アプリで計算するだけでは、EU向け輸出のCBAM罰金は防げません。
カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)とは、製品やサービスが原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で排出される温室効果ガス(GHG)を、CO₂換算値として数値化したものです。通関業務に関わる方であれば「なんとなく聞いたことがある」という方も多いかもしれませんが、実はこの数値が今後の輸出入ビジネスを左右する重要な指標になりつつあります。
つまり、CFPは環境配慮の「見える化ツール」です。
計算の基本式は「温室効果ガス排出量 = 活動量 × 排出係数」で表されます。たとえば、海上輸送で100トンの貨物を横浜からハンブルクへ輸送した場合、その輸送距離(約2万km)×貨物重量×海上輸送の排出係数(g-CO₂/トンキロ)を積算することでCO₂排出量が算出できます。海上輸送の平均的な排出係数は約3〜16g-CO₂/トンキロとされており、航空輸送の約500〜600g-CO₂/トンキロに比べると格段に低い値です。輸送手段の違いだけで排出量は約50〜100倍変わることがある、という点は見落としがちです。
これは使えそうです。
国際規格としては「ISO 14067:2018」が製品CFPの算定・報告に関するガイドラインを定めており、またGHGプロトコルがスコープ別の排出量管理の世界標準となっています。通関業務に関わる上で、これらの規格名を知っておくだけでも、荷主との会話がスムーズになります。経済産業省も「カーボンフットプリントガイドライン(2023年5月)」を策定しており、算定方法の標準化が国内でも進んでいます。
参考:CFPの基礎・算定方法・計算ツールを網羅的に解説しているページです。
カーボンフットプリント(CFP)計算ツールとは?CFPの基礎と算定方法 |アスエネ
GHGプロトコルでは、企業の温室効果ガス排出量をScope 1・2・3の3つに分類します。Scope 1は自社の直接排出(社内の燃料燃焼など)、Scope 2は購入電力・熱の使用に伴う間接排出、そしてScope 3はそれ以外のサプライチェーン全体の間接排出です。通関業者にとって特に重要なのがScope 3です。
Scope 3に注意が必要です。
Scope 3はカテゴリー1〜15に分類されており、輸送・配送に関連するものは「カテゴリー4(上流輸送)」と「カテゴリー9(下流輸送)」が該当します。輸出貨物の海上輸送や航空輸送における排出量が、ここに含まれます。研究では、企業の総排出量のうちScope 3はScope 1・2の平均26倍に上ることが報告されています。つまり、自社工場の排出量だけを管理しても、サプライチェーン全体を見ると氷山の一角にしかならない計算になります。
東京ドームの面積(約4万6,000㎡)を1とすれば、Scope 1・2が"球場1個分"の排出量だとすると、Scope 3は"野球場26個分"にのぼるイメージです。この規模差を知らないままアプリを使うと、算定範囲が大幅に不足してしまいます。
輸送の排出係数は輸送手段によって大きく異なります。国土交通省および経済産業省が定める「物流分野におけるCO₂排出量算定方法共同ガイドライン」では、トンキロ法・燃費法・燃料法の3つの算定手法が使えます。通関実務では、インボイスや船荷証券(B/L)から輸送量・区間を特定し、適切な排出係数を当てはめる作業が求められます。これが手間に感じる場合こそ、計算アプリの出番です。
算定ツールを選ぶ際の条件が明確になりますね。
環境省が無料で提供するExcel形式の「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定ツール」では、Scope 3カテゴリー4・9に対応した輸送排出量の計算が可能です。会員登録不要で利用できるため、まず試してみる入門手段として有効です。
参考:輸送含むScope3の算定方法や無料ツールの具体的な使い方を解説しているページです。
計算アプリ・ツールは「何を算定したいか」によって使い分ける必要があります。大きく分けると、「企業全体の排出量管理(Scope 1・2・3)」を目的とするツールと、「製品単位のCFP算定」を目的とするツールの2種類があります。通関業従事者が関わるシーンとしては、主に荷主からの「CFPデータ提供依頼への対応支援」と、「自社業務のScope 3把握」の2パターンが多いでしょう。
目的が明確なら、ツール選びは迷いません。
以下に、実務で使えるツールをまとめます。
| ツール名 | 費用 | Scope対応 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| タンソチェック | 無料〜 | Scope1・2・3 | サプライチェーン管理対応、報告書作成あり |
| 環境省Scope3算定シート | 無料 | Scope3 | Excel形式、会員登録不要、輸送カテゴリ対応 |
| e-dash | 月額1万円〜 | Scope1・2・3 | 請求書アップロードで自動算定、JCB法人カード連携 |
| zeroboard | 要見積もり | Scope1・2・3+CFP | サプライヤーとの一次データ連携機能あり |
| e-dash CFP | 要見積もり | 製品CFP算定 | ライフサイクル全体の製品別算定・管理・報告 |
| EcoNiPass | 月額4,800円〜 | Scope1・2・3+LCA | 製品・製造ライン単位の詳細分析、Excel入力対応 |
通関業者や貿易担当者が「まず荷主のCFPデータを把握・支援したい」という場合は、zeroboard や e-dash CFP のようにサプライヤーとのデータ連携機能を持つツールが実務に近い形で使えます。一方で、まず自社のScope 3を把握することが先決という場合は、環境省の無料算定シート や タンソチェック から始めるのが現実的です。
無料から始めることが基本です。
また、国際輸送に特化したCO₂算定ツールとして日本通運が提供する「NX-GREEN Calculator」も注目に値します。海外輸送に特化しており、空路・海路・陸路の複数輸送モードを組み合わせたCO₂排出量を計算できるため、混載貨物や複合輸送を扱う通関業者には特に有用です。
参考:各ツールの対応Scope・機能・費用を比較した詳細ページです。
CO2排出量算定ツールを紹介【無料版・有料版】|カーボンニュートラル支援機構
2026年1月、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)が本格適用に入りました。これにより、EUへ鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・水素・電力を輸出する企業は、製品の製造過程における埋込排出量(体化排出量)を算定・開示し、輸入業者がその排出量に応じたCBAM証書を購入する義務が発生します。
これが通関業者に直接影響します。
EU向け輸出品の荷主(日本の製造業者等)は、輸入業者(EU側)からCO₂排出量データの提供を求められます。この「排出量データ」の算定と提供を支援するのが、実務上は通関業者・フォワーダーに期待される役割になりつつあります。CBAMの報告義務に違反した場合、未報告のCO₂排出量1トンあたり10〜50ユーロのペナルティが課されます。さらに、CBAM証書の未納付に対してはCO₂換算トンあたり100ユーロの罰金が科される仕組みです。
金額に換算するとどれくらいでしょうか? たとえば鉄鋼製品1,000トンを輸出し、製造時の排出量が1トンあたり2tCO₂だとすると、埋込排出量は合計2,000tCO₂となります。証書未購入の場合、2,000×100ユーロ=20万ユーロ(約3,200万円)の罰金リスクが生じます。数字にすると、その重大さがよくわかりますね。
痛いですね。
こうしたリスクに対応するため、通関業者はCFP計算アプリを活用して荷主企業のCO₂排出量算定を支援し、CBAM申告に必要なデータを迅速に整える体制を整備することが求められています。現時点の対象製品は6品目ですが、欧州委員会は2030年を目安に対象品目の拡大を検討しており、化学品・ポリマーや鉄鋼・アルミを使った加工品なども将来的に含まれる見通しです。
「CBAMは製造業の話」と考えているうちに、通関業者の対応が遅れてしまいます。これは今すぐ備えが必要です。
参考:CBAMの概要・日本企業への影響・通関実務上の対応を詳説しているページです。
EUの炭素国境調整措置(CBAM)への日本企業の対応について|TKAO
参考:CBAMの最新スケジュール・対象品目・ペナルティの詳細はJETROの公式解説が参考になります。
EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)に備える|JETRO
多くのCFP計算アプリは「製造業者向け」に設計されています。これが通関業従事者にとっての盲点です。製品の製造工程でのCO₂排出量は算定できても、「港湾荷役」「輸入通関待ちの保管」「トランジット輸送」など、通関業務特有の工程がどのスコープに含まれるか、アプリ側が明示していないケースがあります。
具体的に整理します。
つまり、通関業者は荷主のCFP算定で「見えにくい輸送部分」の数値を補完する役割を担えます。この専門性が、今後の差別化につながります。
これは使えそうです。
実務上の工夫として、B/L(船荷証券)や運賃明細書から輸送重量・距離を抽出し、前述の環境省無料算定シートに入力するだけで、輸送段階のCO₂排出量を30分程度で概算できます。荷主から「取引先にCFPデータを求められた」という相談が来た際、この作業を即座に提案できれば、通関サービスの付加価値は格段に上がります。
また、CFP算定の精度を高めるためには「排出係数データベース」の選択も重要です。国立研究開発法人産業技術総合研究所が提供する「IDEA Ver.3」には約4,700種類の排出係数が収録されており、輸送モードごとの国間距離データも含まれています。ライセンス契約が必要ですが、複数の荷主案件を扱う通関業者にとっては、費用対効果が十分に見合う投資といえます。
IDEA Ver.3は必須です。
さらに、2027年3月期からはプライム市場上場企業にScope 3を含むサステナビリティ情報開示が段階的に義務化される見込みです(SSBJ基準)。これは荷主となる大手製造業者が、サプライチェーン上の通関業者にもCFPデータの提供を求めてくる可能性を意味します。「いつかやろう」ではなく、今から体制を整えておくことが、大口荷主との取引継続に直結します。
今が動き出すタイミングです。
参考:CFP算定の実務手順・失敗事例・回避策を実務担当者向けに詳説しているページです。
【実務担当者向け】カーボンフットプリント(CFP)算定のやり方|booost
参考:物流分野のGHG算定ツールの選び方とScope3対応の最新状況を解説しています。
物流脱炭素を支える「GHG算定ソフト」の選び方とScope3対応の実情|ロジシフト