高級認証を持たない企業の貨物は、検査率が高級認証企業の5倍以上になることがあります。
中国のAEO(Authorized Economic Operator:認定事業者)制度は、2014年12月に税関企業信用管理暫行弁法の施行により正式に導入されました。それ以前の AA・A・B・C・Dという5段階の企業ランク制度が廃止され、「AEO高級認証企業」「AEO一般認証企業」「一般信用企業」「信用喪失企業」という4段階の信用管理体制に移行しています。
高級認証はこの中の最上位区分です。中国国内に拠点を持つ輸出入業者や通関代行業者、物流事業者などが対象となります。2017年6月末時点で認証企業全体は中国税関に登録された全企業の約5%程度にとどまっており、さらにそのうち高級認証企業は認証企業の中の約5%という、ごく一握りの精鋭に与えられる認定です。
つまり高級認証は全登録企業のうち0.25%前後しかいない、という計算になります。
通関業者として中国との取引に携わる場合、この認証の有無がサプライチェーン全体の効率性に直結します。大手の輸出入企業の中には、取引先の選定においてAEO認証企業であることを条件にするケースが増えており、認証を持たない通関代行業者は受注機会を逃すリスクがあります。ビジネスチャンスを守る意味でも、制度の全体像を把握しておくことが不可欠です。
さらに、中国では2021年11月に施行された「中華人民共和国税関登録登記・届出企業信用管理弁法」(251号令)により、従来存在した一般認証企業の資格が廃止されました。現在は高級認証と一般信用企業の二択に近い構造になっており、高級認証の重要性はむしろ高まっています。制度変更の経緯を知っているかどうかで、顧客への提案力に差が出るポイントです。
参考リンク(中国AEO制度の法的根拠と企業分類について、ジェトロ掲載の全文訳)。
中華人民共和国税関登録登記及び届出企業信用管理弁法(ジェトロ)
高級認証企業に与えられる最大の恩恵は検査率の大幅な引き下げです。具体的には、輸出入貨物の平均検査率が「一般信用企業の平均検査率の20%以下」に抑えられます。一般信用企業の現場抽出検査率がおおよそ3%程度とされており、高級認証企業の検査率は実質0.6%前後という水準になります。
検査が1件あたり半日以上の作業になるとすれば、100件に0.6回しか引っかからないのは大きな時間節約です。
高級認証企業に適用される主な優遇措置をまとめると、以下の通りです。
| 優遇措置の種別 | 高級認証企業 | 一般信用企業 |
|---|---|---|
| 輸出入貨物の平均検査率 | 一般信用企業の20%以下 | 基準(約3%程度) |
| 通関手続きの優先処理 | ✅ あり | なし |
| 担保の免除申請 | ✅ 可能 | 不可 |
| 加工貿易の保証金 | ✅ 免除 | 原則不可 |
| 専任税関連絡担当者の設置 | ✅ あり | なし |
| AEO相互承認国での通関優遇 | ✅ あり(高級認証のみ) | なし |
| 不可抗力後の優先通関 | ✅ あり | なし |
注目すべきは「担保の免除」です。加工貿易では、輸入部材にかかる関税・増値税相当額を保証金として税関に預け入れる必要がありますが、高級認証企業はこれが免除されます。製造業の現地法人にとっては、キャッシュフローの改善に直結する非常に実務的な優遇です。
また、HSコードの確定や価格査定などの手続きが完了する前でも貨物の検査・通関が認められる点も、リードタイムの短縮につながります。これが使えるかどうかで、在庫管理の効率が変わります。
さらに、2016年には国家発展改革委員会・環境保護部・税務総局・外貨局など政府40部門が「高級認証企業に対する合同インセンティブの協力覚書」を締結しました。行政手続きのグリーン通路や銀行与信の参考、政府投資プロジェクトへの入札手続き簡略化など、19分類・49項目に及ぶ連合激励措置が定められています。通関優遇だけでなく、経営全体にわたる恩恵が得られる点も、高級認証の大きな特徴です。
参考リンク(北京税関によるAEO認定事業者ガイド、優遇措置の詳細が確認できます)。
税関認定事業者(AEO)ガイド(北京市政府日本語サイト)
2018年10月26日、日本と中国は正式にAEO相互承認協定を締結しました。これにより日本は中国とAEO相互承認を実施する36番目の国となり、日中間の貿易円滑化に向けた重要な一歩となっています。
相互承認の対象は中国側では「高級認証企業」に限定されている点が重要です。
日中相互承認協定に基づき、双方の税関が相手国のAEO事業者に提供する優遇措置は次の4点です。第一に、リスク評価においてAEO資格を十分に考慮し、貨物の審査・検査・監督管理を迅速化・簡素化すること。第二に、検査が必要な場合にも手続き上最大限に便益を与えて迅速対応すること。第三に、専任の税関連絡担当者を配置してトラブルを迅速に解消すること。第四に、国際貿易が中断した後の回復期に優先的・迅速に通関させることです。
実務上で特に重要なのは相互承認の活用手順です。中国側の輸入企業が日本のAEO事業者のコードを通関申告書の「備考欄」に記入し、システム上で照合が確認されることで、自動的に優遇措置が適用される仕組みになっています。逆も同様で、日本のAEO輸入者が中国からの輸入貨物を申告する際にも、中国側のAEO高級認証企業コードを記入することで優遇を受けられます。
この活用手順は意外と知られていません。
通関業者として顧客の輸出入支援をする場合、顧客が日本のAEO認定事業者かどうか、あるいは中国側取引先が高級認証企業かどうかを確認するだけで、申告時の対応が変わります。申告書備考欄への記入漏れがあれば優遇が自動適用されず、宝の持ち腐れになってしまいます。確認と記入を習慣にすれば問題ありません。
現在、中国はEU加盟国を含む36か国・地域以上とAEO相互承認を実施しています。グローバルに事業を展開する企業がクライアントの場合、EU諸国での輸入通関でも高級認証が有効になる可能性があります。複数国をまたぐサプライチェーン全体で見ると、そのメリットは計り知れません。
参考リンク(KPMGによる日中AEO相互承認解説、具体的な手続きフローを確認できます)。
日中間でAEO制度の相互承認に合意(KPMG チャイナタックスアラート第24回)
高級認証の取得には、「内部統制」「財務状況」「法令遵守規範」「貿易安全」の4つの分野にわたる基準を満たす必要があります。2022年10月28日公布の新認証基準(税関総署公告第106号)では、従来の269項目を約65%削減して94項目に統合しましたが、要件の水準自体は引き下げられていません。
つまり項目は減ったが、厳しさは変わっていない点に注意が必要です。
審査でつまずきやすいポイントを具体的に見ていきましょう。内部統制の分野では、輸出入活動の主なプロセスがERPシステム上で全行程を追跡でき、貨物フロー・証憑フロー・情報フローの相互確認ができることが求められます。KPMGの経験では、多くの企業のERPシステムは輸出入業務と完全に連携できておらず、この要件で審査に落ちるケースが多いとされています。
財務状況の分野では、資産負債比率が5年連続で95%を超える場合は不適合とみなされます。新基準では3年連続から5年連続に緩和されましたが、これが一票否決の直前の猶予と考えるべきです。監査報告書は「会計事務所発行の監査報告書の提供」か「税関ネットワーク接続のERPシステムによる貸借対照表」のいずれかで提出可能です。
最も重要なのが法令遵守規範の分野です。この分野だけは「一票否決」方式を維持しており、「適合」か「不適合」の二択しかありません。一つでも不適合項目があれば、他のすべての評価が良くても即座に不合格となります。たとえば危険物の虚偽申告、国家信用喪失連合懲戒リストへの掲載、税関への虚偽情報提供などが一票否決事項に含まれています。
審査の現場では、監視カメラの映像保存期間が「最低45日間」と指摘された日系企業の事例があります。施設の関係者全員に対する犯罪歴確認を求められたケースもあります。2017年の再認証審査では高級認証企業の合格率はわずか52.1%でした。
半数近くが落ちたというのは、かなり厳しい数字ですね。
取引先の通関代行業者に高級認証を求めるのであれば、審査対応のために「社内対応チーム」を結成し、内部統制・財務・IT・倉庫・輸出入の各部門が連携する体制が必要です。一般的に改善作業だけで3〜4カ月を要します。認証取得を目指す場合は、スケジュールに十分な余裕を持って準備することが基本です。
参考リンク(KPMGによる2022年新認証基準の詳細解説、変更点の分析が詳しいです)。
「税関高級認証企業基準」の認証モデルに対する統合と最適化(KPMG チャイナタックスアラート第20回)
認証を取得しただけでは終わりません。高級認証には5年ごとの再審査が義務付けられており(2021年の251号令以降)、さらに年1回以上の内部監査の実施と記録の完全な保存が求められています。毎年の内部監査は必須です。
ここで多くの通関業者が見落としているのが「自主開示制度」の活用です。
中国税関では、AEO高級認証企業(高級認証企業)が税関規定に関する違反行為を当局に対して自主的に開示した場合、一定の条件下で行政処分を免除する制度があります。2023年10月に公布された税関総署公告第127号、さらに2024年7月の公告第87号により、制度が整備・拡充されました。
具体的には、AEO企業が自主開示を行うことのできる期間が「6ヶ月から1年へ」と延長されました。これは企業が毎年実施する内部監査のサイクルに合わせた実務的な改正です。つまり内部監査で問題を発見し、1年以内に自主開示すれば、罰則を受けずに是正が完了するルートが開かれているわけです。
この制度を知らずに違反を放置すると、信用格付けに傷がつき再認証が通らなくなるリスクがあります。
自主開示には注意事項もあります。税関に提供する情報が不正確な場合は、むしろ税関による本格的な監査の引き金になる恐れがあります。提出書類と情報の精度管理が非常に重要です。自主開示を検討する場合は、Tradewinのような専門コンサルタントや通関専門家のサポートを受けることが推奨されます。
また、新認証基準では「ビジネスパートナーが高級認証企業である場合、そのパートナーへの安全基準の実施を免除できる」というルールが設けられています。高い資質を持つビジネスパートナーを選ぶことで、自社の審査作業量を大幅に削減できます。逆に言えば、高級認証を持つ通関業者はパートナー企業から選ばれやすくなるという大きな競争優位があります。
認証企業を選ぶと、双方の負担が減るということですね。
認証を維持・更新するためのプロセスを習慣化し、自主開示制度を戦略的に使いこなすことが、長期的に高級認証のステータスを守る鍵となります。中国側の税関当局は「法令遵守行為に利便を図り、信用喪失行為を懲戒する」という管理方針を明確に打ち出しています。信用を積み上げるほど通関が楽になるという構造は、長く中国取引を続ける企業にとって本質的なメリットです。
参考リンク(TradewinによるAEO自主開示制度の最新解説、2024年の改正内容が確認できます)。
AEO企業の自主開示による行政処分免除(中国)|Tradewin Japan
参考リンク(PwCによる自主開示制度の詳細解説、行政処分免除の条件が詳しいです)。
中国における税関違反事項に関する自主開示制度(PwC Japan)