国別報告書の記載要領改正と対応の完全ガイド

国別報告書(CbCR)の記載要領改正は、移転価格税制の実務に直結する重要な変更点が多く含まれています。グローバル・ミニマム課税との連動や受取配当金の取扱い見直しなど、現場の担当者が見落としがちなポイントを網羅的に解説します。あなたの対応は本当に最新の要領に沿っていますか?

国別報告書の記載要領改正と通関業従事者が押さえるべき実務対応

記載要領の改正内容を「大体同じだろう」と軽く見ると、30万円以下の罰金が待っています。


この記事の3つのポイント
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記載要領改正の背景と全体像

OECDのBEPSプロジェクトとグローバル・ミニマム課税(Pillar2)の導入により、国別報告書(CbCR)の記載要領は複数回にわたり改正されています。最新の改正ポイントを押さえることが実務の基本です。

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見落としやすい改正のポイント

受取配当金の取扱い変更・収入金額と連結財務諸表の差異容認など、「以前と同じでいい」と思いがちな項目が改正されています。提出前の確認が欠かせません。

GIR記載要領との連動と実務対応

2024年6月・2025年6月と相次いで公表されたGIR記載要領の改訂版は、グローバル・ミニマム課税の申告実務と直結します。CbCRの記載内容がGIRの計算基礎となる点を理解することが重要です。


国別報告書(CbCR)の記載要領改正とは何か

国別報告書(CbCR:Country-by-Country Reporting)は、OECD(経済協力開発機構)のBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの行動計画13「多国籍企業情報の文書化」を受けて、平成28年度(2016年度)税制改正で日本国内に導入された制度です。正式名称は「国別報告事項」といい、移転価格税制に係る文書化制度の一環として位置付けられています。


対象となるのは、前事業年度の連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループ(特定多国籍企業グループ)の構成会社等です。これは東証プライム上場企業でも対象外になる規模のように感じますが、グローバルに事業展開する大手企業では該当ケースが多く、通関・国際税務の実務担当者にとっては日常業務に直結するテーマです。


「記載要領」とは、国別報告事項(表1〜表3)のそれぞれの欄に何をどのように記載すべきかを定めた国税庁の通達・ガイドラインを指します。表1は「居住地国等における収入金額、納付税額等の配分及び事業活動の概要」、表2は「構成会社等一覧」、表3は「追加情報」という構成になっています。この記載要領は制度発足以来、税制改正や国際的な合意内容の変化に伴い、随時改訂が行われています。


記載要領が改正される主な要因は2つです。一つは国内税制改正(租税特別措置法の改正等)に伴う対応、もう一つはOECD・G20「BEPS包摂的枠組み」における国際的合意事項の変更への対応です。つまり国内外の制度変化に連動しているため、「昨年と同じ内容でいい」という判断が誤りになる可能性があります。


2024年度税制改正等を踏まえた「移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)」の改訂が2024年7月に行われ、問33・問34・問38・問41の4つの問が改訂されました。これらは国別報告事項の表1〜表3の記載要領に直接反映される内容です。記載要領の改正は内容が技術的で難解なため、ポイントを見落とすリスクが高い領域です。



国税庁が公表している「多国籍企業情報の報告」のページには、記載要領の改正情報が随時掲載されます。定期的なチェックが基本です。


【国税庁公式】多国籍企業情報の報告 — CbCR・マスターファイルの届出・記載要領・FAQ等が一括で確認できる公式ページ


国別報告書の記載要領における2024年改正の主要ポイント

2024年度税制改正では、グローバル・ミニマム課税(Pillar2)の実装に関連する省令の訂正を受けて、国別報告事項(表1〜表3)の記載要領が改正されました。実務担当者が特に注意すべきポイントが複数あります。


まず、受取配当金の収入金額・税引前当期利益への算入可否に関するルールが整理されました(FAQ問41の改訂)。他の構成会社等から受け取る配当金を収入金額または税引前当期利益(損失)の額に含めるか否かは、支払者である当該他の構成会社等の取扱いによって異なります。支払者である構成会社等が国別報告事項の作成にあたりその支払額を税引前当期利益(損失)の額に含めている場合には、受取側の構成会社等も当該受取配当金の額を収入金額および税引前当期利益(損失)の額に含めることが示されました。つまり「支払者の処理に連動させる」が原則です。


次に重要な点として、収入金額の合計額が連結財務諸表の数値と一致しなくてもよいというルールが確認・維持されています(記載要領⑵ロ)。国別報告事項の表1に記載する収入金額、税引前当期利益(損失)の額、納付税額および発生税額については、居住地国等ごとに記載した額の合計額が連結財務諸表に記載した額と一致しなくても差し支えありません。これは実務上、構成会社等が各国で異なる会計基準を採用していることに配慮した規定です。


| 項目 | 取扱い |
|---|---|
| 収入金額合計と連結財務諸表の差異 | 一致しなくても差し支えなし |
| 使用する財務諸表等 | 個別財務諸表・連結パッケージ・内部管理会計データのいずれか選択可 |
| 選択した財務諸表等 | 表3「追加情報」に記載し毎期継続使用が必要 |
| 会計基準の差異調整 | 調整不要 |
| 決算期が異なる構成会社等 | 最終親会計年度の終了日前1年以内に終了する場合はその年度のデータ使用可 |


さらに、FAQ問33の改訂により外国に所在する構成会社等の財務データを日本の会計基準等に合わせて再計算する必要はないという点が明確化されました。これは現場で勘違いされやすいポイントです。日本の親会社の担当者が「日本基準に統一しなければならない」と考えて不必要な作業を行っているケースがありますが、各国・各社の財務諸表等をそのまま使用できます。調整不要が原則です。


また、FAQ問38の改訂では同一国内の関連者間取引が相殺されている場合の取扱いについても整理されています。現地で連結パッケージとして財務諸表が作成され、関連者間取引金額の相殺が行われている場合でも、表1に記載する収入金額を計算する際にそれを分解する必要はありません。相殺後の数値を使用することで差し支えないという取扱いです。


【KPMG税理士法人】2024年7月改訂FAQ解説 — 問33・34・38・41の改訂内容とその背景を専門家が解説したレポート


国別報告書の記載要領とグローバル・ミニマム課税(GIR)との連動

2024年4月1日以降に開始する対象会計年度から、グローバル・ミニマム課税(各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税)の適用が始まりました。対象は、直前4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度において全世界での年間総収入金額が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループです。グローバル・ミニマム課税には関係ないと思っていたのに適用対象になっていた、というケースに要注意です。


この制度では「特定多国籍企業グループ等報告事項等」(いわゆるGIR:GloBE Information Return)という別個の報告書類の提供義務も新設されました。GIRは国税庁が令和6年6月に「特定多国籍企業グループ等報告事項等の記載要領」として公表し、さらに2025年6月に改訂版が公表されています。


GIRと従来のCbCR(国別報告事項)の関係が実務で混乱を生じさせています。両者は別個の提出書類ですが、GIRの計算のベースとしてCbCRのデータが活用されます。特に「移行期間CbCRセーフハーバー」では、CbCRに記載された収入金額・税引前当期利益・簡素な計算に基づく対象租税の額をGIRの表2.2.1.3に転記する形になります。CbCRの記載内容の精度がGIRの適用可否を左右するわけです。


移行期間CbCRセーフハーバーの活用は、グローバル・ミニマム課税の計算事務負担を大幅に軽減できます。このセーフハーバーは2027(令和9)年12月31日以前に開始し、2029(令和11)年6月30日までに終了する対象会計年度まで延長されました。CbCRの正確な記載が、グローバル・ミニマム課税の申告実務を大きく左右するという視点は、記載要領改正を理解する上で欠かせない視点です。


2025年6月公表のGIR記載要領の改訂では、課税権を有する国または地域の国内法に基づく国別実効税率の計算結果がOECDのモデルルール等と異なる場合の差異報告欄が追加されました。また繰延対象租税額(Deferred Tax)の調整計算順序も明確化されています。これらの追加・変更は、国内法とモデルルールの乖離が生じている国に子会社を持つ企業グループの実務に直接影響します。


【国税庁公式】特定多国籍企業グループ等報告事項等の記載要領(令和6年6月版) — GIRの各表の記載内容と定義が詳細に確認できる公式ガイドライン


国別報告書の提出義務と違反時のリスク

国別報告事項の提出期限は、最終親会社の会計年度終了日の翌日から1年以内です。提出先はe-Tax(国税電子申告・納税システム)の「多国籍企業情報の報告コーナー」を通じた所轄税務署長への電子提出に限られます。通常の税務申告ソフトでは対応していない場合があるため、専用画面を事前に確認しておくことが実務上の第一歩です。


提出を怠った場合のリスクは明確です。正当な理由なく期限内に国別報告書・マスターファイルを提出しなかった場合、30万円以下の罰金が課せられます。金額だけ見ると小さく感じるかもしれませんが、問題はそこだけに留まりません。


税務コンプライアンス上のリスクとして、上場企業では「○○株式会社は東京国税局の税務調査において、海外子会社との取引に関して○億円の申告漏れを指摘された」といった報道が行われるリスクがあります。企業イメージへのダメージは金銭的損失に換算しにくいですが、投資家・取引先・採用活動など幅広い影響が生じ得ます。上場企業にとっては財務報告に係る内部統制の不備として指摘される可能性もあります。


さらに、ローカルファイル(独立企業間価格を証明する文書)については、期限内に提出できなかった場合に「推定課税」が適用されるリスクがあります。税務当局が独自に独立企業間価格を推定して課税を行うもので、税引前利益が2億円の会社に2億円の移転価格課税が行われるケースも想定されます。そこに延滞税が加算されると、思わぬ追加負担になります。延滞税は日本より利率が高い国・地域もあるため、海外子会社側での推定課税は特に注意が必要です。


| 文書の種類 | 提出義務者の基準 | 提出期限 | 違反した場合 |
|---|---|---|---|
| 国別報告書(CbCR) | 連結総収入1,000億円以上 | 会計年度終了日の翌日から1年以内 | 30万円以下の罰金 |
| マスターファイル(事業概況報告) | 連結総収入1,000億円以上 | 同上 | 30万円以下の罰金 |
| ローカルファイル | 国外関連者との年間取引50億円以上 | 確定申告期限まで | 推定課税の適用 |


【押方移転価格会計事務所】移転価格税制関連の罰則(ペナルティー) — 文書化義務違反・ローカルファイル未提出による推定課税リスクが詳細に解説されているページ


通関業従事者が日常業務で意識すべき記載要領の変更管理

通関業・国際税務の実務担当者にとって、記載要領の改正情報を「いつ・どのように」キャッチするかは、リスク管理の根幹です。改正情報を見落とした状態で旧様式のまま作成し、提出後に誤りが発覚するというパターンが現場では起こりやすくなっています。


まず確認すべき情報源として、国税庁の「多国籍企業情報の報告」ページ、KPMG・EY・PwC・Deloitte等の国際税務専門事務所が発行するニュースレターや速報解説が挙げられます。記載要領の正式文書は国税庁公式PDFで確認できますが、それだけでは変更箇所を特定しにくいため、専門事務所の解説と組み合わせて参照するのが実務的です。これは使えそうです。


日常的な変更管理として、以下のサイクルを持つことが効果的です。


- 📅 毎年6〜7月:国税庁による記載要領の改正・FAQ改訂の公表時期。税制改正への対応版が出ることが多い。


- 📅 会計年度終了後3〜6ヶ月以内:CbCR・GIRの作成準備開始のタイミング。最新の記載要領を必ず取得する。


- 📅 提出1〜2ヶ月前:記載内容の最終確認。特に直前のFAQ改訂・通達変更の有無を確認する。


また、記載要領改正の「影響が大きい変更」と「軽微な変更」を見分ける視点も重要です。影響が大きい変更とは、記載すべき欄の追加・削除、収入金額や税額の算入ルールの変更、提出形式(e-Taxのスキーマ改訂)などです。OECD租税委員会が「Country-by-Country Reporting XML Schema(改訂版)」を公表した際には、国税庁も改訂スキーマによる国別報告事項の提供について別途通知を発します。スキーマ改訂への対応遅れは、提出そのものができなくなるリスクにつながります。スキーマの更新は必ず確認が必要です。


さらに、CbCRの記載要領改正とGIR記載要領の改正が連動している現状では、両方の改正情報を同時に管理する体制が求められます。担当者が複数部署にまたがる場合は、改正情報の共有ルールをあらかじめ決めておくことで、情報の抜け漏れを防ぐことができます。


移転価格税制の文書化対応を外部コンサルタントに依頼している場合も、「任せているから大丈夫」という認識は危険です。税務当局の調査で記載内容を説明するのは企業自身であり、採用されなかった独立企業間価格算定方法の背景なども含め、担当者自身が記載要領を理解しておくことがコンプライアンス上の必要条件です。対応を外注するだけでは、根本的な問題解決になりません。


【辻・本郷税理士法人】移転価格税制の基礎5 ~国別報告事項(CbCレポート) — 提供方法・期限・条約方式と子会社方式の違いを図解で解説したページ