IL-33を標的とする生物学的製剤は、効果が出るまでに数ヶ月かかると思われがちですが、実はアトピー性皮膚炎患者の一部では投与後2週間以内に有意な掻痒スコアの改善が報告されています。
IL-33は上皮細胞や肥満細胞から放出されるアラーミンの一種で、物理的・化学的刺激や病原体侵入に応じて即座に分泌されます。これがST2(別名:IL-1RL1)と結合することで、肥満細胞・Ⅱ型自然リンパ球(ILC2)・Th2細胞が活性化し、IL-4・IL-5・IL-13といったType 2サイトカインが大量に産生されます。
つまりIL-33は「アレルギー炎症の火付け役」です。
抗IL-33抗体はこのリガンドそのものを中和するため、ST2を介する下流シグナル全体を遮断できます。一方、デュピルマブはIL-4Rαを標的としてIL-4とIL-13のシグナルを同時に遮断しますが、IL-5産生や肥満細胞の活性化経路には直接作用しません。抗IL-33抗体はその上流に位置するため、より幅広いType 2炎症の制御が期待されています。
喘息における好酸球性炎症では、IL-33→ILC2→IL-5という経路が特に重要です。この経路を上流で遮断できる点は、抗IL-33抗体の大きな特徴と言えます。
参考:IL-33/ST2軸とアレルギー疾患に関する日本免疫学会の解説
日本アレルギー学会誌(アレルギー)- IL-33関連論文を収録
現在、抗IL-33抗体として最も臨床データが蓄積されているのがイテペキマブ(itepekimab、製品名:Dupixent併用試験も含む)です。イテペキマブはサノフィ/リジェネロンが開発した完全ヒト型IgG4モノクローナル抗体で、IL-33に高い親和性で結合し、ST2との相互作用を阻害します。
よく混同されますが、トラロキヌマブ(tralokinumab)はIL-13を標的とする抗体であり、抗IL-33抗体ではありません。これは注意が必要です。
イテペキマブは中等症〜重症の気管支喘息を対象としたEXPLORE試験で、プラセボ比較において年間喘息増悪率を約40〜50%減少させたデータが報告されています。特にアトピー型(IgE高値・血中好酸球高値)の患者群でより顕著な効果が示されました。日本国内では2024年時点で承認申請が進んでいる段階であり、実臨床での使用はまだ限定的です。ただし、グローバルの試験データは豊富に公開されています。
承認状況は常に最新情報を確認することが原則です。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)- 承認審査情報・添付文書の最新確認に有用
イテペキマブの喘息に対する主要試験は、PATHWAY試験(フェーズ2b)とEXPLORE試験(フェーズ3)です。PATHWAY試験では、300mg隔週投与群において年間喘息増悪率が87%減少という結果が得られており、これはType 2炎症マーカー(血中好酸球数 ≥ 300/µL、または呼気中NO 25ppb以上)陽性の患者群に限定した解析です。
数字だけ見ると非常に印象的ですね。
ただし全患者での解析では効果量が縮小するため、バイオマーカーによる患者選択が治療成功の鍵となります。アトピー性皮膚炎については、デュピルマブ不十分奏効例へのイテペキマブ追加投与(TOGETHER試験)が注目されており、IGA(Investigator Global Assessment)スコアの改善が確認されています。
安全性プロファイルでは、注射部位反応・上気道感染が主な有害事象として報告されており、重篤な免疫関連副作用の頻度はプラセボと有意差がないとされています。寄生虫感染リスクは他の抗体製剤と同様に理論的な懸念事項として記載されますが、臨床試験での発生頻度は低く抑えられています。
安全性データは試験ごとに患者背景が異なる点に注意が必要です。
NEJM掲載のEXPLORE試験論文 - イテペキマブの喘息に対するフェーズ3データ
生物学的製剤が複数存在する現在、最も現場の医師が悩む問題が「どの患者に何を使うか」という選択です。デュピルマブはIL-4Rαを介してIL-4とIL-13を同時阻害するため、アトピー性皮膚炎・喘息・慢性副鼻腔炎(鼻茸合併)で既に保険適用があります。一方、抗IL-33抗体は上流のアラーミンを標的とするため、既存の生物学的製剤で不十分だった患者に対する次の選択肢として期待されています。
バイオマーカーによる選択指標を整理すると以下のようになります。
これが患者選択の基本です。
現時点では、デュピルマブと抗IL-33抗体の直接比較(head-to-head)試験のデータは限られています。そのため診療現場では、既承認のデュピルマブを第一選択とし、不十分奏効例や特定のフェノタイプに対してスイッチまたは追加を検討するアプローチが現実的です。
日本アレルギー学会 - 生物学的製剤の使い分けに関するガイドライン・教育資材
IL-33は気道上皮だけでなく、腸管・皮膚・中枢神経系の上皮細胞にも広く発現しています。これは抗IL-33抗体の適応が、現在の喘息・アトピー性皮膚炎にとどまらない可能性を示唆しています。
意外ですね。
慢性副鼻腔炎(CRSwNP:鼻茸合併型)では、IL-33が鼻粘膜上皮から産生され鼻茸形成に関与することが示されており、イテペキマブを含む抗IL-33抗体の臨床試験が進行中です。また、COPDでは喫煙や感染による上皮障害でIL-33が過剰分泌されることが知られており、増悪予防への応用研究が行われています。
特に見逃されがちな点として、COPD患者のうちアトピー素因を持つ「喘息COPD オーバーラップ(ACO)」の症例では、Type 2炎症マーカーが高値を示すことがあります。このような患者群への抗IL-33抗体の有効性は現在活発に研究されており、呼吸器科専門医だけでなく総合内科・アレルギー科の医師にとっても注目すべき領域です。
さらに、IL-33は神経系への作用(痒みの神経伝達促進)も持つことが近年の研究で明らかになっています。アトピー性皮膚炎における難治性掻痒への関与という観点から、皮膚科領域でも今後の知見の蓄積が期待されます。
現時点ではほとんどが研究段階です。
ただし、適応外使用や研究参加については各施設の倫理委員会および関連学会のガイドラインに従った対応が求められます。患者への情報提供においても、承認済みの効能効果と研究段階の知見を明確に区別して伝えることが医療従事者としての重要な責務です。
日本呼吸器学会 - COPDガイドライン・生物学的製剤関連の最新動向