制裁対象国と日本の関税・輸出禁止の全ルール

制裁対象国と日本の関税・輸出規制はどう関係しているのか?外為法違反で懲役10年・罰金10億円のリスクや、知らずに違反するOFAC規制の落とし穴まで、関税担当者が押さえるべきポイントを徹底解説。あなたは本当にリスクを把握できていますか?

制裁対象国と日本の関税・輸出規制の仕組み

あなたが輸出した先の取引相手が、実は制裁対象企業の子会社だっただけで、懲役刑の対象になることがあります。


この記事でわかること
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日本が指定する制裁対象国とは?

北朝鮮・ロシア・イランなど、外為法に基づいて輸出入が禁止・制限されている国と、その法的根拠を解説します。

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外為法違反で懲役10年・罰金10億円

「知らなかった」では通らない外為法の罰則規定と、実際に摘発された違反事例を紹介します。

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OFAC規制・迂回輸出の落とし穴

米国OFAC規制は日本企業にも適用されます。間接取引や迂回輸出でも制裁対象になるリスクと、その対策を解説します。


制裁対象国とは何か:日本が規制している国の一覧

「制裁対象国」というと、遠い国同士の外交問題のように聞こえます。しかし実際には、日本の関税・貿易実務に直接影響する、非常に身近なリスクです。


日本が現在、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づいて制裁措置を実施している国・地域として主に挙げられるのは、北朝鮮・ロシア(ウクライナ侵攻以降)・イラン・ベラルーシなどです。三井住友銀行などの金融機関が公表している制裁対象国等のリストには、北朝鮮、イラン、キューバ、ウクライナのクリミア地域、ドネツク人民共和国(自称)、ルハンスク人民共和国(自称)が含まれています。


ただし、「制裁対象国」の定義は一枚岩ではありません。日本独自の措置だけでなく、国連安保理決議を根拠とする措置、米国・EU等との協調による措置が複雑に重なり合っています。たとえばイランについては、日本は現時点で独自制裁を科しておらず、国連安保理決議に基づく措置のみを実施しています。


財務省が公表している「経済制裁措置及び対象者リスト」には、ロシア連邦だけで1,137個人・団体(令和8年1月22日現在)が資産凍結等の対象として掲載されています。国レベルで制裁対象になっているだけでなく、個別の人物・企業にも制裁が及ぶ点が重要です。


つまり制裁の対象は「国」だけではないということです。


財務省|経済制裁措置及び対象者リスト(資産凍結等の対象国・個人・団体の最新一覧)


制裁対象国への関税措置:ロシアのMFN撤回が示す実態

制裁対象国と「関税」の関係で最もわかりやすい事例が、2022年以降のロシアに対する最恵国待遇(MFN)の撤回です。


WTO加盟国間では通常、「最恵国待遇」という原則のもとで、相手国に最も低い関税率を均等に適用することが義務づけられています。しかし、2022年3月のウクライナ侵攻を受け、日本政府は岸田文雄首相の会見でロシアに対するMFN待遇の撤回を表明しました。G7各国も足並みをそろえた措置です。


MFN撤回によって何が変わるのでしょうか。ロシア原産品への適用関税が、WTO協定税率(低い税率)から日本の基本税率(高い税率)へと切り替わります。これは実質的な関税引き上げであり、ロシア産品の輸入を経済的に不利にするための制裁手段です。


財務省は2024年3月にもMFN撤回措置の延長を決定しており、この措置は現在も継続されています。ロシア産品を輸入する際は、通常のWTO協定税率ではなく、高い基本税率が適用される点に注意が必要です。


ただし、みずほリサーチの試算では、ロシアからの輸入額のうち基本税率とWTO協定税率が実質的に異なるのは約1割程度の品目とされており、石油・LNGなど多くの品目はもともと基本税率も0%であるため、影響が限定的な品目も多くあります。これは意外ですね。


財務省|ロシアに対する関税における最恵国待遇の撤回措置の延長について(2024年3月)


制裁対象国への輸出禁止品目と外為法の罰則

関税率の問題とは別に、制裁対象国への輸出そのものが禁止される品目があります。この仕組みを定めているのが外為法であり、違反した場合の罰則は非常に重大です。


北朝鮮に対しては全貨物の輸出・輸入が禁止されており、これは令和7年(2025年)4月の通達でも改めて確認されています。ロシアに対しては、軍事能力強化に関連する汎用品・先端技術品、奢侈品(高級品)、化学兵器関連物質、工業用ダイヤモンドなど、段階的かつ広範な輸出禁止措置が講じられています。税関(Japan Customs)によれば、2022年3月以降、ロシア向けの禁輸措置は十数回にわたって追加・強化されてきました。


外為法違反の罰則は非常に厳しいです。法人に対しては10億円以下の罰金、個人に対しては懲役10年以下または3,000万円以下の罰金が科せられる可能性があります。さらに、行政制裁として「一定期間の輸出取引禁止」といった業務制限も課されます。これを「会社の問題」と思って油断すると、個人が刑事責任を負うケースもあります。


東京商工会議所の資料によると、外為法違反のほとんどは悪意ある不正ではなく、知識不足や管理体制の不備が原因です。税関の事後調査で発覚するケースが約40%、自社の社内監査で発覚するケースが約32%を占めており、気づかないまま違反状態が続くリスクがあります。


懲役10年が最大ペナルティです。


税関(Japan Customs)|経済制裁に伴う措置(ロシア・北朝鮮・イランへの最新禁輸措置一覧)


OFAC規制と日本企業:間接取引でも違反になる落とし穴

制裁対象国リスクの中でも、特に見落とされやすいのが米国のOFAC規制(米国財務省外国資産管理局による規制)です。


OFAC規制は、米国人・米国法人だけでなく、米ドル建取引を行うすべての関係者に適用される可能性があります。つまり、日本国内で完結しているように見える取引であっても、決済に米ドルを使用した場合にはOFAC規制の対象になりえるのです。


さらに重要なのが、間接取引でも規制対象になるという点です。三菱UFJ銀行や関連法律事務所の情報によれば、取引の直接の相手方が制裁対象者リスト(SDNリスト)に載っていなかったとしても、その相手先企業の株式の50%以上を制裁対象者が保有している場合、その企業との取引もOFAC規制の対象となります。「知らなかった」は免責理由にはならないのが原則です。


みずほ銀行が公表しているOFAC規制違反の取引事例には、「制裁対象者(SDN)が50%以上出資する子会社へ、日本のお客さまが機械製品を輸出した」というケースが実際に掲載されています。これは、取引相手の表面上の名称だけを確認していれば見逃してしまうリスクです。


OFAC違反の制裁金はケースによって異なりますが、マイクロソフトが2023年に課された事例では、合計約330万ドル(当時のレートで約4.5億円)となっています。制裁違反は「大企業の話」ではなく、輸出入に携わるすべての事業者に関係します。


実はOFAC規制は米国の法律です。


みずほ銀行|OFAC規制違反の取引事例(間接取引・イラン関連の具体的事例を掲載)


制裁対象国との取引で知っておくべき「迂回輸出」のリスク

もう一つ、関税や輸出規制に関わる実務担当者が見落としやすいのが「迂回輸出」のリスクです。


迂回輸出とは、制裁対象国に直接輸出することを避け、第三国を経由させることで制裁を回避しようとする取引手法です。たとえば「日本企業がA国に製品を輸出 → A国からB国経由 → 最終的に制裁対象国Cへ流れる」というルートが典型例です。


重要なのは、このような迂回輸出が発覚した場合、最終的な輸出元(日本企業)も制裁対象となりうるという点です。2024年7月にベーカー・マッキンゼー法律事務所が発表したクライアントアラートでも、対ロシア制裁に関連して迂回輸出の疑いで逮捕された事案が初めて生じたことが紹介されており、日本国内の取引関係者も無関係ではありません。


経済産業省の外為法違反事例資料によると、違反が発覚するきっかけの約40%は「税関による事後調査」です。輸出時点では通関できてしまっても、その後の調査で違反と認定されるリスクがある点は見逃せません。


こうしたリスクへの対策として、輸出管理内部規程(CP:Compliance Program)の策定が有効です。経済産業省への届出は任意ですが、CPを整備していれば、社内でのチェック体制が機能し、違反を未然に防ぎやすくなります。中小企業であれば、東京商工会議所や日本商工会議所による「中小企業等アウトリーチ事業」を活用することで、無償で専門家への相談が可能です。まず相談するのが最初のステップです。





























制裁対象国・地域 主な措置 根拠
北朝鮮 全貨物の輸出入禁止・支払原則禁止 外為法・国連安保理決議
ロシア MFN撤回・先端品等輸出禁止・特定品目輸入禁止・資産凍結 外為法(G7協調)
イラン 輸出入禁止措置(令和7年9月~再開)・資産凍結 国連安保理決議
ベラルーシ 資産凍結(35個人・団体) 外為法(G7協調)


経済産業省|制裁関連ページ(対北朝鮮・対ロシア等・最新措置一覧)


制裁対象国リスクを管理するための実践的チェックポイント

ここまでの内容を踏まえ、関税・輸出実務の担当者が日常業務で実践できる制裁リスク管理のポイントをまとめます。


まず最も基本的なことは、取引相手の国・地域と、その最終需要者(エンドユーザー)を確認することです。輸出先の国が制裁対象外であっても、最終的に制裁対象国に渡る可能性があれば規制に触れます。輸出品がどこに届くのかという「エンドユース確認」が原則です。


次に、財務省や経済産業省が公表している制裁対象者リストとの照合を取引ごとに行うことが必要です。リストは随時更新されており、同じ取引先であっても翌月には制裁対象に追加されているケースもあります。日本の財務省リストだけでなく、米国OFACのSDNリストの確認も欠かせません。


さらに、社内のCP(輸出管理内部規程)を整備し、チェック体制を複数人で担う仕組みを構築することが重要です。東京商工会議所の解説によれば、外為法違反の約32%は自社の社内監査で発覚しています。自社内でのダブルチェック体制がそのまま違反の早期発見に直結します。


制裁リストは生き物です。


また、制裁に関する情報収集には、ジェトロ(JETRO)やCISTEC(安全保障貿易情報センター)が無料で公開しているウェブセミナーや資料が非常に有用です。特にCISTECは、米国のEAR(輸出管理規則)についても日本語で解説した資料を提供しており、関税・貿易担当者が知識を深めるうえで欠かせないリソースです。



  • 🔎 エンドユース確認:輸出品が最終的にどの国・誰に届くかを書面で確認する

  • 📋 制裁対象者リスト照合:財務省・OFAC(米国)のリストを取引ごとにチェックする

  • 🏢 CP(輸出管理内部規程)策定:経済産業省への届出は任意だが、社内整備が摘発リスクを大幅に減らす

  • 📚 情報収集の継続:JETRO・CISTECのセミナー・資料を活用し、最新の制裁動向を把握する

  • 🤝 専門家への相談:不安な取引がある場合は、中小企業等アウトリーチ事業(無償)や法律事務所への相談を検討する


制裁対象国に関わるリスクは、輸出入を行うすべての事業者にとって他人事ではありません。関税率の変動だけでなく、取引停止・資産凍結・刑事罰という深刻な結果につながりうる問題です。知識と体制を整えることが、最大の防御策です。


ジェトロ|安全保障貿易管理 早わかりガイド(EAR違反・制裁リスクの日本語解説資料・PDF)