アリエクの「ラストマイル配送予測」表示が出ているのに、荷物はまだ輸入通関すら始まっていないケースがあります。
アリエクスプレス(以下アリエク)の追跡画面に突然表示される「Last-mile delivery forecast(ラストマイル配送予測)」。この表記を初めて見た通関業者や輸入担当者の多くは、「荷物が税関を通過し、いよいよ国内配送に入った」と受け取ることが多いようです。しかし、実際のステータスはやや違います。
Reddit上のアリエクユーザーコミュニティでも2025年10月時点で確認されているとおり、このメッセージは「荷物が空港に到着し、まもなく輸入通関手続きが始まる」という段階で表示されるケースが報告されています。つまり、通関が完了した後ではなく、通関手続きに入る直前の予告に近いニュアンスです。
これは通関業者の視点で考えると非常に重要な違いです。「ラストマイル配送予測」が出た時点では、まだ税関の審査・検査が済んでいない荷物である可能性が高く、輸入許可番号も発行されていません。国内ラストマイルを担う運送会社(ヤマト運輸、佐川急便、エスポリア等)に引き渡されるのは、あくまで輸入許可の後になります。
つまり通関前段階の表示ということですね。
アリエクの物流を実質的に管理しているのはアリババグループの物流子会社「Cainiao(菜鳥)」で、同社のグローバル追跡システム「GOT(Global Order Tracking)」がアリエク内の配送ステータスに反映されています。このCainiaoが独自の配送予測アルゴリズムをもとに「もうすぐラストマイルに入る」と判断した段階で表示を出すため、実際の通関処理の完了とは必ずしも連動していません。
日本へのアリエク標準配送(AliExpress Standard Shipping)の場合、国内のラストマイルキャリアにはエスポリア(ESPOIRER)が多く使われており、同社はヤマト運輸・佐川急便・西濃運輸・トナミ運輸と提携して最終配達を行っています。追跡番号がCainiaoの番号からエスポリアの国内番号に切り替わるタイミングが、実際の「ラストマイル配送開始」にあたります。
通関業者として荷主から問い合わせを受けた際に、アリエク内のステータス表記だけで回答することにはリスクがあります。必ずNACCS照会や税関への確認、あるいはCainiaoのGOT画面での追跡と合わせて判断することが基本です。
「アリエクの荷物なんて小口でしょ」と思っていると、現場感覚と大きくズレが生じます。
2024年(1〜12月)のNACCSトラフィック件数は前年比20.0%増の約11億5,300万件に達しました。なかでも輸入関係業務は前年比30.1%増の6億7,776万8,931件という記録的な数字です(輸出入・港湾関連情報処理センター、2025年3月発表)。この急増の主因は越境ECの拡大、とりわけアリエク・Temu・SHEINといった中国系プラットフォームからの個人向け小口輸入貨物です。
数字のイメージとして、1日あたりの輸入関係業務件数を単純換算すると約185万件。東京ドームの収容人数(約5万5,000人)の約33倍の件数が、毎日NACCSを通じて処理されている計算になります。これだけの件数が短時間に集中する搬入確認業務として処理されるため、成田空港では平時でも越境EC関連の輸入小口貨物が大量到着すると輸入業務全体が遅延する状態が慢性化してきたと複数の業界紙が報告しています。
世界の越境EC小売市場規模(Euromonitor International調べ)は2024年に5,210億ドルに達し、2015年から約5倍になっています。日本の越境EC輸入はその中でも中国からの流入が突出しており、アリエクのラストマイル配送予測件数が増えることは、そのまま通関業者の業務量増加に直結します。
問題はその解消策です。財務省・税関は2024年10月から海上小口貨物の簡易通関制度を導入し、2025年に向けて処理能力の5割増強を目指してきました。しかし、簡易・迅速な通関手続きを悪用した不正事案(品名・価格偽装、知的財産侵害物品の混入)も増加しており、体制強化だけでは追いつかない状況が続いています。
通関業者にとって、アリエク関連の輸入小口貨物は「単価は小さくても件数が膨大」という性質を持ちます。1件あたりの利益は薄くても、件数の増大が全体の業務逼迫と申告誤りのリスク上昇を招く構造は、現場の担当者が最も感じている課題です。
NACCSトラフィック件数の2024年データ詳細(Daily Cargo、2025年3月12日)
越境EC急増の影響は、通関の実務手続きの根幹にまで及んできました。
財務省・税関は2026年3月10日、マニフェスト等による輸入申告(マニフェスト申告)と予備審査制の運用見直しを発表し、令和8年(2026年)4月1日から適用を開始すると明示しました。この見直しの背景として税関が明示しているのが、越境ECの拡大に伴う輸入件数増加と、それに乗じた不適正申告の多発です。
マニフェスト申告は本来、課税価格1万円以下の輸入小口貨物を対象に、申告項目を大幅に簡素化して迅速な通関を認める制度です。アリエクを含む越境EC貨物の多くはまさにこの制度の対象となっており、多数の通関業者がマニフェスト申告を活用して処理量をこなしてきました。
問題はここです。一部の通関業者では、仕出人名・輸入者名・品名・数量・価格等の誤申告が継続して行われたり、知的財産侵害物品の混入が多発したり、短期間で多くの申告撤回が繰り返されてきた事例が確認されています。税関から申告内容に関する問い合わせに長期間回答がないケースも報告されています。
2026年4月以降の変更点を整理すると、下記のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 不適正申告を繰り返す通関業者 |
| 措置内容 | マニフェスト申告・予備審査制の利用停止 |
| 除外 | AEO通関業者(認定通関業者)は対象外 |
| 再開条件 | 改善策を講じ、税関が適正と判断した場合 |
利用停止は大きなリスクです。
マニフェスト申告を使えなくなると、アリエク関連の小口貨物であっても通常の輸入申告(品目ごとの詳細記載)が必要になり、1件あたりの処理時間が大幅に増加します。これは処理能力の低下とコスト上昇に直結します。
そこで重要になるのが「AEO通関業者(認定通関業者)」の資格です。AEO(Authorized Economic Operator)認定を取得した通関業者は今回の利用停止対象から除かれます。認定を受けていない業者にとっては、適正申告の徹底が今まで以上に急務となっています。
税関:マニフェスト等による輸入申告・予備審査制の見直し(令和8年3月10日発表)
通関業者が荷主(輸入者)から「アリエクでラストマイル配送予測と出ているのにまだ届かない。何かあったのか」と問い合わせを受けるケースは、越境EC急増とともに年々増加しています。対応に困らないために、追跡情報の読み方のリテラシーを整理しておくことが実務上の武器になります。
まず、アリエクの追跡表示はCainiaoのGOT(Global Order Tracking)に依存しているため、実際の物流ステータスとタイムラグが生じやすい構造があることを前提に置く必要があります。アリエクの『配達情報』と『配達予測時間』は目安にすぎず、すでに到着しているのに配送ステータスが完了にならないケースや、逆にまだ税関通過前なのに「税関を通過済み」と表示されるケースが実際に起きています。
アリエクのラストマイル配送に関わる代表的な追跡ツールと特徴を以下に示します。
| ツール・システム | 特徴・用途 |
|---|---|
| Cainiao GOT(アリエク内) | 基本追跡。タイムラグあり・台湾ポスト非対応 |
| NACCS照会 | 輸入許可の発行確認。税関通過の確定判断に使う |
| エスポリア追跡 | 国内ラストマイルの実際の配送状況を確認 |
| 17track / Parcelsapp | マルチキャリア対応。複数業者をまとめて追跡可能 |
| 日本郵政・ヤマト・佐川 | 国内引き渡し後の最終追跡 |
通関業者として荷主の問い合わせに対応する際の実務上のフローは次のように整理できます。まず「ラストマイル配送予測」表示を確認したら、NACCSで輸入許可の有無を照会します。許可が出ていれば国内ラストマイルキャリアの追跡番号(エスポリア等)に切り替えて状況を確認する。許可が出ていなければ税関での審査中として荷主に正確な情報を伝える、という流れが基本です。
複数ツールでの照合が原則です。
アリエク上の配達予測時間自体もずれが大きく、標準配送(AliExpress Standard Shipping)では10〜20日程度が目安とされていますが、セール時期(11月〜1月)や税関混雑時には大幅に遅延することがあります。荷主に「いつ届くか」を問われた際は、「アリエク表示の予測日はあくまで目安で、通関混雑や配送業者への引き渡しタイミングにより前後する」と説明することが正確な対応です。
また、アリエクでは送料無料の無記録郵便(追跡不可)と追跡可能便が混在しているため、追跡番号の末尾を見て判断する習慣を持つことも重要です。追跡番号末尾が「JP」なら日本郵政系、末尾が「TW」なら台湾ポストで追跡反映が極端に遅いという特性があります。
越境ECの爆発的な拡大を受け、ラストマイル配送領域ではAIを活用した需要予測と配送ルート最適化が急速に普及しつつあります。通関業者にとっても、この動きを単なる「物流の話」として見過ごすことはできません。
AI系のラストマイル配送最適化システムでは、過去の販売データ・季節変動・IoTセンサー情報を組み合わせて配送需要を予測し、配送ルートの最適化を自動で行います。Recursive AI社が提供するラストマイル配送向けAIは、需要予測モデルと配送ルート最適化モデルを組み合わせることで、配送コストの削減と遅延リスクの低減を同時に実現するとしています。
通関業務においても、AIの活用は進んでいます。AI通関システム「CustPro」(Terabox)は、従来の煩雑な通関業務を最短5分で完了し、人件費80%削減・業務効率90%向上を実現するとしています。越境EC小口貨物の急増で人的リソースが限界に近づきつつある通関現場において、AI支援による申告自動化は現実的な対応手段になりつつあります。
こうした変化の中で、通関業者が対応すべき方向性は以下の3点に整理されます。
独自の視点として見落とされがちなのが「荷主教育コスト」の問題です。アリエクを利用する輸入者(荷主)が「ラストマイル配送予測と出たのになぜ届かないのか」という問い合わせを繰り返すことは、通関業者の対応工数を静かに増大させています。荷主向けの簡単な追跡ガイドを作成・配布するだけで、1件あたりの問い合わせ対応時間を大幅に削減できます。これはコストゼロで取り組める業務効率化として見直す価値があります。
ラストマイル配送関連の追跡情報の読み方を荷主に事前説明することが、中長期的な業務負荷の軽減につながるということですね。
AI通関や追跡自動化ツールの選定にあたっては、まず自社がNACCSで処理している越境EC小口貨物の月間件数を確認し、そのボリュームと照らし合わせて費用対効果を評価する、という一歩から始めることが現実的です。
Recursive AI:需要予測モデルと配送ルート最適化モデルを組み合わせたラストマイル配送AIの詳細