外国クルーズ船に乗ると、船内の免税ショップで消費税が10%かかると思っていませんか?実は外国籍クルーズ船の船内購入は消費税が非課税になるケースがあり、日本籍船よりお得に買い物できることがあります。
「カボタージュ」という言葉を聞いたとき、多くの人は「サボタージュ」と混同してしまいがちです。しかし、この2つはまったく別の意味を持ちます。サボタージュは労働組合による怠業行為を指すのに対し、カボタージュは国内輸送を自国の事業者に限定する制度のことです。
日本では、船舶法第3条にこの規制が明文化されています。同条の規定は「日本船舶ニ非サレハ不開港場ニ寄港シ又ハ日本各港ノ間ニ於テ物品又ハ旅客ノ運送ヲ為スコトヲ得ス」という内容で、要するに外国船は日本の港と港の間でヒトやモノを運んではいけないというルールです。
つまり原則禁止、が基本です。
この規制の成立は何と1899年、明治32年のことです。120年以上前の法律が今も現役で機能しているという点は、多くの人が知らない事実ではないでしょうか。日本は当時から自国の海運産業と安全保障を守るために、この制度を設けてきました。
具体的な例を挙げると、中国船籍のクルーズ船が横浜に入港した場合、その船に乗った乗客を横浜から神戸へ運ぶことはできません。上海から横浜、神戸、長崎と順に寄港して帰国する分には問題ありませんが、「日本国内の2港間」という輸送を外国船が担うことが禁じられているのです。これが全てのポイントです。
カボタージュ規制は海運の世界だけでなく、実は航空の世界にも存在します。外国の航空会社が日本国内の2都市間(たとえば東京〜大阪)だけを飛ぶ路線を設けることも、同様の考え方で禁じられています。陸・海・空の3分野すべてに関わる重要な制度です。
| 分野 | 規制の根拠 | 具体例 |
|---|---|---|
| 海運(船舶) | 船舶法第3条 | 外国船が横浜〜神戸間の旅客輸送をすることは禁止 |
| 航空 | シカゴ条約・航空法 | 外国航空会社が東京〜大阪だけの路線を設けることは禁止 |
カボタージュ規制の目的は主に4つあります。①安全基準が各国で異なるため、日本の厳しい安全基準を守るための国内産業保護、②地震や戦争などの有事に自国船員と自国籍船を確保するための安全保障、③日本人船員の雇用と技術継承の確保、④国内産業の育成です。これらが理由となり、日本だけでなく世界の多くの国でカボタージュ規制は維持されています。
クルーズの旅程を見ると、「日本一周クルーズ」と銘打っているのに「横浜〜神戸〜長崎〜釜山〜新潟〜函館〜横浜」というように韓国の釜山や台湾の基隆(キールン)が入っている旅程を目にすることがあります。これは旅行会社が旅程をゴージャスに見せるための演出ではありません。
カボタージュ規制の適用を避けるための、法律上必要な措置なのです。
外国籍のクルーズ船(多くはバハマやパナマ船籍)が日本の横浜を出発して横浜に戻るだけだと、「横浜〜横浜間の旅客輸送」とみなされてしまいます。これは実質的に国内輸送を外国船が担うことになり、船舶法第3条に抵触します。そのため、途中で必ず外国の港に寄港することで「外航クルーズ」として成立させているのです。
これは意外ですね。
実は、世界の大手クルーズ船のほとんどはバハマ、パナマ、リベリアなどを船籍としています。これらの国は税制上のメリットが大きく、「便宜置籍船」と呼ばれます。世界の船籍(総トン数)のトップはパナマ籍で約1億2,000万トン、2位はリベリアの約5,200万トン、3位はバハマの約3,300万トンです。名目上はこれらの国の船でありながら、実質的な運航は日本や欧米の会社が行っているケースが大半です。
日本に寄港する外国クルーズ船のほぼすべてが「外国籍」に該当するため、カボタージュ規制の影響を直接受けます。たとえば、あの大型船「ダイヤモンド・プリンセス」もイギリス籍(バミューダ諸島)の船であり、日本国内のみのワンナイトクルーズのような運航は認められていません。これが条件です。
外国クルーズ船が利用できる「カボタージュ回避」のパターンは次のとおりです。
2025年に新たに運航を開始した「三井オーシャンフジ」(バハマ船籍)も、同様にカボタージュ規制の対象となります。そのため、日本国内がメインのクルーズ航程であっても、必ず海外に1回は寄港するルート設計が必要です。日本籍への切り替えが計画されていると伝えられており、それが実現すれば純粋な国内クルーズが可能になります。
乗りものニュース「日本一周クルーズ船がなぜか韓国に寄る理由」(カボタージュの仕組みをわかりやすく解説)
「日本の船なら国内だけを自由に運航できる」と思っていませんか?ところが日本籍のクルーズ船にも、独自の制限があります。それが通称「60日ルール」です。
60日に1回、海外寄港が必要です。
具体的には、日本籍のクルーズ客船は連続して60日を超えて国内のみを運航することが認められていません。飛鳥Ⅱ(現在は飛鳥Ⅲとして運航)のような純粋な日本船籍の豪華客船であっても、60日ごとに必ず釜山や台湾など海外の港に1回は寄港しなければならないのです。コロナ禍の時期、海外各国が入国制限をしていたにもかかわらず飛鳥Ⅱが釜山に向かっていたのは、まさにこの「60日ルール」を守るためでした。
なぜこのようなルールが生まれたのかについては、歴史的な経緯があります。
つまり60日ルールは、外国人乗務員の採用を認めた際のトレードオフとして設けられた制度です。外国人乗務員が乗船している以上、定期的に外国に入港して乗下船の機会を設ける必要があるという観点から生まれました。これが原則です。
一方、外国籍クルーズ船の場合は「60日に1回」というルールではなく、「1回のクルーズで必ず1つ以上の外国港に寄港する」という形でカボタージュ規制を回避しています。日本籍船と外国籍船では制約の種類が異なる点が、クルーズ旅程の設計に大きく影響しています。
この違いが旅行者にとって意外に重要なポイントです。外国籍クルーズ船で「日本一周」をする場合、必ず1か所は海外に立ち寄ることになりますが、逆に言えばその分だけパスポートが必要になり、入国審査の手続きも発生します。旅程を選ぶ際には、日本籍船か外国籍船かをあらかじめ確認しておくと、旅行の手続きの手間を把握しやすくなります。
ICHINOSE PARTNERS「ディズニークルーズに立ちはだかるクルーズ市場の制約」(60日ルールの成立経緯を詳しく解説)
関税に関心を持つ読者にとって、カボタージュ規制と税制の関係は特に注目すべきポイントです。クルーズ旅行では、乗る船の籍によって消費税や免税の扱いが変わることがあります。これは知らないと損する情報です。
まず外国籍クルーズ船の場合を見ていきましょう。船が公海に出た段階で、船内は「保税区域」の扱いになります。つまり、外国から持ち込まれた商品に関税や消費税がかかっていない状態で販売できるのです。バハマやパナマなどカジノが合法な国に籍を置く外国クルーズ船では、公海上でカジノが開放されるうえ、免税ショップで外国商品を割安に購入できます。
外国籍船の船内は免税が基本です。
一方、日本籍クルーズ船(飛鳥Ⅲなど)では、日本法が適用されるため国内消費税(10%)の課税対象となります。外国クルーズ船と比較して、船内ショッピングのコスト感が変わってくる点は、旅行者が事前に把握しておく価値があります。ただし、日本籍船が「海外クルーズ」として外国に寄港するルートの場合は、消費税が課税対象外になるケースもあります。
また、クルーズ旅行と関税の関係という観点では、入国時の免税範囲も重要です。クルーズで外国に寄港し日本に戻る際、税関申告が必要になります。一般的な免税範囲は、酒類2本(760ml換算)、タバコ200本、その他の品物は海外市価合計20万円以内です。クルーズ中に釜山や台湾で買い物をした場合も、この基準が適用されます。金額が大きければ関税と消費税の両方が課される場合があります。
外国籍クルーズで海外に寄港した際のショッピングには、この帰国時の免税枠が関わってきます。日本人旅行者の中には船内の免税ショップ購入分と寄港地購入分を合算して申告漏れになるケースがあります。免税枠を超えた分には関税・消費税が課されるため、購入額の管理は慎重にしておきましょう。帰国時には税関申告書の記載が必要です。
関税・消費税のトータルコストを計算した上でのショッピングが重要です。特に寄港地での高額購入(時計、ジュエリー、ブランドバッグなど)は、1品が6万円を超えると免税の対象外となり個別に関税がかかります。事前に財務省税関のサイトで免税範囲を確認しておくと、帰国後のトラブルを防げます。
財務省税関「海外旅行の免税範囲」(関税・消費税の申告基準を公式解説)
カボタージュ規制をめぐっては、緩和すべきか堅持すべきかという議論が長く続いています。一見すると「旅行業界の問題」に見えますが、実はこれは国防や経済安全保障に直結する重要なテーマです。
安全保障上の意義が非常に大きい制度です。
東日本大震災が発生した2011年の際、外国クルーズ船の一部は寄港地を神戸などに急きょ変更したり、入港そのものを控えたりしました。こうした判断は外国船社の裁量に委ねられており、日本政府が直接指示することは困難です。一方、日本籍船は国土交通大臣が輸送命令を出すことができ、有事に際して物資や人の輸送を確保する手段となります。島国である日本にとって、日本籍船を一定数以上維持しておくことは、インフラとしての海運を守るための重要な安全保障措置といえます。
カボタージュ規制を緩和した場合のシナリオも見てみましょう。もし外国クルーズ船が日本国内のみを自由に運航できるようになれば、大型の外国船が低コストで日本市場に参入し、料金が下がるというメリットが生まれます。実際、世界のクルーズ市場ではカジュアルクラスが約85%を占めており、1人あたり1泊2万円以下のプランも珍しくありません。現在の日本の内航クルーズは1泊あたり3〜5万円台が主流であることと比べると、規制緩和による価格破壊の可能性はかなり大きいといえます。
ただし、規制緩和にはデメリットも伴います。
関税や国際規制に関心がある読者にとっては、「カボタージュ規制の維持か緩和か」という問いは、単なるクルーズ業界の話ではなく、自由貿易と国家主権のバランスという大きな問いへのミニチュア版として非常に示唆に富む議題です。航空のオープンスカイ協定(相手国内での自由な路線・便数設定を認める協定)が運賃低下と旅客増加をもたらした事例と比較しながら考えると、海運カボタージュの今後の展開も見えてきます。
2025年3月の衆議院国土交通委員会でも「旅客輸送を自国籍船に限定するカボタージュ規制の堅持」が議題となり、国家安全保障の観点から規制維持の立場が改めて確認されました。クルーズ市場の拡大とカボタージュ規制のバランスをどう取るかは、今後も日本が向き合い続ける政策課題のひとつです。
日本内航海運組合総連合会「カボタージュ制度の堅持」(安全保障上の根拠をまとめた公式見解)
山縣記念財団「日本へのクルーズ客船の寄港とカボタージュ規制」(学術論文、規制緩和の効果を多角的に分析)