「BBDと書いてあれば必ず賞味期限だと思い込んでいると、製造日と混同して輸入書類に誤記載し、税関で差し止めになることがあります。」
海外食品のパッケージを手にしたとき、「BBD」「EXP」「MFG」「USE BY」「BEST BY」といった英字が並んでいるのを見たことがあるでしょう。これらは賞味期限や消費期限、製造日などを示す略語です。しかし重要なのは、これらの略語が「絶対にひとつの意味しか持たない」わけではない、という点です。
以下に代表的な略語と、その一般的な意味をまとめます。
| 略語・表記 | 正式名称 | 一般的な意味 | 主な使用地域 |
|---|---|---|---|
| BBD / BB | Best Before Date | 賞味期限(品質保証期限) | EU・イギリス・オーストラリア |
| EXP / EXPIRY | Expiry Date | 期限日(賞味・消費どちらも使われる) | 米国・カナダ・東南アジア |
| USE BY | Use By Date | 消費期限(安全性に関わる期限) | 米国・EU・オーストラリア |
| BEST BY / BEST BEFORE | Best Before | 賞味期限(品質が最良の期限) | 米国・カナダ |
| SELL BY | Sell By Date | 販売期限(小売店向け管理用) | 米国 |
| MFG / MFD | Manufacturing Date | 製造日 | 中国・東南アジア・インド |
| PKD | Packed Date | 包装(パック)日 | 東南アジア・オーストラリア |
| DOM | Date of Manufacture | 製造日(MFGと同義) | 台湾・韓国 |
注意が必要なのは「EXP」です。これは英語圏で最も広く使われる略語のひとつですが、食品の種類や輸出国によって「賞味期限」を意味する場合と「消費期限」を意味する場合が混在しています。つまり、EXPだけを見ても「これは期限日だ」とはわかっても、日本の食品表示法における「賞味期限」なのか「消費期限」なのかは、現地の規制と食品カテゴリを合わせて判断する必要があります。
これが基本です。
通関業務では、インボイスや輸入申告書に記載する期限の種別が問われる場面があります。「EXPと書いてあったので賞味期限として申告した」という判断は、食品によっては誤りになることがあるため注意が必要です。
国によって賞味期限の表示ルールは大きく異なります。通関業従事者にとって、国別のルールを理解することは書類精度の向上に直結します。
EU(欧州連合) では、EU食品情報規則(EU No 1169/2011)によって「Best Before(BBD)」の表示が義務付けられています。ただし、日持ちしない食品(生鮮肉・一部の乳製品など)については「Use By」の表示が必要で、これは消費期限にあたります。EUのBBDは「この日付を過ぎても必ずしも食べられないわけではない」という品質保証の概念であり、消費者への情報提供として位置づけられています。
意外ですね。
米国では、連邦法レベルで食品の期限表示に統一基準がありません(乳児用粉ミルクなど一部を除く)。「Best By」「Best Before」「Sell By」「Use By」「Enjoy By」など企業が独自に設定した表現が混在しており、2024年時点でFDA(米食品医薬品局)と業界団体が「BEST IF USED BY(品質)」と「USE BY(安全性)」の2種類に統一しようという動きが進んでいます。しかし現時点では法的拘束力は限定的であり、輸入書類を作成する際は「どの種別の期限か」を製品仕様書や製造者への問い合わせで確認することが現実的です。
中国では「保质期(bǎo zhì qī)」という表記が標準で、製造日(生产日期:shēngchǎn rìqī)と品質保証期間(〇ヶ月・〇年)を合わせて表示するのが基本です。つまり「製造日+保質期間」で実際の期限を計算するスタイルであり、日本のように「○年○月○日まで」とストレートに期限日を表示するケースが少ない点が特徴です。中国からの食品輸入を扱う場合は、この計算が必要になります。
韓国・台湾では「유통기한(流通期限)」「賞味期限」に相当する日付が漢字・ハングルで明記されることが多く、アルファベット略語はDOM(製造日)などが使われます。比較的読みやすい部類に入ります。
東南アジア(タイ・マレーシア・インドネシアなど)では、英語とローカル言語が混在した表示が一般的で、MFGとEXPが併記されているケースが多数あります。MFG(製造日)+EXP(期限日)の2行セットを確認するのが基本です。
国別ルールを把握することが条件です。
通関業務において、輸入申告書や食品届出書類への記載を誤ると、書類の訂正・再提出が必要になるだけでなく、最悪の場合は貨物の一時留め置きや輸入許可の遅延につながります。年間を通じて大量の輸入食品を扱う事業者では、こうした遅延1件あたりの損失が数万円規模になるケースも珍しくありません。
厚生労働省「輸入食品の食品表示について」
(輸入食品に必要な日本語表示の基準や届出手続きが確認できる公式ページ)
アルファベット略語の意味を理解した後に落とし穴になりやすいのが、日付の並び順です。これを軽視すると、書類上の期限日が2ヶ月以上ずれるという重大なミスが起きます。
主な日付フォーマットは以下の3種類です。
| フォーマット | 並び順 | 主な使用地域 | 例:06/08/25 |
|---|---|---|---|
| MM/DD/YY(YY) | 月/日/年 | 米国 | 2025年8月6日 |
| DD/MM/YY(YY) | 日/月/年 | EU・オーストラリア・東南アジア | 2025年8月6日(6日8月) |
| YY(YY)/MM/DD | 年/月/日 | 日本・中国・韓国 | 2025年6月8日 |
例えば「06/08/25」という表記が輸入食品のパッケージに印字されていた場合、米国製品なら「2025年8月6日」、EU製品なら「2025年8月6日(=日が6、月が8)」、アジア系製品なら「2025年6月8日」と読む可能性があります。月と日が同じ数字の場合は気づきにくいですが、「04/06/25」などのケースでは米国式とEU式で「4月6日」と「6月4日」の約2ヶ月差が生じます。
これは痛いですね。
通関書類には正確な期限日の記載が求められます。パッケージの情報だけでなく、輸入者から提供されるスペックシートや製品情報シート(Product Specification Sheet)を必ず照合し、日付フォーマットを特定する習慣をつけることが現実的なミス防止策です。
また、一部の輸入食品では年月のみが記載されている場合があります。「BB: 08/2026」のような表示は「2026年8月末日まで」と解釈するのがEUおよび日本の食品表示基準上の慣例です。月末日を期限とする解釈を覚えておけばOKです。
消費者庁「食品表示基準について(Q&A)」
(輸入食品の年月表示の読み方・期限の解釈方法について確認できる公式資料)
海外のアルファベット表示を正しく読んだ後、通関業従事者が実務で直面するのが「日本語への書き換え」作業です。食品表示法(2015年施行)では、輸入食品を国内で販売する際に日本語表示を付与することが義務付けられており、外国語のみの表示は原則として販売不可です。
書き換えにあたって押さえるべき主なポイントは次のとおりです。
- 賞味期限か消費期限かの判断:原産国の略語と食品カテゴリをもとに、日本の基準で「賞味期限(品質が保たれる期限)」または「消費期限(安全性に関わる期限)」のどちらに該当するかを判断する
- 日付フォーマットの統一:日本の食品表示基準では「年月日」または「年月」で表示することが必要。海外の「MM/DD/YYYY」形式をそのまま転記するのは不可
- 書き換えシールの貼付位置:消費者が見やすい場所に貼付する必要があり、元の外国語表示を完全に隠す方法は認められていない場合がある(判読可能性の確保)
- 輸入者の責任:食品表示法上、表示の正確性は輸入者が責任を負うため、通関業者が書き換えに関与する場合は輸入者との役割分担を明確にしておくことが重要
日本語への書き換えが必要な項目は期限日だけではありません。原材料名・添加物・アレルゲン・原産国名・輸入者名など複数の項目が一括で必要になります。通関業務の範囲として、食品の輸入届出(食品衛生法に基づく厚生労働省への届出)と合わせて確認することが一般的です。
輸入者が書き換えシール作成を自社で行うケースと、ラベル貼付の専門業者に外注するケースがあります。後者を活用することで書き換えミスのリスクを下げながら、通関から販売開始までのリードタイムを短縮できる場合があります。
書き換え後の表示に誤りがあり、販売後に問題が発覚した場合は、行政指導や自主回収(リコール)に発展するリスクがあります。食品リコール1件あたりの対応コストは、規模によっては数百万円から数千万円に達するケースもあり、事前の確認体制の整備が最も効率的なコスト管理策です。
消費者庁「食品表示法」ページ
(食品表示基準の条文・Q&A・各種ガイドラインが集約されている公式情報源)
ここまで略語の意味・国別ルール・日付フォーマット・書き換え基準と解説してきました。最後に、通関業務の実務で即活用できる視点をまとめます。
まず確認すべきは「略語の種類」「日付フォーマット」「食品カテゴリ」の3点セットです。この3つが揃って初めて、その表示が日本基準でいう「賞味期限」なのか「消費期限」なのかを正確に判断できます。1つ欠けても推測が入り込む余地があります。
次に、取り扱い頻度の高い輸出国ごとに「表示パターンリスト」を自社で作成・更新しておくことを推奨します。例えば「中国からの食品はMFG+保质期(ヶ月)形式が多い」「米国の乳製品はSell By表記が多い」といった情報を蓄積しておくと、現場での判断スピードが大幅に上がります。これは使えそうです。
また、製品仕様書(スペックシート)の取り寄せを輸入者に習慣化してもらうよう働きかけることも実務上の重要ポイントです。パッケージの印字だけに頼った確認は、印刷不鮮明・インク剥がれ・フォントの見間違いなどのリスクがあります。製品仕様書には日付フォーマットや期限の種別が明記されていることが多く、書類作成の根拠にもなります。
さらに見落とされがちなのが「期限表示が複数箇所にある場合の優先順位」です。缶詰や瓶詰め食品では、蓋・ラベル・外箱の3箇所に異なる形式で期限が印字されていることがあります。どの表示を正式な申告値とするかについては、輸入者に事前確認しておくことで、後から訂正が発生するリスクを減らせます。
最後に、賞味期限表示の読み方は各国の法令改正・業界ガイドライン更新によって変化します。EUでは食品廃棄削減の観点からBBD表示に関する議論が継続中であり、米国でも業界統一ラベルへの移行が段階的に進む見込みです。定期的に各国の食品規制当局や日本の消費者庁・厚生労働省の最新情報を確認する習慣が、長期的な業務品質の維持につながります。
厚生労働省「輸入食品監視業務について」
(輸入食品の届出・検査体制・表示確認に関する実務上の基礎情報が確認できます)