化審法対象物質の輸入なのに、リスクアセスメント未実施で通関させてしまうと輸入承認取消になります。
労働安全衛生法により、化学物質のリスクアセスメントは全ての業種・企業規模で義務化されています。2024年4月の改正で対象物質は約2900物質以上に拡大され、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された全ての物質が順次追加されました。
参考)化学物質のリスクアセスメント5つの実施フローとは?3つの対象…
通関業務従事者も例外ではありません。化学品の保管・運搬のみを行う運送業者であっても、労働者が化学物質にばく露する可能性がある場合は実施が必要です。違反した場合、刑事罰や行政制裁の対象となる可能性があります。
参考)化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)|厚生労…
対象物質の見分け方として、重量濃度が裾切り値未満のものは適用除外となります。この裾切り値はGHS分類結果に基づいて物質ごとに定められており、通常1%または0.1%です。つまり基準値以上なら義務対象です。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/reports/H25_sc_tyousa5.pdf
実施結果は3年間保存が必須で、がん原性物質については作業記録を30年間保存する必要があります。記録義務違反も法令違反となるため、輸入者から通関業者への情報共有体制の整備が不可欠です。
参考)KEK環境安全管理室|2025年度化学物質リスクアセスメント…
リスクアセスメントは次の5ステップで実施します。
ステップ1:危険性・有害性の特定
取り扱う化学物質の危険性(爆発・引火など)と有害性(健康障害)を特定します。SDS(安全データシート)のGHS区分情報を確認し、危険性と有害性の両方に該当する場合は、それぞれのリスクアセスメントを実施します。
参考)職場のあんぜんサイト:化学物質:化学物質のリスクアセスメント…
ステップ2:リスクの見積もり
「ばく露の程度」と「有害性の程度」を相対的に尺度化し、表を使ってリスクを見積もります。作業環境、取扱量、作業時間、換気条件などから最もリスクが高くなる条件で実施することが原則です。
ステップ3:リスク低減措置の検討
次の優先順位で対策を検討します。①危険性・有害性のより低い物質への代替、②化学反応プロセスや運転条件の変更、③取り扱う化学物質の形状変更。法令に定められた措置以外で、ばく露濃度がばく露限界を相当程度下回る場合は、リスク低減措置の検討を省略できます。
参考)特集:化学物質規制体系の見直し提言/リスクアセスメントを実施…
ステップ4:リスク低減措置の実施
検討した対策を実際に現場で実施します。密閉化されていれば有害性のリスクは低いという結論になりますが、密閉状態でも実施対象からは除外されません。
参考)化学物質のリスクアセスメントの対象の見分け方
ステップ5:結果の周知と記録
対象物の名前、業務内容、リスクアセスメント結果(特定した危険性・有害性、見積もったリスク)、実施する低減措置の内容を労働者に周知します。周知が基本です。
化学物質のリスクアセスメントには、専門知識がなくても使える簡易評価ツールが存在します。代表的なものが「コントロールバンディング」と「CREATE-SIMPLE(クリエイトシンプル)」です。
参考)コントロールバンディングのやり方は?クリエイトシンプルとの違…
コントロールバンディングは、有害性の程度とばく露量を具体的な数値ではなく、ある程度の幅(バンド)で判断する手法です。製薬業界で毒性学的基礎が不完全な成分を管理するために発展し、現在は化学物質全般、さらにナノ材料やエルゴノミクス分野にも応用されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3430910/
CREATE-SIMPLEは厚生労働省が提供する無料ツールで、サービス業など幅広い業種向けに開発されました。選択肢から回答を選ぶだけで簡単にリスクを見積もることができ、リスク低減措置の検討も支援してくれます。コントロールバンディングと異なり、換気や作業時間、作業頻度などの作業条件も反映される点が特徴です。
参考)化学物質のリスクアセスメント支援ツール(コントロールバンディ…
両ツールともGHS分類をもとに評価しており、手法として間違っていません。CREATE-SIMPLEには物質ごとのGHS分類や許容濃度の情報があらかじめ登録されているため、初心者でも使いやすい設計になっています。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/001737262.pdf
職場のあんぜんサイトから無料でアクセスできるため、通関業務の現場でも導入しやすいツールといえます。どこを改善すればリスクが下がるかも確認可能です。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」CREATE-SIMPLE紹介ページ
CREATE-SIMPLEの詳細な使い方やリスク見積もりの手順が掲載されています。
通関業務従事者には、他業種にはない化学物質管理の特有リスクがあります。最大のリスクは化審法対象物質の化審番号確認漏れです。
化学製品を輸入する際、税関に対して輸入貨物に対応する「化審番号(別名:MITI NO.)」を提示しなければ、輸入が認められません。混合物の場合は構成する全成分(100%分)の化審番号提示が必要で、不純物であっても1%以上含まれるものは対象となります。通関業者が輸入者に化審番号を確認するのはこのためです。
参考)https://mkc-net2.com/what-is-the-chemical-substances-control-law/
化審法では、新規化学物質を製造・輸入する者は事前届出が必須で、国の審査を受けて判定を得るまで製造・輸入できません。有害性審査を受けずに新規化学物質を輸入した場合、5年以下の懲役または5,000万ウオン以下の罰金という重いペナルティが科されます。
自主申告で違反を報告した場合、経産省は基本的に再発防止指導を中心とするスタンスですが、悪質な事例では刑事罰や3年以下の輸出等の禁止、企業名公表を伴う警告が行われます。また包括許可が取り消される場合もあり、コスト面・手続き面で多大なデメリットが生じます。
参考)自主管理で違反が見つかったら
対策としては、まず輸入貨物が化学製品である場合、全構成成分のCAS No.を確認し、NITE-CHRIPで全成分の化審番号を調べることです。第一種・第二種特定化学物質の含有がないかに特に注意してください。
違反事例として、海外関係会社から推薦された試薬を成分や法令確認なしに輸出し、無水酢酸が含有されていたケースがあります。初めての取扱品目ほど慎重な事前確認が必要です。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/02_jigo/download/20211104jigoshinsajiannokeikoujirei.pdf
リスクアセスメントは一度実施すれば終わりではなく、記録管理と継続的な見直しが求められます。
記録保存義務として、リスクアセスメント結果は3年間保存が必須です。さらにがん原性物質(約120物質)については作業記録を30年間保存する必要があります。通関業務で頻繁に取り扱う化学物質が対象に含まれていないか、事前に確認しておくことが重要です。
参考)KEK環境安全管理室|2023年度化学物質リスクアセスメント…
リスクアセスメントの見直しが必要になるタイミングは、新規採用や変更によって新たな化学品の取扱いを開始する前です。取扱いを開始する前にリスクアセスメントを実施し、その結果に基づくリスク低減措置を検討・実施した上で作業を開始しなければなりません。
複数の化学物質を扱う場合、最もリスクが高い物質についてリスクアセスメントを実施し、リスクが低いと判断できればその他の物質も同様に判断できます。危険有害性の種類ごとに最もレベルの高い物質(揮発性が高く、ばく露限界値が低い)を選んで評価すればOKです。
2024年4月からは化学物質管理者の選任が義務化され、事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理する責任者を置く必要があります。従来の「個別規制型」から事業主による「自律的な管理」への移行が促進されており、通関業者も自社の管理体制を見直す時期に来ています。
参考)【2024年4月施行】化学物質管理者とは?選任義務・役割・資…
安全衛生委員会への報告も忘れずに行いましょう。実施者、確認者、専門的知識を有する者の関与を明確にし、組織全体でリスク管理に取り組む体制が求められています。
参考)https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2017/pdf_109/siryou_1.pdf
譲渡・提供先からリスクアセスメントの実施要請を受けた場合、リスクアセスメントは譲渡・提供者側に実施義務があるため、適切な情報提供と連携が必要です。通関業務は多くの関係者と連携するため、責任範囲を明確にしておくことが法令遵守のポイントになります。