秘密管理性の証明がないと営業秘密侵害で勝てません。
不正競争防止法第2条第6項では、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。この定義から導かれる3つの要件すべてを満たさない限り、法的保護の対象となる営業秘密とは認められません。
参考)不正競争防止法の営業秘密とは?3つの要件と漏洩時の罰則を解説…
営業秘密に該当すれば、不正な持ち出しや使用に対して民事上の損害賠償請求や差止請求が可能になります。さらに、刑事罰の対象にもなるため、企業にとって強力な保護手段です。
参考)不正競争防止法の営業秘密とは|3つの要件や判例などを解説 -…
ただし、3要件が厳格に設定されているのは、刑事罰を含む重大なペナルティが科されることから、保護対象を一定の重要な情報に限定する必要があるためです。つまり、企業が主観的に「これは秘密だ」と考えているだけでは不十分ということですね。
通関業務従事者にとっては、平成27年の不正競争防止法改正により、営業秘密侵害品の輸出入が規制対象となり、関税法でも税関での水際対策が可能になった点が重要です。税関長に対して差止申立てを行うことができるようになりました。
参考)営業秘密侵害品の輸出入差止(水際対策)の新設 –…
秘密管理性とは、情報が客観的に秘密として管理されていることを意味します。単に社内で「これは秘密だ」と認識されているだけでは不十分で、第三者が見ても明らかに秘密情報だと分かる管理体制が必要です。
経済産業省の「営業秘密管理指針」では、秘密管理性が認められるための条件として、①営業秘密ではない情報からの合理的区分、②当該情報について営業秘密であることを明らかにする措置、の2つが示されています。具体的には、金庫への厳重な保管、「極秘」「社外秘」などの明示、アクセス権限の制限などが該当します。
参考)≪営業秘密への該当性が問題となった情報について少なくとも「秘…
実際の裁判例では、秘密管理性の立証が不十分で敗訴するケースが少なくありません。ある事例では、被告側に秘密保持義務が明記されていなかったこと、提供された図書に秘密である旨の表示がなかったことから、秘密管理性要件を満たさないと判断されました。
参考)https://www.hanketsu.jiii.or.jp/hanketsu/jsp/hatumeisi/news/201207news.pdf
秘密管理性が否定されれば、情報流出しても法的保護が受けられません。営業秘密の訴訟における成功率が低い主な理由は、この秘密管理性の立証の難しさにあります。
参考)企業の秘密管理に潜むリスク:裁判例から学ぶ営業秘密の守り方
通関業務では、輸出入者から提供される企業情報を扱う機会が多いため、取引先の情報が営業秘密として適切に管理されているかを確認することが重要です。秘密管理措置が不十分な情報は、後から侵害が発覚しても保護を受けられないリスクがあります。
経済産業省「不正競争防止法」テキスト - 秘密管理性の判断基準について詳細な解説があります
有用性とは、「生産方法や販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報」であることを指します。これは事業活動において実際に役立つ情報であることが求められる要件です。
有用性の判断では、その情報が企業の競争力向上やコスト削減に寄与するかが重視されます。製造プロセスに関する技術情報、顧客リスト、価格戦略、販売ノウハウなどが典型例です。
重要なのは、現在実際に使用されている情報である必要はなく、将来的に事業活動に活用できる可能性がある情報も含まれる点です。また、失敗した研究データであっても、同じ失敗を避けるという意味で有用性が認められる場合があります。
参考)https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/2774
有用性の判断は比較的緩やかで、情報が事業活動において何らかの形で役立つものであれば認められる傾向にあります。3要件の中では最も立証しやすい要件と言えるでしょう。
通関業務における輸出入申告データや通関手続きのノウハウ、顧客企業のHS番号分類の判断基準なども、事業活動に有用な営業上の情報として有用性を満たす可能性があります。こうした情報の管理体制を整備することで、競合他社との差別化につながります。
非公知性とは、「公然と知られていないこと」を意味します。具体的には、その情報が保有者以外には知られておらず、一般の公開情報などから簡単に取得することができない状態を指します。
非公知性の判断では、その情報が公刊物やインターネット上で公開されていないこと、業界内で一般的に知られていないことが基準となります。たとえ一部の関係者に開示されていても、秘密保持契約を結んだ上での限定的な開示であれば、非公知性は維持されます。
注意すべきは、情報の一部が公開されている場合です。公開情報を組み合わせることで容易に推測できる情報は、非公知性を満たさない可能性があります。逆に、公開情報から推測が困難な独自のノウハウや組み合わせ方は、非公知性が認められやすいです。
非公知性が失われると、営業秘密としての保護も失われます。例えば、特許出願によって技術情報が公開された場合、その情報は非公知性を失い、営業秘密としての保護を受けられなくなります。
通関業務では、特定の輸出入者に関する取引条件や物流ルートなど、他社には知られていない情報を扱うことがあります。こうした情報は非公知性を満たす可能性が高いため、適切な管理が求められます。
営業秘密侵害の典型例として、退職者による情報持ち出しがあります。ある精密機械製造企業では、退職した技術者が製造プロセスに関する技術情報を個人のUSBメモリにコピーし、競合他社へ転職して活用しようとしました。この事例では秘密管理性が認められ、企業側が勝訴しました。
別の事例では、大手通信販売会社の営業担当者が顧客リストを無断で持ち出し、転職先で営業活動に使用したケースがあります。顧客リストには詳細な連絡先情報や取引履歴、購買傾向が含まれており、裁判所は3要件をすべて満たすと判断し、不正競争防止法違反を認定しました。
不正競争防止法第2条では、営業秘密の不正取得・使用・開示行為が複数のパターンで規制されています。不正な手段による取得、不正取得された営業秘密であることを知りながらの使用、保有者から得た営業秘密を不正に利益を得る目的で使用する行為などが該当します。
参考)営業秘密とは?不正競争防止法における定義や対策を紹介
平成27年の法改正により、営業秘密侵害品の輸出入も不正競争行為に追加されました。これは新日鐵住金事件や東芝事件など、度重なる営業秘密流出事件を受けた措置です。
通関業務従事者にとっては、税関での営業秘密侵害品の水際対策が重要です。営業秘密を侵害された者は、税関長に対して差止申立てを行うことができます。税関は輸出入者と申立人の双方から意見を聴取し、営業秘密侵害品か否かを認定します。
参考)http://www.jipa.or.jp/kaiin/kikansi/honbun/2016_10_1354.pdf
通関業務では、輸出入者の企業情報、取引条件、商品仕様などの機密情報を日常的に扱います。こうした情報を営業秘密として適切に管理することが、法的保護を受けるための前提条件です。
参考)【営業秘密管理・侵害における企業法務実務ガイド】2025年改…
まず、社内で営業秘密の範囲を明確に定義し、全従業員に周知することが必要です。保護対象の情報を分類し、取り扱い基準を設定しましょう。具体的には、「極秘」「社外秘」などのラベリング、アクセス権限の設定、物理的な保管場所の限定などが有効です。
次に、従業員や取引先との秘密保持契約(NDA)の締結が重要です。契約内容には情報漏洩防止の具体的措置や、違反時の罰則を明記する必要があります。特に退職者による情報持ち出しを防ぐため、在職中および退職後の秘密保持義務を明確にしておくことが推奨されます。
クラウドサービスやテレワークの普及により、情報管理の方法も変化しています。デジタル環境での秘密管理性をどう立証するかは、最新の実務課題です。アクセスログの記録、暗号化、リモートアクセスの制限など、技術的な管理措置を講じることが求められます。
万が一、営業秘密の漏洩が発覚した場合は、迅速な初動対応が必要です。証拠の保全、被害範囲の特定、関係者への聞き取りを速やかに実施し、必要に応じて法的措置を検討しましょう。ただし、秘密管理性の立証が不十分だと、訴訟で敗訴するリスクがあることを忘れてはいけません。
通関業務では、税関での水際対策も活用できます。営業秘密侵害品の輸出入が疑われる場合は、税関長への差止申立てを検討しましょう。
税関「保護対象営業秘密関係の要件」 - 水際での差止申立ての具体的な手続きが記載されています