FTA・EPAが増えるほど、あなたの扱う貨物の原産地リスクも比例して増加します。
貿易転換効果(英:The trade diversion effect)とは、FTA・EPAの締結によって、協定域外の国からの輸入が協定加盟国からの輸入に置き換わる現象です。 たとえば日本がA国とEPAを結んだ場合、それまで比較優位のあるB国(非加盟国)から輸入していた品目が、関税メリットのあるA国産品に切り替わります。wikipedia+1
つまり「安いから買っていた」相手が変わるということです。
本来なら品質・価格で最も競争力があるB国産品が選ばれるべきところ、関税の有無という「制度的な有利不利」によって調達先が動く点が重要です。 これは輸入国にとっても非効率な資源配分につながる可能性があるとされています。gentosha-go+1
通関業従事者にとっては、この「仕入れ先が変わる」という現象が直接、申告業務に影響します。 仕入れ先が変われば適用できる協定が変わり、原産地証明書の種類・形式・原産地規則もすべて変わるからです。
貿易創出効果とは、FTA・EPA締結で域内関税が撤廃され、域内貿易そのものが増大する効果です。 貿易転換効果と組み合わせて論じられることが多く、「創出=新たに生まれる取引」「転換=既存の調達先が切り替わる」という対比で整理できます。weblio+1
両者の違いを以下の表で確認してください。
| 項目 | 貿易創出効果 | 貿易転換効果 |
|---|---|---|
| 定義 | 域内関税撤廃により新たな貿易が生まれる | 非加盟国からの輸入が加盟国産品に置き換わる |
| 貿易量 | 全体として増加 | 転換のみで全体量は変わらない場合も |
| 経済効率 | 基本的にプラス | 非効率な生産国への転換ならマイナスも |
| 通関実務への影響 | 新規輸入案件の増加 | 原産地証明書・適用協定の切り替えが発生 |
貿易転換が「損」になるのは、比較優位のない加盟国からの輸入に切り替わった場合です。 関税ゼロのメリットが品質・価格の劣位を上回れば輸入者は利益を得ますが、社会全体で見るとより効率的な生産国を排除する結果になります。 これは基本です。
米韓自由貿易協定(KORUS)を検証した研究では、アメリカの韓国からの輸入が増加した一方、日本を含む他の貿易相手国からの輸入は貿易転換効果によって減少したことが確認されています。 これは自動車分野で顕著で、関税差が調達先を動かした典型例です。
EUでは域内関税撤廃と共通対外関税による「関税同盟」が、域外国との関係で長年にわたり貿易転換効果を生み続けています。 日本からEUへの輸出品がEU域内生産品に置き換えられるケースはこの典型です。
参考)貿易転換効果(ぼうえきてんかんこうか)とは? 意味や使い方 …
意外ですね。
日EU・EPAが2019年に発効してからは逆に日本産品のEU市場での競争力が高まり、EUの非EPA締結国産品への転換効果が日本に有利に働くようになりました。 通関業従事者の立場では、こうした協定の発効・改訂タイミングが適用協定の選択に直結することを意識する必要があります。
参考)https://www.digima-japan.com/knowhow/world/18213.php
CPTPPでは中国・インドといった非参加国からの調達が参加国産品へ切り替わるケースが報告されており、サプライチェーンの再編が通関申告書類に直接影響しています。
参考)RIETI - 第22回「自由貿易協定(FTA)の効果」
貿易転換によって仕入れ先が切り替わった際、もっとも起きやすいのが「以前と同じ手続きを踏んでしまう」申告ミスです。 適用協定が変わるのに、旧協定の原産地証明書フォームをそのまま使うケースが代表例です。
参考)原産地証明書の不備でFTA適用が否認された~形式ミスが命取り…
日EU・EPAの実例として、ある企業がEUから輸入した繊維製品で特恵申請を行ったところ、原産地声明書に定型文言の欠落・日付欄の未記入・商品明細との不一致があり、特恵関税(0%)の適用を否認されています。 結果として通常税率10.9%が適用され、加算税付きの追徴課税が行われました。 痛いですね。
貿易転換効果で調達先が変わると発生しやすい主な書類リスクは以下の通りです。
原産地規則は協定ごとに異なります。 同じ商品でも、仕入れ先の国が変わればPSR(品目別原産地規則)の内容が丸ごと変わるため、前回通関時の書類をそのまま使い回すことは誤りのもとです。global-scm+1
追徴課税は税額本体に加算税が上乗せされる点で、企業コストへの影響が大きくなります。 仕入れ先変更のタイミングで必ず適用協定・原産地規則を再確認することが条件です。
以下のページでは、原産地証明の不備による特恵否認事例と回避のポイントが詳しく解説されています。
原産地証明書の不備でFTA適用が否認された~形式ミスが命取りに~(AOGパートナーズ)
貿易転換効果は「リスク」だけではありません。 利用できる協定が増えた結果、関税削減の選択肢も同時に増えているという側面があります。 これは使えそうです。
たとえば日・ベトナムEPAを活用した場合、日本のベトナムからの輸入での関税削減額は7.3億ドル、関税削減率は3.3%という試算があります。 年間輸入規模が大きな荷主にとっては、仕入れ先を貿易転換効果で動かすだけで数千万円単位のコスト削減になりえます。
参考)302 Found
荷主がこの恩恵を受けるには、適用できる協定と原産地規則をセットで確認することが前提です。 通関業従事者として荷主に提案できる実務アプローチを整理します。
税関の電子CO対応(電子原産地証明)が進むアジアでは、原産地情報がデータとして国境をリアルタイムで流通するようになっており、虚偽申告や不整合の検知が以前より速く正確になっています。 これは原産地リスク管理を「書類整理」から「データ品質管理」に格上げすることを意味します。
参考)アジアで電子COが標準化するほど、原産地検証リスクは上がる …
JETRO(日本貿易振興機構)のEPA解説資料では、協定ごとの原産地規則と累積ルールの使い方が実務者向けにまとめられており、荷主へのアドバイス資料としても活用できます。
JETRO「ここが知りたい EPA解説ウェビナー②」(原産地規則の実務解説)
また、税関が公開するEPA原産地規則マニュアルは、申告時の一次確認資料として手元に置いておくことをおすすめします。