あなたが相殺関税の適用貨物を見逃すと会社に数千万円の損害が出ます。
相殺関税とは、輸出国の補助金を受けた貨物が輸入された際に、輸入国が自国産業を保護するために課す割増関税です。この制度は世界貿易機関(WTO)の協定でも一定の規律の下に認められており、補助金額の範囲内で賦課されます。日本では関税定率法第7条で規定されています。
参考)https://www.customs.go.jp/tokusyu/sousai_gai.htm
相殺関税の英語表記はCountervailing dutiesで、頭文字をとってCVDsと呼ばれることもあります。補助金相殺関税という表記も使われ、輸出補助金を相殺する関税であることを明示しています。
参考)相殺関税 - Wikipedia
通関業務従事者にとって重要なのは、相殺関税が課された貨物の取り扱いです。相殺関税の調査は通関手続きを妨げるものであってはならないと規定されていますが、調査期間中は追加の証拠提出や証言が求められる場合があります。調査開始から特別な場合を除いて1年以内、最長でも18ヶ月以内に完結させなければなりません。
参考)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/it/page25_000424.html
相殺関税の対象となる補助金の定義は、思っているよりもはるかに広範囲です。輸出国政府が直接交付する補助金だけでなく、間接的な補助金も含まれます。
参考)相殺関税(ソウサイカンゼイ)とは? 意味や使い方 - コトバ…
補助金の具体例には以下のようなものがあります。
つまり補助金が原則です。
WTO協定附属書の補助金・相殺関税協定(SCM協定)では、輸出補助金および国産品使用優先(ローカルコンテント)補助金を禁止補助金として規定しています。これらの禁止補助金に該当する場合、相殺関税措置の対象となります。
参考)RIETI - 世界金融危機下の国家援助とWTO補助金規律
通関業務従事者が注意すべきは、補助金の範囲が製造段階だけでなく、生産や輸出の各段階で交付されるものすべてを含むことです。例えば、韓国のハイニックス社に対する米国の調査では、韓国政府だけでなく韓国の金融機関による支援も補助金として調査対象になりました。税制優遇や低利融資も見逃せません。
参考)https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F11249956
調査対象となる期間は原則として1年間で、この期間に補助金の交付を受けた貨物の輸入の事実が調査されます。調査開始から3ヶ月後には証拠の提出期限が設定され、6ヶ月後には現地調査が行われる場合があります。これらのスケジュールは通関業務のタイムラインに直接影響を与えるため、事前に把握しておく必要があります。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/trade-remedy/revision/data/20170401cvd_guideline.pdf
相殺関税を発動するには、補助金の存在だけでは不十分です。輸入国の国内産業に実質的な損害があることが必須です。
参考)輸入ビジネスをやるなら知っておきたい関税の仕組み② &laq…
相殺関税の発動要件は3つあります。
この3つが揃って初めて相殺関税が課されます。
実質的損害の認定では、国内産業への打撃の程度が詳細に調査されます。米国の場合、商務省の国際貿易局が国内輸入産業への影響の程度と貿易相手国による輸出補助金の有無を調査し、両方が確認されて初めて相殺関税を課すように要請します。
通関業務従事者にとって重要なのは、相殺関税の額です。いかなる輸入産品についても、その存在が認定された補助金の額を超える額の相殺関税を課してはならないと規定されています。つまり、補助金の交付を受けて輸出された産品の単位当たりの補助金の額が上限となります。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/trade-remedy/law/cvd/cvd_agreement.html
調査開始から8ヶ月後には仮の決定が行われ、10ヶ月後には重要事実の開示が行われます。これが原則です。この段階で暫定的な相殺関税が課される場合があり、現金の供託または債券等による保証の形式をとります。暫定的に算定された補助金の額に等しい額が保証されます。
相殺関税の調査手続きは、通関業務に直接的な影響を与えます。調査期間中であっても、通関手続きを妨げるものであってはならないと規定されていますが、実務では追加の対応が必要になります。
調査手続きの流れを時系列で見ると以下のようになります。
調査開始から1年以内が原則です。
質問書を受領する輸出者、外国の生産者または利害関係を有する加盟国は、回答のために少なくとも30日の期間を与えられます。この30日という期間は最低限の保証であり、通関業務従事者は輸出者側からの問い合わせに迅速に対応する必要があります。
メキシコによるEC産オリーブオイルに対する相殺関税の事例では、調査開始前の協議開催を怠ったことがSCM協定13.1条違反とされました。調査開始は2003年7月2日で、協議招請は同年7月4日、協議開催が同年7月17日でしたが、調査開始前に協議を行うべきだったと指摘されました。これは使えそうです。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/3_dispute_settlement/33_panel_kenkyukai/2008/08-3.pdf
通関業務従事者が直面する実務上の課題として、証拠等の秘密保持があります。財務大臣は、証拠等を提出した者が秘密として取り扱うことの求めを撤回せず、かつ適当と認められる要約を記載した書面を提出しないときは、当該秘密として取り扱うことが求められた証拠等を調べないものとすることができます。適切な要約の提出が必要です。
参考)相殺関税に関する政令
通関業務従事者にとって相殺関税は、日常業務に大きな影響を与える可能性があります。特に、米国や中国などの主要貿易相手国が相殺関税を頻繁に活用しているため、注意が必要です。
米国の事例では、2025年7月に米商務省が中国原産の黒鉛に対してアンチダンピング・補助金相殺関税の調査を開始しました。2024年12月に国内業界団体の請願を受理し、調査を開始したという流れです。このように、請願から調査開始までは比較的短期間で進むケースがあります。
参考)米商務省、中国原産の黒鉛にアンチダンピング・補助金相殺関税の…
相殺関税が課される場合の実務対応として、以下の点に注意が必要です。
輸出者側との情報共有が特に重要です。
トランプ政権下では相互関税政策が展開され、2025年2月4日から中国に対して原則として全品目に追加関税10%が賦課されました。その後、中国が報復措置をとったことから、3月4日より追加関税率を20%に引き上げ、最終的には145%の関税が2025年7月9日に正式に再発動されました。これは相殺関税とは異なる相互関税ですが、関税措置全体の動向を把握しておく必要があることを示しています。
参考)米トランプ関税の行方(1)変遷する関税措置と在米日系企業の対…
通関業務従事者が相殺関税の適用を見逃した場合、企業は想定外の関税負担を強いられます。例えば、貨物の輸入価格が1000万円で相殺関税率が30%の場合、300万円の追加関税が発生します。これが10件あれば3000万円です。大きなリスクですね。
このリスクを回避するために、相殺関税情報を一元管理するシステムの導入や、定期的な情報アップデートの仕組み作りが有効です。財務省の税関ウェブサイトでは相殺関税の課税状況等が公開されており、これを定期的にチェックすることで最新情報を入手できます。
参考)https://www.customs.go.jp/tokusyu/kazeikamotsu_sousai.htm
財務省税関ウェブサイトの相殺関税制度ページ - 相殺関税制度の概要と最新の課税状況を確認できます
相殺関税はWTO協定の枠組みの中で厳格に規律されています。補助金及び相殺措置に関する協定(SCM協定)とGATT第6条が主要な法的根拠です。
WTO協定では、相殺関税に対する救済措置として、相殺関税措置だけでなくWTOの通常の紛争処理手続による解決も追求可能です。定められた期限内に紛争解決機関の勧告の実施がなされない場合には、申立国は対抗措置の承認を求める申請ができます。二つの選択肢があるということですね。
参考)(7)補助金と相殺関税 I GATT第6条3項とSCM協定【…
SCM協定では、補助金を禁止補助金と対抗可能な補助金に分類しています。禁止補助金は輸出が行われることに基づいて公布される補助金と、輸入品よりも国内品を優先して使用することに基づく補助金です。対抗可能な補助金は、相殺関税措置またはWTOによる紛争解決措置の対象となる補助金を指します。
通関業務従事者が理解すべきなのは、相殺関税がWTO協定違反とされるケースです。メキシコのオリーブオイル事例では、調査開始前の協議開催を怠ったことや、実質的遅延の申請に基づく調査開始をすべきでなかったことが指摘されました。調査開始時に妥当な自制をしなかったという点も問題視されました。
相殺関税を課するためのすべての要件が満たされた場合でも、これを課するか課さないかの決定、および課すべき相殺関税の額を補助金の額に等しい額とするか補助金の額よりも少ない額とするかの決定は、輸入加盟国の当局によって行われます。裁量があるということです。
相殺関税についての相殺関税措置の活用に向けた実務家へのヒアリングでは、米国・EUの実務経験が参考にされています。WTOにおける規律からその注意点について考察することが重要であり、国際的な事例研究が実務対応の質を高めます。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/tokushu_boeki/pdf/029_02_02.pdf
経済産業省の相殺関税に関する手続等についてのガイドライン - 調査手続きの詳細な流れと実務上の留意点を確認できます