消費期限の記載が1日ずれているだけで、通関後に全ロット回収・廃棄になることがあります。
輸入食品に関わる消費期限の表示義務は、主に「食品表示法」「食品衛生法」「JAS法」の三つの法律が重なる形で規制されています。これは一本の法律で完結していないため、通関業従事者にとっては特に把握が難しい領域です。
2015年に施行された食品表示法は、それまで食品衛生法・JAS法・健康増進法にそれぞれ分散していた表示に関する規定を一元化した法律です。ただし「輸入食品に対する安全規制」自体は食品衛生法が引き続き所管しており、食品表示法は主に「消費者への情報提供」という観点で表示基準を定めています。つまり、両方を同時に確認することが原則です。
食品表示基準(内閣府令)の第3条では、加工食品における「消費期限または賞味期限」の表示が義務付けられています。消費期限は「品質が急速に劣化する食品」に使用し、製造から概ね5日以内が目安とされています。賞味期限は比較的品質が保たれる食品に使用します。この区分を誤って輸入食品のラベルに表記した場合でも、食品表示法違反として扱われます。
輸入時に通関業者が確認すべきポイントとして、消費者庁が公表している「食品表示基準Q&A」は実務上の判断よりどころになります。
JAS法の改正(2017年)によってJAS法と食品表示法の役割分担が整理された結果、消費期限に直接関係する表示規制は食品表示法・食品表示基準に集約されています。これが原則です。
日本に輸入される加工食品には、原則として日本語での消費期限表示が必要です。原産国のラベルに英語で「Best Before」や「Use By」と書かれていても、そのままでは食品表示基準を満たしません。意外ですね。
日本語表記の貼付ラベル(いわゆる「日本語追記ラベル」)を輸入者が貼り付けることで対応するケースが多く見られます。このとき、元の外国語表示を隠してしまう必要はありませんが、日本語の表示が明瞭に読め、かつ元の表示と矛盾しないことが求められます。
日付フォーマットは「年月日」の順番で表示することが原則です。食品表示基準では「2025年12月31日」「25.12.31」「251231」などの表記が認められており、スラッシュ区切り(25/12/31)も許容されています。一方で、欧米式の「DD/MM/YYYY」形式(例:31/12/2025)は日本の消費者が誤読するリスクが高く、そのままでは不可です。通関書類のインボイスに記載されている製造日と、現物ラベルの日付表記が一致しているかも確認が必要です。
フォントサイズについては、食品表示基準第8条において「8ポイント以上の文字で表示する」という原則ルールがあります。ただし表示面積が150平方センチメートル(はがき1枚分の面積より少し大きい程度)以下の場合は5.5ポイント以上に緩和されます。実際のラベルが小さな袋や瓶に貼られている場合は、この緩和規定を使えるかどうか面積を計算して確認することが必要です。
消費者庁が整理した食品表示基準の逐条解説は、こうした細かな要件を調べるうえで最も信頼性が高い資料です。
消費者庁「食品表示基準逐条解説(加工食品編)」(PDF)−フォント・記載位置の解説を含む
記載位置については「主要面(消費者が最初に目にする面)に一括表示欄を設ける」ことが求められ、消費期限はその一括表示欄内に記載するのが基本です。
通関業従事者が現場で最も見落としやすいのは、「外国語原文の日付と日本語追記ラベルの日付が1日ズレている」ケースです。これは単純な転記ミスのように見えますが、食品表示法上は「虚偽表示」に該当しうる重大な問題です。
チェックすべき主な項目は以下の通りです。
これらが条件です。
特に「Use By」と「Best Before」の混同は、食品衛生法上の安全管理に直結します。「Use By」は消費期限(その日以降は食べてはいけない)、「Best Before」は賞味期限(その日以降は品質が保証されないが、すぐに食べられなくなるわけではない)です。誤って「Best Before」の食品に消費期限を表示した場合、逆に廃棄ロスを不当に増やすことになります。意外なことに、この逆方向のミスも食品表示法違反になり得ます。
厚生労働省・消費者庁が共同で運用している「輸入食品監視業務の実施状況」には、実際に指摘を受けたラベル違反事例が掲載されています。
厚生労働省「輸入食品の監視指導」−実際の違反事例・監視データあり
食品表示法違反(消費期限の虚偽・不正表示)に対しては、行政処分として「表示の是正命令」「回収命令」「輸入禁止」の三段階があります。是正命令に従わなかった場合や悪質性が高い場合は、最高で2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されます(食品表示法第20条)。これは行政処分ではなく刑事罰です。
さらに重大なのは、食品衛生法との重複適用です。食品衛生法第18条に違反した場合(健康を損なうおそれのある表示)は、最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金となっています。法的リスクは大きいですね。
損失額の実態としては、通関後に全ロット回収・廃棄が命じられたケースでは、商品代金・廃棄費用・輸送コストの合算が数百万円から数千万円規模に達することがあります。たとえば冷凍食品を1コンテナ分(約20トン)輸入して廃棄になれば、商品価値だけで500万円超になることも珍しくありません。輸入者がその損失を負うのは当然ですが、表示確認を担当した通関業者に対して損害賠償請求がなされた事例も存在します。
消費者庁が毎年公表する「食品表示に関する監視・取締り状況」によると、令和5年度に食品表示法に基づいて行われた指示・命令件数は全国で120件を超えています。そのうち輸入加工食品に関するものが一定数を占めており、消費期限・賞味期限の表示ミスが繰り返し上位に挙がっています。
通関業者として最低限おさえておくべきは「表示確認を書面で記録として残すこと」です。口頭での確認では証拠が残らず、後から責任の所在が曖昧になります。チェックリスト形式の確認書類を社内ルールとして定めておくことが、損害賠償リスクを軽減する最も現実的な対策です。
あまり知られていない視点として、「輸出国では合法な表示が、日本では食品表示基準に違反する」というケースが実務上かなり多く発生しています。これは単純な翻訳ミスとは別の問題です。
たとえば米国では「Best If Used By」という表現が消費期限と賞味期限の中間的な意味で使われることがあります。日本の食品表示基準には「Use By」=消費期限、「Best Before」=賞味期限という二項対立しか存在しないため、「Best If Used By」をどちらに当てはめるかは輸入者が判断しなければなりません。誤った判断を通関書類に反映させると、後から指摘を受けたときに修正が困難になります。
EUではFIR規則(EU No 1169/2011)により「Use By(消費期限)」と「Best Before(賞味期限)」の記載が義務付けられており、日本との対応は比較的取りやすい傾向があります。しかし中国・東南アジア諸国の製品では、製造日(MFD)のみ記載されており、賞味期限は「製造日から〇ヶ月」という記載形式になっているものが多く見られます。この場合、日本語ラベルには計算した期限の日付を記載しなければなりません。計算ミスや月数の解釈違い(製造当日を1日目とするか翌日を1日目とするか)が起きやすいポイントです。
つまり「原文を正確に翻訳する」だけでは不十分ということです。
さらに実務上のグレーゾーンとして「製造ロット番号のみで期限が分かる製品」があります。ロット番号を解読すれば製造日・期限が特定できるが、一般消費者にはわからない形式です。日本の食品表示基準では、消費者が直接読める形での日付表示が原則として必要なため、ロット番号のみの表示は原則不可です。これは例外なしに適用される要件と考えるべきです。
こうした「輸出国基準と日本基準のズレ」を事前に把握するためには、輸入品の原産国ごとの表示慣行をまとめたリファレンスを手元に持つことが有効です。日本輸入食品安全推進協会(JIFPA)や、各国輸出入規制を扱う商社・コンサルタントのガイドラインが参考になります。
日本輸入食品安全推進協会(JIFPA)公式サイト−輸入食品の安全管理・表示に関する業界情報
また、消費期限の計算に使う「製造日から〇ヶ月」の根拠となる原産国の試験データ(保存試験成績書)を輸入者から入手し、通関書類とセットで保管しておくと、税関や食品衛生監視員から問い合わせを受けた際に迅速に対応できます。これが実務上の強い武器になります。
輸出国での表示形式を一つひとつ確認するのが煩雑な場合は、輸入品の産地別に「表示形式チェックシート」を作成しておくと効率的です。主要輸入国(中国・タイ・米国・フランスなど)ごとに、消費期限・賞味期限の記載パターンと日本語変換の注意点を一覧化しておくだけで、担当者が変わっても同じ品質でチェックができます。この一枚があるとないとでは、チェック精度が大きく変わりますね。
厚生労働省「輸入食品監視指導計画・実績」−年度別の違反事例・指導実績データ