表示義務が「ない」食品でも、任意でGM表示をつけると逆に行政指導の対象になります。
食品表示法とJAS法の整備により、遺伝子組み換え食品の表示義務は2023年4月1日以降、大幅に体系化されました。旧制度では大豆・とうもろこし・ばれいしょ・なたね・綿実・アルファルファ・てん菜・パパイヤの8農産物と、それらを主な原材料とする加工食品が対象でしたが、現在は食品表示基準の別表第17に定められた33食品群が義務表示の対象です。
具体的には、豆腐・油揚げ類、凍り豆腐、おから、豆乳類、納豆、豆みそ、大豆煮豆、大豆缶詰・大豆瓶詰、きな粉、大豆いり豆、枝豆、大豆もやし、コーンスナック菓子、コーンスターチ、ポップコーン、冷凍とうもろこし、とうもろこし缶詰・とうもろこし瓶詰、コーンフラワー、コーングリッツ、とうもろこし挽き割り、ポテトスナック菓子、冷凍ばれいしょ、乾燥ばれいしょ、ばれいしょでん粉、ばれいしょ加工品などが含まれます。
これは義務表示品目です。
通関業者として輸入申告書類を確認する際、インボイスや原材料リストに記載された品目がこの33食品群に該当するかどうかを確認することが実務上の第一ステップとなります。農林水産省の「食品表示基準」Q&Aには品目ごとの詳細な判断基準が公表されており、品目の特定に迷った場合の一次確認先として活用できます。
消費者庁:食品表示基準(遺伝子組換え食品に関する表示)の解説資料(PDF)
品目の確認は通関前に済ませておくのが原則です。
「遺伝子組み換え農産物を原材料として使っているのに、なぜ表示義務がないのか」と疑問に思う担当者は少なくありません。これにはきちんとした理由があります。食品表示基準では、加工工程でDNAやタンパク質が検出されなくなる食品について、義務表示の対象外としています。
代表的なのは、大豆油・なたね油・綿実油・コーン油などの植物油です。これらは精製工程でタンパク質が除去されるため、組み換えDNAが残存しないと判断され、義務表示の対象外になっています。同様の理由で、大豆を原料とする醤油や、異性化液糖(コーンシロップ)なども義務表示対象外です。
対象外だから何も確認しなくてよいわけではありません。
輸出国の表示規制と日本の表示規制が異なる場合、輸出国のラベルには「GM」の記載があるにもかかわらず、日本向けには義務表示が不要というケースが生じます。この食い違いを輸入者に説明できる準備が通関業者には求められます。また、対象外品目であっても、輸入者が任意でGM表示を付けようとするケースがあり、その際は後述する任意表示ルールの適用が問題になります。
つまり「義務なし=確認不要」ではないということです。
実務では、品目ごとに「義務表示・任意表示・表示不可」の3区分を整理した一覧表を手元に持っておくと判断が速くなります。消費者庁の食品表示基準Q&Aには品目別の区分が示されており、チームでの共有資料として利用するのが効率的です。
消費者庁:食品表示基準に関するQ&A(遺伝子組換え食品の表示関係)(PDF)
2023年4月の制度改正で最も実務に影響を与えたのが、「分別生産流通管理(IP管理)」の有無を軸にした表示義務の再整理です。旧制度では、遺伝子組み換え農産物が意図せず混入していても5%以下であれば「遺伝子組み換えでない」と表示できました。しかし現行制度では、この5%ルールが廃止され、IP管理が適切に実施されたことを証明できなければ「遺伝子組み換えでない」の表示はできません。
IP管理とは、圃場から輸送・保管・製造まで全工程で遺伝子組み換え農産物と非遺伝子組み換え農産物を混合しないよう管理し、その証明書類(IPハンドリングブック等)を保持することを指します。
書類の有無が表示の可否を決めます。
通関業者の実務では、輸入者からIP証明書(IPハンドリングブック、Non-GMO証明書など)の提出を受け、その内容が輸入品のロットと一致しているかを確認するプロセスが重要になります。特に米国・ブラジル・カナダからの大豆やとうもろこしの輸入では、証明書の発行主体・発行年月日・対象ロット番号の3点をインボイスと照合することが実務上の基本動作です。
この確認を怠ると輸入者が行政指導を受けるリスクがあり、通関業者としての信頼性にも直結します。証明書の様式や記載要件については農林水産省のガイドラインに詳細が示されています。
農林水産省:分別生産流通管理(IPハンドリング)に関するガイドライン(PDF)
証明書の確認は輸入申告前に完了させておくのが条件です。
義務表示の対象外品目でも、輸入者がマーケティング目的で「Non-GMO」「遺伝子組み換え原料不使用」などと任意表示したいケースは珍しくありません。ここに大きな落とし穴があります。
現行の食品表示基準では、任意で「遺伝子組み換えでない」旨を表示できるのは、①対象農産物を主な原材料としていること、②IP管理が実施されていること、③重量割合が上位3位以内かつ5%以上であること、の3条件をすべて満たす場合に限られています。
3条件、すべて満たすことが必要です。
この3条件を満たさない状態で任意表示を行った場合、食品表示法第6条に基づく指示・公表処分の対象になります。2023年度以降、消費者庁の監視強化により、不適切な任意表示を理由とした指示案件が全国で複数件確認されています。処分が公表されると輸入者のブランドイメージへの影響は避けられません。
通関業者の役割は輸入申告の代理だけではありません。通関前に輸入者のラベル原稿を確認する機会があれば、この3条件の充足状況を一緒にチェックする姿勢が、顧客からの信頼を高めます。特に新規の輸入者や、新しいサプライヤーから仕入れを始めた輸入者に対しては、この点の確認を一声かけるだけで大きなトラブルを未然に防ぐことができます。
食品表示基準の最新改正テキストは消費者庁のウェブサイトで随時更新されているため、ブックマークしておくことをおすすめします。
消費者庁:改正食品表示基準(2023年4月施行版)全文資料(PDF)
ここからは検索上位ではあまり取り上げられない、通関実務ならではの視点です。
日本の遺伝子組み換え表示制度と、輸出国側の表示規制には構造的な乖離が存在します。たとえば米国では、2022年1月に「NBFDS(国家バイオエンジニアリング食品開示基準)」が完全施行され、一定量以上の組み換え成分を含む食品にはQRコードまたは「BE(Bioengineered)」マークの表示が義務化されました。一方、日本の義務表示対象外品目(精製油など)に対しては、米国側でBEマークがついているのに、日本向けラベルではGM表示を外す、あるいは逆のケースも起こります。
米国と日本、表示ルールはまったく別物です。
この乖離が現場で問題になるのは、米国で「Bioengineered」表示がされた製品を日本に輸入する際に、輸入者が日本のラベルにその表示を残すべきかどうかを迷うケースです。日本の食品表示法には「他国の法定表示を模倣した任意表示」に関する明示的な規定がないため、この判断は消費者庁への事前確認が現実的な対応です。消費者庁は食品表示相談窓口(電話:03-3507-8800、受付平日9時〜17時)を設けており、個別品目の表示可否について無料で相談できます。
同様に、EU向けに製造された食品を日本に転送輸入する場合も注意が必要です。EUでは遺伝子組み換え成分が0.9%を超える場合に表示義務が生じますが、日本のIP管理証明要件とは基準が異なるため、EU認証書類がそのまま日本向けIP証明書として使えるわけではありません。この点も輸入者が見落としやすい盲点です。
多国間取引では規制の差異を一覧化して管理するのが原則です。
実務上は、主要輸出国(米国・カナダ・ブラジル・EU・オーストラリア)のGM表示規制と日本の制度との対照表を自社ツールとして整備しておくと、複数の輸入者に対して横断的に活用できます。情報は年1回を目安に更新するのが推奨です。JETRO(日本貿易振興機構)のウェブサイトでは各国の食品規制情報が定期更新されており、一次情報源として信頼性が高いです。
JETRO:国・地域別食品規制情報(各国の食品表示・GM規制の比較情報)
輸出国と日本のルールは「別物」として管理することが基本です。
| 区分 | 表示形式 | 主な対象品目例 | IP管理証明の要否 |
|---|---|---|---|
| 義務表示 | 「遺伝子組み換え」と表示 | 豆腐、納豆、コーンスナック、ポテトスナックなど33食品群 | 不要(組み換え品の場合) |
| 任意表示(可) | 「遺伝子組み換えでない」と表示 | 上位3位以内・5%以上の原材料でIP管理済みのもの | 必要 |
| 表示対象外 | 表示不可(義務なし・任意もなし) | 大豆油、なたね油、醤油、異性化液糖など | 不要(表示自体ができない) |