フタル酸エステル規制を日本の輸入ビジネスで正しく理解する方法

フタル酸エステル規制は日本の輸入ビジネスに直結する重要テーマです。食品衛生法・RoHS・REACHなど複数の法規制が絡み合い、違反すると通関拒否や廃棄リスクも。正しく把握していますか?

フタル酸エステル規制と日本の輸入ビジネスで知るべき全知識

0.1%以下でも含有していたら、あなたの貨物は通関で書類追加を求められ、廃棄になることがあります。


📋 この記事の3つのポイント
⚖️
規制の種類と対象製品

日本では食品衛生法・化審法など複数の規制が存在し、おもちゃ・食品容器・電子機器と対象製品が幅広い。規制物質は最大6〜10種類にのぼる。

🚨
輸入時の通関リスク

0.1%以下の検出でも「意図的使用」と疑われると検疫所から証明書の追加提出を求められる。知らずに書類を出すと手続きが止まる。

令和7年完全施行の影響

2025年6月にポジティブリスト制度が完全施行。食品容器包装を輸入する事業者は、対応する適合証明情報の伝達が義務化された。


フタル酸エステルとは何か・日本で規制される理由

フタル酸エステル類(フタレート)は、主にポリ塩化ビニル(PVC)の可塑剤として使われる化学物質の総称です。プラスチックに柔軟性や成形しやすさを与えるために添加されるもので、私たちの身の回りの多くの製品に含まれています。具体的には、おもちゃ・浮き輪・レインコート・食品用容器・電子機器の部品・自動車の内装シート・医療用チューブなど、非常に幅広い製品が対象になります。


なぜ規制されるのか、というと毒性の問題です。フタル酸エステル類は動物実験で内分泌かく乱作用(いわゆる環境ホルモン)、生殖毒性、発達毒性、組織障害などが報告されています。特に乳幼児がおもちゃを口にくわえることで体内に取り込まれるリスクが高いため、子ども向け製品での規制が世界に先駆けて強化されてきました。


問題は身近さです。フタル酸エステルはビニール製の壁紙・床材・接着剤・印刷インクにも入っています。関税・輸入ビジネスの観点で見ると、これだけ幅広い製品が規制対象に含まれるということは、輸入品のほぼあらゆるカテゴリーで関係してくる話になります。これは重要な視点ですね。


特に日本が規制を強化し始めたのは2002年(平成14年)で、まずDEHP(フタル酸ビス2-エチルヘキシル)とDINP(フタル酸ジイソノニル)の2物質を、おもちゃの原材料として禁止しました。その後、2010年(平成22年)には規制物質をDBP・BBP・DIDP・DNOPの4物質を追加し、合計6物質体制になっています。日本は欧州(EU)と同等レベルの規制になっているということですね。


フタル酸エステル類関連規制の一覧(島津テクノリサーチ)|国内外の規制対象物質・CAS番号を比較した詳細表が確認できます


フタル酸エステル規制の日本の主要法令と対象製品リスト

日本でフタル酸エステルを規制する法律は複数あり、それぞれ対象製品が異なります。この点を混同すると、自分が輸入する製品がどの法令の対象になるのかわからなくなります。つまり、法令ごとに分けて理解することが基本です。


まず最も重要なのが食品衛生法です。一見「食品」に関係ない製品でも対象になるのが落とし穴で、乳幼児用おもちゃ・食品用器具・容器包装がすべてこの法律の規制対象に入ります。法律上、乳幼児が口にする可能性があるものは「食品に準じた安全性」が求められるため、ぬいぐるみも指定おもちゃに分類されれば食品検疫所への届出が必要になります。規制値は可塑化された材料部分で各フタル酸エステル物質ともに0.1%(1,000ppm)以下です。


次に電子・電気機器に関わる輸入事業者が注意すべきなのが改正RoHS指令(RoHS2.0)への対応です。これはEUの指令ですが、EU向けに製品を輸出・輸入する日本企業も対応が求められます。2019年7月22日から、DEHP・BBP・DBP・DIBP(フタル酸ジイソブチル)の4物質が新たに追加され、規制物質は計10物質になりました。この対応を見落としてEU市場向けに製品を出荷すると、販売停止や製品回収に発展する可能性があります。痛いですね。


繊維・アパレル・雑貨の輸入をしている方が意識すべきなのがEU REACH規則です。2020年7月7日からDEHP・DBP・BBP・DIBPの4物質の合計が0.1重量%以上の成形品は、EU域内での上市が制限されています。繊維製品のボタン・ファスナー・コーティング・プリントにもフタル酸エステルが使用されるため、中国から繊維雑貨を輸入する際には特に注意が必要です。


さらに、米国向け輸出をする場合はCPSIA(消費者製品安全性改善法)が関連します。2009年から子ども用おもちゃおよび3歳以下の育児用品に対し、最新では8種類のフタル酸エステルを0.1%以下に規制しています。


































法令名 適用地域 主な対象製品 規制物質数
食品衛生法 日本 おもちゃ・食品容器包装 6物質
改正RoHS指令(RoHS2.0) EU 電子・電気機器 10物質(フタル酸4物質含む)
REACH規則 EU 全成形品 4物質(制限物質)
CPSIA 米国 子ども用おもちゃ・育児用品 8物質


フタル酸エステル類の各国規制と繊維製品への影響(ニッセンケン品質評価センター)|エコテックスの25物質規制など繊維業界視点の解説が充実


フタル酸エステル規制の令和7年完全施行と輸入者への実務的影響

2025年(令和7年)6月1日、日本で大きな変化がありました。食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度が完全施行されたのです。この制度は「使用を認める物質だけをリスト化し、それ以外は原則使用禁止にする」という仕組みで、食品関連の輸入ビジネスに直結します。


ポジティブリストとは何かを簡単に言うと、「合格した材料でなければ食品用製品に使えない」という制度です。令和2年(2020年)6月に施行され、5年間の経過措置期間を経て、令和7年6月1日をもって完全施行となりました。これが原則です。


フタル酸エステルとの関係ではどうなっているでしょうか?ポジティブリストには、DBP(フタル酸ジブチル)を除く5物質(BBP・DEHP・DNOP・DINP・DIDP)が掲載されています。ただし、それぞれ材質区分ごとに使用制限率が細かく設定されており、特にDEHP(最も検出頻度が高い物質)は「油脂及び脂肪性食品を含有する食品に接触する部分への使用が禁止」という特記事項があります。DEHPだけは例外です。


輸入者への実務的な影響として重要なのは、適合情報の伝達義務です。合成樹脂製の器具・容器包装を販売・製造・輸入する事業者は、ポジティブリスト適合であることを販売先(取引先)に説明しなければなりません。伝達方法の規定は特にありませんが、仕入先メーカーからの適合証明書や材料情報シートを整備しておくことが現実的な対応です。中国や東南アジアからプラスチック製食品容器・ラップ・保存容器などを輸入する事業者は、仕入先に確認を取るアクションが必要になります。これは使えそうです。


消費者庁の審議会資料(令和7年6月26日)によると、フタル酸エステルがポジティブリストで使用可能な範囲のすべての合成樹脂製品に使用された場合を想定した保守的な試算でも、市場に流通している合成樹脂製品では実際にフタル酸エステルが使用されているのは1%未満と推定されています。現状では極めて低い摂取量ですが、規制の枠組み自体は完全施行になっているため、書類不備による通関トラブルは起こりえます。


食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度の本格運用(大阪市立環境科学研究センター)|令和7年完全施行のポイントと経過措置の説明が詳細


フタル酸エステル規制で輸入時に起きる通関トラブルの実例

「0.1%以下だから大丈夫」と思って書類を出した結果、検疫所から追加証明書の提出を求められ手続きが止まった——これは実際に起きた輸入実務のトラブルです。


その事例はこうです。ある輸入代行業者が、中国製ぬいぐるみを輸入する際に食品検疫所へ届出をしました。フタル酸エステルの検査結果はDEHPが0.02%含有という数値でした。担当者は「0.1%以下だから問題なし」と判断して届出書類を提出しましたが、検疫所から「なぜDEHPが含まれているのか、メーカーの証明書を提出しなさい」という指導が入り、手続きがストップしたのです。


なぜそうなったのかというと、食品衛生法のQ&Aには以下のように明記されているからです。「0.1%の限度値は製造工程からのコンタミネーション等を考慮した限度値であり、フタル酸エステルの可塑剤としての意図的な使用を容認するものではない」。つまり、0.1%以下でも「意図的に使用していない」ことをメーカーが証明しなければならないのです。知らないと損する情報ですね。



  • 🔴 NG:「検出されたが0.1%以下なので問題なし」として書類提出→ 検疫所より意図的使用の確認を求める指導が入り、追加書類が必要になる

  • 🟡 注意:メーカー証明書を用意せず輸入届出→ 検出がある場合は製造工程コンタミの証明書が必要になる可能性がある

  • 🟢 OK:事前に仕入先から「非意図的混入の証明書」「材料由来証明書」を取得→ 検疫所の指導をあらかじめ回避できる


この問題は特にポリオレフィン(ポリプロピレン・ポリエチレン)製品でも起こりえます。一部のポリオレフィン類の製造では触媒として数ppm程度のフタル酸エステルが使われることがあり、この場合は「可塑剤としての使用ではない」として規制対象外になります。しかしそれをメーカーが書面で証明できなければ、通関の現場では同じようにトラブルになる可能性があります。


対応策としては、仕入先への「フタル酸エステル不使用証明書(Non-Phthalate Certificate)」または「材料成分表(Material Safety Data Sheet)」の取得依頼が有効です。輸入前に1枚取っておくだけで、検疫所とのやり取りをまるごとスキップできます。これだけ覚えておけばOKです。


輸入手続きでのフタル酸エステル証明書実例(通関士ブログ)|0.1%以下でも指導が入った実務事例と検疫所対応の詳細


フタル酸エステル規制の国際比較:日本・EU・米国・中国の違い

関税・輸入ビジネスをしていると「輸出先・輸入先の国によって規制が違う」という現実に直面します。フタル酸エステル規制は特にその差が顕著な分野の一つです。日本・EU・米国・中国では、規制対象物質の数・適用製品の範囲・基準値の設定方法がそれぞれ異なります。


日本は食品衛生法でおもちゃ・食品容器を中心に6物質を規制。2025年6月からポジティブリスト制度が完全施行となり、合成樹脂製の食品用器具・容器包装全体に適合情報の伝達義務が課されました。


EUが最も規制が厳しいと言われています。REACH規則のみでも25種類ものフタル酸エステルが何らかの規制を受けており、2020年7月からはREACH制限附属書XVIIにより全成形品でのDEHP・DBP・BBP・DIBPの合計0.1%規制が発動しました。さらにRoHS2.0で電子機器向けにも4物質が追加、おもちゃ指令でも別途6物質規制があります。つまりEUは複数の規制が重なっています。


米国ではCPSIAにより子ども用おもちゃ・育児用品に対し最新では8物質が0.1%以下という規制があります。また、カリフォルニア州のProposition 65(Prop65)では含有基準値ではなく「曝露リスク評価の実施または警告ラベルの貼付」が義務づけられており、含有量が少なくても対応が必要になるケースがある点が独特です。


中国では2024年6月に国家標準「GB/T 26572」が改正され、DEHP・BBP・DBP・DIBPの4物質が電子電気製品の制限対象物質に追加されました。また、乳幼児・子ども向け繊維製品に関するGB 31701でもフタル酸エステルが規制対象となっています。中国国内向け・中国からの輸入どちらにも影響します。


エコテックス®認証を取得した製品であれば、日本・EU・米国・中国を含む多くの市場で規制をまとめてクリアできる可能性があります。エコテックス®は現在25種類ものフタル酸エステルを規制対象にしており、認証取得ができると各国の主要規格に対応できる強みがあります。アパレルや繊維雑貨の輸入事業者にとっては、仕入先がエコテックス®認証を持っているかを確認することが、一括対応の近道になりえます。


































地域 主な規制 規制物質数 特徴
日本 食品衛生法 6物質 おもちゃ・容器包装。令和7年PL制度完全施行
EU REACH・RoHS2・おもちゃ指令 最大25物質 全成形品に適用。規制が最も広範
米国 CPSIA・Prop65 8物質 子ども向け製品。CA州は曝露評価義務
中国 GB/T 26572・GB 31701 4物質(電気電子) 2024年改正で4物質追加。子ども繊維にも適用


可塑剤の規制動向(日本可塑剤工業会)|EU・米国・日本のフタル酸エステル規制の変遷が年表形式でまとめられています


輸入ビジネスで今すぐできるフタル酸エステル規制への実務対応

規制の全体像がわかったところで、実際に輸入ビジネスをしている方が今日から取れる行動を整理します。規制の複雑さに圧倒されがちですが、実務上必要な対応は「製品カテゴリーの確認」→「対応法令の特定」→「仕入先への証明書依頼」の3ステップに整理できます。


ステップ1:輸入製品のカテゴリーを確認する


まず自分が輸入しようとしている製品が、フタル酸エステル規制の対象に入るかを確認します。対象になりやすい製品は次の通りです。



  • 🧸 乳幼児用おもちゃ・ぬいぐるみ(食品衛生法の指定おもちゃに該当する場合)

  • 🍱 食品用プラスチック容器・ラップ・トレー・ボトル(合成樹脂製の食品容器包装)

  • 👕 繊維製品・アパレル(ボタン・ファスナー・PVCコーティング製品)

  • 💻 電子・電気機器・ケーブル(RoHS2.0対応が必要な場合)

  • 🎒 PVC(塩ビ)を使ったバッグ・ポーチ・レインコートなど


ステップ2:輸出先・輸入先の法令を特定する


日本国内販売なら食品衛生法、EU向け輸出ならREACH・RoHS2、米国向けならCPSIA・Prop65、中国向け・中国からの輸入ならGB規格が適用されます。複数市場で販売する場合は最も厳しい規制に合わせることが原則です。


ステップ3:仕入先から証明書を取得する


仕入先(メーカー・サプライヤー)に対して依頼すべき書類は以下の通りです。



  • 📄 フタル酸エステル不使用宣言書(Non-Phthalate Declaration)

  • 📄 SGS・BV・インターテック等の第三者機関による試験報告書(Test Report)

  • 📄 ポジティブリスト適合証明書(食品容器包装の場合)

  • 📄 非意図的混入の証明書(微量でも検出がある場合)


第三者試験機関への試験依頼は国内でも可能です。ニッセンケン品質評価センター・日本食品分析センター・島津テクノリサーチなど、国内に実績のある機関が複数あります。試験の費用は物質数・製品カテゴリーにより異なりますが、フタル酸エステル6物質分析で数万円程度が目安です。貨物が通関で止まって保管料が積み重なることを考えれば、事前検査は割安な投資になります。


特に注意が必要なのは、令和7年6月以降に食品容器包装を輸入する場合です。ポジティブリスト制度の完全施行により、輸入した製品を販売する際に取引先へのポジティブリスト適合情報の伝達が義務になっています。単に「合格品です」と口頭で伝えるだけでは不十分で、材料の適合根拠を示す文書を用意しておく必要があります。これが条件です。


規制情報は頻繁にアップデートされます。消費者庁・厚生労働省経済産業省の公式サイトを定期的にチェックする習慣を持つことが、長期的なリスク管理につながります。


フタル酸エステルの取扱いについて(消費者庁・令和7年6月26日)|ポジティブリスト制度完全施行後のフタル酸エステルの位置づけと溶出規格の方針が確認できます