準拠法条項の例文と国際取引での正しい選び方完全ガイド

準拠法条項の例文を日本語・英語で完全網羅。国際売買契約で見落としがちな落とし穴や、CISGの自動適用リスクまで徹底解説。あなたの契約書は本当に安全でしょうか?

準拠法条項の例文と正しい設定方法を徹底解説

「日本法を準拠法とする」と書いても、実はCISGが自動適用され日本法が効かない場合があります。


📋 この記事の3つのポイント
⚖️
準拠法条項とは何か?

契約書上の権利・義務をどの国の法律で解釈するかを定める条項。国際取引において紛争が発生した際の「ゲームのルール」を決定する最重要条項です。

📝
日本語・英語の例文を完全収録

日本法、ニューヨーク州法、シンガポール法など、実際に使える準拠法条項の例文を複数パターン紹介。抵触法排除フレーズの意味も丁寧に解説します。

⚠️
CISGの自動適用リスクに要注意

「日本法を準拠法とする」と書くだけでは不十分な場合があります。ウィーン売買条約(CISG)の適用排除を明記しないと、想定外の義務・リスクが発生する可能性があります。


準拠法条項とは何か?国際売買契約における基本の意味

準拠法条項(英文では "Governing Law" や "Choice of Law" と表記されます)とは、契約上の権利・義務について、どの国(または州)の法律を基準として解釈・適用するかを取り決める条項のことです。国内の取引であれば特に意識しなくても問題になることは少ないですが、輸出入や国際売買契約においては、この一文が紛争時の勝敗を大きく左右することがあります。


たとえば、日本企業が中国メーカーから輸入した製品に欠陥が見つかったとします。契約書に準拠法条項がなければ、「日本の民法に基づいて損害賠償を請求できるのか」「中国法ではどうなのか」という点が不明確になり、訴訟や仲裁の費用が膨らんでしまいます。これは決して珍しいことではありません。


準拠法条項は、契約書の最後にある「一般条項(General Provisions)」のセクションにまとめて置かれることがほとんどです。だからこそ見落とされやすい。これが落とし穴です。


準拠法に関する主要な日本の法律は「法の適用に関する通則法(通則法)」です。通則法第7条は、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」と定めており、これを「当事者自治の原則」と呼びます。つまり、当事者が合意さえすれば、原則としてどの国の法律でも準拠法として選択できるのです。


法の適用に関する通則法(e-Gov法令検索)|第7条(当事者による準拠法の選択)・第8条(準拠法合意がない場合)の条文を確認できます。


準拠法が決まることで、品質保証の範囲、損害賠償の計算方法、消滅時効の期間など、契約に関わるあらゆる事項がその国の法律に従って判断されます。そのため、自社が不慣れな国の法律が適用されると、予想外の義務を負わされたり、権利の行使が制限されたりするリスクが生じます。つまり、準拠法は「どこで戦うか」だけでなく「どのルールで戦うか」を決める条項なのです。


準拠法条項の例文集|日本語・英語パターン別まとめ

実際に契約書で使用される準拠法条項の例文を、パターン別に紹介します。どの例文も、そのまま流用するのではなく、取引の内容や相手方との関係を踏まえて弁護士等の専門家に相談しながら使うことが大切です。


【パターン1】最もシンプルな日本法準拠の例文


日本語例。
「本契約は、日本法に準拠し、日本法に従って解釈される。」


英語例。
"This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan."


これが最もシンプルな形です。ただし、後述するCISGや抵触法の問題を解決できないため、そのまま使うのはリスクがあります。


【パターン2】抵触法(Conflict of Laws)を排除した例文


英語例。
"This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, without reference to principles of conflict of laws."


和訳。
「本契約は、法の抵触のルールを排除して、日本法に準拠し、日本法に従って解釈されるものとする。」


「without reference to principles of conflict of laws(抵触法の原則を除いて)」という一文を加えることで、日本の通則法が介入して結果的に他国の法律が適用される事態を防ぎます。これが基本です。


【パターン3】カリフォルニア州法を準拠とする例文


英語例。
"This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of the State of California, the United States of America."


和訳。
「本契約は、アメリカ合衆国カリフォルニア州法に準拠し、アメリカ合衆国カリフォルニア州法に従って解釈される。」


米国企業と契約する場合、"the laws of the United States" だけでは不十分です。アメリカは連邦国家であり、州によって法律が異なるため、「どの州の法律か」まで明記しなければ、準拠法の特定として不十分とみなされます。これは意外と見落とされやすいポイントです。


【パターン4】中立地(シンガポール法)を準拠とする例文


英語例。
"This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Singapore."


和訳。
「本契約は、シンガポール法に準拠し、シンガポール法に従って解釈される。」


日本法と相手国法のどちらにも合意できない場合、シンガポール法が「中立地」として選ばれることがあります。シンガポールは英米法系の法制度を採用しており、国際ビジネス取引において高い信頼性を持つ中立的な選択肢です。


【パターン5】折衷案(UCCを活用した高度な例文)


英語例。
"This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, except with respect to matters governed by the Uniform Commercial Code, which shall be governed by the laws of the State of New York, USA."


和訳。
「本契約は日本法に準拠するものとする。ただし、統一商事法典(UCC)の適用を受ける事項については、ニューヨーク州法に準拠するものとする。」


これは、相手方が米国企業でニューヨーク州法を強く主張してくる場合の折衷案です。商品売買に関わる部分のみニューヨーク州法(UCC)を適用し、それ以外の事項は日本法で守る形になります。


契約における準拠法とは?決め方や実務上の留意点(keiyaku-watch.jp)|弁護士による準拠法の決め方・例文・通則法の解説が詳しくまとめられています。


準拠法条項の落とし穴|抵触法排除フレーズの必要性

準拠法条項を書く際に、多くの実務担当者が見落としがちなのが「抵触法の排除フレーズ」です。シンプルに「This Agreement shall be governed by the laws of Japan.」とだけ書くと、実際には想定外の法律が適用される可能性があります。これはどういうことでしょうか?


日本には「法の適用に関する通則法(通則法)」という法律があり、国際的な法律関係においてどの国の法律を適用するかを定めています。この通則法が「抵触法」の役割を担っています。


問題は、契約で「日本法」と指定しても、通則法のルールに従って解析すると、結果的に別の国の法律が適用されると判断されるケースがある点です。たとえば、日本法を準拠法と定めた契約でも、取引の最密接関連地が別の国と判断されれば、その国の法律が適用される可能性があります。


この事態を防ぐために、"without reference to principles of conflict of laws"(抵触法の原則を適用しない)というフレーズを準拠法条項に加えます。この一文があることで、「日本法と書いたらとにかく日本法を使う」という確定的な効果が生まれます。


国際取引の実務では、このフレーズが標準的に使われています。英語で準拠法条項を作成する際は、このフレーズを入れるのが原則です。


また、もう一つの落とし穴として「消費者契約・労働契約の例外」があります。通則法第11条・第12条は、消費者や労働者の保護の観点から、当事者間の準拠法合意があっても、消費者の常居所地法や労働契約の最密接関連地法の強行法規が適用される場合があると定めています。たとえば、外国法を準拠法と定めた雇用契約でも、日本で働く従業員には日本の労働基準法が適用されるケースがあります。これが条件です。


さらに、「絶対的強行法規」と呼ばれる特別な規定も存在します。労働組合法第7条第1号(不当労働行為の禁止)などがこれに当たり、当事者間の準拠法合意にかかわらず、当事者の意思表示なしに強制的に適用されます。「日本法以外を準拠法にしたからOK」とはならないのです。痛いですね。


準拠法条項の規定の仕方、また規定しない場合はどうなるのか(クレア法律事務所)|日米間の契約を例に、準拠法条項の具体的な例文と通則法の解説があります。


準拠法条項を定めないと何が起きるか?独自の視点で解説

関税担当者や貿易実務者がしばしば誤解するのが、「契約書に準拠法を書いていなくても、いざとなれば日本の裁判所で日本法で裁いてもらえるはず」という思い込みです。しかし現実はそれほど単純ではありません。


まず、準拠法合意がない場合、裁判所は「黙示の合意」がないかを探ります。たとえば、契約書が全文英語で書かれていれば、英語圏の法律が黙示的に合意されていたと判断される可能性があります。これは法的根拠が通則法第7条の解釈から導かれます。


黙示の合意も認められない場合は、通則法第8条が適用され「最密接関連地の法律」が準拠法となります。最密接関連地とは、物品の送付元・送付先の国、代金の支払地などを総合的に考慮して判断されるもので、どこが選ばれるかは事前に予測しにくい面があります。


特に輸入関連ビジネスの担当者が知っておくべき視点として、「準拠法と関税は別の問題」という点があります。準拠法条項は、契約の解釈・履行・損害賠償に適用される法律を決めるものです。一方、関税・通関手続き・輸出入規制については、課税当局は契約当事者ではないため、準拠法条項や裁判管轄条項に縛られません。日本向けに輸入される貨物には、準拠法が何であれ日本の関税法が自動的に適用されます。これが原則です。


「準拠法を外国法にすれば日本の関税が変わる」といったことはあり得ません。関税は公法(国際租税法)の世界の話であり、当事者間の私的合意である準拠法条項で変更できるものではないのです。つまり、関税の節税・回避策として準拠法条項を操作しようとしても、法的効果はゼロです。


また、準拠法条項がない場合に実務で困る具体的なシーンとして、「損害賠償の請求上限」があります。日本法では、実際に生じた損害の賠償が原則ですが、米国法(特にニューヨーク州法)では懲罰的損害賠償(Punitive Damages)が認められる場合があります。これは実損の数倍に達することもあり、想定外の巨額請求につながります。準拠法を明確にしておくことで、こうしたリスクを回避できます。これは使えそうです。


さらに見落とされがちなのが「消滅時効の期間」です。日本の民法では原則5年(民法166条)ですが、CISGでは買主のクレーム提起期間は2年とされており、これが日本法の時効と混同されると、権利行使のタイミングを誤るリスクがあります。


ウィーン売買条約(CISG)と準拠法条項の関係|貿易担当者が知るべき盲点

関税・輸出入に関わる実務担当者が最も見落としやすい落とし穴の一つが、ウィーン売買条約(CISG:国際物品売買契約に関する国連条約)の自動適用問題です。


日本は2009年8月1日にCISGを締結・発効しました。CISGは現在世界95か国以上が加盟しており、主要な貿易相手国(米国、中国、韓国、ドイツ、フランス、オーストラリアなど)のほとんどが含まれています。法令の適用順位は「条約 → 商法 → 民法」であるため、「日本法を準拠法とする」と書くだけでは、まずCISGが優先的に適用され、CISGが規定しない部分についてのみ日本法が適用される、という構造になります。意外ですね。


つまり、「日本法を準拠法とする」と明記しただけで日本の民法・商法が全面適用されると思い込んでいると、実際にはCISGが適用される部分があり、想定と異なる結果になることがあります。


CISGの主な特徴として、以下の点が実務上重要です。


- 売主は、契約条件だけでなく、買主に対して知らされていた「特定の目的」に適した物品であることまで保証する必要がある場合があります。


- 買主のクレーム提起期間は日本の商法(526条で6ヶ月)より長い2年間とされています。


- 買主よりも売主の「追完権(修補・代替品引渡し等)」が優先されるため、買主はすぐに解除できません。


- 不合格品の物品検査は「実行可能な限り短い期間」で行う義務があります。


これらは日本法の常識と大きく異なる部分があり、知らずに取引を続けると思わぬリスクを背負います。


CISGの適用を排除したい場合は、準拠法条項に「適用排除フレーズ」を明示的に加える必要があります。


英語例。
"This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, excluding the United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods (CISG)."


和訳。
「本契約は、日本法(国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)の適用を排除する)に準拠し、日本法に従って解釈される。」


「単に別の準拠法を選択するだけではCISGは排除されない」というのがジェトロの解説です。条約第6条により、当事者はCISGの適用を排除・変更できますが、契約書において明示的に排除を記載する必要があります。CISGの排除は必須です。


反対に、CISG加盟国でない英国法を準拠法に選択した場合は、自動的にCISGは適用されません。英国はCISGに加盟していないため、英国法準拠の契約においてCISGは無関係となります。これが例外です。ただし英国法は一般的に相手方(英国企業)が有利になるため、英国法を準拠法にする合理的理由がない限りは安易に選ぶべきではありません。


ウィーン売買条約の概要:日本(ジェトロ)|CISGの適用範囲・排除方法について権威ある解説が掲載されています。


国際取引における準拠法(栗林総合法律事務所)|CISG適用排除条項の必要性と準拠法の決め方について詳しく解説されています。