排出権取引、日本でいつから始まりどう通関業務に影響するか

排出権取引が日本でいつから始まったのか、GX-ETSの本格始動やCBAMとの関係まで通関業従事者が知っておくべき制度変化と実務への影響を解説。知らないと損する情報とは?

排出権取引が日本でいつから始まり、通関業務にどう関わるか

EU向け輸出の通関書類に、今年から「排出量データ証明」が必要になっても誰も教えてくれません。


📋 この記事の3ポイント要約
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日本の排出権取引は2026年4月に本格始動

GX-ETSが義務化フェーズへ移行。CO2直接排出量が3年平均10万トン超の企業300〜400社が対象となり、日本全体の排出量約60%をカバーする制度が動き出しました。

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EU向け輸出にはCBAMへの対応が必須

EUの炭素国境調整措置(CBAM)が2026年1月から本格適用開始。鉄鋼・アルミ・セメントなどの輸出品には排出量データの一次情報提出と証書購入が義務化されました。

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通関業務にも排出量データ管理が直結する

国内GX-ETSで支払った費用はCBAM証書代から控除できる仕組みがあります。二重払いを防ぐための書類整備は、通関業務に携わる側が先んじて理解しておくべき課題です。


排出権取引とは何か:GX-ETSの基本的な仕組みを押さえる

排出権取引(排出量取引制度)とは、政府が企業に対してCO2排出量の上限(排出枠)を割り当て、企業がその枠を市場で売買できる仕組みです。排出量を削減できた企業は余った枠を売却でき、削減が追いつかない企業は不足分を購入することで帳尻を合わせます。つまり「炭素に値段をつける」カーボンプライシングの代表的な手法です。


この制度には、主に2つの方式があります。


| 方式 | 内容 |
|---|---|
| キャップ&トレード | 政府が排出上限を設定し、各企業に枠を割当。不足分は市場で購入 |
| ベースライン&クレジット | 削減した量をクレジット化し売買。Jクレジット制度が代表例 |


日本のGX-ETSは前者「キャップ&トレード方式」を採用しています。これが原則です。


排出権取引の制度史を振り返ると、世界初の本格導入はEUの「EU-ETS」で、2005年に開始されました。日本国内では東京都が2010年に「東京都キャップ&トレード制度」を先行導入。国として全体をカバーする義務的制度が動き出したのは、2026年4月のGX-ETSからとなります。


意外なことです。EUから実に20年以上遅れての義務化となりますが、GX-ETSは先行国の経験を踏まえた設計がなされており、価格安定のために上限価格4,300円/t-CO₂・下限価格1,700円/t-CO₂(2026年度)という価格帯があらかじめ示されています。これは不透明な価格変動リスクを企業が予測しやすくするための措置です。


通関業務との関係で重要なのは、この「排出量に価格がつく」という事実が、今後の輸出入コストや書類管理に直結するという点です。その理解が、実務の出発点になります。


参考:GX-ETSの制度詳細は経済産業省の公式ページが最も信頼性が高いです。


排出量取引制度(METI/経済産業省)


排出権取引が日本でいつから義務化されたか:制度の歴史と段階的スケジュール

日本の排出権取引制度は、一夜にして始まったわけではありません。段階を踏んだ移行があります。


まず2023年度に、GXリーグに参加する企業が自主的に取り組む「第1フェーズ(試行期間)」がスタートしました。GXリーグとは、GX(グリーントランスフォーメーション)を牽引する産官学のプラットフォームで、2025年には700社以上が参加する大規模な枠組みに成長しています。


試行期間は企業にとって「慣らし運転」の期間であり、削減目標の設定・クレジット創出の経験を積む場でした。それ自体は有意義ですね。


そして2026年4月1日、「第2フェーズ(義務化フェーズ)」へと移行しました。これが排出権取引が日本で法的に義務化された、歴史的な節目の日付です。


スケジュールを整理すると、以下のとおりです。


| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2023年度〜2025年度 | GXリーグ内で試行(第1フェーズ) |
| 2026年4月〜 | GX-ETS義務化本格始動(第2フェーズ) |
| 2026年度 | 排出量算定期間・割当申請準備 |
| 2027年度 | 初年度の排出枠割当を実施 |
| 2027年秋ごろ | 取引市場開設予定 |
| 2028年度目途 | 化石燃料賦課金の導入予定 |
| 2033年度〜 | 発電部門への有償オークション拡大 |


重要なのは、「2026年4月に始まった」といっても、取引市場が実際に動くのは2027年秋ごろという点です。2026年度は、各企業が自社の排出量を算定し、割当を申請するための準備の年と位置づけられています。


焦りすぎは不要です。ただし、排出量のモニタリング体制や書類整備は今すぐ着手が必要です。なぜなら、2027年の割当は2026年度の算定データが基礎になるからです。


2026年度から始まる「日本版排出量取引制度(GX-ETS)」議論の現状と制度スケジュール(Zeroboard)


排出権取引の対象企業と通関業者が把握すべき荷主への影響

GX-ETSの義務化対象となるのは、「単一事業所におけるCO2の直接排出量が、前年度までの3年度平均で10万トン以上となる事業所を保有する法人」です。具体的には鉄鋼・自動車・化学・電力・セメント・石油などの重工業系大企業が中心で、対象企業数は約300〜400社と推計されています。


日本全体の排出量の約60%を占める規模であることを考えれば、その影響範囲の大きさが分かります。東京ドーム1杯の空気が約124,000立方メートルだとすると、対象企業が扱う排出量のスケールは想像を絶するものがあります。


「うちの荷主は中小企業だから関係ない」と思った場合に注意が必要です。


直接義務を負うのは大規模排出事業者ですが、そのサプライチェーンに連なる中小企業も、間接的にCO2削減要求を受けるケースが増えています。荷主企業がGX-ETS対象企業からのサプライヤーである場合、排出量データの開示や証明書類を求められる場面が既に出てきています。


通関業者の立場では、荷主(輸出入者)がGX-ETS対象か否かを確認し、対象企業の貨物を扱う場合は以下の点を把握しておくことが重要です。


- 荷主の排出量算定・報告体制の整備状況
- 排出枠の保有・償却スケジュール
- J-クレジットやJCM(二国間クレジット)の活用有無


また、GX-ETSでは「親会社・子会社が共同で排出目標量を届け出ること」が認められています。グループ企業間での排出量管理が複雑になる可能性があるため、どの法人が申告主体なのかを書類上で明確にすることが、実務上のトラブル防止につながります。


CBAM(炭素国境調整措置)と輸出通関の新実務:2026年から変わること

EUのCBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism:炭素国境調整措置)は、2026年1月から本格適用フェーズに入りました。通関業従事者がこの制度を「EU側の話」として見過ごすと、輸出案件で大きなトラブルが発生するリスクがあります。


CBAMとは何かを一言でいえば、「EU域外から輸入される製品に、EU域内製品と同等の炭素コストを課す制度」です。EU ETS(欧州排出量取引制度)が域内製造業者に課しているコストを、輸入品にも同じように負担させることで、競争条件を揃える目的があります。


2026年時点での対象品目は以下の通りです。


- 🏗️ 鉄鋼・鉄鋼製品(ネジ・ボルト等の中間製品を含む)
- 🔩 アルミニウム
- 🏠 セメント
- 🌿 肥料
- ⚡ 電力
- 💧 水素


通関業者にとって最も重要な変化が、書類要件の変化です。2026年1月以降、EU向け輸出ではEU側の輸入者が「認可CBAM申告者(Authorized CBAM Declarant)」として登録されていることが通関の前提条件となりました。この登録がなければ、当該製品はEUへの通関が不可能です。


日本側の輸出者(荷主)は、EU側の輸入者がこの資格を持っているかを確認する義務は直接ありません。しかし実務上、荷主から「EU向けに輸出できなかった」という事態が発生した場合、通関業者が事前確認を怠ったとみなされるケースが起き始めています。これは使えそうな情報です。


加えて、2026年以降は排出量データが「デフォルト値(既定値)」から「実測値(一次データ)」へと切り替わりました。工場の実際の生産データに基づく排出量算定が原則となり、デフォルト値の使用は例外扱いとなっています。これにより、荷主が輸出先サプライヤーに要求されるデータ精度が一段上がっています。


EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)|JETRO(PDF)


GX-ETSとCBAMの二重構造:排出権取引費用が輸出コストに与える計算上の盲点

ここが、通関業従事者が見落としがちな独自の重要論点です。


日本国内でGX-ETSの義務を負う企業が、かつEU向けに当該製品を輸出している場合、排出コストが「二重払い」になるリスクがあります。具体的にいうと、GX-ETSで排出枠を購入(炭素コストを支払い)し、さらにCBAM証書もEU側で購入される、という構造です。


ただし、これには解決策があります。


CBAMの制度設計では、輸出元の国で既に支払われた炭素コスト(排出量取引費用や炭素税相当額)は、CBAM証書の購入額から「控除」できる仕組みが設けられています。つまり国内のGX-ETS費用がCBAMの負担と相殺されるわけです。


控除を受けるためには以下の書類整備が不可欠です。


- GX-ETSで支払った排出枠費用の証明書類
- 排出量の第三者検証レポート(登録確認機関によるもの)
- 製品ごとの体化排出量(製造工程全体の排出量)算定データ


通関業者がここで果たせる役割は、荷主が「国内でいくら炭素コストを支払ったか」を証明する書類を適切に整備・保管できているかをサポートすることです。この書類が揃っていないと、本来なら控除できるはずのCBAM証書代を、全額追加で負担することになります。


金額感として、EU ETSの排出枠価格は2025年時点でおおよそ50〜70ユーロ/t-CO₂(約8,000〜11,000円/t-CO₂)で推移しています。日本のGX-ETS価格(2026年度:上限4,300円、下限1,700円)との差額は、制度間の「価格ギャップ」として現実に生じます。この差が大きいほど、控除を受けるための書類整備の経済的メリットが大きくなります。


控除の適用を受けるためのルールは今後も詳細が詰められる段階にあります。


CBAM 2026年動向まとめ|本格適用、対応・影響、最新ルール改正(Asuene)


排出権取引の実務対応チェックリスト:通関業従事者が今すぐやるべきこと

制度の全体像が分かったところで、実際に通関業務に携わる立場として、何を優先すればよいかを整理します。


まず確認すべきは、担当している荷主がGX-ETS対象企業かどうかです。「CO2直接排出量が3年平均10万トン超」という基準は大企業向けですが、荷主が大企業の子会社や関連企業である場合は要注意です。グループ単位での排出管理が認められているため、親会社がGX-ETS対象なら関連会社の書類も影響を受ける可能性があります。


次にEU向け輸出案件を担当している場合、対象品目(鉄鋼・アルミ・セメント・肥料・水素・電力)に該当する貨物があるかを洗い出すことが必要です。該当する場合は以下のアクションが求められます。


- ✅ EU側の輸入者が「認可CBAM申告者」として登録済みか確認
- ✅ 荷主が製品ごとの体化排出量データ(一次データ)を保有しているか確認
- ✅ 排出量の第三者検証機関との契約状況を把握
- ✅ 国内GX-ETS費用の控除申請に必要な書類が揃っているか確認


さらに、英国でも2027年からCBAMが導入予定となっています。UK版はEU版と細部が異なる(例:間接排出が当初は対象外)ため、英国向け輸出案件も早めに要確認です。


2026年度は取引市場がまだ開設されておらず(2027年秋予定)、GX-ETSの実際の排出枠売買は始まっていません。ただし排出量の算定義務・報告義務はすでに発生しています。この点が、実務上の「見えないデッドライン」になっています。


今の段階で荷主と密にコミュニケーションを取り、脱炭素関連書類の管理フローを共有しておくことが、今後数年間の通関実務を円滑に進める上で最も効果的な投資となります。


排出量の算定・可視化をサポートするSaaSツールとして、たとえばZeroboardのようなGHG算定プラットフォームを荷主企業が導入しているかを把握しておくと、書類管理の連携がスムーズになる場面が増えます。荷主への情報提供という付加価値サービスとして活用できそうです。


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