マイクロプラスチック規制・欧州REACHで日本の輸出が変わる

EUのマイクロプラスチック規制(EU 2023/2055)は、化粧品・洗剤・肥料など幅広い製品に影響を与えます。日本企業が知らないと輸出停止リスクも?規制の全体像と対策を解説。

マイクロプラスチック規制・欧州の最新動向と日本企業への影響

メイクアップ製品は2035年まで販売が続けられるが、今すでに輸出できない製品がある。


📋 この記事の3ポイント要約
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EU REACH規則が2023年に発効

規則(EU)2023/2055が2023年10月17日に施行。化粧品・洗剤・農薬など幅広い製品で、EU域内への販売・輸出が段階的に禁止される。

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移行期間は品目によって4〜12年

即時禁止から2035年まで、品目ごとに異なるスケジュールが設定されている。「まだ大丈夫」と思っていると、気づかないうちに対応期限が来てしまうことも。

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ペレット規則も2027年から本格適用

2025年公布の規則(EU)2025/2365により、プラスチックペレットを輸送・取り扱う事業者への義務も強化。関税コスト以外の追加負担が増える。


マイクロプラスチック規制・欧州REACHとはどんな法律か

EU(欧州連合)のマイクロプラスチック規制は、「REACH規則」と呼ばれる化学物質の包括的な管理制度を根拠に動いています。正式名称は規則(EU)2023/2055で、REACH規則の付属書XVII(制限物質リスト)にエントリーNo.78として「合成ポリマー微粒子」が追加されたことで、2023年10月17日に発効しました。


EUがマイクロプラスチックを問題視する理由は、一度環境に放出されると事実上「回収不可能」だからです。5mm以下の合成ポリマー粒子は土壌・水中・大気中に拡散し、食物連鎖を通じて魚介類や家畜、最終的には人体に蓄積します。EU全体では意図的に添加されたマイクロプラスチックだけで、年間約4万2,000トンが環境中に放出されていると推計されています。


この規則が対象とするのは「意図的に添加されたもの」です。つまり、化粧品の研磨ビーズや柔軟剤のマイクロカプセルのように、機能を持たせるために製品にわざわざ混ぜ込んだマイクロプラスチックが規制の核心になります。意図せず混入したもの(タイヤ摩耗から出る粉など)は現時点では別枠での規制が検討中であり、2023/2055の直接対象ではありません。


関税に関わる実務の視点で重要なのは、この規制がEU加盟国すべてに直接適用される「規則(Regulation)」である点です。EU加盟国各国が独自に法律を制定する必要がなく、日本からEU域内に輸出した製品が通関後に規制違反と判定されるリスクがあります。「輸出は関税さえ払えばよい」という考え方では見落としてしまう落とし穴のひとつです。


JETRO:EU、マイクロプラスチック添加製品の原則販売禁止を決定(2023年10月)


マイクロプラスチック規制・欧州の対象品目と禁止スケジュール一覧

規制の骨格を理解する上で最も重要なのが「移行期間(禁止施行日)」の一覧です。品目ごとに禁止開始日が異なるため、自社の輸出品がいつから規制されるかを把握しておくことが欠かせません。


禁止開始日は以下の通りです。


| 対象品目の区分 | 禁止開始日 |
|---|---|
| マイクロビーズ(研磨剤として添加)含む化粧品 | 2023年10月17日(即時) |
| 洗い流しタイプの化粧品(スクラブなど) | 2027年10月17日 |
| 洗剤・ワックス・磨き剤・芳香剤、肥料製品、農業・園芸用製品 | 2028年10月17日 |
| 香料のマイクロカプセル(合成樹脂製)、リーブオン化粧品、医療機器(一部) | 2029年10月17日 |
| 植物保護製品・農薬・殺生物剤・人工芝用ゴムチップ | 2031年10月17日 |
| リップ製品・ネイル製品・メイクアップ製品 | 2035年10月17日 |


驚きの一文でも触れたように、「まだ2035年まで余裕がある」という製品がある一方で、すでに2023年から禁止されている品目も存在します。これが同じ化粧品カテゴリーの中でも禁止日がバラバラという状況につながっており、整理が難しい部分でもあります。


つまり、品目ごとにスケジュールが違うということです。


実務上のポイントとして、化粧品に含まれるマイクロビーズは即時禁止ですが、口紅やアイシャドウなどのメイクアップ製品は2035年まで猶予があります。この差が生まれた背景は、すでに業界が自主的に使用を廃止していた品目は「移行不要」として即時禁止、代替技術の開発に時間が必要な品目は長い猶予期間が設けられたためです。


柔軟剤の香り成分を包んでいる「マイクロカプセル」も規制対象に含まれています。ただしこれは「合成ポリマー製」の場合に限られます。ゼラチンや植物タンパクなど天然由来で生分解性のある素材を使ったカプセルは対象外なので、代替素材への切り替えが有効な対策になります。


テュフ ラインランド:REACHにおけるマイクロプラスチックの使用禁止・詳細解説


マイクロプラスチック規制・欧州が日本の輸出企業に求める対応義務

「EU域内に設立されていない日本企業には直接適用されない」という話を聞いて安心した方がいるかもしれませんが、それは半分しか正しくありません。


REACH規則の正確な適用範囲でいえば、EU域外の製造者は直接の義務主体ではありません。しかし実際には、日本からEU向けに製品を輸出する場合、EU域内の輸入者(インポーター)がその製品の規制遵守責任を負います。つまり、日本側のメーカーが「規制に引っかかる成分が入っていますか?」という照会を受けることになります。答えられなければ、取引停止や輸入拒否につながります。


これはビジネス上のリスクです。


特に規則第11項の「報告義務」は見逃せない部分です。2026年以降、工業用途でプラスチックペレット・フレーク・粉末形態の合成ポリマー微粒子を使用する事業者は、毎年5月31日までにECHA(欧州化学品庁)に報告することが義務付けられています。EU域内の取引先から「あなたの製品に含まれる成分の環境放出量データをください」という要求が来た場合、適切に答えられるよう準備が必要です。


さらに新たな義務として、2025年11月に公布されたプラスチックペレット規則(EU)2025/2365が加わります。この規則は2027年12月17日からEU全域で直接適用され、EU域内で年間5トン超のプラスチックペレットを取り扱う事業者は、リスク管理計画(RMP)の策定と流出防止措置の実施が義務付けられます。海上輸送においては、荷主が梱包品質の確保と積み込み情報の事前通知を行わなければなりません。


対応の第一歩としては、自社製品の成分リストを確認し、「合成ポリマー微粒子が0.01重量%以上含まれているか」をチェックすることから始めるとよいでしょう。サプライヤーへの成分開示依頼と、適切なSDS(安全データシート)の整備が具体的なアクションになります。


EnviX:EU プラスチックペレット規則(EU)2025/2365の詳細解説


マイクロプラスチック規制・欧州の例外規定と見落としやすいグレーゾーン

規制には例外があります。これを知っておくことで、不要なコストをかけずに済む場面があります。


まず、以下の粒子はマイクロプラスチックの定義から外れるため規制対象外です。天然ポリマー(化学的に改変されていないセルロースや天然ゴムなど)、適切な試験で生分解性が証明されたポリマー、水溶性ポリマー(水への溶解度2g/L以上)、炭素骨格を持たない無機ポリマー(シリコーンゴムなど)が挙げられます。


対象外の製品パターンも重要です。マイクロプラスチックが含まれていても「使用中に環境に放出されない」場合は禁止されません。例えば、プラスチックビーズを詰めたシートクッションや、成形品として固定されているグリッターのりは対象外です。また「工業用地内で使用されるもの」も禁止の対象外ですが、ECHAへの年次報告義務は残ります。


グレーゾーンとして問題になりやすいのが「グリッター付き衣類」です。服に付いたグリッターは、現時点での規制解釈では対象外とされています。ただしEU域内でも見解が揺れている領域であり、今後のガイドラインで変更される可能性があります。


コスメ業界で実務的に注目されているのは、メイクアップ製品の2035年禁止です。12年という長期猶予が設けられていますが、代替素材の研究開発・処方変更・製造設備の切り替えには時間がかかります。「2035年はまだ先」という意識では、結果として切り替えが間に合わないリスクもあります。準備は早い段階が得策です。


衣類洗濯やタイヤ摩耗によって生じる「意図しないマイクロプラスチック」については、現行の2023/2055では規制外ですが、EUは次のステップとして繊維製品・タイヤを対象とした別枠の規制整備を進めています。関連する製品を扱う輸出企業は、今後の規制動向を継続的にモニタリングすることが必要です。


月刊化学物質管理:マイクロプラスチック規則(EU)2023/2055の工業用地例外と報告義務の解説


マイクロプラスチック規制・欧州と関税の交差点——輸出実務で知るべきコスト構造

マイクロプラスチック規制は「環境規制」ではありますが、関税実務と密接に絡み合っています。ここは独自の視点で整理しておきたいポイントです。


規制違反製品がEU税関で差し押さえられた場合、関税を払っても販売できないというシナリオが現実に発生します。関税は「入国の許可料」ではなく「課税の仕組み」であり、安全基準や化学物質規制を満たしていなければ、税関を通過した後でもEU市場での流通が禁止されます。この二重チェック構造を理解していないと、「税関を通ったから大丈夫」という誤解が生まれます。


コスト面でも注意が必要です。


EUでは既に2021年からリサイクル不能なプラスチック包装廃棄物に対して1kgあたり0.80ユーロの課税が導入されており、製品の包装資材にこの負担が乗ってきます。さらに、スペインでは2023年1月から再利用できないプラスチック容器包装の製造者・輸入者に対して1kgあたり0.45ユーロの課税が導入されています。これらの「プラスチック税」は広義の貿易コストとして計上する必要があります。


2027年から本格適用されるペレット規則でも、輸送中のリスク管理計画(RMP)策定・認証取得・年次報告対応などの管理コストが発生します。特に年間取扱量1,500トン以上の事業者は2027年12月17日までに認証機関からの認証取得が義務付けられており、認証費用と更新費用(3年ごと)が新たなコスト項目として加わります。


日EU・EPAにより、品目数ベースでEU側の関税の約99%は撤廃されていますが、環境規制による市場アクセス障壁はEPAとは別の話です。「関税ゼロで輸出できる=問題なし」ではなく、製品の成分・素材・包装まで含めた包括的なコンプライアンス確認が、EU向け輸出の前提条件として求められています。


これが新しい貿易障壁の形です。


自社の輸出製品にマイクロプラスチック関連の成分が含まれているか不安な場合は、REACH規制の専門機関(テュフ ラインランドやビューローベリタスなど)への成分分析・適合性確認サービスを活用することで、規制違反リスクを未然に把握できます。


森・濱田松本法律事務所:EU使い捨てプラスチック指令と日本企業への影響解説


ビューローベリタス:REACH EU 2023/2055マイクロプラスチック禁止の詳細解説