UN3090の書類が整っていれば航空輸送は問題ないと思っていませんか?実は、書類が完璧でもラベルの貼り方一つで航空会社に積み込みを拒否されるケースがあります。
UN3090は、リチウム金属電池(一次電池)を指す国連番号です。リチウムイオン電池(UN3480)と混同されることが多いですが、両者は根本的に異なります。UN3090はリチウム金属を負極に使用する「充電できない」一次電池であり、エネルギー密度が非常に高い反面、発火・爆発リスクも格段に高いとされています。
航空輸送において、UN3090は危険物クラス9(雑危険物)に分類されます。クラス9は一見すると「軽微な危険物」のように思われがちですが、実際には航空輸送において最も取り扱い制限が多いカテゴリの一つです。これは重要なポイントです。
IATAの危険物規則書(DGR:Dangerous Goods Regulations)では、UN3090は「旅客機・貨物機いずれにも搭載可能だが、条件が非常に厳格」とされています。たとえばリチウム含有量は、単電池1個あたり2g以下、1梱包あたりの総リチウム量は24g以下という上限があります。この数字を超えると、原則として航空輸送は禁止されます。
つまり、数グラム単位の重量管理が通関申告の可否を左右するということです。
製品の仕様書やSDS(安全データシート)に記載されたリチウム含有量を正確に読み取り、梱包単位ごとに集計する作業は、通関業者にとって不可欠な前工程です。この確認を怠ると、申告書類が整っていても航空会社の審査で弾かれ、出荷遅延が発生します。痛いですね。
参考:IATAが公開する危険物に関する最新DGR規則の概要と適用範囲についての情報は以下で確認できます。
IATA Dangerous Goods Regulations (DGR) | IATA公式
梱包要件は、UN3090の航空輸送で最も誤りが多い領域の一つです。IATAのDGR規則では、UN3090に対して「梱包要件965節(Packing Instruction 968)」が適用されます。この梱包指示書の内容は毎年改訂されており、2024年版(第65版)での変更点を把握していない業者が現場で混乱するケースが実際に起きています。
具体的な梱包要件として、外装箱は堅牢で水密性を有すること、電池はそれぞれ個別の内側の袋またはトレーに入れること、端子の短絡を防ぐ措置を施すこと、などが挙げられます。これらは基本です。
ここで通関業者が特に注意すべき点は「Section II」と「Section IA/IB」の区分です。リチウム含有量が単電池あたり0.3g以下かつ梱包あたり2.5g以下の場合、Section IIとして比較的簡易な手続きで輸送が可能です。一方、それを超える場合はSection IAまたはIBとして、より厳格な梱包・書類・承認が必要になります。
Section IIとSection IAを混同して申告した場合、航空会社側の危険物検査で不適合と判定され、貨物が出発便から降ろされることがあります。最悪の場合、荷送人への損害賠償と輸送業者への違約金が同時に発生します。これは非常に大きなリスクです。
また、梱包に使用できる材質にも制限があります。たとえば発泡スチロールのみの梱包では不可とされる場合があり、外装がダンボール箱であっても内部緩衝材の仕様によっては不適合とみなされます。梱包材の仕様確認が条件です。
現場で迷ったときは、IATA DGRの最新版(年版)を手元に置き、Packing Instruction 968の原文と照らし合わせることが最も確実です。日本語訳は公式のものではないため、解釈のズレが生じやすい点にも注意が必要です。
UN3090の航空輸送において、書類面での不備は最も頻繁に発生するトラブルの原因です。特に「危険物申告書(Shipper's Declaration for Dangerous Goods、通称DGD)」の記載ミスは、貨物の積み込み拒否だけでなく、民事・行政上の責任を問われるリスクがあります。
DGDに記載すべき主な項目は以下のとおりです。
記載漏れが多いのは「梱包指示書番号」と「リチウム含有量の総量」です。これだけ覚えておけばOKです。
また、DGDの作成は原則として「荷送人」が行うものですが、実務上は通関業者やフォワーダーが代行するケースが大半です。この場合、記載内容の最終責任は荷送人に帰属しますが、誤情報を提供した通関業者も法的責任を問われる可能性があります。
日本では、航空法第86条に基づき、危険物の誤申告・未申告に対して「100万円以下の罰金」または「1年以下の懲役」が規定されています。数字があると現実感が違います。
DGDの書き方に不安がある場合、国土交通省の航空局が公開している「航空危険物輸送に関する技術基準」を参照することが推奨されます。また、IATAが認定するDGトレーニングを受講している担当者が書類を確認する体制を整えることが、リスク低減の観点から効果的です。
参考:航空危険物輸送に関する国内規制の根拠となる技術基準については以下を参照してください。
書類が完璧でも、ラベルやマーキングに不備があれば積み込みを拒否されます。これは実務では意外と見落とされがちです。
UN3090の航空輸送に必要なラベル・マーキングの種類は以下のとおりです。
ラベルのサイズにも規定があります。クラス9ラベルは最低100mm×100mm(旅客機・貨物機共通)が必要で、それ以下のサイズは不適合とみなされます。はがきの短辺(約100mm)を目安にすると覚えやすいです。
よくある現場のミスとして、「LITHIUM BATTERY」ラベルを貼り忘れるケースがあります。このラベルは取り扱い上の注意を示す補助ラベルですが、IATA DGRではSection IIであっても必須とされています。書類上の申告が完璧でも、このラベルが不足していると航空会社の地上係員に積み込みを止められます。
また、ラベルは外装箱の汚れた面や折れた面に貼ると、検査員に「ラベル確認困難」と判断される場合があります。貼付面の状態も確認が必要です。
Section IIの小ロット輸送であっても、ラベル省略は一切認められません。ここは原則です。
一般的な解説では触れられることが少ないですが、通関業者にとって最大のリスクの一つが「荷主から受け取った情報が誤っているケース」です。UN3090の場合、荷主(輸出者)がリチウム含有量を過少申告したり、Section区分を誤って伝えてきたりするケースが実際に存在します。
このとき、書類作成を代行した通関業者は、情報が荷主由来であっても「情報精査を怠った」として責任を問われることがあります。これは厳しいところですね。
そのため、通関業者として独自の「荷主チェックフロー」を持つことが重要です。具体的には以下のような確認手順を設けることが有効です。
Wh値の計算式は「Wh = 容量(Ah)× 電圧(V)」です。たとえば2Ahの電池が3Vであれば6Whとなり、これが旅客機搭載の上限(単電池:2.7Wh、Section IIの場合)を超えているかを確認します。
この「自社計算による照合」プロセスを文書化しておくことで、万が一問題が発生した際に「通関業者として相当な注意義務を果たした」という証拠になります。つまり、自衛のための記録管理が原則です。
また、繰り返し取引のある荷主でも、製品の仕様変更が行われていることがあります。前回問題がなかった品目でも、毎回確認する姿勢が重要です。前回OKだったは危険です。
IATAのDGトレーニング受講者が社内にいる場合、その担当者を荷主確認フローの最終承認者に設定しておくと、責任の所在が明確になり、組織としてのリスク管理が強化されます。DGトレーニングの受講情報はIATAのトレーニングポータルで確認できます。
IATA Dangerous Goods Training | IATA公式トレーニングポータル
参考:国内での危険物航空輸送に関する通達や行政指導の最新情報については、以下の国土交通省のページも定期的に確認することをお勧めします。