貿易保険に入っていれば代金未回収は全額補償される、と思っていませんか?実は補償率は最大97.5%で、残り2.5%は自己負担になります。
貿易の現場で「保険をかけているから大丈夫」と安心している輸出担当者は多いです。しかし、海上保険と貿易保険はカバーする対象がまったく異なります。
海上保険は「輸送中の貨物が物理的に損傷・滅失するリスク」を補償するものです。一方、NEXI(株式会社日本貿易保険)の貿易保険が補償するのは「代金が回収できなくなるリスク」と「貨物を船積みできなくなるリスク」です。つまり、海上保険だけでは代金未回収は一切守られません。これは知らないと損する、という点です。
NEXIは1950年の制度発足以来、70年以上にわたって日本の輸出企業を支えてきた機関です。2001年に独立行政法人、2017年に政府100%出資の株式会社に組織変更されています。資本金は約1,694億円、総資産は約1.9兆円(2023年3月末時点)というスケールです。
NEXIが補償する2大リスクは以下のとおりです。
民間の損害保険会社も「海外取引信用保険」という形で似た商品を販売しています。つまり選択肢は1つではないということです。民間保険は収益を目的とし機動的に運用される一方、NEXIは制度上引受不可となる場合でも政策的判断で引受ができるケースがある点が大きな違いです。関税リスクが高い国向けの取引や、民間では断られた案件こそ、NEXIの活躍の場といえます。
参考情報:NEXIの保険商品の概要や引受方針については以下の公式ページで確認できます。
関税に関心のある方にとって、最も注目すべきポイントがここです。NEXIは単なる貿易保険機関ではなく、世界225の国・地域をリスク別にA〜Hの8段階で格付けしています。
このカテゴリー分類はOECD(経済協力開発機構)のカントリーリスク専門家会合での議論を基礎としており、NEXIもメンバーとして参加しています。世界共通基準に則って評価されているわけです。最もリスクが高いHカテゴリーには、2023年7月時点で75の国・地域が分類されており、株式会社化した2017年4月(当時64ヵ国)以来の最多となっています。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシア(EカテゴリーからHへ)、ベラルーシ(GからH)、ウクライナ(GからH)と一気にカテゴリーが引き上げられた例は記憶に新しいです。また2023年7月には、中台関係の緊張を背景に台湾がBからCへ初めて格下げされました。
では2025年に問題となった米国の相互関税措置(トランプ政権による対日関税)はどう扱われたのでしょうか?
NEXIは2025年4月28日付のニュースリリースで、米国政府による「ベースライン関税および相互関税措置」について、「仕向国において実施される輸入の制限又は禁止」のてん補事由に該当すると判断しました。具体的には次の損失がカバー対象とされています。
ただし重要な条件があります。関税措置の公表日(2025年4月2日)以前に保険責任が開始している契約が対象で、それ以降に新たに申し込む契約は対象外となります。保険は「リスクが顕在化する前に入る」のが絶対原則です。この点だけ覚えておけばOKです。
参考情報:米国関税措置に関するNEXIの公式見解はこちらで確認できます。
米国政府による関税措置に関する保険契約上の取扱いについて|NEXI公式ニュースリリース
「NEXI=大企業向け」というイメージを持っている方は少なくありません。しかし実態は異なります。NEXIは中堅・中小企業の輸出支援に力を入れており、専用商品も用意されています。
主な輸出向け保険商品は以下の3種類です。
ここで注意すべき点があります。「輸出手形保険」のカバー率は輸出手形の95%です。つまり5%部分はカバーされません。これは輸出代金に含まれる利益部分は公的保険では補填しないという設計思想からきています。全額カバーと勘違いして資金繰り計画を立てると、実際に事故が起きたときに5%分の穴が生じることになります。痛いですね。
中小企業・農林水産業輸出代金保険には実用的な付加価値もあります。全国110の提携金融機関を通じて申し込むと、保険料が10%割引になります。また海外取引先の与信審査に必要な「信用調査レポート」を、中小企業者または農林水産業従事者には8件(累計)まで無料で提供しています。バイヤーの信用状態を確認するコストが大幅に削減できます。これは使えそうです。
参考情報:中小企業向け保険商品の詳細はNEXIの公式サイトで確認できます。
貿易保険総合パンフレット(PDF)|株式会社日本貿易保険(NEXI)
「手続きが複雑そう」という先入観からNEXIの貿易保険に踏み出せていない方も多いです。実際には、主な手続きはすべてWebから完結できます。
利用開始までに必要なステップは3つです。
NEXIは「大変商売熱心」と言われており、個別案件の相談を気軽に受け付け、企業に出向いての案件組成にも対応しています。電話窓口は無料ダイヤル(0120-675-094など)が用意されており、窓口に問い合わせる前にNEXIの公式Webサービスを一度見ておくのがおすすめです。
実際に保険が役立った事例として、香港の食品卸会社向けの輸出でコロナ禍のバイヤー支払遅延が発生した食品卸商社A社のケースがあります。バイヤーが3ヶ月以上支払いを遅延したことで、約500万円の保険金が支払われました。また、中米に進出した中小企業B社は、コロナによる工場閉鎖で事業休止1ヶ月超が発生し、約2,200万円が支払われた事例もあります。つまり、保険金支払の実績は着実に積み上がっているということです。
参考情報:NEXI Webサービスの登録方法や操作手順はこちらから確認できます。
保険のお申込前に必要なお手続き|株式会社日本貿易保険(NEXI)
貿易保険に加入する本当のメリットは、保険金の受取だけではありません。意外と知られていないのが、「NEXIの格付情報を信用調査ツールとして使う」という活用法です。
NEXIは独自の「海外商社名簿」というバイヤー格付けデータベースを持っており、業種・国を問わず海外企業を独自に格付けしています。格付けはG(政府機関)を頂点に、複数の段階で信用力を評価するもので、「EF」格以上が引受条件になります。
2021年1月より、NEXIはこのバイヤー情報(名称・バイヤーコード・格付・業種・住所)を、利用者登録なし・無料で一般公開しています。これは「自社製品の輸出をしたいが、相手バイヤーの信用情報がない」という中小企業の声に応えたものです。
つまり、保険を申し込む前の段階から、NEXIの格付情報を無料の信用調査として活用できます。実際の活用シーンとしては次のような使い方が考えられます。
関税の問題に置き換えて考えると、リスクの高い国(NEXIカテゴリーD以下)向けの輸出では、関税引き上げ・輸入規制強化のリスクも高まります。そうした国への輸出においては、保険責任開始前に必ず保険契約を締結しておくことが、関税リスク対策の一環として有効です。
NEXIが公表しているカントリーリスクマップ(PDF)は無料でダウンロードでき、全世界のリスクカテゴリーが一目でわかります。新規の輸出先国を検討する際に、まずこのマップを確認する習慣をつけておくと、関税リスクを含むカントリーリスクの全体像が把握しやすくなります。カントリーリスクマップが基本です。
さらに、2022年12月にNEXIは独立行政法人中小企業基盤整備機構・日本政策金融公庫と共同で「海外ビジネス支援パッケージ」を構築しています。販売開拓・拡大から金融支援まで一体的にサポートする枠組みで、2023年6月末時点で27都道府県64行の地方金融機関が参画し、連携支援企業は約300社に上ります。貿易保険の申込窓口になっている提携金融機関に相談すると、このパッケージを通じた総合支援も受けられます。
参考情報:NEXIのカントリーリスクマップ(全225国・地域を8段階で格付け)はこちらから取得できます。
カントリーリスクマップ(PDF)|株式会社日本貿易保険(NEXI)