事故情報を社内だけで処理していると、知らないうちに行政処分の対象になります。
事故情報データバンクシステムは、消費者庁が2012年から運営している製品事故情報の収集・公開データベースです。消費生活用製品安全法(消安法)や食品安全基本法などの法律に基づき、製品事故に関する情報が一元管理されています。システムには、医療機関、消防機関、事業者などから寄せられた事故情報が蓄積されており、2024年時点で累計登録件数は40万件を超えています。膨大な情報です。
通関業者がこのシステムと無縁かというと、そうではありません。輸入貨物を取り扱う通関業従事者にとって、このデータバンクは「輸入品に関連する製品事故が日本国内で発生していないかを確認するための重要な情報源」として機能します。たとえば、ある電気製品について過去に発火・感電などの事故報告が複数あった場合、その商品の通関手続きを進めるにあたって輸入者へ情報提供を行うことが、間接的に法的リスク回避につながります。
つまり、確認義務は直接的には輸入者側にあります。しかし、通関業者として輸入品の内容を最もよく把握しているのは現場の担当者です。システムを活用した情報確認を実務フローに組み込むことが、プロとしての対応の基準です。
このシステムへのアクセス自体は無料です。消費者庁の公式サイトからブラウザ上で検索できます。登録やログインも不要なため、日常業務の中でのちょっとした確認に使いやすい設計になっています。
上記リンクは消費者庁が運営する事故情報データバンクシステムの公式検索ページです。商品カテゴリや事故の種類から絞り込み検索ができます。
システムの使い方は、覚えれば3分以内に検索結果を出せます。トップページには「全文検索」「詳細検索」の2つのモードがあり、通関業務での活用には「詳細検索」が適しています。
詳細検索では以下の項目から絞り込みができます。
実務上の活用場面を具体的にイメージしてみましょう。たとえば、中国製の電動キックボードを輸入する案件を担当したとします。まずシステムで「電動キックボード」「中国」で検索すると、国内での発火・転倒事故の件数と内容が一覧表示されます。仮に過去2年で10件以上の重傷事故が登録されていたとしたら、輸入者に対してその旨を伝え、製品の安全基準適合証明書の確認を促すことが適切な対応です。
これは使えそうです。
さらに、同システムには「事故情報のRSSフィード配信」機能があります。特定カテゴリの新着事故情報をRSSリーダーで自動取得できるため、担当する商品ジャンルに絞って毎日モニタリングするフローを組むことができます。手動で毎日確認する必要がなくなるため、業務効率が上がります。特定の輸入品を継続的に取り扱っている通関業者にとっては、見落とし防止の観点からも設定しておく価値があります。
通関業務において特に注意すべき事故情報は「製品の構造・設計上の欠陥による事故」と「不適切な表示・警告の欠如による事故」の2種類です。この2つが基本です。
前者は、製品そのものに問題がある場合です。たとえば、充電池の過熱による発火や、玩具の部品誤飲による窒息といった事例が該当します。これらはリコール対象になるケースも多く、輸入後に流通させると輸入者だけでなく、その手続きを担った通関業者にも情報提供義務違反として行政指導が及ぶ可能性があります。
後者は少し見落とされがちですが、同様に重要です。日本語の警告表示が不十分だったために消費者が誤使用し、事故に至ったケースも多く登録されています。輸入申告時に添付書類として提出する安全基準適合書類に、日本語表示の確認が含まれているかをチェックする習慣が求められます。
厳しいところですね。
また、食品・食品接触材料の輸入を担当する場合は「食品等事故」の分類に注目する必要があります。食品衛生法に基づく事故情報はシステム内の「食品・食品接触材料等」カテゴリに別途登録されており、一般の製品事故とは異なる法的スキームが適用されます。厚生労働省が管轄する食品の回収情報と照合する作業も合わせて行うと、より確実なリスク管理ができます。
上記リンクは厚生労働省が提供する輸入食品の安全管理に関するページです。食品カテゴリの輸入案件を担当する方は、事故情報データバンクと合わせて参照することで、重複確認ができます。
ここからは、検索上位の記事では語られていない実務的な視点をお伝えします。
多くの通関業者は「事故情報の確認」を「事故が起きてから対応するもの」と認識しています。しかし実際には、輸入申告前の事前スクリーニングとして定期的にシステムを確認することで、リスクをゼロに近づけることができます。これが予防的活用です。
具体的には、「輸入品チェックリスト」に事故情報データバンクの確認ステップを1行追加するだけで対応できます。たとえば以下のような社内フローが考えられます。
このSTEP 4が特に重要です。事故が発生した後、行政や顧客から「いつ、どのように確認したか」を問われる場面があります。その際に検索記録が残っていれば、適切な業務手順を踏んでいた証拠として機能します。記録がない場合、事実確認したとしても証明できません。証明できない確認は、しなかった確認と同じ扱いをされるリスクがあります。
社内でこのフローを定着させるうえで、消費者庁の「事故情報データバンクシステム利用ガイド」が役立ちます。PDF形式で公開されており、検索手順のスクリーンショット付きで解説されているため、新入社員の研修資料としても活用できます。
消費者庁 事故情報データバンクシステム 利用ガイド(PDF)
上記は、システムの操作マニュアルです。社内研修資料として印刷・配布する際に参照できます。
事故情報データバンクは非常に有用なシステムですが、万能ではありません。その限界を理解しておくことが、正確なリスク管理につながります。
最大の限界は「報告されていない事故は登録されていない」という点です。システムに登録される情報は、医療機関・消防機関・事業者などから消費者庁へ報告されたものに限られます。軽微な事故や、被害者が報告しなかったケース、海外での事故情報は基本的に含まれません。意外ですね。
つまり、「データバンクに事故情報がない=安全な製品」とは言い切れない点に注意が必要です。
こうした限界を補う情報源として、以下の3つを定期的に確認することをお勧めします。
上記はNITEが公開する製品事故の注意喚起一覧です。詳細な原因分析が掲載されており、同種輸入品のリスク予測に役立てることができます。
事故情報データバンクだけに依存するのは危険です。複数の情報源を組み合わせることで、輸入品の安全性に関する判断の精度が格段に上がります。これが条件です。特に、欧米市場向けにすでに製造・流通している製品を日本向けに輸入する場合は、CPSCやRAPEXのデータが日本のシステムよりも充実していることが少なくありません。最初の確認先として海外データベースをチェックする習慣も、ぜひ取り入れてみてください。