実は、適法な証明書を持つ木材でも、forest restoration fundの未申告で通関が差し止められるケースが年間数十件に上ります。
木材の国際貿易を巡る規制は、この20年で大きく変わりました。timber regulationとは、違法伐採された木材およびその加工品が国際市場に流通することを防ぐために各国・地域が整備した法的枠組みの総称です。
代表的なものとして、EU木材規則(EUTR/Regulation EU 995/2010)、米国のレイシー法(Lacey Act)、そして日本のクリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律、2017年施行)が挙げられます。これらはそれぞれ独立した法体系ですが、「合法性の証明」という点で共通の概念を持っています。
重要なのは対象範囲の広さです。丸太・製材だけでなく、合板、チップ、パルプ、さらには木製家具や紙製品まで含まれるケースがあります。つまり、木材そのものを輸入していなくても対象になり得るということです。
EUTRの場合、EU域内に木材製品を初めて流通させる「オペレーター」は、デューデリジェンス(DD)システムの構築が義務付けられています。このDDシステムでは、①情報収集(原産国、樹種、数量、サプライヤー情報など)、②リスク評価、③リスク軽減措置の3段階が求められます。通関業者の立場からは、依頼主(輸入者)がこのDDシステムを整備しているかどうかを事前に確認することが実務上のポイントになります。
日本のクリーンウッド法では、登録実施機関による「合法伐採木材等であることの確認」が事業者努力義務とされており、EUTRのような強制的なDDシステムとは性格が異なります。ただし、2024年以降の制度見直し議論では義務化の方向性が示されており、通関業従事者は最新動向を追い続ける必要があります。
実務上、申告書に記載すべき情報としては、原産国(採取国)、HSコード、樹種の学名、サプライチェーン上の証明書番号(FSC・PEFCなど)が求められるケースが増えています。これらが不足していると、税関での審査が長期化する原因になります。
林野庁 クリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)に関する情報ページ
※上記リンクは、クリーンウッド法の制度概要・登録実施機関一覧・事業者向けの確認方法が掲載されており、通関申告時の根拠確認に活用できます。
forest restoration fundとは、違法伐採や過剰採取によって失われた森林を回復させるために各国政府や国際機関が設ける専用基金です。意外に思われるかもしれませんが、この基金への拠出義務は、木材の輸入者だけでなく、特定の条件下で通関代理人にも連帯責任が及ぶことがあります。
代表的な事例として、EUの新森林規則(EUDR/Regulation EU 2023/1115)があります。2023年に成立したこの規則は、EUTRを発展させたもので、牛肉・大豆・パーム油・木材・コーヒー・ココア・ゴムの7品目を対象としています。EUDRでは、製品が「森林破壊フリー」であることを示すジオロケーションデータの提出が義務付けられており、これを満たさない輸入者には製品価値の最大4%相当の課徴金が科せられます。
これが条件です。
forest restoration fundへの拠出は、このような課徴金制度とは別に、VCM(自発的炭素市場)や二国間協定に基づく義務として発生することもあります。たとえば、日本がインドネシアと締結しているRED+(森林減少・劣化からの排出削減)関連の2国間クレジット制度(JCM)では、木材を含む林産品の貿易において、一定量のクレジット購入または基金拠出が課される条件が協議されています。
通関業者としては、インボイスや信用状に「forest restoration contribution」「reforestation levy」「forest fund charge」といった文言が記載されている場合、それが拠出金なのか税なのかを区別することが重要です。これを誤ると、関税評価額の計算が狂い、関税の過少申告につながります。過少申告加算税(修正申告の場合、過少申告税額の10%)が発生するリスクがあります。痛いですね。
また、輸出国側がforest restoration fundを国内法で義務化している場合(例:マレーシアのSustainable Forest Management Fund、インドネシアのDana Reboisasi制度)、輸出価格にすでに含まれているケースと別建て請求のケースがあります。これを見落とすと関税評価額の二重計上または計上漏れにつながります。
証明書類の確認は、timber regulation対応の核心です。
主要な証明体系として、民間認証のFSC(Forest Stewardship Council)とPEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification)が広く使われています。FSC認証はCoC(Chain of Custody)証明書が発行され、サプライチェーンの各段階で追跡可能であることを示します。PEFCも同様の仕組みを持ち、欧州・オセアニアの林業会社に多く採用されています。
ただし、FSC・PEFCの認証があるだけで通関がスムーズになるわけではありません。
問題は、HSコードと認証証明書の対応関係です。たとえば、HSコード4407(製材した木材)で輸入する場合、CoCの対象品目と実際の貨物が一致しているかを税関が確認することがあります。証明書の樹種名(学名ベース)と実際の貨物の樹種が不一致だった場合、これだけで輸入差し止めの原因になります。
🪵 主な証明書類と確認ポイント一覧
| 証明書類 | 発行機関 | 通関での確認項目 |
|---|---|---|
| FSC CoC証明書 | FSC認定機関 | 有効期限・対象樹種・事業者コード |
| PEFC CoC証明書 | PEFC認定機関 | 証明書番号・品目区分 |
| CITES許可証 | 各国管理当局 | 対象種・輸出許可番号 |
| Timber Legality Verification (TLV) | 輸出国政府機関 | 原産地情報・採取許可番号 |
| FLEGT VPA License | EUとの二国間協定国 | 発行番号・輸出国名 |
FLEGT(Forest Law Enforcement, Governance and Trade)ライセンスは、EUが特定国と締結したVPA(自発的パートナーシップ協定)に基づくもので、インドネシアが2016年に世界初のFLEGT VPA発行国となりました。このライセンスがある貨物はEUDRのデューデリジェンス義務が簡略化されます。これは使えそうです。
実務では、証明書の「有効期限」と「適用範囲(品目・数量)」を必ずオリジナル書類で確認することが原則です。コピーや電子スキャンの扱いは国・税関によって異なるため、事前照会制度を活用することをお勧めします。
税関 事前教示制度(品目分類・原産地等の事前確認)の案内ページ
※輸入予定品目のHSコードや原産地基準について事前に確認できる制度です。timber regulation関連の証明書の取り扱いについても照会可能です。
現場レベルで最も多い失敗は「依頼主任せ」にすることです。
timber regulationの遵守責任は基本的に輸入者(依頼主)にありますが、通関業者が虚偽申告の幇助とみなされるケースがあります。特に米国のレイシー法では、明知または重大な過失(reckless disregard)があると認められた代理人も処罰対象になり得ます。最大で1万ドル(約150万円)の民事制裁金が代理人に科された事例があります。
ミスを防ぐための実務チェックリストを整理すると、以下のポイントが重要です。
✅ 通関業者のための事前確認リスト
- 原産国(採取国)の確認:加工国ではなく木材が採取された国を特定する
- 樹種の学名確認:商業名(パイン、チークなど)のみでは不十分。学名(例:Tectona grandis)まで確認する
- CITESの要否確認:アフリカンブラックウッド(Dalbergia melanoxylon)など附属書掲載種は輸入許可が必要
- forest restoration fund関連課金の計上確認:インボイス上の費用区分を明確にし、関税評価額に正しく反映させる
- EUDRジオロケーション情報の確認:EU向け再輸出の可能性がある貨物は、採取地点のGPS座標データを入手しておく
- FLEGT VPAライセンスの有無確認:インドネシア・ガーナ・コンゴ共和国など協定国からの輸入は確認必須
🔍 見落としが多い「再輸出ルート」の問題
中国や東南アジアで加工された木材製品は、原材料の原産地情報がサプライチェーンの途中で失われやすい傾向があります。たとえば、ミャンマー産の原木を中国で家具加工し、日本へ輸入するケースでは、「Made in China」表示があってもtimber regulation上の評価は原産国(ミャンマー)を基準とします。ミャンマー産木材は、国際社会から違法伐採リスクが「高」と評価されており、デューデリジェンスの強化対象となっています。
これに対応するためには、輸入者に対してサプライチェーン情報の提供を契約書レベルで義務付けるよう依頼することが有効です。通関委任状の附帯条件として情報提供義務を明記する対応を取る通関業者も増えています。これが実務上の新しい標準になりつつあります。
ここまでリスクと義務の話をしてきましたが、見方を変えると違う景色が見えます。
forest restoration fundへの拠出を積極的に証明・開示することは、輸入者にとっての競争優位になりつつあります。特にESG調達(環境・社会・ガバナンスを重視した調達)が企業の評価基準として定着した現在、調達担当者は「forest restoration fundへの拠出証明書があるサプライヤー」を優先する傾向が出ています。これはいいことですね。
通関業者の視点から見ると、この流れは新しいサービス提供の機会です。具体的には次の3点が考えられます。
まず、拠出証明書のファイリング代行サービスです。インドネシアDana Reboisasi制度やマレーシアSustainable Forest Management Fundの拠出証明書を輸入者に代わって整理・保管し、税関照会や取引先への開示に即応できる体制を整えることは、通関業者の付加価値業務として成立します。
次に、EUDRジオロケーションデータの管理支援です。2024年12月に延期適用が開始されたEUDRでは、ジオロケーションデータをEUのSCRI(Single Window)システムに登録する必要があります。このデータ登録を代行・支援することで、EU向け輸出を行う日本の木材加工業者から新規受注につながる可能性があります。
最後に、timber legality compliance レポートの作成支援です。大手メーカーや小売業者がサプライヤーに対してtimber legality compliance reportを求めるケースが増えています。通関データをベースにしてこのレポートのドラフト作成を支援することは、通関業者の専門性を活かした高単価サービスになり得ます。
forest restoration fundへの対応を「コスト」と見るのか「差別化要因」と見るのかで、業務の方向性は大きく変わります。
JETRO EU貿易・投資規制情報ページ(EUDRを含む最新規制動向)
※EUDRの適用スケジュール、対象品目の詳細、ジオロケーション要件など、EU向け輸出・輸入に関わる最新規制情報が整理されています。通関実務の参考資料として活用できます。
※合法木材の定義、確認方法、証明書の種類について官公庁が整理した資料です。クリーンウッド法に基づく実務対応の根拠として参照できます。