通関申請に必要な情報の6〜7割はすでにTradeWaltzから標準データ型で連携可能です。
TradeWaltzとNTTデータの関係を理解するには、2017年まで時計を戻す必要があります。NTTデータは同年8月、商社・銀行・保険・物流など日本のリーディングカンパニー13社(のちに18社)を集めた業界横断コンソーシアムの事務局として、ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携プラットフォームの開発に着手しました。
NTTデータがこの事務局役を担った理由は、イタリアでの銀行間決済をブロックチェーンで実現した経験や、複数のコンソーシアムを組成・運営してきた実績があったからです。貿易の世界で異なる業界の企業をまとめ上げるためには、中立的な立場と高い技術力の両立が欠かせませんでした。
2020年4月にNTTデータが準備会社として株式会社トレードワルツを設立し、同年10月にはNTTデータ・三菱商事・豊田通商・東京海上日動火災保険・三菱UFJ銀行・兼松・損害保険ジャパンの7社が共同出資して事業をスタートさせました。つまり原則です。
現在のトレードワルツはNTTデータを含む18社の共同出資体制へと拡大しており、住友商事・丸紅・三井住友銀行・みずほ銀行・三井倉庫ホールディングス・三菱倉庫など、貿易に関わる主要プレイヤーが揃っています。NTTデータはシステム開発・技術開発の中心として引き続き深く関与し続けています。
| 年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 2017年8月 | NTTデータ主導で18社のコンソーシアム発足 |
| 2018年 | 東京・清水・博多の3港湾でNEDO委託実証実験 |
| 2019年 | タイ・シンガポールとの国際実証実験 |
| 2020年10月 | 7社共同出資によりトレードワルツ事業開始 |
| 2020年11月 | NACCSとシステム連携に関するMoU締結 |
| 2022年4月 | 商用版サービス正式リリース |
| 2024年度 | トランザクション数11万1,348件突破 |
通関業者をはじめとした実務者にとって重要なのは、これが単なる大企業のIT投資ではなく、「自分たちの業務が直接変わる」官民一体の国家的なインフラ整備であるという点です。これだけ覚えておけばOKです。
通関業務において書類の「原本性」は命綱です。紙の時代は物理的な書類がその原本性を担保していましたが、デジタル化を進める上でこれがどれほど難しい課題であるか、実務者なら身に染みて知っているはずです。
TradeWaltzがブロックチェーン、具体的にはエンタープライズ向けの「Hyperledger Fabric」を採用しているのはこの理由からです。ブロックチェーンは分散型台帳技術であり、参加する全ノードがデータを保持し、互いに常時検証し合う仕組みです。その結果、「このデータは誰も改ざんしていない」という証明が技術的に担保されます。
貿易で扱う書類の原本性は非常に重要です。船荷証券(B/L)は一枚の紙が物権を体現し、それがなければ貨物を受け取れないほどの法的効力を持ちます。従来の電子化では「PDFを送りましたが、元データが改ざんされていないか証明できない」という問題が解消できませんでした。TradeWaltzのブロックチェーンはこの問題を根本から解決します。
2021年にはNTTデータと株式会社Datachainが共同で、ブロックチェーン基盤同士の「台帳間連携」の技術実証も実施しました。異なるブロックチェーン基盤間をInterledgerプロトコルで接続し、「モノの移転」と「価値の移転(決済)」を同時に行う実験に成功しています。厳しいところですね。
なぜこれが通関業者にとって重要なのでしょうか?現状、NACCS上の通関申告と荷主・フォワーダー間の商業インボイスやB/L情報は、別々のシステムで管理され、手動での転記や照合が必要です。TradeWaltzが改ざん不可能なデータとして貿易書類を構造化・保管し、それをNACCSと連携させることで、転記ミスや照合作業が根本から解消されます。
参考:TradeWaltzとNACCSの連携に関する詳細は経済産業省のデジタル貿易プラットフォーム検討会資料で確認できます。
経済産業省「産業横断型貿易プラットフォームTradeWaltzの紹介とユーザー活用状況」(経産省デジタル貿易プラットフォーム検討会)
NACCSは日本の輸出入通関における中核インフラです。輸出入申告から許可情報の通知、関税口座振替まで、通関業務の大部分がNACCS上で行われています。そのNACCSとTradeWaltzが連携するとはどういうことか、具体的に考えてみます。
2020年11月、トレードワルツはNACCSセンターとの間に「システム連携等を視野にした相互連携・協力に関するMoU(覚書)」を締結しました。この覚書が意味するのは、将来的にTradeWaltz上の商業インボイス・パッキングリスト・B/Lといった書類が構造化データとして直接NACCS側に連携できる仕組みです。
現在、経済産業省の検討会資料では「通関申請に必要な情報の6〜7割をTradeWaltzから標準データ型で連携可能」とされています。これは画期的なことです。今まで通関業者はPDFや紙のインボイスを見ながら、NACCSに手で打ち込んでいた情報の6〜7割が、TradeWaltz経由で自動的に流れ込んでくるという話です。郵便番号に例えるなら、7桁全部手で打っていたものが4〜5桁は自動入力される、そんなイメージです。
つまり転記作業の大幅削減が条件です。通関業務で起きる入力ミスの多くは、紙やPDFを見ながらの転記作業に起因します。データ連携によってこのリスクが根本から下がります。
さらに、TradeWaltzはサイバーポート(国土交通省の港湾電子化基盤)ともNACCSを介して間接的に連携する構造になっています。荷主から通関依頼、NACCS申告、ターミナル搬入情報まで、貿易フロー全体がひとつのデータの流れとしてつながる未来像が現実味を帯びています。
参考:NACCSとTradeWaltzの連携に関する詳細な分析はNTTデータ経営研究所のレポートで確認できます。
NTTデータ経営研究所「日本における貿易業務電子化に向けた民間プラットフォーマーの役割と課題」
2025年10月にトレードワルツが正式リリースしたAI-OCR機能は、通関業者が特に注目すべき実装です。これは意外ですね。
この機能は、TradeWaltz上に登録されたPDF書類を「読取開始」ボタン一つでAIが解析し、構造化データとして自動登録・共有する仕組みです。採用されているのは「生成AI抽出型AI-OCR」で、大規模言語モデル(LLM)を使って文脈から項目を理解します。事前の座標定義なしで、インボイス番号・商品明細・数量・金額・通貨などを高精度に抽出できます。
社内実証では商業インボイス(Commercial Invoice)の帳票で98%の項目読取精度を確認しています。100件のインボイスのうち98件は正確にデータ化される計算です。
通関業者にとって最も時間を取られる作業の一つが、荷主やフォワーダーから受け取ったPDF書類の内容確認とNACCSへの転記です。実務では1件の輸入申告につき、インボイス・パッキングリスト・B/L・産地証明書など複数書類を突き合わせる必要があります。これらがAI-OCRで自動データ化され、しかもTradeWaltz上で荷主・銀行・保険会社と共有されているとしたら、どれほど業務フローが変わるか想像できるはずです。
初期リリースでは輸入業務の商業インボイスに対応しており、今後はパッキングリスト(P/L)・船荷証券(B/L)へと対応帳票を順次拡大し、輸出業務にも広げる予定です。現時点ではB/L未対応ですが、ロードマップ上では明確に拡張が示されています。これが条件です。
この種の課題に直面している通関業者は、まずTradeWaltzが提供する無料セミナーに参加して機能の詳細を確認するのが最も効率的な一歩です。
参考:AI-OCR機能の詳細はトレードワルツの公式ニュースで確認できます。
PR TIMES「TradeWaltz、AI-OCR機能を正式リリース。商業インボイスで98%の項目読取精度を確認」(2025年10月)
世界銀行の調査によると、1回の輸出入手続きにかかる時間はEUなら約2時間で済むのに対し、日本は72時間、ASEANにいたっては235時間にのぼるとされています。EUなら午前中に終わる手続きが、日本では3日、ASEANでは約10日かかる計算です。
TradeWaltzが実施したPoCでは、日本での貿易手続き時間を44%以上短縮し、ASEANでは60%短縮したという結果が出ています。これは使えそうです。
トレードワルツは2022年のAPEC2022(アジア太平洋経済協力会議)において、日本・タイ・シンガポール・オーストラリア・ニュージーランドの5カ国のプラットフォーム間連携を「世界初」の取り組みとして発表しました。この連携はAPIを通じて各国のプラットフォームとTradeWaltzをつなぐもので、国をまたいだ書類情報のEnd to End利用を可能にします。
通関業者にとって現実的なインパクトは次の点です。従来、輸出先国の通関当局や輸入者とのやり取りは、FAXや国際メール、PDFのメール送付が主流でした。5カ国のプラットフォームが連携することで、TradeWaltz上に登録した輸出書類データがそのまま相手国のプラットフォームに流れ込み、現地の通関手続きにもデータが直結する仕組みへと進化します。
さらに2026年2月、トレードワルツはインド向け輸出取引における貿易決済電子化調査事業が経済産業省の事業に採択されたことを発表しています。ASEAN・インドへの展開が加速しており、日系企業の輸出先として重要なこれらの地域で、通関書類の電子連携が現実のものとなりつつあります。
トレードワルツの現在の出資企業18社には、三菱商事・丸紅・住友商事・豊田通商・兼松といった大手商社、三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の3メガバンク、三井倉庫・三菱倉庫・日新などの物流企業が揃っています。これだけの顔触れが出資しているという事実は、日本の貿易インフラとしての信頼性を示すものです。
2024年度のTradeWaltz活用トランザクション数は1月末時点で11万1,348件に達し、前年度から大幅に拡大しています。通関業者が「まだ様子見」と言っている間に、荷主・銀行・物流事業者側でのTradeWaltz導入が進み、気づいたときには「TradeWaltz前提の業務フロー」に自社だけが対応できていないという事態が生じかねません。
参考:5カ国のプラットフォーム連携の詳細はPMI日本支部の記事で確認できます。
DXマガジン「貿易手続きの完全電子化を目指すプロジェクト、国内外のパートナーやメンバーとの信頼関係が成功に大きく寄与」
多くの通関業者に見られる傾向として「荷主が導入したら対応する」という受け身の姿勢があります。しかし、この考え方には見落とされているリスクが潜んでいます。
現在、TradeWaltzを先行導入しているのは商社・メーカーといった荷主が6割を占めています。トレードワルツの問い合わせ企業は、共同出資発表後の数か月で200社近くに達した実績があります。荷主側での普及が先行するということは、通関依頼の形式がTradeWaltz前提に変わる可能性があるということです。
具体的に何が起きるかを想像してみます。荷主がTradeWaltz上で通関依頼書類を作成し、「TradeWaltzでデータ連携してください」と指示してきたとき、対応できない通関業者は「紙で印刷して持ってきてください」という対応をせざるを得なくなります。それは荷主にとって、わざわざデジタル化した書類を紙に戻す無駄を強いることになり、最終的に「TradeWaltzに対応した通関業者に変えよう」という判断につながりかねません。
これは構造的なリスクです。「うちは紙でも十分対応できているから大丈夫」という思い込みが、5年後に顧客流出につながるシナリオは十分ありえます。
一方、逆に見れば、早期にTradeWaltzの操作と連携フローに習熟した通関業者には大きなチャンスもあります。荷主や銀行・保険会社との間で「TradeWaltz対応の通関業者」としてポジショニングできれば、新規顧客獲得の有力な差別化要素になります。
まず取るべき行動は、TradeWaltzが定期的に開催している無料オンラインセミナーへの参加です。システム仕様の詳細を理解し、自社の現行業務フローのどこにTradeWaltz連携が入ってくるかをあらかじめ整理しておくことが、「待ちの姿勢」から「準備ある受け入れ」へと変える最初の一歩になります。
参考:TradeWaltzの最新情報・セミナー情報はトレードワルツの公式サイトから確認できます。
株式会社トレードワルツ 公式サイト(サービス概要・セミナー情報・最新ニュース)