物流管理システムと病院のSPDが通関業務に与える影響

病院の物流管理システム(SPD)は、通関業従事者が扱う医療機器の輸入実務とも深く結びついています。薬機法の許可証明から在庫連携まで、知らないと損する実務ポイントとは?

物流管理システムと病院のSPD——通関業従事者が知っておくべき実務の全貌

病院向けの物流管理システム(SPD)は、あなたが扱う医療機器の通関書類に直接影響します。


🏥 この記事の3ポイント要約
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病院の物流管理システム(SPD)とは何か

SPDとは「Supply Processing and Distribution」の略。医薬品・医療材料の発注から在庫・払出までを一元管理する病院向けの物流管理システム。全国の病院の約54.5%が導入済みで、通関業者にとっても無視できない存在になっている。

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通関業者が押さえるべき薬機法の壁

医療機器を病院向けに輸入する際は、税関申告時に「医薬品等製造販売業許可証」の写しを提出しなければ通関できない。SPDシステムのデータ連携が進む現在、ロット番号・滅菌期限の情報管理も通関業者側の確認事項に影響する。

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SPD導入で変わる医療機器サプライチェーン

中規模病院のSPD導入事例では、年間約400万円のコスト削減が報告されている。院内物流の最適化が進むほど、輸入医療機器の調達ルートや発注タイミングが変わり、通関業者にとっても対応のアップデートが求められる。


物流管理システム(SPD)とは——病院の「血液」と呼ばれる理由

病院という組織は、毎日膨大な種類の物品を消費しています。注射器・縫合糸・手術用手袋から検査試薬、さらには文具や日用雑貨に至るまで、その品目数は1施設あたり数千〜数万点にのぼることも珍しくありません。こうした物品を「必要なときに・必要な量だけ・必要な場所へ」届ける仕組みが、SPD(Supply Processing and Distribution)です。


厚生労働省SPD研究会の定義によれば、SPDとは「病院が使用・消費する物品の選定、調達・購入方法の設定、発注から在庫・払出・使用・消費・滅菌・補充に至る一連の物流、商流、情流を物品管理コンピュータ・システムを使い管理すること」とされています。つまり、単なる在庫棚の管理ではなく、サプライチェーン全体を情報システムで制御する仕組みです。


物流管理の専門家がSPDを「病院の血液」と呼ぶのには理由があります。院内の物品の流れが止まれば、手術も点滴も成立しません。院内物流の正確さと速度が、医療の質に直結するのです。


現在、全国の病院のうちSPDを導入している割合は約54.5%(日本福祉大学・WAMネット2020年度調査)に達しており、特に200床以上の中規模以上の病院ではほぼ標準的な仕組みとなっています。これが現実です。




























SPDの管理対象 具体例
医療材料・消耗品 注射器、縫合糸、ガーゼ、手術用手袋
医薬品 注射薬、点滴液、内服薬
医療機器(消耗品区分) カテーテル、ステント、ドレーン
検査試薬 血液検査用試薬、培地
一般消耗品・日用品 文具、印刷物、清掃用品


つまり病院の物流管理システムは、通関業者が扱う「輸入医療機器」の最終到達地点であるということです。


通関業従事者の立場では、SPDがどのように機能しているかを理解しておくことで、荷主(病院側・医療機器卸側)との打ち合わせの質が大きく上がります。


参考:SPD(物品・物流管理システム)の定義と解説(厚生労働省SPD研究会資料)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/02/dl/s0213-12c.pdf


物流管理システムが通関業者に関係する理由——薬機法と税関申告の接点

「院内のシステムなら、通関は関係ないでしょう」——そう思っていると、実務でつまずきます。


医療機器を日本に輸入する際、関税法第70条により、税関への輸入申告時に「医薬品医療機器等法(薬機法)上の許可・承認等を受けていることを証明する書類」の提出が義務付けられています。具体的には「医薬品等製造販売業許可証の写し」や「医薬品等製造販売承認書の写し」を税関に提出し、確認を受けなければ通関が完了しません。


医療機器の輸入量は年々増加しており、厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報(2024年)」によれば、2024年の医療機器輸入金額は3兆6,056億円(前年比8.5%増)に達し、国内生産金額2兆6,642億円を大きく上回っています。通関業者にとって、医療機器の輸入案件は今や無視できない規模の業務領域です。


ここで重要になるのが、病院側のSPDシステムとの連携です。近年のSPDシステムは、GS1-128という国際標準バーコード規格を採用し、ロット番号・滅菌期限・入荷数量をバーコード読み取りで自動記録する機能を持っています。つまり、輸入通関時に商品に付与されたロット番号や有効期限の情報が、そのまま病院内のSPDシステムに取り込まれる仕組みになっているのです。


ここが実務の急所です。


通関後の貨物に記載されたロット番号と、製造販売業者が申告した承認書の情報に齟齬があった場合、SPD側で「登録不能」が発生し、入庫処理が止まります。これは欠品リスクに直結し、最悪のケースでは手術材料の供給遅延という重大インシデントにつながる可能性があります。通関が完了したと思っても、それは病院物流のゴールではないということです。



  • 📌 輸入申告時に必要な主な書類:医薬品等製造販売業許可証の写し、製造販売承認書(または認証書・届書)の写し

  • 📌 医療機器のクラス区分(I〜IV)によって必要な許可の種類(第一種〜第三種)が異なる

  • 📌 通関業者が輸入申告を代行する場合は、通関業法に基づく通関業許可が別途必要

  • 📌 GS1-128対応のSPDシステムが普及している現在、ロット・期限情報の正確性が通関後の院内受入可否を左右する


参考:医薬品医療機器等法に基づく輸入規制の税関における確認内容(税関公式Q&A)
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1805_jr.htm


物流管理システムの主な機能——在庫管理・発注・コスト分析を一元化する仕組み

実際の病院向け物流管理システムには、どのような機能が備わっているのでしょうか。理解しておくことで、医療機器卸や病院の担当者と話す際に、共通言語を持てるようになります。


在庫管理機能が基幹です。どの部署に・どの医療材料が・どれだけあるか、をリアルタイムで把握します。定数(各部署が常に持つべき在庫量)をシステムに登録し、消費のたびに残数が更新される仕組みです。バーコードを使って入出庫を記録し、ロット番号・滅菌期限・入荷数を自動でひもづけます。この機能があるから、リコールが発生したときも対象ロットを即座に特定できます(トレーサビリティ)。


発注・請求機能では、在庫が設定した定数を下回ると自動で発注書を生成します。人が「発注しなければ」と気づかなくても、システムが動く仕組みです。医療現場の看護師や事務スタッフが材料を使った際にカードをスキャンするだけで、使用実績と請求情報が自動で登録されます。


これは重要な点ですね。発注のタイミングと数量がシステムによって決まるということは、輸入医療機器の調達リードタイムや最低発注数量の設定が、そのままSPDの発注サイクルに組み込まれることを意味します。通関業者としては、自社が扱う医療機器の「病院側での発注ルール」を把握しておくことが、スムーズな輸入スケジュール管理につながります。


コスト分析機能も近年のSPDシステムでは充実しています。部署・業者・勘定科目ごとに使用量とコストを可視化し、在庫回転率の分析、過剰在庫の特定、発注価格の適正化を支援します。実際に、ある中規模病院ではSPDシステムの提案によって年間約400万円のコスト削減を実現した事例も報告されています(shopowner-support.net調査)。


リスク管理機能として、使用期限切れのアラート、自主回収品の即時追跡、長期欠品の予測なども組み込まれています。パンデミックや自然災害時の備蓄管理にも活用されており、新型コロナウイルス感染症の拡大時に、個人防護具(PPE)の在庫逼迫をSPDデータで把握していた病院とそうでない病院の間に大きな差が生じたことも、業界内では広く知られています。


参考:院内物流管理システム(SPD)11選の比較・解説(ASPIC Japan)


物流管理システムの運用形態——自院運用型と外部委託型の違いを通関目線で読む

病院の物流管理システムには「自院運用型」と「外部委託型(アウトソーシング型)」の大きく2つの形態があります。この違いは、通関業者が荷主と交渉する際の「相手の組織」が変わることを意味するため、押さえておく価値があります。


自院運用型は、病院のスタッフが自らSPDシステムを操作して物流管理を行います。発注の決定権が院内の担当者(購買課・材料部など)にあるため、通関業者は「病院の購買担当者」と直接やり取りするケースが多くなります。既に専任のSPD担当者を持つ大病院や大学病院に多い形態です。


外部委託型は、株式会社スズケンや鴻池メディカルといった専門のSPD業者が、院内の在庫管理から各病棟への配送まで丸ごと代行します。この場合、通関業者の実質的な取引相手はSPD業者(または医療機器卸と一体化した会社)になることがあります。SPD業者が持つ「全国4カ所の物流センターから一括仕入」(ムトウSPD社の例)のような体制は、輸入貨物の最終納品先が物流センターになる可能性を意味します。港から直接病院へではなく、港からSPD物流センターへ、という物の流れが生まれるのです。


外部委託型のSPDが普及するほど、医療機器の輸入貨物の最終仕向地は「病院」から「SPD業者の物流センター」へとシフトしていきます。これは通関申告書上の荷受人の扱いや、納品先の住所確認に影響する可能性があります。通関後の配送ルートが変わるということですね。



  • 🏥 自院運用型:病院の購買担当者が発注・在庫を管理。通関業者の窓口は「病院の購買課」になりやすい

  • 🚚 外部委託型:SPD専門業者が一括代行。通関後の貨物はSPD業者の物流センターへ向かうケースがある

  • 📊 委託費はランニングコストとしてかかるが、病院側の人件費・管理費を大きく削減できる

  • 🔗 SPD業者が医薬品卸と一体化している場合、輸入・卸・院内配送が一つの会社で完結することも


通関業の現場では、「同じ病院向けの医療機器でも、納品先がSPDセンターになった」というケースが今後さらに増えていくと考えられます。荷主からの指示書や送り状の確認時に、納品先の変化に注意しておくことが実務的なリスク回避になります。


物流管理システムと医療機器輸入——通関業者が見落としがちな連携ポイント(独自視点)

通関業務の教科書には、病院のSPDシステムとの連携についての記述はほぼありません。しかし実際の現場では、この連携不足が小さなトラブルの温床になっています。ここでは、あまり語られない接点を整理します。


ポイント①:製品マスタの事前登録と通関の同期


SPDシステムに物品を登録するには「商品マスタ」への事前登録が必要です。MEDIS(医療情報システム開発センター)や厚生省のデータベースを使い、品目ごとに承認番号・製品コード・価格・有効期限などを登録します。新規輸入品の場合、この商品マスタ登録が完了していないと、通関後に貨物が到着しても「システムに登録がない」という理由で受け入れ不能になるケースがあります。通関業者としては、荷主に対して「SPD側の商品マスタ登録の完了確認」を輸入スケジュールに組み込むよう促すことが、実務的な配慮となります。


ポイント②:薬価改定・保険点数改定と輸入タイミングの関係


日本では医療機器の保険償還価格(保険点数)は定期的に改定されます。SPDシステムには「薬価改定ワンクリック対応」機能を持つものもあり(ZERO Supply等)、改定に合わせてマスタを一括更新します。ただし、輸入ロットの承認書記載内容と最新の保険点数情報にずれが生じると、病院側の会計システムとの連携でエラーが発生することがあります。改定時期前後の輸入案件では、荷主に書類の整合性確認を依頼することが賢明です。


ポイント③:リコール発生時のトレーサビリティへの影響


医療機器のリコールが発生した場合、SPDシステムは輸入時のロット番号をもとに対象製品を即座に特定します。この際、税関申告書に記載されたロット番号とSPDシステムの入庫記録が一致していることが大前提となります。不一致が生じると、リコール対象の製品が特定できず、医療安全上の重大なリスクになります。これは法的リスクとも直結します。


通関申告時のロット番号の正確な記載は、通関業者としての基本義務ですが、それが病院側のリコール対応の精度にまで影響するという連鎖を理解しておくことが、専門家としての付加価値につながります。


参考:医療機器の輸入物流ガイド(鈴与株式会社3PLコラム)
https://www.suzuyo.co.jp/3pl/column/medical-device-import-guide.html


医療機器の輸入に関する薬機法の要件は、JETROの貿易投資相談Q&Aにも詳しく掲載されています。実務の参考資料として手元に置いておくことを勧めます。


参考:医療機器の輸入手続き(JETRO 貿易・投資相談Q&A)
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04M-010754.html


これらのポイントは独立したリスクではなく、SPD→発注→輸入→通関→入庫という一連の流れの中で連鎖します。通関業者がこの全体像を持っていれば、荷主との会話の質が格段に変わります。それが条件です。