あなたが日常的に扱う通関書類でも、犯罪収益の疑いがある取引を見逃すと、企業が業務改善命令を受ける可能性があります。
犯罪収益移転防止法は、犯罪によって得られた収益が組織犯罪の強化や新たな犯罪活動に使用されることを防ぐための法律です。正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」で、2007年に成立しました。
参考)e-Gov 法令検索
この法律の主な目的は、マネー・ローンダリング(資金洗浄)とテロ資金供与を防止することにあります。犯罪によって得た収益の出所や真の所有者を分からなくして、捜査機関による発見や検挙を逃れようとする行為を取り締まります。
つまり犯罪収益の移転を防ぐことですね。
参考)犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)/…
国際的には、FATF(金融活動作業部会)が定める国際基準に基づいて各国が法整備を進めており、日本もこの枠組みの中で対策を強化しています。通関業務においても、この法律の理念を理解し、疑わしい取引を見逃さない体制が求められています。
犯罪収益移転防止法では、金融機関や宝石商などを「特定事業者」として指定し、取引時確認や疑わしい取引の届出義務を課しています。通関業者自体は直接的な特定事業者には含まれませんが、税関当局との連携において重要な役割を担います。
参考)犯罪収益移転防止法(犯収法)とは?2025年2月発出パブコメ…
特定事業者に課される主な義務は以下の通りです。
これらの義務に違反した場合、命令違反として2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
金融機関だけの話ではありません。
参考)e-Gov 法令検索
通関業務では、輸出入者の申告内容や取引パターンに不審な点がないかを確認することが重要です。例えば、短期間に多数の高額商品を繰り返し輸出入する場合や、申告内容に矛盾がある場合などは注意が必要です。
参考)https://worldcustomsjournal.scholasticahq.com/article/115488.pdf
疑わしい取引とは、犯罪による収益である疑いがある財産に関する取引のことです。通関業務において注意すべき疑わしい取引のパターンには、いくつかの特徴があります。
参考)犯罪収益移転防止法|疑わしい取引の参考事例(金融業界・不動産…
取引の特異性に着目した事例として、同一人物が短期間のうちに多数の不動産や高額商品を売買する場合が挙げられます。通関業務では、同じ輸出入者が頻繁に申告内容を変更したり、商品の種類や数量が極端に変動したりする場合が該当します。
厳しいところですね。
また、過去の取引時に本人確認を偽っていた疑いがある顧客との取引や、イラン・北朝鮮に居住または所在する者との取引も、疑わしい取引として届出が必要です。国際的な制裁対象国との取引は特に注意が必要です。
参考)https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/pdf/leaf20161001.pdf
具体的な確認方法としては、継続取引の場合は確認記録・取引記録の精査を行い、リスクの高い取引については必要な調査と統括管理者の承認を得ることが求められます。
これが原則です。
参考)https://www.soumu.go.jp/main_content/000478067.pdf
通関業務では、申告内容の一貫性や商品価格の妥当性、取引相手の信頼性などを総合的に判断する必要があります。AIや機械学習を活用したリスク評価システムの導入も進んでおり、大量のデータから異常なパターンを検出する技術が活用されています。
参考)https://ojs.bonviewpress.com/index.php/jdsis/article/download/1078/510
AML(Anti-Money Laundering:マネー・ローンダリング対策)とCFT(Countering the Financing of Terrorism:テロ資金供与対策)は、国際的な金融システムの健全性を保つための重要な取り組みです。通関業務においても、これらの対策は不可欠になっています。
FATFは2021年に日本に対する第4次相互審査を実施し、日本は「重点フォローアップ国」の評価を受けました。2028年には第5次対日相互審査が予定されており、体制作りから有効性検証へと重点がシフトしています。
つまり実効性が問われるということですね。
実務における対応としては、まず顧客情報の適切な管理が基本です。金融機関では、顧客の本人確認や送金目的の確認を怠ったために、金融庁から事情聴取を受けた事例があります。通関業務でも同様に、輸出入者の身元確認や取引目的の把握が重要です。
参考)AML/CFT/CPF in Japan : Ministr…
リスクベースアプローチの採用も重要な要素です。すべての取引を同じレベルで監視するのではなく、リスクの高い取引に重点的にリソースを配分します。具体的には、取引金額、取引相手国、商品の種類などに基づいてリスクを評価します。
参考)https://www.jenrs.com/wp-content/uploads/Contents/V3_N1/V3N1.pdf
税関当局との連携強化も進んでいます。エンドツーエンドの通関管理システムやブロックチェーン技術を活用した非停止型通関システムなど、新しい技術の導入により、貨物の追跡可能性と透明性が向上しています。
これは使えそうです。
参考)https://www.shs-conferences.org/articles/shsconf/pdf/2021/29/shsconf_rudnltmrp2021_03008.pdf
実際の違反事例を見ると、AML/CFT対応の重要性がより明確になります。ある国内地方銀行では、会社の社長が外国人名義を含む複数の口座に数百万円単位で約80回送金していたにも関わらず、送金目的などの確認を怠っていました。
その結果、送金先の口座の大半が「犯罪に使われた疑いがある」と認定され、ほぼ全額が回収不能となりました。金融庁からも事情聴取を受けることとなり、企業の信用に大きな傷がつきました。
痛いですね。
通関業務においても同様のリスクが存在します。例えば、申告価格が市場価格と大きく乖離している場合や、同じ商品を短期間に繰り返し輸出入している場合などは、税関職員による詳細な調査の対象となります。
参考)https://www.customs.go.jp/kaisei/kanzeihou_2.pdf
リスク管理のポイントとしては、以下の体制整備が効果的です。
特に重要なのは、「面識がない顧客」との取引において、本人確認措置を適切に実施することです。面識がある場合は取引時確認が不要となる場合もありますが、疑いがある場合は必ず確認が必要です。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001147570.pdf
また、ハイリスク取引に該当する場合は、通常の確認に加えて必要な調査を実施し、統括管理者の承認を得る必要があります。この手順を省略すると、後で重大な問題に発展する可能性があります。
犯罪収益移転防止の取り組みは、国際的な協調が不可欠です。日本は米国との間で「重大な犯罪を防止し、及びこれと戦う上での協力の強化に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(PCSC協定)を締結しており、2020年1月に発効しました。
参考)Act on Punishment of Organized…
この協定により、日米間で重大な犯罪に関与している疑いがある場合、入国時に指紋情報識別システムにより情報が自動照会されます。重大な犯罪には、テロリズム、マネー・ローンダリング、人身取引、麻薬取引、贈収賄などが含まれます。
参考)アメリカビザ|前科・犯罪歴|重大な犯罪を防止し、及びこれと戦…
国際的な情報共有も進んでいます。税関執行ネットワーク(CEN)データベースは、世界中の税関当局による押収情報を集約した唯一の中央データベースとして機能しています。ただし、このプログラムの効果に関する信頼できるデータはまだ不足しているという指摘もあります。
参考)https://worldcustomsjournal.scholasticahq.com/article/115483.pdf
今後の展望として、2028年のFATF第5次対日相互審査に向けて、日本は有効性の向上に焦点を当てた取り組みを強化する必要があります。単に法制度を整備するだけでなく、実際に犯罪収益の移転を防ぐ効果を上げているかが評価されます。
意外ですね。
通関業務においても、デジタル技術の活用が進むでしょう。ブロックチェーン技術による貨物追跡システムや、AI・機械学習によるリスク評価システムなど、新しい技術を活用した効率的かつ効果的な監視体制の構築が期待されています。
参考)https://www.mdpi.com/1424-8220/23/6/2914/pdf?version=1678248958
また、電子決済手段の普及に伴い、P2P(ピアツーピア)送金などの新しい送金手段に対する規制も強化されています。通関業務でも、電子商取引の増加に伴い、これらの新しい決済手段を利用した取引の監視が重要になっています。
参考)https://pti.org.ua/index.php/ndipzir/article/view/1225
犯罪収益移転防止に関する年次報告書では、最新の統計データや疑わしい取引の届出状況が詳しく紹介されています
金融庁の犯罪収益移転防止法に関する留意事項では、取引時確認の具体的な方法や注意点が解説されています