関税法改正の概要と暫定税率の延長

関税法改正の最新動向と通関業務への影響を解説。暫定税率の延長や輸入者定義の変更など、重要なポイントを押さえています。あなたの業務にどのような影響があるでしょうか?

関税法改正の主要ポイントと実務への影響

関税法改正の主要ポイント
📅
暫定税率の延長

令和6年度末まで1年延長

🔍
輸入者定義の明確化

輸入申告者の資格要件厳格化

💼
納税環境の整備

更正の請求に係る重加算税制度の見直し

関税法改正における暫定税率の延長と特別緊急関税制度

令和6年度の関税改正において、最も注目すべき点の一つが暫定税率の延長です。具体的には、411品目に適用されている暫定税率について、その適用期限が令和6年度末まで1年延長されることになりました。この延長は、国内産業の保護や国際競争力の維持を目的としています。

 

暫定税率が適用される品目には、以下のようなものが含まれます:

  • 工業製品(例:自動車部品、電子機器)
  • 農林水産品(例:一部の野菜、果物)
  • 鉱工業品(例:石油製品、化学製品)

また、米・麦・乳製品等に係る特別緊急関税制度についても、同じく令和6年度末まで延長されることになりました。この制度は、輸入量が急増した場合や輸入価格が急落した場合に、一時的に関税率を引き上げることができるもので、国内農業の保護に重要な役割を果たしています。

 

通関業務に携わる方々にとっては、これらの延長により、少なくとも令和6年度末までは現行の税率体系が維持されることになるため、業務の継続性が確保されることになります。ただし、国際情勢や経済状況によっては、今後さらなる見直しが行われる可能性もあるため、常に最新の情報に注意を払う必要があります。

 

税関:関税率表(実行関税率表)
最新の関税率表や改正情報を確認する際に参考になります。

 

関税法改正に伴う輸入者定義の明確化と実務への影響

令和5年10月1日から施行された関税法施行令及び関税法基本通達の改正により、輸入者の定義が明確化されました。この改正は、特に外国法人が関与する輸入取引において大きな影響を与える可能性があります。

 

主な変更点は以下の通りです:

  1. 輸入取引による輸入の場合:
    • 原則として、仕入書に記載されている荷受人が輸入者となります。

       

    • 輸入申告者の資格が限定されている場合は、その該当者が輸入者となります。

       

  2. 輸入取引によらない輸入の場合:
    • 輸入申告時点で、国内引取り後の輸入貨物の処分権限を有する者が輸入者となります。

       

    • 輸入の目的たる行為を行う者も輸入者に含まれます(例:賃借して使用する者、委託販売を受けて販売する者など)。

       

この改正により、単なる輸入代行業者は輸入申告者となることができなくなりました。これは、輸入者としての責任を明確にし、適切な関税の納付を確保するためです。

 

実務への影響としては、以下のような点に注意が必要です:

  • 輸入代行を行っている場合、取引構造の見直しが必要になる可能性があります。

     

  • 外国法人が輸入者となる場合、非居住者としての手続きや納税方法について確認が必要です。

     

  • 輸入消費税の仕入税額控除(還付)に影響が出る可能性があるため、税務面での検討も重要です。

     

税関:通達改正情報
輸入者定義に関する詳細な通達改正情報を確認できます。

 

関税法改正における納税環境の整備と重加算税制度の見直し

令和6年度の関税改正では、納税環境の整備の一環として、更正の請求に係る重加算税制度の見直しが行われました。この改正は、内国税の改正に合わせて行われたもので、より公平で適正な課税を実現することを目的としています。

 

主な改正点は以下の通りです:

  1. 重加算税の対象拡大:
    • 従来は、仮装・隠蔽に基づく納税申告や期限後特例申告書の提出等に対してのみ重加算税が課されていました。

       

    • 改正後は、申告後に仮装・隠蔽に基づいて「更正の請求」を行った場合も重加算税の対象となります。

       

  2. 重加算税の税率:
    • 過少申告の場合:35%
    • 無申告の場合:40%
  3. 適用範囲:
    • 関税のみならず、内国消費税等(消費税、酒税、たばこ税、揮発油税等)にも適用されます。

       

この改正により、不正な税額の還付を目的とした更正の請求に対しても、厳格な対応が可能となりました。通関業務に携わる方々にとっては、以下の点に特に注意が必要です:

  • 輸入申告時の正確な申告の重要性がさらに高まりました。

     

  • 更正の請求を行う際は、その根拠や計算の正確性を十分に確認する必要があります。

     

  • 仮装・隠蔽と判断されるような行為は、重加算税の対象となる可能性が高いため、慎重な対応が求められます。

     

国税庁:タックスアンサー
重加算税に関する一般的な解説を確認できます。関税の重加算税についても、基本的な考え方は同様です。

 

関税法改正が化粧品の輸入代行業務に与える影響

化粧品の輸入代行業務は、関税法改正の影響を特に受けやすい分野の一つです。令和5年10月1日から施行された改正により、輸入者の定義が明確化されたことで、従来の輸入代行の形態に変更が必要となる場合があります。

 

化粧品輸入に関する主な変更点と注意点:

  1. 製造販売業許可の必要性:
    • 化粧品を輸入する場合、薬機法に基づく製造販売業の許可が必要です。

       

    • 輸入代行業者が許可を持っていない場合、輸入申告者となることができなくなりました。

       

  2. 輸入申告者の要件:
    • 仕入書に荷受人として記載されている者
    • 輸入貨物の処分権限を持つ者
  3. 取引構造の見直し:
    • 輸入代行業者が輸入貨物を仕入れ、荷受人となる形態であれば、引き続き輸入申告者となることができます。

       

    • ただし、この場合、輸入代行業者は製造販売業の許可を取得する必要があります。

       

  4. 税関への説明責任:
    • 「輸入代行」という表現から、税関から輸入申告者の適切性について指摘を受ける可能性があります。

       

    • 改正内容や化粧品の輸入に係る取引の流れを整理し、説明できるようにしておく必要があります。

       

この改正により、化粧品の輸入代行業務を行っている事業者は、以下のような対応を検討する必要があります:

  • 製造販売業の許可取得を検討する
  • 取引構造を見直し、実質的な輸入者となる形態に変更する
  • 顧客に対して、輸入者としての責任や手続きの変更について説明する

厚生労働省:医薬品等の輸入手続き
化粧品の輸入に関する規制や手続きの詳細を確認できます。

 

関税法改正に伴うEU関税法との比較と国際的な動向

日本の関税法改正を理解する上で、国際的な動向、特にEUの関税法改革との比較は有益な視点を提供します。EUでは2023年5月に関税法改革案が提出され、2024年に向けて段階的に実施されつつあります。

 

日本とEUの関税法改正の比較ポイント:

  1. 電子商取引への対応:
    • EU:EU域外からの輸入品における電子商取引に対する新規アプローチを導入
    • 日本:電子商取引に特化した改正はまだ具体化していないが、今後の課題として認識されている
  2. 税関検査の効率化:
    • EU:より効率的な税関検査および対象を絞った管理を目指す
    • 日本:輸入者定義の明確化により、間接的に税関検査の効率化を図る
  3. データ活用:
    • EU:新たなEU税関データハブの設立を計画
    • 日本:NACCSシステムの高度化を継続的に進めているが、EUほど大規模な改革は行っていない
  4. 中小企業への配慮:
    • EU:特に中小企業の貿易の促進と関連する負担の軽減を重視
    • 日本:中小企業に特化した改正は少ないが、全体的な手続きの簡素化は進めている

これらの比較から、日本の関税法改正は以下のような特徴を持っていることがわかります:

  • 段階的かつ慎重なアプローチ:急激な変更を避け、既存の制度を基盤としつつ徐々に改善を図る
  • 実務的な課題への対応:輸入者定義の明確化など、現場で直面する問題に焦点を当てた改正
  • 国際的な調和:WTOやWCO(世界税関機構)の基準に沿った改正を心がけている

通関業務に携わる方々にとっては、これらの国際的な動向を踏まえつつ、日本の関税法改正の方向性を理解することが重要です。特に、電子商取引や中小企業支援など、今後日本でも重点的に取り組まれる可能性が高い分野については、先行するEUの事例を参考にしながら、業務の準備や対応を検討することが有効でしょう。

 

European Commission: Union Customs Code
EUの関税法改革に関する最新情報を確認できます(英語)。

 

以上、関税法改正の主要ポイントと実務への影響について詳細に解説しました。通関業務に携わる方々にとっては、これらの改正内容を十分に理解し、適切に対応することが求められます。特に、輸入者定義の明確化や納税環境の整備については、実務に直接影響を与える可能性が高いため、注意深く対応する必要があります。また、国際的な動向にも目を向け、将来的な変化に備えることも重要です。関税法改正は継続的に行われるものであり、常に最新の情報を収集し、適切に対応していくことが、通関業務の円滑な遂行につながります。