リファレンスチェックを断れば選考が有利に進むと思っているなら、それは大きな勘違いで内定取消リスクが跳ね上がります。
「リファレンスチェックは違法ではないか」と不安になる転職希望者や採用担当者は少なくありません。結論から言えば、リファレンスチェックそのものを禁止する法律は日本には存在しません。個人情報保護法・職業安定法などの関連法に則って適切に実施する限り、法的な問題は生じないのです。
リファレンスチェックとは、採用候補者の元上司・同僚・部下などの第三者から、その人物の実績・人柄・仕事ぶりについてヒアリングする採用手法です。書類選考や面接だけでは把握しきれない「実際の働きぶり」を確認できるため、特に中途採用において導入する企業が増えています。エン・ジャパンの調査によると、リファレンスチェックの実施企業は全体で約41%、日系企業では約23%、外資系企業では約58%に達します。
つまり原則は合法です。ただし、個人情報という非常にデリケートな情報を扱う性質上、やり方を一歩間違えると複数の法律に抵触するリスクがあります。通関業従事者として転職を考えている方も、採用を担当している方も、まずはこの基本を押さえることが重要です。
リファレンスチェックと混同されがちな「バックグラウンドチェック(採用調査)」とは目的が異なります。バックグラウンドチェックは犯罪歴・破産歴・反社チェックなど候補者のリスク情報の確認を主目的とし、一部の業界を除き現在はほとんど行われていません。一方、リファレンスチェックは候補者と企業のミスマッチ防止が主目的です。違いを理解しておけば混乱を防げます。
参考として、個人情報保護法の条文は以下で確認できます。
e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」— 第20条・第21条・第27条の具体的な規定内容を確認できます
同意を取り忘れても大丈夫だと思っていると、実は訴訟リスクと信用失墜を同時に招きます。これが最も多い違反パターンです。
個人情報保護法第27条は「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならない」と定めています。リファレンスチェックで取得する候補者の情報はまさに「個人データ」に該当するため、本人の明確な同意なしに実施すれば、この条文への抵触が生じます。
具体的に違法となる場面は複数あります。採用企業が候補者に無断で前職の元上司へ電話をかけて情報収集する行為、候補者本人と採用担当者が個人的な知り合いだからといって候補者に無断で情報を聞き出す行為、また探偵・興信所に無断で調査を委託する行為などが典型例です。探偵や調査会社に依頼する場合でも、候補者の同意を取得していなければ「同意なしの違法行為」になる点は変わりません。
通関業においては、業界内で人脈のつながりが深いケースも多く、「知り合いだから少し聞いても大丈夫だろう」という感覚で情報収集が行われてしまうリスクがあります。これは典型的な違法行為です。担当者間に個人的な親しい関係があっても、候補者本人の同意なしに情報を取得することは許されません。同意なしで違法に実施した場合、訴訟リスクだけでなく、採用候補者や取引先企業からの信用を失う事態に発展する可能性があります。
同意の取り方については、法律上は口頭でも可とされていますが、トラブル時の証跡として書面(紙またはデジタル)での取得が推奨されます。書面で利用目的・調査範囲を明示し、同意書として保管しておくことが安全です。
宗教・本籍・家族構成を質問すると就職差別になります。これが見落とされがちなリスクです。
リファレンスチェックで収集した情報を、採用目的以外で第三者に提供することは個人情報保護法に違反します。例えば、リファレンスチェックで得た候補者の評判や過去のトラブル情報を社内の無関係な部署や取引先に共有してしまうケースがこれに該当します。採用に関わる担当者の間でのみ情報管理を徹底することが必要です。
また、リファレンスチェックで聴取できる情報の「範囲」にも制限があります。職業安定法第5条の4では、業務の必要上不可欠な事情がない限り、以下の情報の収集を認めていません。
これらは面接や書類選考においても収集が認められておらず、リファレンスチェックだからといって特別に許容されるわけではありません。厚生労働省の「公正な採用選考の基本」でも明示されているルールです。
通関業の採用においても、業務に必要な情報(通関士としての実績・スキル・仕事への姿勢など)に絞った質問設計が求められます。採用担当者は事前に「この質問は業務遂行に必要か?」を必ず自問する習慣をつけておきましょう。
参考:厚生労働省が公表する採用選考ガイドラインはこちらで確認できます。
厚生労働省「公正な採用選考の基本」— 採用選考時に聞いてはいけない項目の具体的リストが掲載されています
「リファレンスで少し気になる情報が出た」だけでは内定取り消しはできません。これは多くの採用担当者が誤解しているポイントです。
内定が成立した時点で、企業と候補者の間には労働契約が締結されたとみなされます。労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めており、内定取り消しにも同様の基準が適用されます。
つまり、リファレンスチェックの結果を理由に内定を取り消すには、「客観的・合理的な理由」が必要なのです。認められやすいケースとしては、学歴詐称・職歴詐称、申告内容と全く異なる業務経歴、前職での重大な懲戒処分・刑事罰、反社会的勢力との関係などが挙げられます。一方、「面接時の印象と少し違う」「社風に合わなさそう」「前職の評価がやや低かった」といった理由では、内定取り消しは法的に認められにくいです。
通関業の採用で特に注意が必要なのが、通関士資格・担当業務・輸出入実績などの専門的な情報です。この業界では職務内容が比較的明確であり、リファレンスチェックで経歴詐称が露見しやすい特徴があります。逆に言えば、詐称がない限り過度に心配する必要はありません。内定後にリファレンスチェックを実施して問題が見つかった場合は、内定取り消しの前に必ず弁護士などの法律専門家に相談することが不可欠です。軽率な取り消し判断は、後の訴訟・損害賠償請求に直結するリスクがあります。
参考:内定取り消しの適法性については専門的な判断が必要です。
e-Gov法令検索「労働契約法」第16条 — 解雇権濫用法理の具体的な条文を確認できます
LinkedInやFacebookで「ちょっと調べるだけ」でも個人情報保護法違反になる可能性があります。意外と見落とされがちなケースです。
SNSを活用したリファレンスチェックは特に違法リスクが高い手法です。候補者の同意なくSNSでリファレンスを取得したり、候補者のアカウントを無断で閲覧・情報収集する行為は、プライバシー侵害および個人情報保護法への抵触につながります。さらに、職業安定法で収集が制限されている思想・信条に関する情報を意図せず取得してしまうリスクも高く、SNSは特に「線引き」が難しい調査手段です。
通関業界はビジネス上のネットワークが密な側面があり、採用担当者が候補者と共通の知人を持つことも珍しくありません。「LinkedInで共通の知人がいるから少し聞いてみよう」という行動も、候補者本人の同意がなければ違法行為に当たります。業界の顔が広いことが、かえって違法リスクを高めてしまうわけです。
加えて、外部の調査会社・探偵社に調査を委託する場合も注意が必要です。委託先が個人情報保護法に反した情報収集を行った場合、依頼元の企業にも法的責任が及ぶ可能性があります(委託管理責任)。委託先を選ぶ際は、プライバシーマーク取得の有無、個人情報管理体制、探偵業の届け出状況などを必ず事前確認しましょう。調査会社選びを慎重に行うことが、法的リスクを回避する第一歩です。
通関業界は転職先が"同業他社"になるケースが多く、転職活動中の現職バレが他業種より起きやすい構造です。これがリファレンスチェックの独自リスクに直結しています。
通関業界は専門性の高い業界であり、通関士資格保有者・通関業務経験者のコミュニティは比較的小さい傾向があります。転職先の多くも同じ物流・通関業界内であるため、採用企業と候補者の現職企業が取引関係や業界団体を通じて面識がある、というケースが珍しくありません。
こうした環境でリファレンスチェックを実施する際に特に気をつけるべき点があります。採用企業が候補者の現職関係者に不用意に電話をかけてしまうことで、候補者の転職活動が現職に発覚する可能性があります。たとえ候補者本人から調査の同意を得ていたとしても、現職への不意打ちのコンタクトは候補者の職場環境を著しく悪化させるリスクがあります。実際にこうしたトラブルがきっかけで候補者が内定辞退に至った事例も報告されています。
リファレンスチェックを実施する場合は、推薦者の選定を必ず候補者本人に委ねることが重要です。できれば「現職の上司・同僚以外」の第三者(前職の関係者・信頼できる業界外の知人など)から選んでもらうなど、候補者の現職バレを防ぐ配慮が求められます。通関業界の転職は業界内での評判に直結しやすいため、こうした配慮が採用企業の信頼性向上にもつながります。
オンライン完結型のリファレンスチェックサービス(ASHIATOやTRUST POCKETなど)を利用すれば、推薦者への連絡が候補者の現職に伝わりにくくなるほか、同意取得・情報管理も適法に処理されるため、こうした独自リスクを大幅に低減できます。実施件数が年間1万件を超えるサービスも存在し、法的リスクを意識した運用を支援しています。
正しいフローを1回確認するだけで、違法リスクはほぼゼロにできます。これが最も確実な対策です。
違法性なくリファレンスチェックを実施するための基本フローは以下のとおりです。
実施のタイミングも重要です。内定後のリファレンスチェックは労働契約成立後となるため、問題が見つかっても内定取り消しの難易度が上がります。最終面接前に実施するのが最も合理的とされています。
また、採用担当者全員がリファレンスチェックに関連する法律(個人情報保護法・職業安定法・労働契約法)を理解していることが前提条件です。担当者が法律を知らないままヒアリングを行い、不適切な質問をしてしまうケースも現実に起きています。事前に社内研修で知識を共有しておくことが、最も効果的なリスク管理です。
リファレンスチェックに不安を感じる場合や、対応できる社内リソースが不足している場合は、外部の専門サービスを利用することで法的リスクを大幅に軽減できます。サービスによっては、1件あたりの費用が1万5,000円〜3万円程度で、平均3〜5営業日でレポートが届くものもあります。費用対効果と法的リスク回避の観点から、検討する価値があります。
参考:弁護士によるリファレンスチェックの法的解説はこちらが参考になります。
マイナビ「リファレンスチェックは違法なのか?弁護士に直接聞いてみた」— 弁護士監修による違法性の判断基準と実務的な注意点が詳述されています