関税法施行令と原産地認定基準の暫定税率

関税法施行令における原産地認定基準と暫定税率の適用について詳しく解説します。令和6年度の関税改正のポイントや実務上の注意点も網羅。通関業務に携わる方々は、最新の改正内容をどのように実務に反映させるべきでしょうか?

関税法施行令と暫定税率の適用基準

関税法施行令の重要ポイント
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原産地認定基準

物品の原産地を決定する際の法的根拠となる基準

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暫定税率の適用

基本税率より低い関税率が時限的に適用される制度

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令和6年度改正のポイント

411品目の暫定税率適用期限が1年延長

関税法施行令における原産地認定基準の概要

関税法施行令第4条の2第4項では、原産地の認定基準について明確に規定しています。この規定は、特例申告書に記載すべき「原産地」の定義を示すもので、通関実務において極めて重要な位置づけとなっています。

 

原産地の認定基準は大きく分けて2つあります:

  1. 完全生産品基準:一の国または地域において完全に生産された物品
  2. 実質的変更基準:一の国または地域において実質的な変更を加える加工または製造により生産された物品

関税法施行規則第1条の5では、完全生産品として認められる物品を具体的に列挙しています。例えば:

  • 一の国または地域で採掘された鉱物性生産品
  • 一の国または地域で収穫された植物性生産物
  • 一の国または地域で生まれ、成育した動物から得られた物品
  • 公海で採捕された水産物(一の国または地域の船舶による場合)

これらの規定は、EPA(経済連携協定)における特恵税率の適用や原産地表示の適正化において基礎となる重要な基準です。

 

関税法施行令に基づく暫定税率の適用期限と延長

令和6年度の関税改正において、暫定税率の適用期限が注目されています。暫定税率とは、時限的に基本税率より低い関税率が定められている制度です。令和6年度の改正では、とうもろこし、麦芽等411品目について、暫定税率の適用期限が令和6年度末(2025年3月31日)まで1年延長されました。

 

この延長措置は、国内産業保護と国際競争力のバランスを図るための重要な施策です。特に注目すべき点として:

  • 加糖調製品(5品目)については、国内産糖への支援の原資となる調整金の拡大のため、暫定税率が引き下げられました
  • ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋については、需給逼迫の解消及び調達価格の低下等を踏まえ、暫定税率が撤廃されました
  • 沖縄に係る関税制度上の特例措置(特定免税店制度)についても、沖縄振興特別措置法の延長に伴い、適用期限が延長されています

これらの改正は2024年4月1日から施行されていますが、一部の規定については2024年10月1日、2025年1月1日、2025年10月12日から施行されるものもあります。通関業務に携わる実務者は、これらの施行日を正確に把握し、適切な対応を取ることが求められます。

 

関税法施行令と特別緊急関税制度の連携

関税法施行令は特別緊急関税制度とも密接に関連しています。特別緊急関税制度とは、輸入数量が一定の数量を超えた場合等に関税率を引き上げる措置です。この制度は、国内産業への急激な影響を緩和するためのセーフガードとしての役割を果たしています。

 

特別緊急関税制度の具体的な発動条件は以下の通りです:

  • 輸入数量が基準数量を超過した場合
  • 輸入価格が一定水準を下回った場合

発動された場合、通常の関税率に加えて追加の関税が課されます。例えば、関税割当等の関税率の3分の1が上乗せされることになります。

 

この制度は特に農産品において重要で、米・麦・乳製品等に適用されています。令和6年度の関税改正では、暫定税率の延長に伴い、特別緊急関税制度の適用期限も令和6年度末まで1年延長されました。

 

通関業務の実務者は、特別緊急関税制度の発動状況を常に把握し、輸入者に適切な情報提供を行うことが求められます。特に季節性のある農産品の輸入においては、この制度の発動可能性を考慮した通関計画の立案が重要です。

 

関税法施行令における実質的変更基準の判断方法

関税法施行規則第1条の6では、実質的変更基準の具体的な判断方法について規定しています。実質的変更とは、「物品の該当する関税定率法別表の項が当該物品のすべての原料または材料の該当する同表の項と異なることとなる加工または製造」と定義されています。

 

しかし、単なる項の変更だけでは実質的変更と認められないケースもあります。例えば、以下のような加工は実質的変更とは認められません:

  • 輸送または保存のための乾燥、冷凍、塩水漬けなどの操作
  • 単なる切断、選別
  • 瓶、箱などの包装容器に詰めること
  • 製品または包装にマークやラベルを付けること
  • 非原産品の単なる混合
  • 単なる部分品の組立て

一方、税関長が指定する加工または製造として、以下のようなものは実質的変更と認められます:

  • 天然研磨材料について、その原石を粉砕し、粒度をそろえる加工
  • 糖類、油脂、ろうまたは化学品について、用途に変更をもたらす精製
  • 革、糸または織物類について、染色、着色などの加工
  • 単糸からの撚糸の製造
  • 金属のくずから金属の塊の製造

これらの判断基準は、原産地証明書の発行や特恵税率の適用において重要な役割を果たします。特に、複数国にまたがる製造工程を経た製品の原産地判定においては、最後に実質的変更をもたらした国が原産地となります。

 

関税法施行令と糖類に関する特殊規定の実務的影響

関税法施行令および関連規則では、糖類に関する特殊な規定が設けられており、通関実務においても注意が必要です。特に、関税率表第29類の糖類(化学的に純粋なものに限る)や糖エーテル、糖アセタール、糖エステルなどについては、特別な分類規則が適用されます。

 

糖類に関する特殊規定のポイントは以下の通りです:

  1. 化学的に純粋な糖類の取扱い
    • しょ糖、乳糖、麦芽糖、ぶどう糖及び果糖を除く化学的に純粋な糖類は関税率表第29.40項に分類
    • これらの糖類の誘導体(糖エーテル、糖アセタール、糖エステルなど)も同項に分類
  2. 精製による実質的変更の判断
    • 糖類について、その用途に変更をもたらし、または用途を特定化するような精製は、実質的変更と認められる
    • この判断は原産地認定において重要な意味を持つ
  3. 加糖調製品に関する暫定税率の特例
    • 令和6年度の関税改正では、加糖調製品のうち5品目について、CPTPP税率の設定状況を踏まえ、国内産糖への支援の原資となる調整金の拡大のため、暫定税率が引き下げられた

これらの規定は、特に食品業界や製薬業界の輸入に大きな影響を与えます。例えば、糖類を原料とする医薬品や食品添加物の輸入において、その精製度や用途によって適用される関税率や原産地判定が変わる可能性があります。

 

通関業務の実務者は、糖類に関する特殊規定を十分に理解し、適切な品目分類と原産地判定を行うことが求められます。特に、複雑な化学構造を持つ糖類については、必要に応じて分析機関の鑑定結果や専門家の意見を参考にすることも重要です。

 

また、糖類の輸入においては、関税だけでなく国内の糖価調整制度も考慮する必要があります。この制度は国内産糖の保護を目的としており、輸入糖に調整金が課される仕組みとなっています。令和6年度の関税改正における加糖調製品の暫定税率引き下げは、この調整金の拡大を意図したものであり、実質的な負担は変わらない可能性があることに注意が必要です。

 

関税法施行令改正に伴う通関実務の変更点と対応策

令和6年度の関税法施行令改正に伴い、通関実務においていくつかの重要な変更点が生じています。これらの変更に適切に対応するためには、以下のポイントに注意する必要があります。

 

1. 海上輸送で輸入される通販貨物の通関手続きの簡素化
令和7年(2025年)10月12日から、少額免税の対象となる通販貨物である等の要件を満たす海上貨物について、航空貨物と同様の簡易な通関手続きが整備されます。これにより、一部の輸入申告項目を省略した手続きが可能となります。

 

この変更に対応するためには:

  • 通販貨物の定義と要件の確認
  • 簡易通関手続きの適用条件の把握
  • 社内システムや業務フローの更新

が必要となります。

 

2. 暫定税率の適用期限延長に伴う実務対応
411品目の暫定税率適用期限が令和6年度末まで延長されたことに伴い、以下の点に注意が必要です:

  • 暫定税率適用品目リストの更新
  • 加糖調製品5品目の税率引き下げへの対応
  • ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋の暫定税率撤廃への対応

特に、暫定税率が変更された品目については、輸入者に対して適切な情報提供を行い、コスト計算や価格設定の見直しを促すことが重要です。

 

3. 原産地認定基準の適用における注意点
原産地認定基準の適用においては、以下の点に特に注意が必要です:

  • 物品の生産が二国以上にわたる場合、実質的な変更をもたらし、新しい特性を与える行為を行った最後の国を原産地とする
  • 「一の国または地域の船舶」とは、当該一の国または地域の旗を掲げて航行する船舶を指す
  • 自国産以外の複数の原材料を使用した製造において、重要な構成要素となる原材料から見て実質的変更と認められる場合は、全体として実質的変更と見なされる

これらの判断基準を正確に適用するためには、製造工程や原材料の詳細情報を輸入者から十分に収集することが重要です。

 

4. システム対応と社内教育
関税法施行令改正に適切に対応するためには、以下の取り組みが効果的です:

  • 通関システムの更新(税率データベースの更新、新しい通関手続きへの対応)
  • 社内マニュアルの改訂
  • 担当者向けの研修実施
  • 税関や業界団体が提供する情報の定期的なチェック

特に、複数の施行日が設定されている改正については、各施行日とその内容を明確にしたスケジュール表を作成し、計画的に対応することが重要です。

 

また、不明点がある場合は、所轄の税関に事前教示制度を活用して確認することも有効な対応策です。事前教示制度を利用することで、税率や原産地判定について税関の公式見解を得ることができ、通関時のトラブルを未然に防ぐことができます。

 

以上の対応策を適切に実施することで、関税法施行令改正に伴う実務上の混乱を最小限に抑え、円滑な通関業務を維持することが可能となります。