csr調達とは何か、通関業者が知るべき基礎と実務

CSR調達とは何か、通関業従事者の視点でわかりやすく解説します。サプライチェーンの人権・環境リスクは通関実務にも直結しますが、その本質を正しく理解できていますか?

csr調達とは何か:通関業者が押さえる基礎知識と実務ポイント

CSR調達の基準を満たさない貨物を輸入すると、あなたの会社が取引停止になる可能性があります。


この記事の3つのポイント
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CSR調達とは何か

CSRとは「企業の社会的責任」の略。調達活動に人権・環境・労働・法令遵守などの観点を組み込む取り組みがCSR調達です。通関業者もサプライチェーンの一員として無関係ではありません。

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通関実務との接点

米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)をはじめ、輸入禁止規制が世界で拡大中。通関書類の確認段階でCSRリスクを見抜けなければ、貨物差し止めや取引先との契約解除につながるリスクがあります。

今すぐできる対応策

SAQ(自己評価質問票)を使ったサプライヤー評価や、CSR調達ガイドラインの内容確認など、通関業者としてできる具体的なアクションを本記事で解説します。


CSR調達とは何かをわかりやすく解説:Corporate Social Responsibilityの基本

CSR調達とは、Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)の考え方を調達活動に組み込んだ取り組みのことです。品質・コスト・納期という従来の調達基準に加え、環境保護・人権尊重・労働環境改善・公正取引・法令遵守といった要素を判断軸として加えるものと理解すると、整理しやすいでしょう。


従来の調達では「安い・早い・品質が安定している」サプライヤーを選ぶのが基本でした。それだけでは不十分です。現代のビジネスでは「その製品がどのような過程で作られたか」まで問われるようになっています。


CSRという言葉自体は2000年代初頭から普及しましたが、これを調達活動と結びつけたCSR調達が日本企業で本格的に意識されるようになったのは、2010年代後半からです。欧米では法制化の動きも早く、フランスでは2017年に「企業注意義務法」が制定され、一定規模以上の企業に対してサプライチェーン全体での人権・環境リスクへの対処が義務化されました。日本でも2022年9月、経済産業省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しています。


CSR調達の具体的な内容としては、以下のような項目が一般的に含まれます。


- 児童労働・強制労働をおこなっていないサプライヤーの選定
- 環境負荷の少ない原材料や製品の調達(グリーン調達との重複領域)
- 公正な取引・贈収賄防止の徹底
- 労働安全衛生状況の確認
- 情報セキュリティ基準の確保


グリーン調達との違いも押さえておくと便利です。グリーン調達は「環境」に特化した調達活動であるのに対し、CSR調達は環境に加えて人権・労働・公正取引・コンプライアンスなど、より広い社会的責任全般をカバーします。つまり、グリーン調達はCSR調達の一部と考えると理解しやすいでしょう。


SDGsとの関係性も重要です。CSR調達は、SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標のうち、特に「目標8:働きがいも経済成長も」「目標12:つくる責任・つかう責任」「目標13:気候変動に具体的な対策を」などの達成に直接的に貢献するものとして位置づけられています。


経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022年9月策定):人権DDの実施方法や対象範囲について詳細に記載されており、実務担当者が読むべき一次資料です。


CSR調達と通関業務の接点:輸入禁止規制と書類確認の実務

通関業に従事している方の中には「CSR調達は調達担当者や購買部門の話でしょ」と思っている方もいるかもしれません。これは危険な認識です。


通関業者は、輸入申告の代理人として貨物の内容・原産地・取引条件などを税関に申告する立場にあります。つまり、サプライチェーン上のリスクが書類に表れていた場合、その最前線に立つのは通関業者です。


最もわかりやすい例が、米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA:Uyghur Forced Labor Prevention Act)です。2022年6月に施行されたこの法律は、中国・新疆ウイグル自治区に関与する製品の米国への輸入を「原則禁止」とするもので、施行初年度だけで13億ドル(約1,900億円)超の輸入を差し止めました。輸入業者は、当該産品が強制労働によるものではないことを3カ月以内に証拠書類で証明しなければなりません。


日本への直接適用ではありませんが、重要なのは波及効果です。日本企業が米国向けに輸出する製品の部品・原材料がこの規制に引っかかれば、日本の輸出者・通関業者にも実務的な影響が及びます。サプライヤーが新疆ウイグル自治区の素材を使っていないか、通関書類や原産地証明書の内容から確認する必要が出てくる場面が、すでに生じています。


また、欧州でも「企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)」が進んでおり、一定規模以上の企業に対してサプライチェーン全体の人権・環境デューデリジェンスの実施が義務化されています。EU向けに輸出する荷主の通関手続きをおこなう際、サプライヤー情報の確認や書類整備の重要性が増しています。


通関業者として実務上意識したいポイントを整理すると、以下の通りです。


- 原産地証明書・インボイスの記載内容にサプライヤー情報の透明性があるか確認する
- 輸入者(荷主)がCSR調達ガイドラインを整備しているか把握しておく
- 取引先の荷主企業からCSRリスクに関する質問を受ける場面に備えておく


通関業者がCSR調達の知識を持つことは「業務範囲を超えた話」ではなく、荷主に対する付加価値サービスになる時代が来ています。


ジェトロ「米国のウイグル強制労働防止法への対応は」:UFLPAの概要と日本企業が取るべき具体的な対応について整理されています。通関業者が荷主への説明に使える実務情報が豊富です。


CSR調達のガイドラインとSAQ:通関業者が理解しておくべき評価の仕組み

CSR調達を実際に動かす仕組みとして、「CSR調達ガイドライン」と「SAQ(自己評価質問票:Self-Assessment Questionnaire)」の2つは必ず知っておく必要があります。


CSR調達ガイドラインとは、企業が社会的責任を果たすうえで取引先に求める基準・行動規範をまとめた文書です。法的拘束力はないものの、大手メーカーや商社のサプライヤーになるためには、このガイドラインへの同意・遵守が事実上の条件になっているケースが増えています。通関業者が顧客企業(荷主)から「うちのCSR調達ガイドラインに同意してほしい」と求められる場面も、今後増えていくでしょう。


一般的なCSR調達ガイドラインに含まれる主な項目は以下です。


- コンプライアンス(法令遵守・反社会的勢力との関係排除・知的財産権の尊重)
- 人権・労働(強制労働・児童労働の禁止、適切な賃金の支払い、ハラスメント禁止)
- 環境(環境マネジメントシステムの構築、温室効果ガス削減、資源の効率利用)
- 品質・安全(品質マネジメントシステムの運用、製品の安定供給)
- 情報セキュリティ(機密情報管理の徹底、個人情報の適切な取り扱い)
- 社会貢献(地域社会への貢献、SDGs達成への協力)


SAQは「サプライヤーがCSR調達基準をどの程度満たしているか」を定期的に自己評価するための質問票です。例えば、自動車業界では「Drive Sustainability」というコンソーシアムが業界共通のSAQを整備しており、約170問にわたる設問で回答企業のCSR実践度を点数化しています。


重要なのはSAQが「一度出せば終わり」ではない点です。通常、年1回の定期提出が求められます。回答内容に問題があると判断されれば現地監査(オンサイト監査)が実施され、是正が求められます。対応できない場合、取引停止になるリスクがあります。


通関業者の立場から見ると、荷主が適切なSAQを整備してサプライヤーに提出・回収できているかどうかは、CSRリスクの管理水準を判断する一つの指標になります。荷主がCSR調達に本腰を入れている企業かどうかを把握しておくことが、通関業者として長期的な信頼関係を築くうえでも有益です。


国連グローバル・コンパクト ジャパンネットワーク「CSR調達セルフ・アセスメント・ツールセット(スコアガイド)」:SAQの設問と採点基準が具体的に記載されており、実務担当者の理解を深めるのに役立ちます。


CSR調達に取り組む目的とメリット:リスク低減とブランド価値向上の両輪

CSR調達に取り組む目的は、大きく「リスクの低減」と「ブランド価値の向上」の2軸で整理できます。この2つは相互に補完し合う関係にあります。


まずリスク低減の観点から見ていきます。直接の契約関係にない2次・3次の海外調達先でも、そこで環境問題や労務問題が発生した場合、発注元の企業まで責任が遡及されることがあります。これを「サプライチェーンのCSRリスク」と呼びます。具体的には、調達先の不正発覚による供給停止(時間的損失)、倫理違反が報道されることによる不買運動(売上損失)、法的責任の追及(罰金・訴訟コスト)、株価下落(財務的損失)などがリスクとして挙げられます。


次にブランド価値の観点です。CSR調達に積極的に取り組む企業は、消費者・投資家・取引先から信頼を得やすくなります。いいことですね。ESG投資(環境・社会・ガバナンスを考慮した投資)が拡大する中、CSR調達への取り組みはESGスコアの評価にも直結します。公式サイトでCSR調達方針を公開している企業ほど、新規取引先の開拓や人材採用においても有利に働くケースが増えています。


長期的なコスト削減の視点も重要です。石油資源など枯渇性の高い素材に依存した調達は、長期的に見てコストが高騰するリスクがあります。CSR調達を通じて代替素材・省エネ素材へのシフトを進めることは、短期的にはコストが増えるように見えても、10年・20年単位で見れば調達コストの安定化に貢献します。長期的な視点が条件です。


通関業者にとっては、荷主企業がこうしたCSR調達のメリットを享受できているかどうかを理解することが、コンサルティング的なサービス提案につながる可能性があります。たとえば、CSR調達ガイドラインに基づいた書類管理の提案や、原産地情報の整備支援は、通関業者の付加価値として荷主に訴求しやすいテーマです。


通関業者の独自視点:CSR調達が輸入申告・AEO認定に与える影響

他の解説記事にはあまり書かれていない、通関業者特有の視点を一つ取り上げます。それは「CSR調達への対応状況と、AEO(認定事業者)制度・輸入申告手続の信頼性評価との関連性」です。


AEO(Authorized Economic Operator)制度とは、税関が貨物のセキュリティ管理とコンプライアンスの体制が整備された事業者を認定し、通関手続の特例措置を与える制度です。日本では「認定通関業者」がこれに相当します。認定を受けると、輸入申告前に貨物を引き取ることができる「特例輸入申告制度」の利用が可能になり、リードタイムの大幅な短縮が期待されます。


このAEO認定の維持・更新において、サプライチェーン全体のコンプライアンス水準が問われます。取引先のサプライヤーが強制労働や不法就労などの問題を抱えていた場合、貨物の差し止めだけでなく、AEO認定の審査においても影響が及ぶリスクがゼロではありません。


さらに踏み込んで言えば、荷主側がCSR調達に力を入れており、サプライヤー情報の透明性が高い企業ほど、通関書類の整合性も高い傾向があります。これは実務経験を持つ通関業者であれば肌感覚で理解できるはずです。インボイスや原産地証明書の記載内容が整合していない、製造者情報があいまいといった案件は、CSR調達への意識が低いサプライヤーが関与している場合に多く見られます。


つまり、CSR調達の水準はコンプライアンスのバロメーターとも言えます。通関業者として取引先荷主の調達姿勢を把握しておくことは、申告精度のリスク管理にも直結します。


具体的なアクションとして、認定通関業者を目指す・維持している方は、自社が取り扱う荷主のCSR調達方針をウェブサイトで確認する習慣をつけることをおすすめします。CSR調達ガイドラインを公開している荷主企業かどうか、1件確認してみてください。


税関「国際運送事業者のためのAEO制度実務手引書」:AEO制度の概要と認定要件が記載されており、コンプライアンス体制の整備基準を確認するのに役立ちます。


CSR調達の実施ステップ:通関業者も知っておくべき5つのプロセス

CSR調達は「始めます」と宣言するだけでは機能しません。段階的なプロセスを踏んで組織全体に定着させることが必要です。ここでは、企業が実際にCSR調達を実施する際の5ステップを、通関業者の目線でも参考になる形で解説します。


ステップ1:CSR調達の目標と自社基準を設定する


まず、「自社がどのような調達を目指すのか」という方針と、サプライヤーに求める具体的な基準を決めます。基準の内容は業種・規模によって異なりますが、人権・労働・環境・コンプライアンス・情報セキュリティ・品質・社会貢献が主要な柱となります。目標設定のフレームワークとしては、「SMART原則」(Specific・Measurable・Achievable・Relevant・Time-bound)が有効です。たとえば「2026年度末までに全取引先の80%にSAQを提出してもらい、スコアを集計する」のように、測定可能な目標にすることが原則です。


ステップ2:CSR調達方針を社内外へ伝達する


策定した方針を社内の関係部門(調達・購買・品質保証・法務・経営企画など)と、社外のサプライヤーに共有します。ウェブサイトへの掲載や説明会の実施が一般的です。客観的に見てCSR調達に取り組む理由が伝わる表現を用いることが重要です。


ステップ3:サプライヤーの評価(SAQの実施)


SAQを用いてサプライヤーの現状を把握します。この段階では、全サプライヤーに一律に実施するのではなく、リスクの高い地域・品目・取引額の大きい先から優先的に実施するのが現実的です。新規サプライヤーの選定時にはSAQへの同意・提出を条件とするケースも増えています。


ステップ4:評価結果に基づく改善支援と現地監査


SAQの結果でリスクが判明した取引先に対しては、現地ヒアリングや是正支援を実施します。一発でアウトと判断するのではなく、「対話型で改善を進める」姿勢が重要です。第三者機関による現地監査を活用すると、客観性が担保できます。


ステップ5:情報開示とPDCAの継続


取り組み結果をレポートとして社外に開示し、ステークホルダーとの対話を続けます。ガイドラインは定期的に見直し、法規制の変化や社会情勢の変動に合わせてアップデートしていくことが不可欠です。一度で終わりではありません。


通関業者にとってこのプロセスで特に注目したいのがステップ3です。サプライヤーが提出したSAQの内容は、通関書類に記載されるサプライヤー情報と一致しているかを確認する際の比較基準になり得ます。荷主がSAQを整備・運用しているかどうか、日頃からコミュニケーションを取って把握しておくことが、トラブル防止に役立ちます。


国連グローバル・コンパクト ジャパンネットワーク「CSR調達・持続可能な調達」:CSR調達の全体像と入門書・SAQツールへのリンクが整理されており、実務のスタートアップに使いやすいページです。