通関業務で定性分析だけに頼ると、重大な損失を見落とす可能性があります。
通関業務におけるリスク分析には、大きく分けて定性的手法と定量的手法の2種類があります。定性的手法は、専門家の経験や判断に基づいてリスクを「高・中・低」といった段階で評価する方法です。一方、定量的手法は、発生確率や影響度を具体的な数値で表現し、統計モデルを用いて分析します。
参考)PMP試験対策ブログ リスクの定性分析と定量分析の違い - …
定性的分析の最大の利点は、短時間で実施できることです。通関業務では、HSコードの誤り、規制品目の見落とし、書類不備といったリスクを迅速に識別する必要があります。リスクマトリクスを使えば、発生頻度と影響度を軸にしてリスクを視覚的に配置でき、優先順位が一目瞭然になります。これは使えそうです。
ただし定性的分析には限界もあります。評価者の主観が入りやすく、「中程度のリスク」という表現では具体的な損失額が把握できません。通関トラブルによる保管料や滞船料の発生、関税の追徴など、金銭的影響を正確に見積もる場面では定量的分析が不可欠です。定量的分析では、過去のデータから故障率や損失額を計算し、リスクを数値化できます。
参考)定量的リスク評価と定性的リスク評価が連携する理由とは? - …
両手法を併用することで、リスクを生データで測定しながら、その運用上の文脈も完全に理解できます。まず定性的分析でリスクを広く洗い出し、重要度の高いものに対して定量的分析を実施する、という段階的アプローチが実務では効果的です。つまり両方必要ということですね。
参考)定量分析と定性分析——リスク分析をするときの2つの方法 - …
FMEA(故障モード影響解析)は、通関業務の構成要素ごとに故障モードを抽出し、その影響度や発生頻度を評価する手法です。この手法の主な目的は、未知の不具合を予測して未然に防止することにあります。
参考)FMEAとFTAの違いとは?それぞれの目的と使い方を分かりや…
FMEAでは、リスクを「深刻度(Severity)」「発生頻度(Occurrence)」「検出可能性(Detection)」の3つの指標で評価します。例えば、HSコードの誤入力という故障モードを考えてみましょう。深刻度は関税率の変更やFTA無効化による追加税発生で「8点」、発生頻度は類似品のコード流用が年に数回で「5点」、検出可能性は事前チェックで発見しにくい場合「6点」と評価できます。
参考)通関トラブルの原因と防止対策|実務で使える事前確認リスト付き…
これら3つの数値を掛け合わせたものがRPN(リスク優先度数)です。上記の例では8×5×6=240となり、この数値が高いほど優先的に対策すべきリスクとなります。RPNに基づいて対策の優先順位を決定するため、設計変更や工程改善の根拠が明確になります。これが基本です。
参考)https://www.mdpi.com/2076-3417/9/6/1192/pdf
通関業務でFMEAを活用する際は、書類作成プロセス、HSコード分類、規制確認、通関締切管理など、各工程を細かく分解して分析します。温度設定の入力ミスでリーファーコンテナの貨物が損傷し、損害賠償に至った実例もあります。このような事例をFMEAで事前に分析していれば、入力確認プロセスの強化という対策を講じられたはずです。
参考)【貿易実務のトラブル事例】たった一つのミスが大損害に!|未央
FMEAの評価結果は、定量的なデータとしても活用できます。発生頻度(O)の評価は、後述するFTA分析での定量評価の基礎データになります。痛いですね。
FTA(故障の木解析)は、トップダウン型でリスク要因を分析する手法です。通関トラブルという最終的な望ましくない事象(トップ事象)を設定し、それを引き起こす要因を第1要因、さらにその要因となる第2要因というように、体系的に分解していきます。
参考)FMEA(故障モード影響解析)とは?実施手順・フォーマット・…
FTAの特徴は、システムの弱点を明らかにできることです。通関遅延というトップ事象に対して、「書類不備」「HSコード誤り」「規制確認漏れ」などの第1要因を洗い出します。さらに「書類不備」を分解すると、「インボイス情報不足」「パッキングリストと現物の不一致」といった第2要因が見えてきます。
参考)リスク分析とは
FT図を分析することで、「最小カットセット」と呼ばれる、トップ事象を引き起こすための基本事象の最小の組み合わせを導出できます。この最小カットセットが、システムの安全性における最も脆弱な部分を示しており、どこを改善すれば最も効果的にリスクを低減できるかを明確にします。これは必須です。
FTAの強みは、各基本事象の発生確率データを用いることで、トップ事象の発生確率を定量的に算出できる点です。例えば、通関書類の記載ミスが起こる確率が5%、HSコード誤りが3%、それらが同時に発生する確率を論理演算で計算し、最終的な通関遅延の発生確率を数値化できます。
参考)https://www.nite.go.jp/data/000126305.pdf
ロシア税関の事例では、リスク管理システムにより「低リスク」企業に対する検査を2017年の15%から2025年には10%へ削減し、「高リスク」企業への検査を37%から60%へ集中させる方針を示しています。FTA分析で算出した発生確率をもとに、このような効率的なリソース配分が可能になります。結論はメリハリをつけることです。
参考)通関におけるリスク管理システムに改善の動き(ロシア)
FMEAとFTAは役割が異なるため、両方を併用すると効果的です。FMEAは個々の部品や工程という「ミクロ」の視点からリスクを評価し、FTAはシステム全体の挙動という「マクロ」の視点からリスクを評価します。両方を実施することで、見落としのない包括的なリスク管理が実現します。
具体的な活用の流れは次のとおりです。まず定性的分析のリスクマトリクスで全体のリスクを洗い出し、優先度をつけます。次にFMEAで各工程の故障モードを詳細に分析し、RPNを算出します。そして重要度の高いリスクに対してFTAを実施し、システム全体への影響を定量的に評価します。最後に対策を反映したFT図で再度トップ事象の発生確率を計算し、目標とする安全性レベルを満たしているか確認します。
参考)リスク分析の手法: 情報セキュリティ、ビジネス、評価と管理を…
通関業務のリスクに対応するには、状況に応じた手法の使い分けが重要です。日常的な書類チェックには、短時間で実施できる定性的なリスクマトリクスが適しています。新しい輸入品目や複雑な規制が関わる案件には、FMEAで詳細に分析します。そして通関システム全体の改善や、組織的なリスク管理体制の構築には、FTAによる定量的評価が不可欠です。意外ですね。
参考)https://d-monoweb.com/blog/basics-fmea-fta/
マレーシア税関では、リスクマネジメント手法を導入し、よりリスクの高い貨物を効率的に抽出するシステムを構築しています。このようなシステム導入の効果を測定し、継続的に改善するためには、複数のリスク分析手法を組み合わせた総合的なアプローチが求められます。段階的に実施すれば大丈夫です。
参考)https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12002317_01.pdf
リスク分析の結果を実際の業務改善につなげるには、具体的なアクションプランが必要です。分析で特定された高リスク項目に対して、予防策と検出策の両面から対策を講じます。
通関書類の不備というリスクに対しては、作成時のダブルチェック体制が予防策になります。この体制により、HSコードの未記載やインボイス情報不足といった不備を事前に防げます。いいことですね。また検出策として、通関システムに自動チェック機能を組み込む方法もあります。例えば、必須項目の入力漏れがあるとアラートを出す仕組みです。
通関トラブルの実例から学ぶことも重要です。本船予約のミスは、満船で再予約不可能、通関書類の再作成、輸送スケジュール全体の遅延、顧客からのクレームや損害請求といった連鎖的な問題を引き起こします。こうした事例をFMEA分析に反映させることで、RPNの評価精度が向上します。
JETROの通関リスク管理に関する報告書では、各国の税関がリスク度合いに応じた管理を行い、低リスク企業には検査を最低限にする一方、高リスク企業には重点的に検査を実施する事例が紹介されています。
リスク分析の効果を最大化するには、定期的な見直しが欠かせません。貿易環境や規制は常に変化するため、半年に1回程度はリスクの再評価を行い、新たなリスクが発生していないか確認します。過去の通関トラブルデータを蓄積し、発生確率や影響度の数値を更新することで、FTAによる定量評価の精度も高まります。これだけ覚えておけばOKです。
通関業務従事者向けの実務チェックリストを作成し、リスク分析の結果を日常業務に落とし込むことも効果的です。チェックリストには、書類不備の確認項目、HSコード分類の確認手順、規制品目の照会方法、通関締切の管理方法などを盛り込みます。こうした実践的なツールにより、リスク分析の知見が組織全体で共有され、通関業務の品質向上につながります。厳しいところですね。