MSC認証とマクドナルドが示す持続可能な水産物の未来

マクドナルドのフィレオフィッシュに表示されるMSC認証とは何か?関税や輸入コストとの関係、CoC認証の仕組みまで、サプライチェーン全体の視点から深掘りします。あなたの消費行動が貿易・水産業にどう影響するか、知っていますか?

MSC認証とマクドナルドをつなぐ水産サプライチェーンの全貌

MSC認証を取得していても、CoC認証がなければ商品パッケージに「海のエコラベル」を表示して販売することは法的に認められない。


この記事の3つのポイント
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MSC認証には「2段階」ある

漁業認証だけでは不十分で、流通・販売まで管理するCoC認証も必要。日本マクドナルドは2015年から認証魚を使いながら、2019年までパッケージ表示ができなかった。

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関税・輸入コストとの深い関係

MSC認証取得によりサプライチェーンが最適化され、輸送効率の向上やCO2排出量を約38%削減するなど、貿易コスト構造にも影響が出ている。

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消費者の選択が輸入市場を動かす

世界で約54%の消費者が多少高くてもMSC認証水産物を選ぶと回答。この需要が国際貿易における水産物の価格プレミアムやサプライチェーン改革を後押ししている。


MSC認証とは何か:マクドナルドのフィレオフィッシュから見る仕組み

マクドナルドのフィレオフィッシュのパッケージを手に取ったとき、青い魚のマークに気づいたことがある人も多いでしょう。このマークが「MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)海のエコラベル」です。


MSCは1997年に設立された国際的な非営利団体で、科学的根拠に基づく基準を用いて、環境に配慮した天然漁業を認証しています。過剰漁獲の深刻化を受け、水産資源の持続可能な利用を世界規模で推進するのが目的です。つまり、これは環境ラベルです。


ではなぜ、関税や貿易に関心のある方がMSC認証を意識すべきなのでしょうか。それは、MSC認証がグローバルな水産物サプライチェーン全体の品質管理基準を変え、輸入・輸出コスト構造にも影響するからです。


MSC認証には大きく2種類があります。


  • 🎣 MSC漁業認証:水産資源の持続可能性・生態系への影響・漁業の管理システムという3つの原則で、漁業そのものを審査・認証するもの
  • 🔗 MSC CoC(Chain of Custody)認証:水揚げ後の加工・流通・販売のすべての過程で、認証水産物と非認証水産物が混ざらないことを管理・証明するもの


マクドナルドのフィレオフィッシュに使われるスケソウダラは、米国アラスカのベーリング海とロシア海域で漁獲されます。日本マクドナルドは2015年7月から、MSC漁業認証を取得した漁業で獲られたスケソウダラの調達を開始しました。これが基本です。


しかし実は、漁業認証魚を使っていても2019年10月にCoC認証を取得するまでは、パッケージにMSCの「海のエコラベル」を表示して販売することができませんでした。MSC認証はCoC認証がセットで初めて意味をなすということですね。


この2段階の仕組みが、世界的な水産物サプライチェーンにおけるトレーサビリティ(追跡可能性)を支えています。


日本マクドナルド公式:責任ある調達(MSC認証についての公式説明)


MSC認証取得がマクドナルドの輸入コストとサプライチェーンに与えた影響

関税や貿易コストに注目するなら、MSC認証取得が引き起こした製造工程の変革は見逃せません。意外ですね。


日本マクドナルドは2019年のCoC認証取得と同時に、フィレオフィッシュの製造工程を25年ぶりに大幅にリニューアルしました。それまでは、アラスカのベーリング海で獲れたスケソウダラを一旦タイの加工工場で解凍して加工し、再度冷凍してから日本に輸送するという、2回冷凍するプロセスを採用していました。


今後は工程を根本から見直し、アラスカの加工工場で素早く骨・皮を除去して冷凍した後、タイの工場では冷凍のまま加工する流れに変更しました。これにより生まれた主な変化は次の通りです。


  • 💧 水消費量を約50%削減
  • 🌱 CO2排出量を約38%削減
  • ♻️ 魚の廃棄物を約5%削減(内臓等を他製品へリサイクル)
  • 🚢 アラスカでの一次加工により輸送効率が向上


この変更は、環境負荷の低減だけでなく、輸送コストや冷凍電力コストを直接削減するものです。これは使えそうです。


水産物の輸入コストは関税だけでなく、冷凍・輸送に係るエネルギーコストや加工地の違いによる関税構造(加工度合いによって税率が変わることがある)にも影響されます。アラスカで一次加工した状態での輸出に切り替えることで、タイ経由での複雑な加工ルートを経るよりも、サプライチェーン全体の効率が大幅に高まりました。


貿易と関税の視点では、水産物は「生鮮・冷蔵」「冷凍」「加工品」という状態ごとにHS(国際統一商品分類)コードが異なり、それぞれに適用される関税率も変わります。原材料として輸入するのか、製品として輸入するのかで税率が変わるため、サプライチェーン設計は貿易コストに直結します。MSC認証の取得と製造工程の見直しがこのコスト最適化と連動しているのは、注目すべき点です。


Sustainable Japan:日本マクドナルド MSC CoC認証取得の詳細解説(2019年)


MSC CoC認証の仕組みと関税・貿易への実務的な意義

MSC CoC認証は一言でいうと、水産物の「流通証明制度」です。これが原則です。


サプライチェーンの各段階で事業者がCoC認証を取得することにより、消費者が手にする水産物が「本当に認証漁業で獲られたものか」を追跡・証明できます。この認証は、加工業者・卸売業者・小売店・レストランなど、サプライチェーンのすべての関与事業者に取得が求められます。


具体的な流れはこうです。


  1. MSC漁業認証を取得した漁業者が水産物を水揚げする
  2. CoC認証を取得した一次加工業者が魚を加工する
  3. CoC認証を取得した輸送・冷凍業者を経由する
  4. CoC認証を取得したメーカー・飲食企業(例:マクドナルド)が最終加工・販売する


この連鎖が1つでも途切れると、MSC「海のエコラベル」を商品に表示できません。日本国内でMSC CoC認証を取得している事業者数は2023年時点で375件に上り、2024年度の販売量は約2万トン(消費者向け製品)に達しています。東京ドームのグラウンド面積約1.3万㎡に換算すると、約1,500トン分の魚が東京ドームを満杯にするイメージです。それが2万トンということですから、いかに大規模な流通網かがわかります。


関税や貿易の観点からは、CoC認証はトレーサビリティを担保するための強力なインフラとなります。EU向け輸出では、持続可能な漁業証明が輸出時の書類審査を通過しやすくなる場合があり、特定のFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)においては、環境基準への適合が非関税障壁をクリアする手段になることもあります。つまり、MSC認証はコスト削減だけでなく、市場アクセス上の意義も持ちます。


MSC公式:MSC認証の概要(漁業認証・CoC認証の違いを詳細に解説)


マクドナルドのMSC認証がヨーロッパ・米国・日本で異なる展開をみせた経緯

MSC認証とマクドナルドの関係を語るうえで、世界各国での展開を時系列で整理することが重要です。各国で取得時期が大きく異なります。これが条件です。


地域 MSC認証開始時期 内容
ヨーロッパ 2011年 39カ国・約7,000店舗でMSC CoC認証取得。全欧州で初めてMSC認証魚を提供するファストフードチェーンに
米国 2013年 全米14,000以上の店舗でMSC認証水産物を提供。全米外食チェーンとして初
日本 2015年(調達開始)/2019年(CoC認証・ラベル表示) 調達開始から4年後にCoC認証取得。2019年にパッケージ表示を開始
中国 2023年 毎年約3,500トンのMSC認証白身魚を販売


ヨーロッパでは年間1億食以上のフィレオフィッシュが販売されており、これがMSC認証漁業から供給されています。米国では年間1,300万人以上が毎日MSC認証魚を食べている計算になります。


日本でCoC認証の取得が欧米より遅れた背景には、流通経路の複雑さがあります。日本の食品流通は多段階の問屋構造を持ち、サプライチェーン上のすべての事業者がCoC認証を取得しなければならない仕組み上、調整に時間がかかりました。厳しいところですね。


また、MSC認証が日本全体で普及しにくい構造的な理由として、漁業認証の審査にかかるコストの高さがあります。審査費用は漁業の規模・複雑さによって15,000米ドルから120,000米ドル(日本円で約230万〜1,800万円)の幅があり、中小規模の漁業者には大きな負担です。加えて、審査に必要な漁獲データが水産庁・漁協・漁業者などに分散しており、まとめて提出することが難しいという日本独自の課題もあります。


この「コスト障壁」は、関税に関心を持つ方にとっても重要な示唆を与えます。国際認証の取得コストはサプライチェーン全体に転嫁され、最終的に輸入水産物の価格形成に影響するからです。


MSC公式:ヨーロッパ39カ国でのマクドナルドMSC認証展開プレスリリース


MSC認証と水産物貿易:関税に関心がある人が知っておくべき独自視点

関税や輸入貿易に関心がある方にとって、MSC認証は単なる「環境マーク」以上の意味があります。これは意外かもしれません。


まず注目すべきは「価格プレミアム」の存在です。環境省の調査によると、MSC認証は水産物取引において平均12.7%の価格プレミアムを生み出すとされています。これは、輸入原価が同じでも、MSC認証の有無によって売値が変わることを意味します。輸入業者や流通業者にとっては、認証コストを負担しても十分な利益回収が見込めるという計算が成り立ちます。


次に、貿易規制との関連です。EUはすでに「EU漁業規制(IUU漁業対策)」を強化しており、非合法・無報告・無規制(IUU)漁業で獲られた水産物はEU市場への輸入が禁止されています。MSC認証はこのIUU漁業ではないことを示す事実上の証明として機能することがあり、EU向け輸出を考える水産輸出企業にとっては市場アクセスの要件にもなり得ます。貿易コストと認証コストのバランスを見極めることが条件です。


さらに、消費者動向の変化は輸入量の予測にも影響します。MSCが2024年に実施した世界23カ国の消費者調査では、水産物を購入する消費者の54%が「多少値段が高くてもMSC認証水産物を購入する意志がある」と回答しました。日本では認証水産物への評価がまだ欧米より低い傾向があるものの、2023年度の国内MSC認証水産物の販売量は約2万トンに達しており、成長傾向にあります。


| 指標 | 数値 |
|------|------|
| 世界のMSC認証漁業数(2022年時点) | 約500件以上 |
| MSC認証がもたらす価格プレミアム | 平均12.7% |
| MSC認証水産物を割高でも買う消費者(世界平均) | 54% |
| 日本国内CoC認証取得事業者数(2023年) | 375件 |
| 日本国内MSC認証水産物販売量(2023年度) | 約2万トン |
| マクドナルドの欧州年間フィレオフィッシュ販売数 | 約1億食 |


関税制度の観点でいうと、日本の水産物輸入関税は品目・形態ごとに異なります。一般的に、加工度が高い製品ほど関税率が高くなる傾向がある一方、EPAを通じた関税率の引き下げが進んでいます。MSC認証の取得によってサプライチェーン上の加工地や加工形態が変わると、適用される関税率や原産地証明の要件が変わる可能性もあります。MSC認証対応のサプライチェーン最適化が関税負担の軽減につながるケースもあるということですね。


この分野の情報を継続的に確認したい場合は、農林水産省のJETROが公表している水産物輸入関税・FTA/EPA情報を定期的にチェックするのが実用的です。


ジェトロ:EPA/FTA・水産物関連の貿易情報(農林水産物・食品の最新情報を掲載)


MSC公式:米国マクドナルド全14,000店舗でのMSC認証水産物提供プレスリリース