業活動・契約が可能になります。ただし収益・負債はすべて本社に帰属するため、輸入申告の際も本社名義で処理されるケースが多くなります。
現地法人になって初めて、現地法人自身が独立した申告主体(IOR)として登場します。この段階では通関書類の記載事項、税関への申告先、さらには消費税・関税の負担者が変わります。顧客企業が現地法人を設立したタイミングで、通関業者は申告方式を再確認する必要があります。
また、荷主が現地法人を設立すると、日本側から現地への輸出と、現地での輸入(または現地から日本への逆輸入)が両方発生し、通関件数が増える傾向があります。顧客の現地法人設立は、通関業者にとって新たな案件の入口になりうるということです。これが原則です。
| 拠点形態 | 法人格 | 輸入者(IOR) | 通関への影響 |
|---|---|---|---|
| 駐在員事務所 | なし | 日本本社 | 通関構造はシンプル |
| 海外支店 | なし(本社の一部) | 日本本社 | 本社名義で申告が多い |
| 現地法人 | あり(独立) | 現地法人名義 | 書類・申告方法が変わる |
税関のAEO(認定事業者)制度との関連でいえば、荷主である現地法人がAEO輸入者(特例輸入者)の承認を取得することで、引取前の通関許可・申告項目の削減・特例申告(輸入許可後に納税申告)が可能になります。通関業者が認定通関業者(AEO通関業者)であれば、荷主が特例輸入者でなくても特例委託輸入者として特例申告制度を利用できます。荷主の現地法人設立と、自社のAEO認定状況を合わせて整理しておくと、顧客提案の幅が広がります。
税関公式|AEO制度の各制度メリット:特例輸入者・認定通関業者それぞれのメリットが一覧で確認できます
JETRO|特例輸入申告制度のメリット:認定通関業者を通じた特例委託輸入の仕組みが詳しく解説されています