正社員が20人以下でもパートを含めると届出義務が生じることがあります。
PRTR制度とは「化学物質排出移動届出制度(Pollutant Release and Transfer Register)」の略称で、有害性のある化学物質が事業活動を通じて環境にどれだけ排出されたか、または廃棄物として外部に移動したかを、事業者自身が把握して国に届け出る仕組みです。この制度は「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(通称:化管法)に基づいており、2001年から運用されています。
届出は年に1回、毎年4月1日から6月30日の間に、前年度分(前年4月~当年3月)の実績を提出します。事業者全体でまとめて1件提出するのではなく、事業所ごと・化学物質の種類ごとに個別に届け出る必要がある点が重要です。これは見落としやすい仕様です。
国は提出されたデータを集計し、家庭・自動車などからの推計排出量も加えて毎年公表します。この公表データは誰でも閲覧でき、個別の事業所名や排出量まで確認できるため、企業の透明性・社会的責任(CSR)の観点からも対応の質が問われます。
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| 排出量 | 大気・水域・土壌への排出量、埋立処分量 |
| 移動量 | 下水道への移動量、廃棄物として外部に移動した量 |
| 届出単位 | 事業所ごと・対象物質ごと |
| 届出期間 | 毎年4月1日〜6月30日 |
PRTR制度は環境保全だけが目的ではありません。つまり、自社の排出量を把握するプロセス自体が、原材料ロスの発見やコスト削減のチャンスになります。「なぜ届け出るのか」という意味をしっかり理解しておくと、担当業務の意義が見えてきます。
以下は経済産業省によるPRTR制度の対象事業者の公式解説ページです。判定フロー図も掲載されており、自社が対象かどうかを確認する際の出発点として活用できます。
経済産業省:PRTR制度 対象事業者(業種・従業員数・取扱量の3要件を解説)
PRTR制度に基づく届出義務は、すべての企業に課されるものではありません。法令で定められた3つの要件をすべて満たした事業者のみが対象となります。1つでも外れていれば届出は不要です。
要件①:政令で指定された24の対象業種に属する
まず、自社の事業が指定24業種のいずれかに該当しているかどうかを確認します。製造業全般はもちろん、電気業・ガス業・下水道業・倉庫業(貯蔵タンクを用いる場合のみ)・自動車整備業・医療業・高等教育機関なども含まれます。これが原則です。
重要なのは、主たる業種が非対象でも、従たる業種(兼業)が24業種に該当すれば対象になる点です。たとえば建設業が主力でも、自社工場内で製品の塗装を行っていれば「製造業」として対象になりえます。
要件②:常時使用する従業員数が21人以上
この判定は個別の工場・事業所単位ではなく、本社・支社・出張所を含めた事業者全体の合計人数で行います。よくある勘違いは「うちの工場は15人だから関係ない」という判断です。全社で21人以上いれば、工場ごとの人数が少なくても要件を満たします。
さらに、「正社員だけで20人以下だから問題ない」も間違いです。パートタイムやアルバイトでも、一定条件(1ヶ月超の雇用期間、または直前2ヶ月に18日以上勤務)を満たす場合はカウントされます。厳しいところですね。逆に、他企業への派遣者・出向者は自社の従業員数に含めません。
要件③:第一種指定化学物質の年間取扱量が1トン以上
対象となる化学物質(第一種指定化学物質)の年間製造量と使用量の合計が、事業所単位で1トン以上であれば届出が必要です。発がん性などが特に懸念される「特定第一種指定化学物質」(23物質)については、より厳しい0.5トン以上が基準になります。
取扱量の計算には盲点があります。排出量がゼロだとしても、規定量を取り扱っていれば届出は必要です(その場合は0.0kgとして届出)。また、固形の金属材料でも研磨・溶接・切削を行えば対象となる場合があります。いいことですね、事前に確認できれば漏れを防げます。
経済産業省:PRTR届出、誤解しやすい15のポイント(見落としやすいケースを網羅)
PRTR制度で管理対象となる化学物質は「第一種指定化学物質」と呼ばれ、現在515物質が指定されています。これは2023年4月施行の政令改正によって462物質から大幅に増えた数字です。2022年度までは対象外だった物質が新たに届出対象となっているため、以前確認したことがある事業者でも最新情報の再確認が必要です。
| 区分 | 物質数 | 取扱量の基準 | 代表的な物質 |
|---|---|---|---|
| 特定第一種指定化学物質 | 23物質 | 0.5トン以上 | ベンゼン・ダイオキシン類・石綿(アスベスト) |
| 第一種指定化学物質(上記以外) | 492物質 | 1トン以上 | トルエン・キシレン・鉛・水銀など |
特定第一種は、発がん性・生殖毒性・強い生態毒性などを持ち、難分解性・高蓄積性が認められる物質群です。基準値が通常の半分(0.5トン)に設定されていることからも、特別な管理が求められる物質だということがわかります。
対象物質に含まれるかどうかは、SDSで確認するのが実務上の基本です。SDSは最新版を参照することが前提で、令和5年度から対象外になった物質・新たに追加された物質があります。SDSは最新版が必須です。
実務上の注意点として、「製品中の含有率が1%未満(特定第一種は0.1%未満)であれば取扱量に含めなくてよい」という例外があります。ただし、以下のケースは対象外にならないため注意が必要です。
経済産業省:PRTR制度 対象化学物質(515物質のリストダウンロードも可能)
自社が届出対象事業者に該当することが確認できたら、次は実際の届出手続きに移ります。年に1度しかない手続きですが、初めての担当者には複数のステップがあってわかりにくいこともあります。ここでは全体の流れを整理します。
ステップ1:取扱量の集計と届出対象物質の特定
まず、自事業所で取り扱った第一種指定化学物質の種類と年間取扱量を集計します。このとき、SDSの最新版に記載されている含有成分をもとに、製造量・使用量のそれぞれを足した「年間取扱量」を算出します。1トン以上(特定第一種は0.5トン以上)の物質が届出対象です。
ステップ2:排出量・移動量の算出
取扱量の集計後、各物質が大気・水域・土壌などへどれだけ排出・移動したかを計算します。実測が難しい場合は、経済産業省が公表しているPRTR排出量等算出マニュアル(令和7年3月版)に記載の排出係数や物質収支を使って計算します。排出量がゼロの場合も「0.0kg」として届出が必要です。これが条件です。
ステップ3:届出書の作成と提出
届出方法は「電子届出」「磁気ディスク届出」「書面届出」の3種類ですが、現在は電子届出が推奨されています。電子届出を行うには、事前に都道府県の窓口へ「電子情報処理組織使用届出書」を提出してIDとパスワードを取得する必要があります。
届出の提出先は事業所が所在する都道府県です。本社が東京にあっても、対象工場が大阪にあれば大阪府に届出します。また、1つの事業所が複数の対象物質を取り扱う場合、物質ごとに別紙を作成して提出します。電子届出システムでは前年度の届出内容を引き継げるため、2年目以降は大幅に作業が楽になります。これは使えそうです。
NITE(製品評価技術基盤機構):届出対象事業者の判定フローチャート(オンラインで確認可能)
PRTR制度への対応を怠った場合のリスクは、単なる金銭的なペナルティにとどまりません。化管法では、届出をしなかった事業者または虚偽の届出をした事業者に対して、20万円以下の過料が定められています。金額だけを見ると大きくないように思えるかもしれませんが、法令違反という事実が公になることで生じるレピュテーションリスクのほうが企業経営には深刻です。
近年、サプライチェーン上の取引先が環境法令の遵守状況を審査するケースが増えています。PRTR届出が義務であるにもかかわらず、長年にわたって未届出であったことが判明すれば、取引停止・入札資格の失効・融資条件の見直しなど、経営全体に波及するリスクがあります。痛いですね。
一方で、適切にPRTR制度に取り組むことでメリットも生まれます。排出量を定期的に把握することは、原材料がどこでロスしているかを特定するきっかけになります。たとえば、年間1トンのトルエンを使用しているにもかかわらず大気排出量が500kgを超えている場合、回収設備の不備や作業手順の問題が浮き彫りになります。この課題を改善するだけで、年間数十万円規模の原材料費削減につながった事例も報告されています。
また、PRTR公表データには競合他社や取引先の排出状況も含まれており、業界全体の化学物質管理水準をベンチマークする情報源としても活用できます。ESG投資や環境格付けが重視される現代において、化学物質管理の透明性は企業価値に直結します。
化学物質管理の実務負担を軽減したい場合、SDS(安全データシート)の一元管理ツールの導入も選択肢の1つです。対象物質の含有情報やリスクアセスメント結果をシステムで一元管理できれば、年次のPRTR集計作業も大幅に効率化できます。まずは自社のSDS管理状況を点検するところから始めると、PRTR対応の全体像が見えてきます。
環境省:PRTRインフォメーション広場(公表データの閲覧・事業所別排出量の確認)