輸出産業円安メリット最大化の実務知識と注意点

円安が続く中、輸出産業にとって大きなチャンスと言われています。しかし通関業務従事者として知っておくべき実務上の注意点や、メリットを最大化するポイントは何でしょうか?

輸出産業円安メリット実務活用法

円安輸出企業の収益アップで万々歳と思っていませんか?

この記事の3ポイント
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価格競争力の向上メカニズム

円安時に海外市場で日本製品の価格優位性が生まれる仕組みと、通関業務での実務対応

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為替差益の具体的計算

外貨建て売上を円転換する際の利益増加の実例と、輸出企業が注意すべき落とし穴

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書類不備によるペナルティリスク

円安局面で取引量が増加した際の通関書類ミスと、高額なペナルティを回避する方法

輸出産業における円安時の価格競争力向上の仕組み


円安が進むと、海外市場では日本製品の価格が相対的に安くなります。どういうことでしょうか?
参考)輸出で円安のメリット・デメリットとは?輸出を成功させる方法も…


例えば1ドル=100円の時に100ドルで輸出していた商品は、現地では100ドルのままです。しかし為替が1ドル=150円になると、同じ100ドルの商品が日本円では10,000円から15,000円に増えます。つまり同じ現地価格でも、円換算の売上が5,000円増加するということですね。
参考)円安で輸出は本当に有利?中小企業が「儲かる」ための戦略とは

この仕組みが輸出企業に2つのメリットをもたらします。1つ目は現地価格を据え置いて為替差益を得る方法、2つ目は現地価格を下げて競合製品より安く販売し市場シェアを拡大する方法です。
参考)円安は輸出のビッグチャンス!?メリットを簡単解説


通関業務従事者として重要なのは、取引量増加に伴う申告書類の増加に備えることです。HSコードの正確な分類、インボイスとパッキングリストの整合性チェックが、これまで以上に重要になります。書類不備は滞船ペナルティや納期遅延を引き起こすからです。
参考)通関書類の不備ゼロで滞船ペナルティを根絶する体制|newji

円安局面では輸出機会が増えるため、日頃から書類テンプレートを標準化しておくと安心です。​

輸出産業の外貨建て売上における為替差益の実例

円安による為替差益は、輸出企業の利益を大きく押し上げます。具体的にどれほどの差が生まれるのでしょうか?
参考)トランプ関税でドル安進行 「円高メリット」関連株が上昇


1ドル=100円の時に1万ドルの売上があった企業は、日本円で100万円の売上になります。しかし為替が1ドル=150円になると、同じ1万ドルの売上が150万円になり、50万円の増収です。つまり商品を1つも多く売らなくても、為替変動だけで売上が50%増加します。​
2022年度上期には、自動車業界を中心に輸出の多い企業が円安メリットで大きな利益を上げました。海外売上比率の高いグローバル企業ほど、円安の恩恵が大きくなります。
参考)円安が国内製造業へもたらす影響/メリット・デメリット|金属・…

ただし注意点があります。輸出企業は原材料や部品を海外から輸入しているケースが多いため、円安になると仕入れ価格も上昇します。実際に円安で利益となるのは、輸出と輸入の差額分のみです。
参考)製造業復活は難しい? もう“円安”でも輸出企業が儲かるわけで…

例えば100円で部品を輸入し200円で完成品を輸出していた場合、利益が出るのは差額の100円分だけということですね。​

輸出産業の円安メリットを損なう書類不備とペナルティ

円安で輸出取引が増加すると、通関書類の不備も増える傾向があります。インボイスの品番相違、パッキングリストと実物数量の不一致、HSコードの誤記載などのヒューマンエラーが頻繁に見られます。​
書類不備は深刻な結果を招きます。輸出した貨物が相手国で輸入通関を通らず、すべて没収された事例もあります。理由は貨物の中の1アイテムの数量が、InvoiceとPacking Listの記載数量より多かったためです。
参考)ミスをしてはいけない理由 ~輸出入書類~ - 国際ハンドキャ…

関税法では、偽った申告や証明、または偽った書類を提出して貨物を輸出した者は、5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金に処せられます。貨物の価格の5倍が1000万円を超える場合は、罰金は価格の5倍以下とされます。厳しいところですね。​
通関書類の不備による滞船は、ペナルティや納期遅延を引き起こします。これらのコストは、せっかくの円安メリットを大幅に減らしてしまいます。​
円安による取引量増加時こそ、全社統一フォーマットでの書類整備と、複数人によるダブルチェック体制が必須です。​

輸出産業が円安時に活用すべき為替予約の実務

円安が進んでいる今、将来の円高リスクに備える必要があります。そのための有効な手段が為替予約です。
参考)わかりやすい用語集 解説:輸出予約(ゆしゅつよやく)


為替予約とは、輸出企業が外国為替市場でドル売りなど外貨売りの予約をすることです。企業が輸出代金の支払いの際に、現時点の為替レートで将来の円をドルに交換できる約束をしておくことです。​
為替予約のメリットは2つあります。1つ目は円高が進んでも予約時点以降は損失を計上しなくて済むこと、2つ目は早期利益確定により運用予定を立てやすいことです。取引時のレートを固定できるので、将来的に円高が進んだとしても為替差損はそれ以上生まれません。
参考)為替予約のメリットとデメリット!為替相場だけじゃない?|サン…

デメリットは、円安となった場合に得られたはずの利益が得られない点です。例えば1ドル=150円で予約した後、1ドル=160円になっても、150円で決済することになります。つまり10円分の利益を逃すということですね。​
通関業務従事者としては、為替予約を行った取引の申告時に、予約レートと実際のレートの差異を理解しておくと、企業の収益構造が把握しやすくなります。

輸出産業の決済コスト削減による円安メリット最大化

円安時の輸出ビジネスでは、決済コストの削減が利益最大化の鍵になります。意外なことに、送金手数料と為替レートのマージンが利益を大きく圧迫しているからです。
参考)円安時代の輸出ビジネス、利益を最大化する決済術

従来の銀行を使った海外送金では、1回あたり3,000円~7,000円の手数料がかかります。さらに中継銀行手数料が加算されることもあり、小規模な取引では手数料が利益を圧迫してしまいます。加えて銀行の為替レートには通常2~4%のマージンが上乗せされています。100万円の送金で2~4万円も余分なコストがかかる計算です。​
ある輸出業者の事例では、月間20件の送金で手数料だけで10万円、為替差損で約15万円、合計25万円ものコストがかかっていました。しかし決済方法を見直し、より効率的な送金サービスに切り替えた結果、月間コストは約2万円まで削減され、年間で276万円もの経費削減に成功しました。痛いですね。​
具体的な改善策は3つあります。1つ目は実勢レート(ミッドマーケットレート)に近いレートで送金できるサービスを選ぶこと、2つ目は送金手数料が低額なサービスを活用すること、3つ目は着金までの時間を短縮して為替変動リスクを減らすことです。​
通関業務従事者として、決済方法の効率化を輸出企業に提案することで、円安メリットをさらに引き出せます。

輸出数量増加と円安の関係における誤解

「円安になれば輸出数量が自動的に増える」と考えていませんか? これは実は誤解です。
参考)https://journals.scholarpublishing.org/index.php/ABR/article/download/8073/4924


円安で輸出数量が増えるメカニズムは、一般的には次の通りとされています。1ドル=100円の状態で製品を1ドルで輸出していた企業が、為替が1ドル=120円になると日本円ベースでの売上高が120円に増えます。このため現地価格を下げる余地が生まれ、販売数量が増加するはずです。​
しかし実証研究では、アベノミクス後の日本円の減価にもかかわらず、輸出数量の増加は確認されませんでした。為替と輸出数量の間に強い関係性は見られなかったのです。​
さらにグローバル金融危機(GFC)以降、日本企業は下位レベルの商品や部品・コンポーネントの生産をアジア諸国にオフショア化しました。このため円安になっても、日本からの輸出が増えると同時に海外子会社からの部品・コンポーネント輸入も増加するため、機械輸出はあまり刺激されなくなりました。つまり円安が輸出数量増加につながるとは限らないということですね。
参考)https://www.mdpi.com/2227-7099/12/6/133

通関業務従事者としては、円安時でも必ずしも業務量が増えるわけではないことを理解しておくと、現実的な業務計画が立てられます。




世界の原発産業と日本の原発輸出