知らずに輸入した生物が特定外来生物なら、あなたに300万円の罰金が科されます。
特定外来生物とは、もともと日本に生息していなかった外来種のうち、生態系・農林水産業・人の生命や身体に被害を与えるおそれがあるとして、国が法律に基づき指定した生物のことです。根拠法は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」、通称「外来生物法」(2005年施行)です。
この法律によって、特定外来生物に指定された生物は、飼育・栽培・保管・運搬・輸入・販売・譲渡・野外放出のすべてが原則として禁止されます。生きた個体だけではなく、卵・種子・器官も規制対象に含まれます。これが原則です。
2024年時点で、指定されている特定外来生物の総数は162種類に上ります。分類は哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類・昆虫類・甲殻類・クモ・サソリ類・軟体動物・植物と非常に幅広く、私たちの日常生活の身近なところにも潜んでいます。
関税や輸入業務に携わる方にとって、この162種のリストは「業務上のリスク管理」として欠かせない知識です。知らないでは済まないところが重要です。
特定外来生物に加えて、「未判定外来生物」(52種類)と「種類名証明書の添付が必要な生物」という区分も設けられています。
| 区分 | 概要 |
|------|------|
| 特定外来生物 | 被害が確認・懸念される162種。輸入原則禁止 |
| 未判定外来生物 | 被害が判定中の52種。輸入前に環境大臣への届出が必要 |
| 種類名証明書の添付が必要な生物 | 特定・未判定と形態が似ているため、輸出国政府発行の証明書を税関に提出する必要がある |
つまり「特定外来生物以外なら何でも自由に輸入できる」というわけではない点に注意が必要です。
参考:外来生物法に基づく輸入規制の概要(税関 Japan Customs 公式)
https://www.customs.go.jp/mizugiwa/gairai/gairai.htm
現在指定されている162種類の特定外来生物は、以下のカテゴリに分類されます。分類群ごとの種数と代表的な種名を確認しておきましょう。
| 分類群 | 主な指定種(代表例) |
|---|---|
| 哺乳類(25種) | アライグマ、タイワンリス(クリハラリス)、フイリマングース、アメリカミンク、キョン、ヌートリア |
| 鳥類(7種) | ガビチョウ、ソウシチョウ、カオグロガビチョウ、カオジロガビチョウ |
| 爬虫類(22種) | カミツキガメ、グリーンアノール、タイワンスジオ、タイワンハブ、アカミミガメ(条件付) |
| 両生類(18種) | オオヒキガエル、ウシガエル、シロアゴガエル |
| 魚類(26種) | オオクチバス(ブラックバス)、コクチバス、ブルーギル、ガー科全種、チャネルキャットフィッシュ |
| 昆虫類(26種) | ヒアリ、アカカミアリ、ツマアカスズメバチ、セイヨウオオマルハナバチ |
| クモ・サソリ類(6種) | セアカゴケグモ、クロゴケグモ、キョクトウサソリ科全種 |
| 甲殻類(5種) | ウチダザリガニ、アメリカザリガニ(条件付) |
| 軟体動物等(3種) | クワッガガイ、ヤマヒタチオビ |
| 植物(24種) | オオキンケイギク、アレチウリ、オオハンゴンソウ、ミズヒマワリ、オオフサモ |
🐟 魚類だけでも26種が指定されているのは意外ですね。バス釣りファンに馴染み深いオオクチバスやブルーギルも含まれます。
特に「ガー科の全種」という指定は広範です。ガーは熱帯魚として一部の愛好家が飼育していた魚ですが、2022年以降は飼育・販売ともに原則禁止となりました。観賞魚を扱う輸入業者にとっては直撃するルール変更でした。これが大きな転換点です。
また植物の指定も見落としがちなポイントです。オオキンケイギクは黄色いコスモスに似た美しい花で、景観植物として一般家庭の庭に植えられていた歴史があります。しかし2006年から特定外来生物に指定され、現在は栽培・運搬・販売・野外への放出が全て禁止されています。
参考:特定外来生物等一覧(環境省 公式ページ)
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html
関税・輸入業務に関わる方が特に注意すべきなのが、特定外来生物の輸入規制と税関手続きの関係です。輸入時のフローは生物の区分ごとに異なります。
【特定外来生物を輸入する場合】
原則として輸入は禁止されています。例外的に輸入できるのは、事前に環境省から「飼養等の許可」を取得した研究機関や動物園などに限られます。通関時には①飼養等許可証のコピー、②輸出国の政府機関が発行した「種類名証明書」の2点を税関に提出しなければなりません。
【未判定外来生物を輸入する場合】
輸入前に環境大臣・農林水産大臣へ届出を行い、被害の有無について判定を受けることが義務付けられています。判定期間中は輸入できません。
【種類名証明書の添付が必要な生物を輸入する場合】
この区分の生物は特定外来生物と外見が似ていることが多く、輸出国政府機関が発行する「種類名証明書(英語または日本語、学名と数量の記載が必要)」を税関に提出することが条件となります。証明書がなければ通関できません。これが条件です。
外来生物の輸入手続きができる税関官署は限定されており、以下の4空港のみです。
- 成田国際空港(東京税関 成田税関支署・成田航空貨物出張所)
- 中部国際空港(名古屋税関 中部空港税関支署)
- 関西国際空港(大阪税関 関西空港税関支署)
- 福岡空港(門司税関 福岡空港税関支署)
🔍 地方の港や空港からは外来生物の輸入手続きができません。輸入ルートの確認は必須です。
なお、別名や新しい学名で輸入しようとするケースも要注意です。環境省の公式ページには「規制対象となる生物を別名または新しい種名で輸入しようとする方へ」という専用案内があります。指定時の学名が古い場合、現行の学名と照合できず、気づかずに違反輸入してしまうリスクがあります。輸入前の学名確認が原則です。
参考:輸入に関する手続き(環境省 外来生物法 公式)
https://www.env.go.jp/nature/intro/1law/shiyou/yunyu.html
特定外来生物に関連する違反の罰則は、一般的なイメージよりも格段に重いです。厳しいところですね。違反内容ごとに罰則を整理します。
| 違反行為 | 個人への罰則 | 法人への罰則 |
|---|---|---|
| 無許可輸入(特定外来生物) | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 | 1億円以下の罰金 |
| 無許可輸入(未判定外来生物) | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 5千万円以下の罰金 |
| 無許可での販売・頒布 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 | 1億円以下の罰金 |
| 販売・頒布目的での無許可飼養 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 | 1億円以下の罰金 |
| ペット目的での無許可飼養 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 5千万円以下の罰金 |
| 野外への無許可放出・植栽・播種 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 | 1億円以下の罰金 |
⚠️ 法人の場合、輸入・野外放出・無許可販売のいずれも最大1億円の罰金です。
「知らなかった」という言い訳は通用しません。特に輸入事業者にとって深刻なのは、取り扱う商品の中に特定外来生物が含まれていないかを事前にチェックする義務が実質的に課されている点です。コンテナ内に混入していた、荷物に紛れ込んでいた、というケースでも摘発対象になり得ます。痛いですね。
ヒアリ(特定外来生物)は2017年に兵庫県尼崎市の港で初確認されて以来、中国からの輸入コンテナに混入する形で全国各地の港・空港で繰り返し発見されています。ヒアリに刺されると激しいアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があり、アメリカでは年間約6,000億円規模の経済損失が発生しているとも試算されています。
輸入貨物の管理・検査体制を強化することは、法的リスクを回避するうえで不可欠な対策です。具体的には、輸出国現地でのコンテナ密閉状況の確認、検疫情報の収集、税関への事前相談を徹底することがリスク低減につながります。確認を習慣化することが重要です。
参考:外来生物法 罰則について(環境省 公式)
https://www.env.go.jp/nature/intro/1law/bassoku.html
特定外来生物の中には、規制の一部が緩和されている「条件付特定外来生物」というカテゴリが存在します。現在この区分に指定されているのは、アカミミガメ(ミシシッピアカミミガメ、いわゆるミドリガメ)とアメリカザリガニの2種のみです。2023年6月1日から指定が始まりました。
この2種は日本国内に広く普及しすぎており、いきなり通常の特定外来生物と同じルールを適用すると、流通業者や一般家庭への影響が大きすぎるという事情から、条件付きの緩和措置が取られています。
具体的な規制の内容は以下の通りです。
🐢 アカミミガメ・アメリカザリガニに関するルール(条件付)
- ✅ 一般家庭でのペット飼育 → 許可不要で継続OK
- ✅ 捕獲・持ち帰り → 規制なし
- ❌ 野外への放出・逃がす行為 → 禁止(違反)
- ❌ 輸入 → 禁止
- ❌ 販売・頒布・購入 → 禁止
- ❌ 捕獲個体を販売・頒布目的で移動させる → 許可が必要
ペットとして飼育することは問題ありません。しかし「引っ越しで飼えなくなったから川に放流しよう」という行為は、2023年6月以降は明確に違法となります。野外放出は厳禁です。
輸入・販売に関係する業者の方にとっては、この2種の扱いが2023年以降で大きく変わっている点を再確認しておく必要があります。2023年6月1日以前から業として飼養等を行っていた事業者については、経過措置として2023年11月30日までに許可申請を行う期限が設けられていました。その期限はすでに過ぎているため、現在の取引は改めて許可取得の要否を確認することが不可欠です。これが原則です。
参考:条件付特定外来生物アカミミガメ・アメリカザリガニの規制(環境省 公式)
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/regulation/jokentsuki.html
輸入業務に携わる人が特定外来生物として真っ先に思い浮かべるのは、アライグマやカミツキガメのような大型動物かもしれません。しかし実際の輸入リスクという観点では、植物・昆虫・魚類のほうがはるかに見落とされやすいです。意外ですね。
🌼 植物のリスク:オオキンケイギク・ミズヒマワリなど
オオキンケイギクは黄色いコスモスに似た見た目から、かつては「ガーデニング目的」「花壇の彩りに」と輸入・販売されていた時期があります。現在は2006年から特定外来生物に指定されており、栽培・運搬・販売・野外放出はすべて違反です。個人が知らずに庭で育てていた場合も規制の対象となります。観賞用の植物や種子を輸入する際は、対象生物の学名と特定外来生物リストとの照合が不可欠です。
🐟 魚類のリスク:ガー科全種・チャネルキャットフィッシュ
2022年にガー科全種が特定外来生物に指定されました。それまで観賞魚として流通していたアリゲーターガーなどの個体は、飼育継続の届出を行わなければなりませんでした。これは観賞魚卸業者・ペットショップ関係の輸入業者にとって直接的な打撃でした。
また、釣り具・釣り用エサとしての生き餌に混入するケースも報告されています。コクチバスやブルーギルなどのルアー釣り対象魚も特定外来生物です。
🐜 昆虫のリスク:ヒアリ・ツマアカスズメバチ
ヒアリは輸入コンテナに混入して日本に侵入するケースが全国で確認されています。2017年以降、成田・大阪・名古屋・福岡・神戸・横浜などの主要港で繰り返し発見されています。コンテナを開封する際に刺されると、アナフィラキシーショックで最悪の場合、命に関わります。健康リスクも深刻です。
輸入事業者・港湾関係者向けの実務的なポイントをまとめます。
- 📋 輸入する生物が特定外来生物リストにないか確認する(学名ベースで照合)
- 📋 輸出国政府機関発行の「種類名証明書」が取得できるか確認する
- 📋 コンテナ到着時に不審な生物の混入がないか開封前に点検する
- 📋 疑わしい生物を発見した際は税関や環境省地方事務所に速やかに連絡する
一つ一つの確認を怠らないことが大切ですね。輸入業務上のリスクは、書類チェックだけでなく、現場での物理的な点検にまで及ぶことを覚えておいてください。
参考:東京税関「外来生物法(郵便物の取り扱いについて)」
https://www.customs.go.jp/tokyo/yuubin/gairaiseibutuhou.htm