少量新規化学物質の確認を受けずに輸入すると、法人に5,000万円以下の罰金が科されます。
「少量新規化学物質の申請」と一口に言っても、実は2本の法律が絡んでいます。それが化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)と安衛法(労働安全衛生法)です。関税・輸入業務に携わる方にとって、この2つの違いは非常に重要です。
化審法に基づく手続きは「申出」と呼ばれ、厚生労働大臣・経済産業大臣・環境大臣の三大臣による確認を受けるものです。一方、安衛法に基づく手続きは「確認申請」で、対象は1事業場あたり年間100kg以下の製造・輸入量が条件です。
つまり二重申請が基本です。
ただし、安衛法の申請は化審法の申出書類の写しを添付することで、記載事項の一部を省略できます。具体的には、所在地(輸入の場合は記載必要)、新規化学物質の構造式・示性式、物理化学的性状、用途、製造国・地域名などが省略対象です。これは実務上かなりの負担軽減になりますね。
化審法の少量新規化学物質とは何かを改めて整理すると、化審法第3条第1項第5号に基づき、「申出者ごとの年間製造・輸入予定数量が1トン(環境排出数量ベース)以下」であり、既に得られている知見から判断して環境汚染のおそれがないと確認されたものです。この制度を活用すると、通常新規化学物質の届出(毒性試験等が必要な通常審査)を省略して、よりシンプルな手続きで製造・輸入が可能になります。
なお、化審法では「元素(単体)」や天然物、合金などは化学物質に該当しません。また、固有の商品形状を有し使用中に組成・形状が変化しない「成型品」や、店頭販売形態になっている混合物(製品)も対象外です。輸入業者の方は、まずその化学物質が「化審法の対象かどうか」を確認するところから始めましょう。
対象か否かは、NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)で化審法番号の有無を検索することで確認できます。
NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP):既存化学物質の登録番号の有無を確認できる公式データベース
申請の受付期間を知らないと、計画が大幅に狂います。これが実務上の最大の落とし穴の一つです。
令和8年度(2026年度)の化審法に基づく少量新規化学物質の申出は、年間7回の受付期間が設けられています。各回の確認・非確認通知が出るまで、製造・輸入を開始することはできません。以下が2026年度の確定スケジュール(第3回まで)です。
| 回次 | 電子申請受付期間 | CD-ROM・書面受付 | 確認通知予定日 |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 2026年1月15日〜1月28日 | 2026年1月15日〜1月22日 | 2026年3月27日 |
| 第2回 | 2026年4月1日〜4月14日 | 2026年4月1日〜4月10日 | 2026年5月27日 |
| 第3回 | CD-ROMのみ受付 | 2026年6月1日〜6月30日 | 2026年8月頃 |
| 第4〜7回 | 未定(2026年6月に発表予定) | 未定 | 2026年9月〜2027年1月頃 |
重要な点が一つあります。第1回に提出した申請であっても、製造・輸入を開始できるのは2026年4月1日以降です。「通知が来たからすぐに動ける」というわけではなく、年度開始日も制約条件になっています。
また、第3回(2026年6〜8月)はシステム停止のためCD-ROMによる申出のみとなり、電子申請は受け付けられません。これは意外なポイントです。電子申請に慣れている担当者が見落としやすいので注意が必要です。
安衛法に基づく確認申請(厚労省向け)は、製造または輸入を開始する30日前までに書類が厚生労働省に届くよう手続きを行う必要があります。化審法の確認通知を受け取ってから動くと、30日のバッファが足りなくなるケースもあります。化審法の申出と安衛法の申請は、できる限り並行して進めるか、スケジュールを逆算して動き始めることが現実的です。
経済産業省「少量新規化学物質の申出」:受付日程・申出手続案内・FAQ等の最新情報を一元掲載
数量管理は特に注意が必要な領域です。ここでよくある誤解を整理しましょう。
まず化審法の「少量新規」の個社上限は年間1トン(環境排出数量ベース)です。「製造・輸入数量」ではなく「環境排出数量」が基準になった点は、2019年1月受付の申出から変更されたルールです。環境に排出されない閉鎖系の用途では、この算定に差が生じることがあります。
また、全国合計でも1トンを超えると少量新規化学物質の申出ができなくなります。複数の企業が同じ物質を申出している場合、先に枠を埋めた企業が優先されるため、早めの申出が重要な意味を持ちます。
一方、安衛法の少量新規確認は1事業場あたり年間100kg以下が上限です。「2年間で200kg」ではありません。1年目に90kg確認を受けても、2年目も上限は100kgからのスタートです。確認期間は1年単位であることが原則です。
さらに見落としやすいルールが、確認期間の重複です。確認期間を年度(4月〜翌3月)に合わせるために前の確認期間と次の確認期間を一部重複させる運用が認められています。しかし、重複する期間に製造・輸入した量は、両方の確認期間の確認量に算入されます。例えば、重複期間に90kg製造・輸入した場合、次の確認期間で製造・輸入できる残りは10kgのみとなります。
追加申請(確認期間中に数量を追加する申請)も可能ですが、当初確認量と追加量の合計が100kg以下である必要があります。元の確認量が60kgなら、追加申請では最大40kgしか申請できません。
厚生労働省「労働安全衛生法に基づく少量新規化学物質(製造・輸入)申請」:確認期間の柔軟化・様式・記載例を掲載
関税・輸入業務を担当する方に特に関係が深いのが、通関時の書類提出です。少量新規化学物質を輸入する際は、税関に対して以下の書類を提出しなければ輸入を認めてもらえません。
📄 提出が必要な書類(少量新規化学物質の輸入時)
- 少量新規化学物質確認通知書(別添3)の写し(三大臣連名のもの)
- 輸入新規化学物質累積数量確認書(様式第2):今年度の製造・輸入に係る累積数量と製造に係る累積数量の合計が、確認通知書に記載された製造・輸入数量以下であることを明示する書面
この累積数量確認書には、受付コード・今年度の製造に係る累積数量・輸入に係る累積数量・合計・今年度の輸入回数を記載します。税関はこれらが揃って初めて輸入を許可します。
ここで注意したいのが、輸入のたびに累積数量を正確に管理しなければならない点です。同一物質を複数回に分けて輸入する場合、回を重ねるごとに「今年度の累積輸入量」が更新されます。管理が甘いと、確認数量の上限を超えて輸入してしまう法令違反リスクが生じます。
また、少量新規化学物質は「確認を受けた用途」向けのみ製造・輸入が認められています。当初申請時とは別の用途で使用したい場合は、「用途追加の手続き」を別途行う必要があります。これも意外と知られていないルールです。
化審法第3条第1項の規定に違反して新規化学物質を製造・輸入した場合、個人には1年以下の拘禁または50万円以下の罰金、法人には5,000万円以下の罰金が科されます。関税・通関の場面では「書類さえあれば大丈夫」と思いがちですが、その書類の背景にある申出手続の適正性まで含めて管理する必要があります。
牛島総合法律事務所「日本で新規化学物質を製造・輸入する場合の化審法・労安衛法規制」:化審法・安衛法の例外事由・罰則を法的観点から詳解
令和8年度(2026年度)は、少量新規化学物質申請の手続きが大きく変わる転換期です。見逃すと申請できない事態になります。
最大の変更点は、「申出者コード」の廃止と「GビズID」への移行です。令和8年度(2026年度)の第4回以降の電子申出では、従来の申出者コードは使用できなくなり、GビズID(プライムまたはメンバー)が必須となります。
🔑 GビズIDの3種類と化審法での使用可否
| アカウント種別 | 化審法申請への使用 | 特徴 |
|---|---|---|
| GビズIDプライム | ✅ 使用可 | 法人代表者・個人事業主が取得 |
| GビズIDメンバー | ✅ 使用可 | プライム取得者が発行する従業員用 |
| GビズIDエントリー | ❌ 使用不可 | オンライン即時発行の簡易版 |
GビズIDプライムの取得には、デジタル庁への申請が必要で、書類審査を経るため取得に数週間程度かかる場合があります。「申請直前に気づいた」では間に合いません。早急な対応が必要です。
また、安衛法に基づく少量新規化学物質の確認申請については、令和8年7月1日より電子申請が原則義務化されます(労働安全衛生規則改正)。令和7年1月1日からはすでに電子申請が可能になっており、移行期間として先行利用できる状況です。
電子申請では「e-Gov電子申請システム」を使用しますが、少量新規化学物質の申出には電子データによる構造式ファイル(MOLファイル)の提出が必須です。MOLファイルが作成できない場合は、申出物質を特定するための参考情報を添付することで審査にて対応してもらえますが、原則としてMOLファイル形式での提出が求められます。NITEがMOLファイル作成システムと動画解説を提供しているので、初めての方はそちらを参照するのが効率的です。
なお、令和8年度から化審法の電子申請における「届出者等コード」も廃止される予定です。少量新規だけでなく、一般化学物質の数量届出などにも影響が出るため、化学物質管理に関わる担当者は全体的なGビズID対応を早めに進めることが重要です。
厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の電子申請について」:令和8年7月1日からの電子申請義務化の詳細と対象手続き一覧
NITE「構造式ファイルの作成方法について」:MOLファイル作成の手順を動画で解説するNITE公式ガイドページ