スクラバー設置の届出で通関書類が変わる重要手順

スクラバー設置の届出に関する手続きを知らないと、PSC検査での拘留や最大1,000万円の罰金リスクを招くことも。通関業従事者が押さえるべき届出の全手順とは?

スクラバー設置の届出と通関業従事者が知るべき法的手続き

届出を済ませただけで大丈夫と思っていると、入港先の国でスクラバーが使用禁止になり船が止まります。


📋 この記事の3ポイントまとめ
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届出不備は最大1,000万円の罰金

海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海防法)の違反では、千万円以下の罰金が科されるケースがある。スクラバー設置に伴う型式承認・改造検査の手順は確実に踏む必要がある。

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オープンループ型は30カ国超で規制対象

中国・シンガポール・ドイツ・サウジアラビアなど多数の国がオープンループ式スクラバーの港湾内使用を禁止。通関先の国の地域規制を事前に確認しないと入港後に運航停止となる。

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EGCS記録簿の整備もPSC検査の対象

スクラバーを搭載した船舶にはEGCS記録簿の備え置きが求められ、PSC(寄港国検査)でのチェック対象になる。故障後1時間以内に旗国・寄港国主管庁への報告義務もある。


スクラバー設置の届出とは何か:海防法と国際条約の基礎知識


スクラバー(排ガス洗浄装置)とは、船舶のエンジンから排出される燃焼ガス中の硫黄酸化物(SOx)を海水や清水で洗浄し、大気への排出量を抑える装置です。通称「EGCS(Exhaust Gas Cleaning System)」とも呼ばれます。


この装置の法的な根拠は、MARPOL条約(1973年の船舶による汚染防止のための国際条約に関する1978年の議定書)に遡ります。2008年の改正により、2020年1月以降、一般海域を航行するすべての船舶の燃料油中の硫黄分濃度を「3.5%以下」から「0.5%以下」へ強化することが義務付けられました。


日本国内では、この条約の履行を担保するために、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海防法)および関連する政省令が適用されます。スクラバーを設置・使用することで、燃料油の硫黄分濃度基準を満たす義務が免除される仕組みになっています。つまり原則です。


ここで重要なのは、スクラバーを単に搭載すれば済むのではなく、国土交通省が定める型式承認試験基準に適合した装置を使用し、かつ所定の手続きを経なければならない点です。この手続きを踏まない場合、海防法違反として最大1,000万円以下の罰金(海防法第55条第1項第11号)が科されることがあります。


型式承認の申請窓口は国土交通省海事局となります。日本籍船に搭載されるEGCSの連続確認装置(排ガス監視装置)および監視記録装置(排水監視装置)については、国土交通省の型式承認を受けた製品でなければなりません。この承認を受けた製品であれば、船舶に搭載する際の一部検査が省略できる仕組みです。型式承認があれば手続きが楽になります。


通関業従事者にとって重要なのは、これらの手続きがすべて「輸出入申告書類」の整合性にも関わってくる点です。設備改造記録、検査済証、型式承認番号などが書類上で整合していないと、寄港先でのPSC(Port State Control:寄港国検査)や税関対応で問題になります。


参考:国税庁「排気ガス洗浄装置(スクラバー)の設置に係る費用の取扱いについて」(MARPOL条約・海防法の説明を含む文書回答)
https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/h31/001/besshi.htm


スクラバー設置の届出の具体的な手順:型式承認から改造検査まで

スクラバーを現存船に後付けする場合(レトロフィット搭載)は、複数の手続きが連動して発生します。これを一つでも抜かすと、次の手続きが進まないため注意が必要です。


まず大枠の流れを整理するとこうなります。


| ステップ | 内容 | 窓口 |
|---|---|---|
| ① 装置の確認 | 型式承認を受けたEGCSかどうかの確認 | 国土交通省 |
| ② 改造設計の承認 | スクラバー搭載のための船体改造設計の審査 | 日本海事協会(NK)等の船級協会 |
| ③ 改造工事・検査 | ドック入りして工事、完了後にNK等による検査 | 船級協会 / 管海官庁 |
| ④ 書類の更新 | 船舶検査証書の変更、船舶国籍証書の変更登録 | 管海官庁 |
| ⑤ EGCS記録簿の備え置き | 運用開始後の記録管理義務 | 船内での管理 |


改造工事には、船体にスクラバーユニットを据え付けるための大規模な工事が伴います。実際にNSユナイテッド海運の事例では、20隻のスクラバー搭載工事費用の総額が100億円規模に達したとされています。1隻あたりで見ると、外航大型船で数億円規模となるのが一般的です。


工事期間は無視できません。JRTTが公開した資料によると、内航船へのレトロフィット搭載工事の1番船は12日間のドック入りを要しましたが、改良が進んだ2番船以降は7日間に短縮された事例があります。それでも最低1週間程度は船が稼働停止になります。


書類面では、改造後に船舶検査証書の書換申請が必要になります。スクラバーの搭載は船舶の主要設備の変更にあたるため、管海官庁での変更登録が必要です。この検査証書の更新が完了するまでは、原則として改造後の状態での営業航行はできません。


通関実務において見落とされがちなのが、この「書換申請後の証書の有効性」です。旧い検査証書を誤って使い続けると、PSC検査時に書類の不整合が指摘されます。証書の更新は必須です。


JRTTの共有建造制度では、スクラバー設置を目的とした既存共有船への金利軽減制度が設けられていた実績があります。2018年度から一定期間、排ガス洗浄装置の導入支援策が打たれていたため、当該制度を活用した船主も多くいます。


参考:国土交通省「SOx規制への対応について」(スクラバー導入手続き・支援策の概要)
https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_fr7_000019.html


スクラバー設置後に発生するEGCS記録簿とPSC検査リスク

スクラバーを搭載した後は、装置を「設置した」だけでは終わりません。運用開始後は継続的な書類管理義務が発生します。これを甘く見ると、PSC検査で深刻な指摘を受けることになります。


最も重要な書類がEGCS記録簿(Exhaust Gas Cleaning System Record Book)です。スクラバーの運転状況、洗浄水の排出記録、モニタリングデータなどを継続的に記録・保管することが義務付けられています。この記録簿はMARPOL条約付属書VIに基づくもので、MEPC(海洋環境保護委員会)の決議に従って整備が求められます。


PSC検査では、東京MOU(アジア太平洋地域の寄港国検査組織)の2024年年次報告によると、32,054件の検査のうち19,967件で不適合が指摘されています。検査件数の約6割超に何らかの不備が見つかる厳しい状況です。


特に注意が必要なのは、スクラバーが故障した場合の対応です。


- 故障から1時間以内に旗国および寄港国主管庁(PSC)への報告義務がある
- 報告を怠ると拘留措置が取られるケースがある
- 適合油(低硫黄燃料)が十分にない状態で故障した場合は、旗国・寄港国の指示に従って対処する


これは意外に見落とされやすいポイントです。1時間以内の報告という時間制限が決まっています。通関業従事者として貨物側の手続きを担当している場合でも、船舶の運航状況と連動して書類管理が必要になる場面があります。特に輸出入貨物のスケジュール調整において、スクラバー故障による入港遅延が発生した際の対応手順を把握しておくことは非常に重要です。


本船主協会が公開しているスクラバー故障時の対応フロー資料には、PSC官庁の口頭回答も含まれており、実務レベルの判断基準として有用です。参考にしてください。


参考:日本船主協会「スクラバーが故障した場合の旗国および寄港国主管庁への報告」
https://www.jsanet.or.jp/regulation/pdf/sox-1-1.pdf


スクラバーの型式:オープンループとクローズドループの届出上の違い

スクラバーには大きく2つの種類があり、それぞれで「使用できる港・海域」が異なります。この違いを知らないで設置手続きを進めると、寄港先で使用禁止となり、運航が突然止まるリスクがあります。


オープンループ式(Open Loop Scrubber)は、海水を洗浄水として取り込み、SOxを除去した後の排水をそのまま海に放出する方式です。コストが安く、外航の大型船に多く採用されています。


クローズドループ式(Closed Loop Scrubber)は、清水に苛性ソーダ等を添加した洗浄水を循環使用し、排水を船内タンクに貯留して陸揚げする方式です。港湾内でも排水を出さないため、地域規制をクリアしやすい設計になっています。


問題は、オープンループ式を選択した場合の寄港地ごとの使用制限です。2019年以降、中国・シンガポール・ドイツ・ベルギー・UAE・サウジアラビア・マレーシアなど多数の国・地域で、港湾内や沿岸海域でのオープンループ式スクラバー使用が禁止または制限されています。スウェーデンは2025年7月1日から領海内での排出を全面禁止としました。


日本国内については、国土交通省が「科学的根拠のない規制導入を抑止する」という明確な方針を持っており、日本の港ではオープンループ式スクラバーの使用を禁止しないという立場を維持しています。これは他の国と異なります。


ただし、日本の港から出港した船が外国の規制海域・港に寄港する場合には、その国の規制に従わなければなりません。この点は届出の段階では見落としがちです。


通関実務の観点では、設置する型式の選択が通航可能な航路・寄港地を左右するという事実を、貨物輸送計画の早い段階から把握しておく必要があります。オープンループ式スクラバーを搭載した船を手配しても、荷揚げ先の港で使用禁止規制があれば、別途スイッチング(クローズドループモードへの切替)が必要となる「ハイブリッド型」を用いるか、適合燃料に切り替えることになります。


🔍 型式別の地域規制の最新情報は、日本海事協会(ClassNK)が定期更新する「SOx/PM地域規制マップ」が参考になります。寄港先が変わるたびに確認する習慣をつけておくと安心です。


参考:国土交通省「スクラバー排水に係る地域規制と我が国の対応」
https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_fr7_000031.html


通関業従事者だけが気づける視点:スクラバー設置届出と輸出入書類の連携

スクラバーの設置届出は、一見すると「海運会社・船主が行う手続き」に見えます。しかし、通関業従事者が関わる輸出入の現場では、この手続きの進捗が直接業務に影響する局面があります。これは見落とされがちな視点です。


まず、スクラバー搭載工事に伴うドック入り期間中は、当該船舶が稼働できません。貨物の輸送スケジュールが変わり、仕向地への到着日が後ろにズレることになります。インボイスやパッキングリストに記載された船名・航海番号(V/N)と、実際の運航が乖離するケースが起きます。この場合、修正申告や到着予定日の変更に関する書類処理が発生します。


次に、スクラバー搭載後に船舶検査証書が書き換えられる点も重要です。輸出入申告書には船舶名や書類番号が記載されますが、船舶の主要設備の変更に伴って証書番号が変わると、書類の照合で不整合が生じることがあります。特に複数回にわたって継続的に同じ船を使用しているルーティンの案件では、証書の変更を見落とすリスクがあります。


もう一つ重要な点があります。スクラバーの設置費用については、国税庁の文書回答(平成31年3月)において、「資本的支出か修繕費か明らかでない費用として、形式基準(前期末取得価額の10%相当額以下であれば修繕費として損金算入可)で判定できる」とされています。つまり財務・税務処理の選択肢があります。


| 費用額の判定 | 税務上の扱い | 処理の選択 |
|---|---|---|
| 船舶取得価額の10%以下 | 修繕費として一時損金算入も可 | 形式基準による判定 |
| 船舶取得価額の10%超 | 資本的支出(減価償却) | 原則として資本的支出 |


通関業者としてはインボイスや費用明細書を取り扱う機会があるため、スクラバー設置費用の記帳方法を把握しておくと、クライアントの税務・会計チームとのコミュニケーションがスムーズになります。知っておいて損はありません。


さらに独自の視点として指摘したいのが、スクラバー設置に伴うIHC(輸入貨物の確認)への影響です。外国から部品・ユニットを輸入してスクラバーを搭載する場合、当該部品の通関における品目分類(HSコード)の適切な確認が必要です。スクラバーユニットは「大気汚染防止装置」として、一般的に関税率表の第84類(原動機その他の機械類)に分類されますが、部品単体か完成品かによって税番が変わる場合があります。誤分類は修正申告のリスクにつながります。


📌 スクラバー部品の輸入通関を行う際は、メーカーから製品仕様書・取扱説明書を入手し、機能・用途を明確にした上でHSコードを確認することを強くおすすめします。


スクラバー設置の届出で押さえるべきチェックポイントまとめ

ここまで解説してきた内容を、実務で使えるチェックリストとして整理します。


📋 スクラバー設置の届出・運用における確認事項


| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| ✅ 型式承認の確認 | 国土交通省認定の型式承認を受けた装置かどうか |
| ✅ 改造設計承認 | 船級協会(NK等)による設計審査の完了 |
| ✅ 改造検査の完了 | 工事後の船級検査・管海官庁検査の合格 |
| ✅ 証書の書換 | 船舶検査証書・船舶国籍証書の変更申請・更新 |
| ✅ EGCS記録簿 | 運用開始と同時に記録の開始・整備 |
| ✅ 型式の確認 | オープンループ/クローズドループの選択と寄港地規制の照合 |
| ✅ 故障時の報告手順 | 故障から1時間以内の旗国・PSC主管庁への報告ルートの確認 |
| ✅ 地域規制の最新確認 | ClassNKや国交省資料で寄港先の規制を事前確認 |


通関業従事者として携わる機会が多い「輸入部品の通関」「書類の整合性確認」「スケジュール変更への対応」は、スクラバー設置手続きと密接に関わっています。海運会社や船主側の担当者と連携して、手続きの進捗を早めに把握しておく体制が重要です。


SOx規制は2020年1月に発効済みですが、規制の運用体制・地域規制の変化は現在も続いています。特にオープンループ型に対する各国の規制強化は、今後も増加が見込まれます。2025年7月のスウェーデンの領海内禁止措置がその一例です。この流れは止まりません。


届出手続きそのものの「ミスゼロ」を目指すだけでなく、手続き後の運用フェーズにおけるリスク管理まで見据えた対応が、これからの通関業従事者に求められるスタンスです。


参考:日本海事協会(ClassNK)「SOx/PM規制対応ページ(型式承認・地域規制情報)」
https://www.classnk.or.jp/hp/ja/activities/statutory/soxpm/index.html




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