介入発表を待ってから動いても、輸入コスト削減は間に合いません。
2025年に入ってから、政府・日銀による円買い介入は一度も実施されていません。最後に市場介入が実施されたのは2024年7月で、円が38年ぶりの安値をつけた局面でした。
参考)ドル円155 円突破で高まる為替介入の可能性
2022年以降の介入実績を振り返ると、3つの局面で合計7日、24.5兆円規模の介入が行われています。具体的には2022年9月と11月、そして2024年4月から7月にかけて断続的に米ドル売り・円買い介入が実施されました。
参考)為替介入の軌跡を振り返る~2022年以降のまとめと今後の行方…
2024年4月から7月の介入だけで約9.8兆円もの巨額資金が投入されており、当局が円安加速を強く警戒していた様子がうかがえます。過去の介入判断には一定の法則性があり、米ドル/円が過去5年の平均値(5年MA)を2割以上上回る水準が一つの目安とされています。
参考)【為替】為替介入に「ルール」はあるのか?
2022年の最初の介入は145円程度、2024年の最初の介入は160円程度で実施されました。つまり介入が実現する可能性が高まるのは163円以上に達した場合です。
参考)【為替】円買い介入のシナリオを考える
財務省のホームページでは、月次ベースの実施額が月に一度、日次ベースの実施額等の詳細が四半期に一度公表されています。通関業務従事者は、この公式データを定期的にチェックすることが基本です。
参考)為替介入の実施日、およびその額を教えてください。 : 日本…
介入による為替変動は、通関時の関税額や消費税額に直接影響します。輸入申告に使用する「換算レート」が大きく変化すると、課税価格が大きく変動するためです。
具体例で見てみましょう。1ドル=100円から120円に為替レートが変動した場合、輸入原材料のコストは20%上昇します。30,000ドルの輸入品なら、1ドル=100円では300万円で済んでいたものが、1ドル=120円では360万円かかる計算です。
この60万円の差額は、関税率が10%なら関税額だけで6万円の増加を意味します。消費税も含めると、さらに大きな負担増となるわけです。
2025年11月から12月にかけて、日本の輸入物価指数は161.80ポイントから163.60ポイントへ上昇しました。輸入物価は為替レートの影響を大きく受けるため、円安局面では輸入コストの上昇圧力が強まります。
参考)https://jp.tradingeconomics.com/japan/import-prices
通関業務の現場では、同じインボイス金額でも申告タイミングによって納付税額が変わる現象が起きます。これは知ってると得するポイントです。
為替介入が実施されて急激に円高が進むと、輸入企業にとって仕入れコストが下がるチャンスになります。2024年7月12日の介入時には、日経平均株価が1,033円下落する一方、輸入品を多く取り扱う企業の株価は上昇しました。
参考)為替介入とは?実施されるとどうなる?仕組みやメリットデメリッ…
2025年から2026年にかけて、米ドル/円が155円を突破すると、日本政府による為替介入の可能性が高まると専門家は分析しています。三村財務官も、2025年入り後の円安が日米金利差に逆行して進んでいることを指摘し、「ファンダメンタルズで説明できない投機的な動き」と見做す可能性を示唆しました。
介入判断の「ルール」として、専門家は3つの条件を挙げています。第一に、米ドル/円が5年MAを2割以上上回ること。第二に、日米金利差の動向に逆行する円安が進行していること。第三に、短期間での急激な変動(ボラティリティの急騰)が起きていることです。
参考)約9.8兆円のドル売り・円買い介入が意味すること
2026年1月の時点で、円は2025年高値158.872円を一時的に上抜けし、為替介入への警戒感が強まっています。米財務省のベッセント長官は日本の為替介入に一定の理解を示しつつも、円安是正には日本銀行の金融政策正常化が重要との立場を示しました。
参考)【為替】米ドル/円は2025年高値を超えたことで為替介入警戒…
つまり155円ラインが基準です。
このライン突破時には、通関業務従事者は換算レートの急変に備えた対応が必要になります。具体的には、申告タイミングの調整や予約レートの活用を検討すべき局面です。
介入実施後は、ドル円のボラティリティが低下する傾向があります。再介入の手掛かりは、為替水準そのものよりボラティリティの動向に注目すべきとの指摘もあります。
為替変動リスクに対する通関業務の実務対策として、まず換算レートの選択タイミングが重要になります。関税定率法では、資産はTTS(対顧客電信売相場)で評価し、負債はTTB(対顧客電信買相場)で評価する方法と、TTM(仲値)で評価する方法が選択できます。
円安が進んでいる局面では、資産をTTSで評価して負債をTTBで評価する方法の方が、TTMで評価するより評価差益が抑えられるため税務上有利です。これは継続適用が条件となるため、事前に方針を決めておく必要があります。
通関用の換算レートは、税関長が公示する実勢外国為替相場を使用します。この換算レートが大きく増減するときは、いつ申告するかによって課税価格が増減し、関税額や消費税額に影響するため、週次で換算レートの動向をチェックする習慣をつけましょう。
為替リスクをヘッジするツールとして、先物予約や通貨オプションの活用も検討すべきです。特に大口の輸入案件では、予約レートを確保することで為替変動による予算超過リスクを回避できます。
貿易収支の赤字拡大局面では、円を売って外貨を買う動きが強まり円安が進行しやすくなります。日本はエネルギー・原材料・食材などを多く輸入しており、近年のエネルギー価格高騰により貿易赤字が拡大しているため、中長期的な円安圧力を意識した対策が必要です。
参考)【2025年】円安はいつまで続く?見通しと理由を徹底解説!
リスク管理が条件です。
実務上の対応手順としては、(1)財務省の介入実施状況を四半期ごとに確認、(2)週次で換算レートの変動幅をモニタリング、(3)155円ライン接近時は申告タイミングを慎重に判断、(4)大口案件は予約レートの活用を検討、という流れになります。
為替介入は極めてまれな手段であり、アメリカのイエレン財務長官も「日常的に使われる手段ではない」と明言しています。したがって、介入頼みではなく自社での為替リスク管理体制を構築することが本質的な対策です。
参考)為替介入の仕組みを解説!過去の介入事例と将来展望
為替介入には確かにメリットがある一方で、通関業務従事者が知っておくべきリスクやデメリットも無視できません。第一に、為替介入の効果は一時的である可能性があります。
市場は大規模であり、政府や中央銀行の介入が長期的なトレンドを変えることは難しいのです。一時的に為替レートを安定させることができたとしても、根本的な経済問題が解決されない限り、再び不安定な状況に戻る可能性があります。
第二に、財政負担が極めて大きいという点です。日銀が市場に介入するためには大量の外国通貨を購入し、それを国内通貨に交換する必要があるため、大規模な資金を必要とします。これにより国の外貨準備が減少し、将来的な金融危機に対する防衛力が弱まる可能性があります。
第三のデメリットは、諸外国への配慮が必要な点です。状況によって、為替介入に対して諸外国から批判やけん制がかかることもあります。
参考)為替介入とは何かわかりやすく解説!これで効果や歴史もわかる
効果が限られることですね。
為替介入で急激な為替変動を抑えて安定化させることを期待できる一方で、効果が限られるとの見方もあります。為替介入には資金が必要なため、何度も繰り返し実施することは難しいことが、効果が限定的な理由として挙げられます。
通関業務の視点では、介入による一時的な円高を過信して為替リスク管理を怠ると、介入効果が薄れた後に再び円安が進行した際、大きな損失を被る危険があります。介入は「あくまで例外的な手段」であることを前提に、自社での為替変動対策を優先すべきです。
財務省「外国為替平衡操作の実施状況」
為替介入の公式データが四半期ごとに更新されており、日次ベースの実施額等の詳細を確認できます。通関業務の為替リスク管理に不可欠な一次情報源です。
GTConsultant.net「輸入時の関税を低くする換算レートの選択」
通関時の換算レート選択による関税額の増減について、実務的な解説があります。TTS、TTB、TTMの使い分けを理解するのに役立ちます。