CEマークやUL認証があっても、日本では別途PSE適合が義務で、未対応のまま輸入すると100万円以下の罰金または1年以下の懲役が科されます。
電気用品安全法(電安法)は、日本国内で電気製品を販売するにあたって守らなければならない安全規制です。輸入を行う事業者は、製造事業者と同様に「届出事業者」として技術基準への適合義務を負います。その技術基準を定めた文書が「電気用品の技術上の基準を定める省令の解釈」であり、別表第一から別表第十二まで存在しています。
別表第八は、この解釈通達の中でも特に対象範囲が広い基準です。正式には「交流用電気機械器具並びに携帯発電機」を対象とし、家庭や事務所で日常的に使われる電気製品の大半が含まれます。電気ストーブ、空気清浄機、電子レンジ、洗濯機、冷蔵庫、扇風機、掃除機といった身近な家電製品がその代表例です。
これが基本です。
別表第八は日本独自の技術基準です。つまり、設計の前提となる電圧・コンセント形状・住宅事情が日本の環境に合わせて細かく規定されており、絶縁距離(空間距離・沿面距離)の規定値や耐熱試験の条件なども国内環境を踏まえた数値になっています。たとえば日本のコンセントは100V・極性なしの平行刃が主流ですが、この仕様を前提とした要求事項が随所に織り込まれています。
一方で、「国内向けの基準」ゆえに海外で設計・製造された製品との相性が課題になります。詳細は次のセクションで解説しますが、別表第八の存在を理解することは、輸入コストと手戻りリスクを予測するうえで欠かせない第一歩です。
電安法の対象となる電気用品は、2021年7月時点で457品目が指定されています。このうち特に安全上のリスクが高い116品目が「特定電気用品」に分類され、菱形(◇)のPSEマーク表示と第三者機関による適合性検査が義務付けられます。残りの341品目は「特定電気用品以外の電気用品」として丸形(○)のPSEマークで足りますが、いずれも技術基準への適合確認と自主検査記録の3年間保存は必須です。記録の保存義務、忘れやすいですね。
参考:電気用品安全法の基準適合確認について(経済産業省)
基準適合確認 - 届出・手続の流れ(METI/経済産業省)
別表第十二は、別表第一〜第十一(国内独自基準群)とはまったく異なる体系の技術基準です。IEC(国際電気標準会議)やCISPR(国際無線障害特別委員会)などの国際規格をベースにしており、日本の配電事情に応じたデビエーション(修正・追加要求)を付加した規格群(IEC-J規格、CISPR-J規格など)で構成されています。
つまり国際規格準拠が原則です。
具体的には、家庭用電気機器の安全性を規定するJ60335シリーズ(JIS C 9335シリーズに対応)、情報技術機器を対象とするJ60950シリーズ、照明器具のJ60598シリーズなどが含まれます。これらはIEC規格と対応関係があるため、欧州のCE認証で使われるEN規格や中国のGB規格に近い体系とも言えます。
海外工場と共同開発している製品や、もともとIEC準拠で設計された輸入品にとっては、別表第十二のほうが試験条件の解釈を共有しやすいメリットがあります。設計者が海外にいる場合でも、「J60335-1の○条相当」という形で議論できるためです。これは使えそうです。
ただし、注意点があります。別表第十二はIEC規格に基づいているとはいえ、日本固有のデビエーションが追加されているため、「IEC規格に適合しているから別表第十二に適合している」とは必ずしも言えません。この点は経済産業省も明確に注意喚起しており、欧州のCEマークや北米のUL認証を持つ製品でも、改めて別表第十二への適合確認が必要になります。
さらに重要な原則があります。別表第一〜十一と別表第十二は独立した体系であり、原則として混用できません。たとえば「安全試験は別表第八、ノイズ試験は別表第十二」というような組み合わせは認められず、どちらか一方の基準で一貫して適合確認を行う必要があります。この点を見落とした場合、試験を全部やり直すことになります。痛いですね。
参考:JETによる電安法技術基準の概要解説
試買テストにおける不適合事例紹介(一般財団法人 電気安全環境研究所)
輸入ビジネスにおける最大の実務判断が「別表第八か別表第十二か」の選択です。この選択を誤ると、試験後に設計変更が発生し、追加コストや販売スケジュールの遅延につながります。以下に主な比較ポイントを整理します。
| 比較観点 | 別表第八・第十(国内基準) | 別表第十二(国際規格準拠) |
|---|---|---|
| ベースとなる規格 | 日本独自(電安法別表) | IEC/CISPR等の国際規格 |
| 主な適用対象 | 国内向け家電・交流電気機械器具 | 国際市場向け・海外設計品 |
| 海外設計品との相性 | ⚠️ 設計変更が必要になることが多い | ✅ IECベース設計と整合しやすい |
| 空間距離・沿面距離の解釈 | 国内基準の厳格な数値 | IEC準拠(解釈の柔軟性あり) |
| ノイズ規格との統合 | 2028年8月に別表第十二へ統合予定 | CISPR-J規格でノイズも一本化 |
| 混用 | 原則禁止(どちらか一方で完結させる必要あり) | |
実務での判断基準は「設計の出発点」が何かです。中国・韓国・欧州で設計・製造された製品は、大半がIECベースの基準で設計されています。このような製品を別表第八で試験しようとすると、空間距離(部品間の空気中距離)や沿面距離(絶縁物の表面上の距離)が日本独自の数値に届かず、不合格になるケースが現実に起きています。これは電気安全環境研究所(JET)が公表した試買テスト報告書でも確認されており、輸入品の不合格率は国内品と比べて明らかに高い傾向があります。
一方、最初から日本市場専用として設計・製造を依頼した製品や、国内メーカーが開発した製品では、別表第八での適合確認が自然な選択です。国内の試験所も別表第八の解釈に精通しており、相談・対応がしやすいというメリットもあります。別表の選択は早い段階が条件です。
参考:別表第八・第十と別表第十二の違いの詳細解説
電気用品安全法(PSEマーク)別表第八・第十と別表第十二の違いを徹底解説(gray01.com)
経済産業省は毎年、市場で流通している電気用品を購入し、技術基準への適合状況を確認する「試買テスト」を実施しています。このテストの結果は一般に公開されており、電気用品を輸入している事業者にとって無視できないデータが含まれています。
令和3年度(2021年度)の試買テストでは、抽出した176機種のうち約51.1%が技術基準解釈において不適合という結果でした。つまり市場に出回っている製品の約2台に1台が基準を満たしていない状態です。これは厳しいところですね。
不適合の内訳で最も多かったのが「表示」の問題で全体の31%を占め、次いで「空間距離」(13%)、「過充電保護」(9%)、「雑音の強さ」(8%)と続きます。表示不適合の具体例としては、直流電源装置で「定格入力容量(VA)が記載されていない」、電気氷削機で「定格時間の表示がない」、電気洗濯機で「経年劣化に係る注意喚起の表示がない」といったケースが報告されています。
特に輸入品で注意すべき点が2つあります。
- 表示言語の問題:別表第十二(J60335-1)では「取扱説明書は販売する国の公用語で記載すること」が明示されています。日本向けに輸入するにもかかわらず、取扱説明書が英語・中国語のままになっているケースが多数報告されています。
- 空間距離の設計差:欧州向け230V製品と日本向け100V製品では、絶縁設計の前提電圧が異なります。電圧が違うと部品間に確保すべき空間距離の計算結果が変わり、別表第八の基準値を満たせないことがあります。
また、電安法の罰則も見落とせません。PSEマークなしで電気用品を販売した場合、法人は1億円以下の罰金、個人は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(電気用品安全法第57条)。輸入後に違反が判明すれば、出荷停止・回収命令のリスクもあります。試験費用を節約しようとした結果、より大きなコストを被る、という事態は実際に起きています。対策を取るなら試験依頼前が原則です。
参考:経済産業省・試買テスト結果の公表ページ
電気用品安全法 市場流通品に対する試買テスト(METI/経済産業省)
現在、電安法の技術基準は大きな転換期を迎えています。2025年8月29日付の改正通達により、これまで別表第十(雑音の強さ)として存在していたノイズ規制の基準が、別表第十二に統合されることが決まりました。施行日は2025年8月31日で、猶予期間は2028年(令和10年)8月30日までの3年間です。
この改正が輸入ビジネスに与える影響は2点あります。
まず、従来は「安全基準=別表第八、ノイズ基準=別表第十」という組み合わせで対応していた製品の担当者は、2028年8月31日以降は「安全基準=別表第八、ノイズ基準=別表第十二(CISPR-J)」に切り替える必要があります。ただし別表第八と別表第十二の混用は原則禁止のため、「安全を別表第八で対応し、ノイズは別表第十二で対応」という分割方式が公式に認められるのかどうかを、事前に試験機関や経済産業局に確認することが重要です。
次に、2023年5月1日の改正で別表第十二に追加・更新されたJIS規格のうち、旧規格を使用している製品には2026年4月30日という猶予期限がすでに到来しています。この記事の執筆時点(2026年3月)はまさにその移行直前の時期です。旧規格での試験成績書を保有している輸入事業者は、最新規格への切り替えが完了しているかを確認する必要があります。2028年の期限だけ覚えておけばOKではないということですね。
さらに長期的な視点では、経済産業省の審議会資料で「2028年度を目途に別表第一〜十一を別表第十二へ一本化する方向」が議論されています。これが実現すれば、国内独自基準はすべて国際規格準拠の別表第十二へ移行されることになります。輸入事業者にとっては、製品ラインの技術基準が将来的に全面リセットされる可能性を念頭に置いた調達・認証計画が求められます。
参考:2025年8月改正の内容詳細(JQA)
「電気用品の技術上の基準を定める省令の解釈について」一部改正のお知らせ(JQA)
参考:2025年8月改正の詳細(UL Japan)
2025年8月29日付 電安法技術基準解釈 改正のお知らせ(UL Japan)
試験所や認証コンサルタントに相談する前に、社内で方針を固めておくと時間とコストを節約できます。以下は、輸入事業者が独自に判断を進めるための実務フローです。一般的な解説記事にはあまり載っていない視点も含めています。
ステップ1:製品の設計書・試験成績書の確認
輸入元(海外メーカー)から入手できる技術文書のうち、以下を確認します。
- 回路図・部品表(BOM)に記載されている絶縁設計が何Vベースか
- 既存の試験成績書がIECの何番に基づいているか
- 空間距離・沿面距離の計算書があるか、ない場合は実測できるか
これらが「IECベース」であれば、別表第十二の選択が現実的です。
ステップ2:プレ試験(事前診断)の活用
正式試験の前に「プレ試験(事前診断)」を国内試験所に依頼することを強く推奨します。費用は試験所によって異なりますが、本試験費用の一部(数万〜十数万円程度)で主要な不適合ポイントを洗い出せます。空間距離不足やアース表示漏れなど、海外設計品で頻発する問題を事前に把握できれば、設計変更の指示を海外メーカーに伝えることができます。
対策は「試験依頼前」が条件です。
ステップ3:事業届出と試験の並行進行
輸入事業を開始する場合、事業開始日から30日以内に「電気用品輸入事業届出書」を管轄の経済産業局に提出する義務があります。届出と試験は並行して進めることが可能で、届出先の経済産業局(本社所在地管轄)のウェブサイトで必要書類の書式を取得できます。届出の遅延そのものも指導対象になる場合があります。
ステップ4:試験所の選定と技術文書の整備
別表第八と別表第十二では、試験の測定条件や試験項目の一部が異なります。試験所によって得意とする基準体系が異なる場合があるため、依頼前に「どちらの別表での試験に実績があるか」を確認することが重要です。また、試験後に整備が必要な技術文書(試験成績書の保管方法、自主検査記録の書式)も試験所と事前に確認しておくと、販売開始後の書類管理がスムーズです。
これらのステップを踏むことで、試験の手戻りリスクを大幅に下げられます。輸入電気用品の試買テストで不合格になった場合、製品の回収・修正・再試験という流れが発生し、数十万円から場合によっては数百万円規模の損失になることもあります。関税・送料をかけて輸入した商品が「販売不能」になる事態は、輸入ビジネスにとって最も避けるべきシナリオです。それだけは避けたいですね。
参考:輸入電気製品の手続き詳細(JETRO)
家電製品の輸入手続き:日本(JETRO Q&A)
参考:輸入品の試験依頼・PSEマーク業務サポート
PSEマーク業務サポート(UL Japan)