あなたが「EU向け製品は今まで通りの書類で大丈夫」と思っているなら、2027年から通関が止まります。
EUが2020年に発表した「欧州グリーンディール」の中核政策のひとつが、サーキュラーエコノミー・アクションプラン(CEAP:Circular Economy Action Plan)です。この枠組みのもとで、複数の法規制が同時並行で整備されており、日本の通関業者が「EU向け製品を扱う」ならば、もはや無関係とは言い切れない状況になっています。
サーキュラーエコノミーとは、製品を「作って・使って・捨てる」という一方通行の線形経済(リニアエコノミー)から脱却し、製品・素材・資源を可能な限り長く使い続ける循環型の経済モデルのことです。つまり製品設計の段階から、修理・再利用・リサイクルを前提とした作りが義務付けられます。
通関業務との接点はどこでしょうか?
EUへの輸入通関において、製品がESPR(エコデザイン・サステナブル製品規則)の要件を満たしているかどうかを証明する書類が、近い将来「通関に必要な書類」として扱われるようになります。現行のCEマーキングや適合宣言書(DoC)に加えて、デジタルプロダクトパスポート(DPP)の提示が求められる製品カテゴリが拡大する見込みです。
これは輸入申告書類の構成が変わることを意味します。通関業者として荷主から受け取るべき情報の種類が増える、ということです。これは見逃せません。
EUは2022年3月にESPR規則案を公表し、2024年7月に正式発効しました。発効から各製品カテゴリへの適用までには移行期間が設けられていますが、最初の製品群(繊維・電子機器・鉄鋼・アルミ等)には2027〜2030年頃の適用が見込まれています。通関書類の準備は今から始める必要があります。
JETRO:EUエコデザイン規則(ESPR)の概要と最新動向
デジタルプロダクトパスポート(DPP)は、製品に関する情報(素材構成・リサイクル含有率・修理可能性・カーボンフットプリントなど)をデジタルデータとして製品に紐付けて管理・開示する仕組みです。QRコードやRFIDタグなどを通じて、サプライチェーン全体でアクセス可能にします。
通関業者にとって重要なのは、このDPPが「製品に付随する書類」として、EU税関のシステムと連携する可能性が議論されている点です。EUの欧州委員会は、将来的にDPPをEU税関の単一窓口(EU Single Window)と連携させる構想を持っています。
具体的に何が変わるか、整理しておきましょう。
現在の輸入通関では、インボイス・パッキングリスト・原産地証明書・適合証明書などが主要書類です。DPP義務化後は、これらに加えてDPPへのアクセスURLまたはデータID(固有識別子)の提示が求められる可能性があります。荷主がDPPを取得・登録していなければ、通関書類が揃わないという事態が起こりえます。
荷主への確認が必要ですね。
特にバッテリー規則(EU Battery Regulation)は先行事例として注目すべきです。この規則は2023年8月に施行済みで、工業用・EV用バッテリーへのDPP義務は2027年2月から適用されます。DPPに含める情報には「炭素フットプリント」「リサイクル材含有率」「製造者情報」「化学物質組成」などが含まれ、これらを電子的に証明できない製品はEU市場への投入が認められません。
バッテリーを扱う荷主を持つ通関業者は、2027年2月が実質的なデッドラインです。
ESPRは「すべての製品に一斉適用」ではなく、製品カテゴリごとに「委任規則(Delegated Act)」を策定して順次適用するという構造になっています。どの製品が先に規制されるのかを知っておくことが、通関業者としての実務準備に直結します。
EUが優先品目として挙げている製品カテゴリは以下の通りです。
スケジュールは製品によって異なります。
通関業者として実務的に重要なのは、「自分が扱っている貨物がどのカテゴリに該当するか」を荷主と共に確認し、委任規則の策定状況を定期的に追うことです。EUの官報(Official Journal of the European Union)は公開情報なので、JETROや経産省の情報と合わせて追跡することをお勧めします。
なお、ESPRには「マイクロ法人(従業員10名未満・年商200万ユーロ未満)」への特例措置が一部設けられており、中小規模の輸出事業者向けに適用要件が緩和される可能性もあります。ただし通関業者自身がこの特例に頼ることはできないため、荷主側の規模確認も必要です。
JETRO:ESPR正式発効(2024年7月)の詳細と製品別スケジュール
循環型経済法の文脈で通関業者が特に注意すべきなのが、CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism:炭素国境調整メカニズム)との連動です。CBAMは2023年10月から移行期間(報告義務のみ)が始まっており、2026年1月から本格的な炭素証書(CBAM証書)の購入義務が開始されます。
CBAMとESPRは別々の規制ですが、対象製品に重なりがあります。
CBAMの対象品目は現時点で「鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・電力・水素」の6品目です。これらはESPRの優先品目とも重複しており、将来的には「CBAMの炭素申告データ」と「ESPRのDPP情報」が同一製品に対して同時に求められる可能性があります。
これは通関書類の複雑化を意味します。
具体的には、鉄鋼製品のEU向け輸出において、輸入者は①CBAMレポート(炭素排出量データ)と②ESPRに基づくDPP(素材・リサイクル率等)を別々のシステムに登録し、③通関申告時に両データを参照可能な状態にしておく必要が生じます。日本の荷主企業がこの二重の情報管理体制を整備できているかどうかを、通関業者側からも確認・支援することが求められます。
移行期間中の今が準備のタイミングです。
CBAMの移行期間中(2023年10月〜2025年12月)は、四半期ごとに輸入者がEU当局に報告書を提出する義務があります。この報告書の作成を支援するサービスとして、国内でも複数のコンサルティング会社や商社が対応を始めています。荷主への情報提供の一環として案内できると、通関業者としての付加価値が高まります。
JETRO:CBAM(炭素国境調整メカニズム)の移行期間と本格適用スケジュール
規制の全体像を把握したうえで、では通関業者として今何をすべきか、実務レベルで整理しておきましょう。独自視点として強調したいのは、「規制対応は荷主だけの仕事ではない」という点です。通関業者が先回りして荷主を誘導できるかどうかが、顧客満足度と受注継続に直結します。
まず情報収集の習慣化から始めましょう。
これだけ覚えておけばOKです。
EU循環型経済法への対応は、「製品を輸出する荷主の仕事」と切り離して考えることはできません。通関書類の構成が変われば、それは通関業者の実務が変わることと同義です。規制の施行を「他人事」として見ている間に、書類不備による通関遅延や荷主からのクレームが発生するリスクがあります。今の段階から情報を収集し、荷主と連携を深めておくことが、最大のリスクヘッジになります。