T/T送金とは仕組み・リスク・通関実務での注意点

T/T送金(電信送金)とは何か、その仕組みや前払い・後払いの違い、通関実務で見落とされがちなリスクまで徹底解説。BEC詐欺や課税価格への影響など、通関業従事者が知っておくべき実務的な注意点とは何でしょうか?

T/T送金とは何か:基本の仕組みからリスク・通関実務との関係まで

T/T送金(電信送金)を「ただの銀行振込」と同じ感覚で扱うと、1件あたり平均5,484万円の損失を招くBEC詐欺の標的になります。


📋 この記事のポイント3つ
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T/T送金の基本と仕組み

T/T(Telegraphic Transfer)は電信送金のことで、SWIFTネットワークを通じて銀行間で資金を移動させる、貿易取引で最も広く使われる決済手段です。

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前払い・後払いのリスク構造

前払い(T/T In Advance)は売り手有利、後払いは買い手有利。どちらを選ぶかで信用リスクの負担先が全く変わります。通関業従事者はこの構造を把握した上で書類確認をする必要があります。

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通関実務との深い接点

前払金は輸入申告の課税価格に影響します。インボイス金額と実際の支払総額が乖離している場合、過少申告となり追徴課税のリスクが生じます。


T/T送金の意味・語源:電信送金という言葉が今も使われる理由

T/TはTelegraphic Transfer(テレグラフィック・トランスファー)の略で、日本語では「電信送金」と訳されます。「電信」という言葉が古めかしく感じられますが、かつて銀行間の送金指示を電信(テレックス)で行っていたことに由来します。現在はSWIFT(国際銀行間通信協会)のネットワークを通じて電子的に処理されていますが、慣例として「T/T」「電信送金」という呼称がそのまま使われています。


通関業務に携わっていると、インボイスの「Payment Terms(支払条件)」欄に「T/T 30 days after B/L date」などの記載を目にする機会が多いはずです。つまり「T/T」は単なる送金手段の名前ではなく、いつ・どのタイミングで代金が動くかを示す「支払条件の核心」にあたる用語です。


国内の銀行振込との最大の違いは、資金が「コルレス銀行(中継銀行)」を経由する点です。たとえば日本から中国へ送金する場合、単純に日本の銀行→中国の銀行という経路ではなく、間に1〜2行の中継銀行が入るケースが一般的です。この中継銀行ごとに手数料(コルレス手数料:目安2,000〜10,000円程度)が発生し、着金額が送金額より少なくなることがあります。これが後述する書類との金額照合で問題になることがあるため、覚えておくべき重要な特性です。


つまり「T/T=国際的な銀行振込」が基本です。


参考:JETRO「輸出取引における決済方式の変更を依頼された際の留意点」
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-A10833.html


T/T送金の決済フロー:前払い・後払い・分割払いの3パターン

T/T送金は「いつ払うか」によって、輸出者・輸入者のどちらがリスクを負うかが大きく変わります。大きく分けると3つのパターンがあります。




























支払パターン 英語表記 リスクを負う側 主な用途
前払い(全額) T/T in Advance 輸入者(買い手) 初回取引・少額・信頼が確立した相手
後払い(全額) T/T after B/L date 輸出者(売り手) 長期取引実績のある相手・相互信頼が高い
分割払い(デポジット方式) 30% Advance / 70% Balance 双方がリスクを分散 中高額取引・新規から継続に移行する段階


実務でよく目にするのは「30%前払い+70%船積前払い」です。これは売り手が製造に着手するための前金を受け取り、買い手は商品が完成した確認を得た上で残金を支払うという形です。双方のリスクを一定程度分散できる合理的な構造です。


注意したいのは「70%船積前払い」の部分です。船積前払いとは、貨物が実際に日本へ向けて出発する前に残金を支払うことを意味します。


商品は手元に届いていないのに、代金の100%を支払い済みという状態になります。


通関業者はこの「支払タイミング」と「貨物の実態」の関係を把握したうえで書類確認をしないと、後述する課税価格の計算に誤りが生じるリスクがあります。


参考:パソナ「T/T送金の意味とは?貿易取引における決済・送金方法の種類やリスクを解説」
https://lab.pasona.co.jp/trade/word/20/


通関業従事者が見落としやすい:T/T前払金と輸入申告課税価格の関係

ここが通関業に携わる人にとって、最も見落とされがちな実務的落とし穴です。


「インボイスに記載された金額=輸入申告の課税価格」と思い込んでいませんか。関税定率法上の「課税価格」は「現実支払価格」が基本であり、これはシンプルに言えば「買い手が当該商品のために実際にいくら支払ったか」です。


前払金がある場合の具体例を見てみましょう。



  • 🔹 前払金として送金した金額:100万円(デポジット)

  • 🔹 商品到着時にインボイスに記載された残金:50万円

  • 🔹 輸入申告の課税価格として正しい金額:150万円(合計額)


インボイスの金額「50万円」だけを課税価格として申告してしまうと、実態より100万円低い過少申告になります。これは関税・消費税の追徴課税の対象となります。


追徴課税になるのは明確なデメリットです。


税関はT/T送金の送金記録を調査する権限を持っています。事後調査において前払金の存在が発覚し、長期間にわたって過少申告が続いていた場合には、過少申告加算税重加算税が課される可能性があります。輸入者のみならず、申告を担当した通関業者も責任を問われるリスクがあります。


インボイスに「前払金100万円充当済み・残金50万円」と記載されている場合でも、取引の全体像を把握することが原則です。


参考:通関士行政書士による実務解説「前払金と輸入申告価格の考え方について」
https://aog-partners.com/maebaraikintoyunyusinkokukakaku/


T/T送金の最大リスク:ビジネスメール詐欺(BEC)と通関書類の偽装

T/T送金のリスクとして広く知られているのは「前払い詐欺(商品が届かない)」ですが、近年、通関業従事者が特に注意すべき新しい脅威があります。それがBEC(Business Email Compromise:ビジネスメール詐欺)です。


BECとは、取引先や社内の経営幹部になりすました偽メールで、T/T送金先の口座を変更させる詐欺手法です。トレンドマイクロの調査によると、BECによる被害の1件あたり平均金額は5,484万円に達します。


痛いですね。


実際の手口はこうです。



  • 📧 取引先のメールアカウントを不正に閲覧・乗っ取り

  • 📧 「振込先口座が変更になりました」という自然な文面のメールを送付

  • 📧 担当者が疑いなく新口座へT/T送金を実行

  • 📧 着金後、詐欺師は雲隠れ。回収はほぼ不可能


T/T送金は「送ったら戻せない」特性があります。これが国内振込と根本的に異なる点です。誤送金や詐欺被害が発覚した時点で送金が完了していれば、組み戻し手続き(送金取消)は可能ですが、相手口座がすでに空になっていれば資金の回収はほぼ困難です。


通関業者の立場では、インボイスやB/Lに記載された送金先情報と、実際に依頼人が使用した送金先を突き合わせる確認作業が、トラブル発生時の証拠として機能します。書類と送金記録の整合性を意識した業務フローを設けることが、自社と依頼人の双方を守る実務対策になります。


取引先からの口座変更連絡は、必ず電話や別ルートで確認することが条件です。


参考:IPA「ビジネスメール詐欺『BEC』に関する事例と注意喚起」
https://www.ipa.go.jp/archive/files/000058478.pdf


T/T送金とL/C・D/P・D/Aの違い:通関業務で決済方法を読み解くために

通関書類を扱う際、インボイスの「Payment Terms」欄に書かれた決済条件を正しく読み解けると、書類の流れや発生しうるリスクを先読みできます。貿易実務で使われる主な決済方法の特徴を整理しておきましょう。







































決済方法 安全性(輸出者) 手続きの簡便さ コスト 主な使用場面
T/T(電信送金) △〜◎(タイミング次第) ◎(最もシンプル) 低〜中 信頼関係がある相手・アジア圏取引
L/C(信用状) ◎(銀行保証あり) △(書類審査が複雑) 初回取引・高額・政情不安な国
D/P(支払渡し) ○(書類と代金の引き換え) ある程度の信頼がある相手
D/A(引受渡し) △(手形引受で先に書類渡し) 長期取引先・信用力が確認された相手


T/T決済は手続きが最もシンプルで、インボイスとSWIFTの送金確認書(SWIFT MT103)があれば事足りるケースがほとんどです。これが使われやすい最大の理由です。


一方、L/Cは書類審査が複雑なため、通関業者にとっても書類の整合性チェックが非常に厳しくなります。L/C条件不一致(Discrepancy)が生じると、船積書類が受理されず決済が止まる事態になります。これは使えそうですね。


JETROが提供するQ&A形式の解説は、実務での判断に役立つ情報が豊富です。


参考:JETRO「輸入代金前払決済のリスク回避策」
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-010201.html


通関業務において決済方法の知識が必要になる主な場面は、インボイスの支払条件確認、B/L発行タイミングとの照合、税関への申告価格の根拠説明、そして荷主からの問い合わせ対応です。「T/T 60 days after B/L」と記載されていれば、B/L発行から60日後が支払期日であり、この段階では貨物はすでに通関済みであることが分かります。こうした読み解き力が、日常の通関業務の精度を高めます。


決済条件を理解することで書類の整合性確認がより確実になるということですね。