申告タイミングで関税が10万円以上変わります。
為替市場は、世界中で異なる通貨が交換される場所です。通関業務従事者にとって、為替市場の動きは日々の業務に直結します。
参考)今さら聞けない為替相場とは?通貨交換の仕組みをわかりやすく解…
輸入申告時には、外貨建てのインボイス価格を日本円に換算する必要があります。この換算に使用する為替レートは、輸入申告日における税関長公示レートです。例えば米ドルの場合、本邦の外国為替市場における銀行間の直物取引の中心相場の前々週における週間平均値が適用されます。
つまり換算の基準です。
課税価格の計算では、CIF価格(運賃・保険料込み価格)を税関長公示レートで円貨に換算します。このレートは毎週更新されるため、申告タイミングによって同じ貨物でも課税価格が変動します。
為替レートの変動は、関税額や消費税額に直接影響を及ぼします。2022年11月の事例では、1週間で米ドルの換算レートが1ドルあたり5.77円変動し、CIF10万ドルの貨物で関税と消費税の合計が約10.8万円も差が生じました。
税関の外国為替相場ページでは、最新の換算レートが確認できます。申告業務の際、このページで換算レートを確認することで、コスト試算の精度が向上します。
円安局面では、輸入企業の調達コストが大幅に増加します。例えば1ドル100円から110円に円安が進行した場合、100ドルの商品が1万円から1万1000円に値上がりします。
参考)【輸出入企業向け】為替リスク完全対策ガイド:円安/円高・不確…
どういうことでしょうか?
ドル建てで原材料を輸入する企業にとって、急激な円安は仕入れ価格の上昇要因です。価格転嫁が難しい場合、利益率が圧迫されます。特に通関業務では、この影響が課税価格に反映され、関税・消費税の納税額も増加します。
一方で円高局面では、輸入コストが低下します。円の価値が上昇すると、同じ円貨でより多くの商品を輸入できるため、企業のコスト削減につながります。燃料や資材の多くが輸入されているため、円高によってこれらのコストが低下し、物流全体のコストも減少する可能性があります。
通関業務従事者は、貿易収支の動向にも注意が必要です。貿易赤字が拡大すると円安が進行しやすく、貿易黒字が拡大すると円高圧力が高まります。2022年以降、日本の貿易赤字が続いている状況では、円安傾向が長期化する可能性があります。
つまり赤字で円安です。
為替レートの変動は、輸入品価格だけでなく、企業の想定為替レートとの乖離によって損失を生む場合もあります。実勢レートが想定を大きく上回る局面では、契約上の価格見直しが難しく、為替差損を被るケースが発生します。
税関への輸出入申告では、輸出はFOB価格、輸入はCIF価格で申告し、円貨に換算することが規定されています。換算レートの計算方法は、輸出と輸入で異なる基準が用いられます。
参考)日本関税協会
具体的な計算例を見てみましょう。
月分の換算レートは、輸出の場合「3,448,444,963÷21,937,057=157.20円/ドル」、輸入の場合「3,215,098,678÷18,386,721=174.86円/ドル」となります(端数は四捨五入)。この計算は、特定期間の取引総額を取引総量で除して算出されます。
週ごとに発表される税関長公示レートをもとに、旬ごとの平均レート(日数をウェイトとした加重平均)が算出されます。例えば中旬分のレートは「(115.03×3日+115.88×7日)÷10日=115.63」、下旬分は「(117.22×7日+116.62×4日)÷11日=117.00」のように計算されます。
参考)ドル換算レート算出方法
原則は前々週平均です。
米ドルの場合、本邦の外国為替市場における銀行間直物取引(翌々営業日渡し)の中心相場の前々週における週間平均値が適用されます。この「前々週」という時間差が、申告タイミングの選択に影響を与えます。
為替相場が大きく変動する際は、申告タイミングによって課税価格が大きく変化します。例えば先週の換算レートが1ドル145.60円、今週が139.83円だった場合、CIF10万ドルの貨物では課税価格が57.7万円安くなります。関税率8%の商品なら、今週申告することで関税約4.6万円、消費税約6.2万円、合計約10.8万円のコスト削減が可能です。
日本関税協会の週間為替相場ページでは、過去の換算レート推移も確認できます。通関業務で申告タイミングを検討する際の参考資料として活用できます。
為替リスクヘッジには、大きく分けてファイナンシャルヘッジとオペレーショナルヘッジがあります。ファイナンシャルヘッジは金融商品を用いる方法で、代表的なものが為替予約です。
参考)【図解あり】企業の海外取引における為替リスクヘッジとは?意味…
為替予約は、将来の特定日に特定レートで通貨を交換する契約です。
参考)【完全図解版】これで完璧!!為替予約の会計処理~ヘッジ会計の…
輸入企業の場合、商品購入時点で外貨買いの為替予約を行い、決済時点の支払金額を確定させます。これにより為替相場の変動リスクを回避できます。例えば3か月後に100万ドルの支払いが必要な場合、現時点で1ドル140円の為替予約を締結すれば、3か月後の実勢レートに関係なく1億4000万円で決済できます。
参考)事例Ⅳ ~デリバティブ取引(3)(為替予約)~
為替予約の会計処理には、独立処理、ヘッジ会計(繰延ヘッジ処理)、振当処理の3つがあります。ヘッジ会計を適用する場合、ヘッジ手段から発生した為替差損益をヘッジ対象である外貨建債務にかかる為替差損益が発生するまで繰延べます。
オペレーショナルヘッジは、金融商品以外でリスクをヘッジする方法です。代表的なものに為替マリーがあり、これはドルの支払いとドルの受取を相殺する手法です。他には、契約時に相手方に為替リスクを負担してもらう契約にする方法や、外貨の支払い・受取時期を調整するリーズ&ラグスという方法もあります。
それで大丈夫でしょうか?
通関業務の観点からは、申告タイミングの調整も有効なリスク管理手段です。換算レートが有利な週に申告を集中させることで、関税・消費税の負担を軽減できます。ただし、輸入承認が必要な貨物の場合、適用される換算レートは船積み月の日本銀行公示レートになるため、申告タイミングでの調整はできません。
為替市場には、合理的な分析では説明できない「アノマリー」と呼ばれる現象が存在します。例えば8月に円高になりやすい傾向がありますが、明確な理由は解明されていません。夏季休暇の影響で市場参加者が減少し、流動性が低下することが一因と考えられています。
参考)為替相場の奇妙な現象?アノマリーとその影響 - みんなの投資…
アノマリーは注目点です。
アノマリーとは、通常のデータパターンから逸脱した異常値のことです。過去のデータ分析を通じて一定のパターンが明らかになりつつありますが、過去のデータに表れた傾向に過ぎず、将来も同じパターンが繰り返されるとは限りません。経済状況や市場のセンチメントは常に変化し、アノマリーもその影響を受けて変化していく可能性があります。
通関業務従事者にとって重要なのは、為替相場の変動により売買価格が調整される場合の取り扱いです。契約で為替変動に応じて価格調整条項が設けられている場合、一定の率を乗じて調整した価格を現実支払価格として計算します。
参考)https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kanzeihyouka/hyokajirei/hyokajirei4110052.pdf
会計処理においても為替レートの取り扱いには注意が必要です。商品購入時は購入時の為替レート、代金支払い時は支払い時の為替レート、決算時は決算日の為替レートと、基本的にはその日のレートで処理します。仕入計上のタイミングは船積時点であり、国内取引とは異なります。
参考)輸入販売をする際の税金の種類と計算方法
厳しいところですね。
COVID-19パンデミック以降、為替市場の変動性は前例のないレベルに達しました。貿易政策の不確実性も為替市場に大きな影響を与えており、米中貿易摩擦などの通商交渉の動向が為替相場を左右しています。2025年のトランプ関税発動後は急速に円高が進み、日米関税交渉の着地点によって円高・円安の方向性が大きく変わる状況です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10066818/
Tradomの為替リスク完全対策ガイドでは、輸入企業向けの詳細なヘッジ戦略が解説されています。通関業務と連携した為替リスク管理の参考になります。
通関業務における為替情報の活用には、タイムリーな情報収集が不可欠です。税関の外国為替相場ページは毎週更新されるため、定期的なチェックが推奨されます。
換算レートの予測には複数の要因を考慮する必要があります。
日本の貿易収支は為替相場に影響を及ぼし、貿易赤字が拡大すると円安が進行しやすく、貿易黒字が拡大すると円高圧力が高まります。また、米国の金融政策も重要な要素で、FRBが利下げを停止または利上げに転じた場合、日米金利差が拡大し円安が進行する要因となります。
参考)トランプ関税の為替への影響は?円高・円安の方向性は?
通関業務で複数の案件を抱えている場合、換算レートの動向を見ながら申告順序を調整することで、トータルコストを最適化できます。特に高額貨物の場合、1週間の申告タイミングの違いが数十万円のコスト差を生む可能性があります。
これは使えそうです。
企業内で想定為替レートを設定し、事業計画を策定することも重要です。実勢レートが想定を大きく上回る/下回る局面に備え、為替予約などのヘッジ手段を組み合わせることで、安定した収益管理が可能になります。
為替市場の流動性が低下する時期(夏季休暇期間など)は、相場が急変動しやすいため注意が必要です。この時期の申告では、換算レート確認をより慎重に行い、予期せぬコスト増加を回避する対策が求められます。
日本関税協会や日本貿易振興機構(JETRO)などの公的機関が提供する為替情報は信頼性が高く、実務での活用に適しています。これらの情報源を定期的にチェックし、為替動向を把握することで、通関業務の質が向上します。
為替相場はダメ。
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