対米輸入額を倍増させても黒字は13%しか減りません。
日本の対米貿易黒字は2024年時点で8.6兆円に達しています。この数字は日本が米国に輸出する金額が輸入額を大きく上回っている状態を示しており、長年にわたり米国政府から問題視されてきました。
参考)日本の対米貿易黒字解消手段を検証:輸出品全体に60%の関税で…
貿易黒字とは輸出額が輸入額を上回る状態です。
参考)540-05:サピックス5年生社会:日本の貿易の変遷|勉強D…
具体的には、日本から米国への主要輸出品は自動車や自動車部品、電子機器、機械類などで構成されています。一方で米国から日本への輸入品は液化天然ガス(LNG)や穀物、肉類が中心となっており、この輸出入の金額差が8.6兆円という巨額の黒字を生み出しています。東京ドーム約1,720個分の容積に相当する経済規模と言えば、その大きさが実感できるでしょう。
トランプ政権は2025年にこの貿易黒字の解消を最終目的として掲げ、日本に対して関税措置を含む通商交渉を求めてきました。対米貿易黒字を抱える国の中で日本は主要な交渉対象となり、通関業務に携わる方々にとっては実務上の大きな転換点となっています。
参考)日米関税合意は対米貿易黒字を6.2兆円削減する計算だが黒字解…
米国産LNGや穀物・肉類の輸入額を仮に2倍にしても、貿易黒字の削減効果は1.1兆円程度、つまり全体の13%にとどまります。これは意外に小さい数字に感じるかもしれません。
つまり輸入増だけでは限界があるということですね。
日本政府は2025年2月の日米首脳会談で米国からのLNG輸入拡大を約束しましたが、2024年のLNG輸入額は約5,400億円でした。これを倍増させても効果は限定的です。同様に穀物・肉類の輸入を2倍にしても黒字削減効果は全体の13%程度という試算が出ています。
一方、自動車輸出に25%の関税が課される場合、輸出額は1.1兆円減少し、黒字は12%程度減少すると見込まれています。さらに関税率を50%に引き上げても輸出減少は2.1兆円で、貿易黒字を4分の1程度しか削減できません。
完全な黒字解消には極端な措置が必要です。
対米輸出全体に60%の関税を課すと、輸出額は年間8.9兆円減少し、貿易黒字は貿易赤字に転じる計算となります。あるいは対米輸出全体への50%関税と、LNG・穀物・肉類の輸入倍増、自動車輸入3倍増を組み合わせる場合でも、輸入額は9.6兆円減少し黒字は解消される見込みです。通関業務従事者としては、こうした極端なシナリオも念頭に置いた準備が求められます。
2025年8月に発効した日米関税合意では、日本への相互関税は当初の25%から15%へと引き下げられました。この15%という数字は対米貿易黒字を抱える国の中で最も低い関税率となっています。YouTube
参考)日本人が知らない「関税15%」の真実…交渉の裏に潜むトランプ…
自動車は既存2.5%を含め15%です。
自動車への追加関税は25%から半減され、既存の税率2.5%を含めて15%となることで合意しました。この合意により対米貿易黒字は約6.2兆円削減され、2024年の黒字額8.6兆円の約7割を減少させる計算となります。ただし輸入額の純増分を考慮すると、実際の削減効果は4.8兆円程度、つまり黒字額の56%減少にとどまる可能性があります。YouTube
通関業務の現場では、この15%関税により申告書類の記載内容や関税計算方法を見直す必要が生じています。特に自動車部品や電子機器など、米国向け輸出が多い品目を扱う通関業者では、HSコードの分類確認と関税額の正確な算出が従来以上に重要になっています。
参考)https://www.meti.go.jp/tariff_measures/pdf/2025_0901_02.pdf
価格と数量の両面で影響が出ます。
15%関税は引き上げ前と比較して上昇幅が極めて大きく、今後は輸出価格の上昇と輸出数量の減少という両面での影響が予測されます。米国市場の動向が見通せない中、通関業務従事者はサプライチェーンの変化に柔軟に対応する体制を整えることが求められています。
関税率変更により通関書類の記載ミスが増加すると、修正申告や延滞税のリスクが高まります。この影響は輸出者だけでなく、通関業者の信頼性にも直結する問題です。
修正申告には時間もコストもかかりますね。
15%関税の適用により、輸出申告書のインボイス記載内容と実際の商品価格の整合性確認がより重要になっています。特に自動車や自動車部品のように高額商品を扱う場合、わずかな記載ミスでも関税額に大きな差が生じます。例えば1台500万円の自動車の場合、15%関税は75万円に相当し、これが10台なら750万円という多額の関税負担となります。
参考)https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/index.htm
さらに通関業務では原産地証明書の精査が必須となります。日米貿易協定(日米デジタル貿易協定)の適用により一部品目では関税優遇措置が受けられる可能性があるため、正確な原産地判定と証明書の準備が求められます。証明書の不備があると優遇税率が適用されず、通常の15%関税が課されるため、事前の確認作業が不可欠です。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/index.html
また米国側の輸入通関手続きにおいても変化が生じています。米国税関国境警備局(CBP)による審査が厳格化し、書類不備による通関遅延が発生するリスクが高まっています。通関遅延は輸出者にとって納期遅れやペナルティにつながる可能性があるため、通関業者としては事前の書類チェック体制を強化する必要があります。
参考)https://www.meti.go.jp/tariff_measures/
輸出量の減少も見込まれます。
15%関税により米国向け輸出の採算性が悪化し、輸出量そのものが減少する可能性があります。これは通関業務の取り扱い件数減少という形で業務量に直接影響します。特に自動車産業を中心とした輸出型企業では生産拠点の一部を米国へ移す動きもあり、日本国内からの輸出案件自体が減少するリスクも考慮すべきです。
参考)2025年アメリカ関税が日本の貿易に与える影響を徹底解説【4…
関税率変更に対応するため、まず取り扱い品目のHSコード分類を再確認することが重要です。HSコード(関税分類番号)は関税率を決定する基準となるため、分類ミスは直接的な関税額の誤りにつながります。
HSコード確認は基本中の基本です。
具体的には、自動車部品や電子機器など複数のHSコードに該当する可能性がある品目について、税関のデータベースや事前教示制度を活用して正確な分類を確定させます。事前教示制度を利用すれば、税関から文書で正式な分類回答を得られるため、通関時のトラブルを未然に防げます。この手続きには通常2〜3週間かかるため、余裕を持った準備が必要です。
次に原産地証明書の準備体制を整えます。
日米貿易協定による関税優遇を受けるためには、輸出品が日本原産であることを証明する書類が必要です。この証明書は商工会議所などで発行されますが、申請から取得まで数日かかる場合があります。頻繁に米国向け輸出を行う企業では、あらかじめ包括的な原産地証明の取得を検討することで、個別申請の手間を省くことができます。
さらに輸入者との事前調整も欠かせません。
15%関税の負担を輸出者と輸入者のどちらが負うかは契約条件(インコタームズ)によって異なります。FOB条件であれば関税は輸入者負担ですが、DDP条件では輸出者が関税を負担するため、契約内容の再確認が必要です。この調整を怠ると、予期せぬコスト負担が発生し、ビジネス上のトラブルにつながります。
経済産業省が提供する「米国関税対策ワンストップポータル」では、関税措置の最新情報や相談窓口が提供されています。通関業務従事者はこのポータルを定期的にチェックし、政策変更や実務上の注意点を把握することで、クライアントへの適切なアドバイスが可能になります。
経済産業省・米国関税対策ワンストップポータル
※関税措置の最新動向や企業向け支援策について詳細な情報が掲載されています。通関業務における実務対応の参考として活用できます。
2025年度の日本の経常収支は29兆9,610億円の黒字となり、3年連続で過去最高を更新する見通しです。一方で貿易収支は1兆8,850億円の黒字に転じると予測されています。
参考)https://www.jftc.or.jp/publications/assets/pdf/trading2025_20241206.pdf
貿易黒字は縮小傾向にあります。
ただし対米貿易に限れば、15%関税の影響により黒字は大幅に縮小する見込みです。自動車輸出の減少が特に顕著で、2024年に対米自動車輸出額が11.4%減少した実績からも、今後さらなる減少が予想されます。これは東京23区内の全自動車台数に匹敵するほどの規模です。
参考)貿易赤字5割減の2.6兆円 昨年、関税で対米黒字1割減 - …
通関業務への影響としては、米国向け案件の減少に伴う業務量の変化が考えられます。特に自動車関連の輸出通関を主力とする業者では、他の輸出先や取り扱い品目の多様化が求められるでしょう。一方で中国や東南アジア向け輸出が増加する可能性があり、これらの地域に対する通関知識の強化が競争力につながります。
また米国市場の不確実性が高まる中、サプライチェーンの見直しが進む可能性があります。日本企業が米国内に生産拠点を移転する動きが加速すれば、日本からの輸出ではなく米国内での現地生産が増え、通関業務の需要構造そのものが変化します。
税制見直しも検討されています。
国内需要喚起のための税制見直しやサプライチェーン支援策が期待されており、これらの政策動向も通関業務に間接的な影響を与える可能性があります。例えば輸出促進のための補助金制度が導入されれば、関連する証明書類の準備や申請手続きが通関業務に追加される可能性もあります。通関業務従事者としては、貿易政策や税制改正の動向を常に注視し、変化に迅速に対応できる体制を整えることが今後ますます重要になります。