輸入物価が下がっても、あなたの輸入コストは1.42倍に膨らんでいます。
輸入物価指数とは、日本が海外から輸入する財の価格変動を指数化したものです。日本銀行が毎月公表している「企業物価指数(CGPI)」の一部として、国内企業物価指数・輸出物価指数とともに発表されます。基準年(現在は2020年)の価格水準を100として、それ以降の価格変化を数値で示す仕組みです。
この指数は「円ベース」と「契約通貨ベース」の2種類があります。つまり2種類あることが重要です。
円ベース指数は、日本円に換算した価格の変動を表すため、為替レートの動きが大きく反映されます。一方、契約通貨ベース指数は、取引に使われたドルやユーロなどの外貨建てのままで計算するため、商品そのものの価格変動(資源相場・需給バランス・関税など)を純粋に反映します。関税が輸入品に課された場合、そのコスト上昇は商品価格に組み込まれるため、契約通貨ベースの指数に先行して現れやすい性質があります。
グラフを読む際は、この2本の線の「開き具合」に注目してください。円安局面では円ベースが契約通貨ベースを大きく上回り、円高局面では逆に縮まります。2025年以降のように為替が一定程度落ち着いている場合でも、契約通貨ベースが上昇していれば、それは関税や資源高など「円安以外の要因」による輸入コスト上昇を意味します。これが条件です。
グラフの縦軸は指数値(2020年=100)、横軸は月次の時系列です。急騰した時期・踊り場・反落の局面を把握するだけで、輸入品のコスト構造が見えてきます。
参考として、日本銀行が公式に公表している企業物価指数のデータ一覧が以下のページで確認できます。月次データは無料でCSV形式でもダウンロード可能です。
企業物価指数(日本銀行)— 輸入物価指数の月次データや詳細な品目別データを公式公表。グラフ閲覧にも対応しています。
2020年以降の輸入物価指数(円ベース)は、非常に激しい動きを見せています。2020年5月に最安値93.5を記録した後、原油価格の回復・ウクライナ侵攻による資源高・急激な円安が重なり、2022年9月に過去最高値の189にまで急騰しました。
189という数字は、2020年の輸入コストが約2倍近くになったことを意味します。たとえば月100万円分の輸入品を扱っていた企業は、同じ量の輸入に189万円以上かかるような状況になった、というイメージです。これは痛いですね。
その後、資源価格の落ち着きや円高方向への修正を受けて指数は低下しましたが、2026年1月時点でも166.8という高水準を維持しています。平均値は138.4であり、コロナ前の水準(100前後)にはまったく戻っていません。
| 時期 | 輸入物価指数(円ベース) | 主な背景 |
|---|---|---|
| 2020年5月 | 93.5(最安値) | コロナ禍による需要急落・原油暴落 |
| 2022年9月 | 189(過去最高値) | 資源高・急激な円安・ウクライナ情勢 |
| 2024年7月 | 約165前後 | 円安継続・輸入物価前年比+10.8% |
| 2026年1月 | 166.8 | 円安再加速・関税懸念・非鉄金属高 |
大和総研・第一生命経済研究所など複数のシンクタンクは、2026年以降も輸入物価が高止まりすると見ており、関税を加味した実質輸入コストが家計・企業双方を圧迫し続けると指摘しています。
参考:輸入物価指数グラフの最新値・月次推移を視覚的に確認できるページです。円ベース・契約通貨ベースそれぞれのグラフを比較したいときに便利です。
GD Freak!:輸入物価指数(総平均)の推移グラフ(円ベース)
輸入物価指数のグラフを見るとき、円ベースか契約通貨ベースかの違いを理解しておかないと、読み誤る可能性があります。これは必須です。
円ベース指数は「日本の輸入企業が実際に支払う円換算後のコスト」を反映します。外貨建てで取引された分は円換算されるため、円が安くなると円ベースは自動的に押し上げられます。たとえばドル建て商品が1ドル100円の時期に輸入していたものが、150円になるだけで、商品価格が変わらなくても円ベース指数は50%上昇します。
契約通貨ベース指数は、取引に使われた外貨(ドル・ユーロなど)でそのまま計算した価格指数です。為替の影響を除外しているため、資源市況の変動や関税コスト、海外サプライヤーの価格改定などがそのまま現れます。
関税影響を正確に読むなら、契約通貨ベースが基本です。
たとえばトランプ政権下で米国が中国製品に追加関税を課した場合、中国からの輸入品を再輸入するルートや、米国向け部品の価格が上昇するなどの波及効果が生じます。これが契約通貨ベースの指数に反映されます。円ベースだけを見ていると、「円安のせいで上がった」と誤解するリスクがあります。
実際に日本銀行の「経済・物価情勢の展望」(2026年1月)では、輸入物価の円ベース上昇について「契約通貨ベースでは原油価格の低下を主因に緩やかな下落を続けてきたが、為替円安に加え、非鉄金属価格の上昇が重なり円ベースでは上昇した」と分析しています。2本の線を見比べることで初めて、何が主因かがわかります。
関税を扱うビジネス担当者や輸入コストを管理する担当者にとっては、日銀が毎月公表する企業物価指数のリリース資料(PDF)を確認し、円ベースと契約通貨ベースの両方の動きをチェックするのが基本的な習慣です。
関税が引き上げられたとき、その影響がすぐに家庭の買い物価格に反映されるわけではありません。輸入物価指数の上昇が消費者物価指数(CPI)に転嫁されるまでには、一定の「タイムラグ」が存在します。
その構造はシンプルです。関税引き上げ→輸入物価指数が上昇→企業が仕入れコストを吸収→利幅圧縮か小売価格への転嫁→CPIへの反映、という流れです。この全工程に、通常数カ月から半年程度かかることが多く、輸入物価の動きを先行指標として読めば、今後の物価上昇をある程度先読みできます。
これは使えそうです。
たとえば2022年の事例では、輸入物価指数が急騰した後、消費者物価指数が本格的に上昇し始めたのは数カ月後でした。厚生労働省の「令和6年版 労働経済の分析」でも「2020年以降の輸入物価の高騰が徐々に国内物価に波及した」と明記されています。
さらに、2025年のトランプ関税に関する事例では、米国内において関税強化が始まった3月以降、輸入品価格は4%上昇した一方、国内製品価格の上昇率は2%にとどまったというロイターの分析があります。つまり、輸入物価の上昇幅が即座に消費者価格に全額転嫁されるわけではなく、企業がいったんコストを吸収する局面が挟まることが多いのです。
また、2026年2月のNY連銀の分析では、トランプ関税コストの約90%が米消費者・企業側に転嫁されていることが明らかになっています。輸入物価が上がれば最終的には消費者コスト増に直結する、ということが改めて示されました。
関税動向を注視している方は、輸入物価指数の推移グラフを月次でモニタリングし、そこから数カ月後のCPI動向を予測する視点を持つと、価格戦略・仕入れ交渉・為替ヘッジの判断に役立てられます。
参考:2024年時点の国内企業物価指数・輸入物価指数の推移を比較したグラフを、厚生労働省の白書で確認できます。
厚生労働省:令和6年版 労働経済の分析 第1-(1)-9図 輸入物価指数の推移
一般的な経済の常識として「価格が上がれば需要は減る」と考えがちです。輸入物価が高騰すれば輸入量が減り、国産品へのシフトが起きるはずだ、と思うのが自然な発想でしょう。
ところが、データはその逆を示しています。意外ですね。
第一生命経済研究所(熊野英生氏)の分析によれば、2020年以降に輸入デフレーターが1.42倍に上昇したにもかかわらず、実質輸入は同期間に9.2%も増加しています。これは実質GDP成長率2.6%を大幅に上回るペースです。価格が上がっても、輸入数量が増えている。これが構造的な変化の証拠です。
その理由として注目されるのが2点です。
特にデジタル赤字の側面は関税との関係でも重要です。物理的な輸入品に課税する関税は、デジタルサービスの輸入には直接適用されないケースが多いため、関税を強化しても日本のデジタル赤字は縮小しにくい構造があります。
また、経済産業省「鉱工業出荷内訳表」を使った分析では、財の輸入浸透度(総供給に占める輸入の割合)が2019年以前の22%前後から上昇傾向に転じており、資本財(IT機器、太陽光パネル関連、5G基地局など)分野での中国製品シェア拡大が顕著です。輸入物価指数のグラフが高止まりしている背景には、こうした競争力の変化も見え隠れしているわけです。
輸入コスト削減を検討している事業者にとっては、単に「輸入物価が下がるのを待つ」だけでなく、調達先の分散・為替ヘッジ・国内代替品の検討といった多角的なアプローチが有効です。特に調達先の分散については、輸入物価指数の品目別内訳(エネルギー・化学製品・電気機器など)を定期的に確認し、上昇が著しい品目のサプライヤー構成を見直す判断材料に活用できます。
輸入物価指数のグラフは、ただ「物価が高いか低いか」を確認する指標ではありません。関税の動向をいち早くビジネスに織り込むための「先行指標」として活用できます。
まず押さえておきたいのは、関税変更のアナウンスから実際の輸入物価への反映、そしてCPIへの波及まで、少なくとも1〜3カ月のタイムラグが存在するという点です。これが条件です。
具体的には以下のような手順で先読みができます。
実際に2025年のトランプ関税導入局面では、JETROが発表した6月CPIデータにあるように、関税引き上げに伴う価格転嫁の影響が消費者物価指数に現れ始めたのは、関税強化から約3カ月後でした。輸入物価指数を3カ月前倒しで見ておけば、その変化は事前に察知できていたことになります。
これは使えそうです。
為替の急変による輸入コスト増は、特に中小の輸入事業者にとって死活問題になります。「円ベースの輸入物価指数が前年比で10%を超えてきたら警戒フェーズ」という自社基準を設けておくだけでも、対応の初動が変わります。
なお、輸入物価指数に加えて「交易条件」(輸出物価指数÷輸入物価指数)も一緒に見ておくと、日本全体として輸入コスト増をどの程度輸出で取り返せているかがわかります。交易条件が悪化している時期は、国内に購買力が残りにくく、賃上げ余力も削られます。日本の実質賃金との連動性が高い指標でもあるため、マクロな視野で輸入物価を捉えたい場合にも有効です。
参考:交易条件と賃上げの関係について、専門的かつわかりやすく解説しています。輸入物価指数を使った実質賃金への影響を理解するうえで参考になります。