マニュアルを「適当に作っておけば大丈夫」と思っていると、税務署の審査で不許可になり、許可取得まで最短でも2〜3週間以上余計にかかります。
免税販売手続マニュアルとは、輸出物品販売場(免税店)の許可申請において、税務署に提出しなければならない添付書類の一つです。国税庁が定める「一般型輸出物品販売場許可申請手続」では、申請書類の中に「免税販売の方法を販売員に周知するための資料(免税販売手続マニュアルなど)」が明記されています。つまり、このマニュアルが存在しなければ、そもそも許可申請自体が受け付けられないという非常に重要な書類です。
多くの事業者が見落としがちな点ですが、このマニュアルは「あれば何でもよい」というものではありません。税務署の担当官が確認するのは、「このマニュアルを見た販売員が、実際に適切な免税手続きを行えるか」という実務的な観点です。形式だけ整えたサンプルでは、審査で指摘を受けることがあります。
では、マニュアルには何を盛り込めばよいのでしょうか?具体的には次の内容が必要です。
- 免税対象者の確認方法(パスポートの見方、在留資格の確認手順)
- 免税対象物品と金額要件(一般物品・消耗品の区分、5,000円以上という下限)
- 購入記録情報の入力・国税庁への送信手順
- 消耗品の特殊包装に関する説明(2026年10月末まで必要)
- 購入者への必要事項の説明義務(国外持ち出し義務、税関提示義務など)
マニュアルが申請書類の柱です。許可後も、スタッフが入れ替わるたびに教育ツールとして機能するため、現場で実際に使える内容にしておく必要があります。
参考リンク(許可申請書の提出書類一覧が確認できます)。
国税庁|D1-36 一般型輸出物品販売場許可申請手続
実際のマニュアルサンプルを作る際には、「読んだだけで手続きが完結する」流れを意識することが最重要ポイントです。慣れていない販売員でも迷わず動けるよう、チェック形式・フロー形式が特に有効です。
マニュアルの構成例として、以下のような順番が一般的です。
📌 第1ステップ:免税対象者かどうかの確認
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| パスポートの所持 | コピー不可・本人確認必須 |
| 在留資格 | 短期滞在・外交・公用・米軍関係者・一時帰国日本人 |
| 入国からの日数 | 入国後6か月以内(一時帰国日本人の場合は帰国後6か月以内) |
| 一時帰国日本人の場合 | 戸籍の附票または海外在留証明書(発行日6か月以内)で、2年以上の海外居住を証明 |
📌 第2ステップ:商品と金額要件の確認
- 一般物品:税抜5,000円以上(一取引単位あたり)
- 消耗品(食品・化粧品・医薬品等):税抜5,000円以上、50万円まで(同一日・同一店舗)
- 一般物品と消耗品の合算:合計5,000円以上なら全品消耗品扱いで免税可
一般物品と消耗品の合算は可能です。ただし、合算する場合は全品を消耗品として特殊包装しなければならないという点が重要なルールです。
📌 第3ステップ:購入者への説明義務(書面または口頭)
購入者には必ず以下の3点を説明する義務があります。
1. 免税品は国外に持ち出すために購入するものであること
2. 出国の際、出港地を管轄する税関長にパスポートを提示すること
3. 出国時に免税品を所持していなかった場合、消費税が徴収されること
これらの説明義務は、日本語と外国語の両方でリーフレットや掲示物を使って伝える必要があります。国税庁は英語・中国語(簡体・繁体)・韓国語版のリーフレットを無償配布しており、それをそのまま利用することができます。これは使えそうです。
参考リンク(多言語リーフレットの最新版PDFが入手できます)。
国税庁|免税販売手続を行う際の留意点(リーフレット・チェックシート)
📌 第4ステップ:パスポート情報の確認と購入記録情報の入力
パスポートの以下の情報を免税システムに入力します。
- 氏名・国籍・生年月日・パスポート番号
- 在留資格・上陸年月日(査証ページの上陸許可シール)
入力後、インターネット経由で国税庁サーバーへリアルタイム(「遅滞なく」)送信することが義務です。この送信を1回でも失念すると、該当の売上が免税売上として認められなくなるリスクがあります。送信は義務です。
📌 第5ステップ:消耗品の特殊包装
消耗品は、日本国内で開封・消費されないよう、以下の要件を満たす包装をして引き渡します。
- 出国まで破損しない強度を有すること
- 開封時に開封が分かる封印シールで封をすること
- 中身や個数が袋越しに確認できること(透明または半透明の袋)
- 「出国まで開封しないでください」の注意書きを日本語・外国語で記載
なお、2026年11月のリファンド方式移行後は、この特殊包装義務は廃止される予定です。
免税店の許可を税務署に申請する際、「輸出物品販売場許可申請書(一般型)」と「購入記録情報提供方法等届出書」の2書類がメインとなります。申請は店舗所在地を管轄する税務署に行い、各販売場ごとに1枚ずつ作成が必要です。2店舗展開しているなら2枚提出することになります。
以下が、申請時に必要な添付書類のサンプルリストです。
| 添付書類 | ポイント |
|---|---|
| ① 販売場の見取図 | 免税販売手続きを行う場所を明示 |
| ② 免税販売手続を行う人員の配置状況資料 | 誰がどこで対応するかの図・表 |
| ③ 申請者の事業内容が確認できる資料 | 会社案内・ホームページのコピー等 |
| ④ 取扱商品が確認できる資料 | 商品リスト・カタログ等 |
| ⑤ 購入者への必要事項の説明のための案内 | 多言語リーフレット等のサンプル |
| ⑥ 免税販売手続マニュアル | 販売員への周知資料(今回の本題) |
書類に漏れがあれば即補正指示が来ます。許可は申請後おおむね2〜3週間かかるため、開業・導入スケジュールには余裕を持って申請することが重要です。
マニュアルのサンプルは、「免税店.jp」(taxfree.jp)や「観光庁」「全国免税店協会」のウェブサイトで参考様式を公開しています。ただし、コピーをそのまま提出するのではなく、自店の商品構成や販売フロー・使用する免税システム名に合わせてカスタマイズすることが審査通過のポイントです。
申請後に免税システムを変更した場合には、届出内容の変更手続きも必要になります。変更届けの出し忘れが後日の税務調査でトラブルになるケースがあるため、システム変更のたびに税務署への届け出を忘れないようにしましょう。
参考リンク(購入記録情報の提供方法に関する届け出書の書式がダウンロードできます)。
国税庁|一般型輸出物品販売場許可申請手続(申請書様式・記載要領)
2021年10月以降、免税販売手続きは完全に電子化されています。以前は紙の「購入記録票」をパスポートに貼り付け・割印する方法が認められていましたが、現在その方法は廃止済みです。電子化が原則です。
電子送信の方法は2種類あります。「自社送信」と「他者送信(承認送信事業者への委託)」です。
🔹 自社送信
自社で国税庁の電子計算機とインターネット回線で接続し、免税データを直接送信する方法です。送信システムの開発・購入・維持管理コストがかかるため、大手チェーンや専任のIT担当者がいる企業向けです。
🔹 他者送信(承認送信事業者に委託)
スマートデタックス・PIE VATなどの「承認送信事業者」と契約し、購入記録情報の送信を委託する方法です。中小・個人の小売店では、この方式を選択するケースが大多数を占めます。月額費用や販売ごとの手数料が発生しますが、自社システム開発の負担がありません。
また、購入記録情報には7年間の保存義務があります。クラウド型の免税システムを利用すれば保存は自動で完結しますが、自社送信の場合は独自に保存体制を整える必要があります。7年間が条件です。
マニュアルには、使用する免税システムの名称・操作手順・承認送信事業者名(承認送信事業者番号)を明記しておくことが理想的です。担当者が変わっても即座に引き継げる構成にしておくと、実務上の空白が生まれません。
また、100万円(税抜)以上の高額商品を免税販売する場合は、2025年改正でシリアル番号・ブランド名・型番などの商品詳細情報の記録・送信が新たに義務付けられました。これも見落とし注意ポイントです。マニュアルに「高額商品(税抜100万円以上)は品番を必ず入力する」という一文を追加しておくことをおすすめします。
参考リンク(電子化の仕組みや承認送信事業者の要件が詳しく解説されています)。
国税庁|免税販売手続の電子化の概要(PDF)
2026年11月1日から、日本の免税制度は「購入時免税」から「リファンド方式」へ全面移行します。これは、単なる小変更ではなく、手続きの根本的な仕組みが変わるということです。厳しいところですね。
現行制度とリファンド方式の最大の違いは次の点です。現行制度では店舗での会計時に消費税を免除する(税抜価格で販売する)のに対し、リファンド方式では一旦消費税込みで販売し、出国時に税関で持ち出しが確認された後にはじめて消費税相当額が旅行者に還付される仕組みに変わります。
これに伴い、マニュアルの改訂が必要になる主な変更点は次の通りです。
| 項目 | 現行制度(〜2026年10月) | リファンド方式(2026年11月〜) |
|---|---|---|
| 会計時の消費税 | 税抜価格で会計(免税) | 税込価格で会計 |
| 一般物品/消耗品の区分 | 必要 | 不要 |
| 消耗品の特殊包装 | 義務あり | 廃止 |
| 消耗品の50万円上限 | あり | 廃止 |
| 購入記録情報の送信 | 必要 | 引き続き必要 |
| 出国確認 | 税関で旅行者がパスポート提示 | 同様(税関確認が必要) |
つまり、リファンド方式移行後のマニュアルからは「一般物品と消耗品の区分説明」「特殊包装の手順」「50万円上限のチェック」といった項目が不要になります。一方、「税込での会計処理の説明」「経理側への還付金精算フローの補足」などの新しい項目が加わります。
2026年11月1日は移行期間が設けられないことも注目すべき点です。前日まで旧制度、翌日から新制度という完全な切り替えが予定されています。マニュアルの改訂・スタッフへの周知・免税システムのアップデートを、2026年10月中に完了させることが絶対条件となります。
2026年11月以降も免税店を継続する場合は、新制度に対応した免税POSシステムが必要です。現時点でシステムの選定・更新計画を立てておくことが、制度切り替えの直前に慌てないための最善策です。
参考リンク(リファンド方式への移行に関する観光庁の説明資料です)。
観光庁|免税制度(リファンド方式)特設ページ
参考リンク(国税庁による新免税制度の概要パンフレットです)。
国税庁|輸出物品販売場における輸出免税について(リファンド方式特設)