BAFFを標的とした治療を行うと、B細胞が増えるケースが一部で報告されています。
BAFF(B cell Activating Factor)は、TNFスーパーファミリーに属するサイトカインです。BLyS(B Lymphocyte Stimulator)とも呼ばれ、この2つは完全に同一の分子を指します。混同されやすい名称ですが、同じ物質です。
BAFFは主に樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球などの自然免疫細胞から産生されます。産生後は膜結合型と可溶型の2形態で存在し、特に可溶型が全身循環に入ってB細胞に作用します。BAFF受容体としてはBAFF-R(TNFRSF13C)、TACI(TNFRSF13B)、BCMA(TNFRSF17)の3種類が知られており、それぞれ異なる下流シグナルを媒介します。
B細胞の成熟過程において、BAFFシグナルは過渡期B細胞(transitional B cell)から成熟B細胞への分化を特に強く促進します。この段階でのBAFF依存性は高く、BAFF欠損マウスでは末梢B細胞が著しく減少することが実験的に確認されています。つまり、BAFFはB細胞の生存維持に不可欠なシグナルです。
一方で、BAFF過剰産生環境では自己反応性B細胞のアポトーシス回避が促進されます。健常者における血清BAFF濃度は約1〜3 ng/mL程度とされますが、SLE患者では3〜10 ng/mLを超える例も珍しくありません。この濃度上昇が自己免疫反応を増幅させるメカニズムとして重要視されています。
| 受容体名 | 主な発現細胞 | 主な機能 |
|---|---|---|
| BAFF-R | 成熟B細胞 | B細胞生存・成熟促進 |
| TACI | 形質細胞・B細胞 | 免疫グロブリン産生調節 |
| BCMA | 長寿命形質細胞 | 形質細胞の生存維持 |
ベリムマブ(belimumab)は可溶型BAFFに選択的に結合し、BAFFがその受容体へ結合するのを競合的に阻害するヒト型モノクローナル抗体です。受容体そのものをブロックする薬剤ではなく、リガンドであるBAFF自体を中和するという点が重要です。これが原則です。
投与後の変化として最も早く観察されるのは、末梢血の過渡期B細胞(Transitional B cells)の減少です。臨床試験では投与後8〜16週以内にナイーブB細胞および自己反応性B細胞の有意な減少が認められています。一方、長寿命形質細胞はBCMA受容体を介して生存するため、ベリムマブによる影響を受けにくいとされます。既存の自己抗体値(抗dsDNA抗体など)の低下が緩やかな理由がここにあります。
BLISS-52・BLISS-76試験(各約800例のSLE患者対象)では、ベリムマブ10mg/kg月1回投与群が標準治療単独群と比べ、SLEREスコア(SLE疾患活動性指標)の改善率で約25〜29%の有意な優位性を示しました。意外ですね。
また、腎炎合併SLE(ループス腎炎)に対しても2021年にFDAが追加承認を取得しており、標準治療(MMF+ステロイド)への上乗せとして腎応答率を有意に改善するデータが示されました。これは使えそうです。
投与経路は静注(IV)と皮下注(SC)の2剤形があります。SCは自己注射が可能なため、外来通院頻度の軽減という観点でも注目されています。
BAFFは多くの自己免疫疾患で異常高値を示します。SLEが最も研究されていますが、BAFF過剰が病態に関与する疾患はそれだけではありません。
シェーグレン症候群(pSS)においても、血清BAFF値は健常者比で2〜3倍以上の上昇が確認されており、B細胞リンパ腫への移行リスクとの相関も報告されています。しかし現時点でシェーグレン症候群に対するベリムマブの有効性試験(BELISS試験など)は主要エンドポイントを達成できず、適応承認には至っていません。臨床現場での使用には注意が必要です。
関節リウマチ(RA)においても血清BAFF高値が確認されていますが、既存の生物学的製剤(抗TNF薬、アバタセプトなど)の有効性が確立されているため、BAFFを主標的とした治療薬の開発優先度は低くなっています。一方、IgA腎症に関しては、BAFF・APRILを同時に中和するtabalumab(イゲルカ)などの後続品が開発中であり、2024〜2025年のフェーズ3データが注目されています。
つまり、BAFF標的治療の適応は今後さらに広がる可能性があります。
ベリムマブの副作用で最も頻度が高いのは感染症です。上気道感染症(発生率約25〜38%)、尿路感染症(約5〜15%)が主要なものとして挙げられています。免疫グロブリン値の低下(特にIgM)が投与後早期から生じることが多く、感染リスクの素地になります。IgM低下は投与後3〜6ヵ月で顕在化することが多いため、この時期のモニタリングが重要です。
精神症状・自殺念慮についても、ベリムマブの添付文書に記載されている重大な副作用です。SLE自体がうつ・不安などの精神症状と関連しやすいこともあり、因果関係の判別は難しいのですが、臨床試験中に自殺企図・自殺念慮がプラセボ群と比較して数値的に高かったことから警告されています。投与前のPHQ-9などによる精神症状スクリーニングが推奨されます。
妊婦への投与は原則禁忌です。動物実験でBAFF中和による胎児免疫系への影響が示されており、投与中は確実な避妊が必要です。投与終了後も少なくとも4ヵ月間の避妊継続が推奨されています。これは必須です。
生ワクチンの接種はベリムマブ投与中は禁忌です。不活化ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌など)は接種可能ですが、免疫応答が低下している可能性を念頭に置く必要があります。接種タイミングは投与サイクルを考慮して計画的に行うことが現実的です。
BAFFの近縁分子として、APRIL(A Proliferation-Inducing Ligand)があります。APRILもTNFスーパーファミリーに属し、TACIとBCMAという受容体をBAFFと共有しています。一方でBAFF-RにはAPRILは結合しません。この違いがとても重要です。
長寿命形質細胞の生存はBCMAを介したAPRILシグナルに大きく依存しているため、ベリムマブ(BAFF単独中和)では既存の自己抗体産生細胞を十分に抑制できません。そこで開発されたのが、BAFFとAPRILの両方を同時に中和するアタシセプト(atacicept)やテレイソ・MABといった融合タンパク質製剤です。
アタシセプトはSLE・IgA腎症に対するフェーズ2試験で一定の有効性を示しており、特にIgA腎症については2024年に発表されたフェーズ2b試験(ORIGIN試験)で尿蛋白の有意な低下が確認されました。IgA腎症は国内患者数が多く(約40,000〜60,000人と推定)、有効な生物学的製剤が乏しかった領域だけに、臨床的な意義は大きいと言えます。
特に注目されているのが、BAFF-Rを直接ターゲットにするianalumab(VAY736)です。このアプローチでは可溶型・膜結合型いずれのBAFFシグナルも遮断できるため、ベリムマブより強力なB細胞抑制が期待されています。シェーグレン症候群に対するフェーズ2試験では主要エンドポイントの改善が確認されており、今後の適応拡大が期待されます。
医療従事者として、BAFF/APRIL経路の全体像を把握しておくことは、今後登場する新規生物学的製剤の作用機序を正確に理解し、適切な患者選択・副作用管理を行う上で不可欠です。結論は「BAFF単独よりBAFF+APRIL二重標的戦略が次世代の主流」です。
参考リンク(ベリムマブ国内添付文書・ループス腎炎の承認情報)。
PMDA:ベンリスタ点滴静注用添付文書(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)
上記リンクではベリムマブの効能・効果、用法・用量、重大な副作用(感染症・精神症状等)の詳細情報が確認できます。処方前の必読資料として利用できます。
参考リンク(BAFFとAPRILの生物学的役割・自己免疫疾患との関連レビュー)。
日本アレルギー学会誌 J-STAGE(国立研究開発法人 科学技術振興機構)
上記リンクでは自己免疫疾患におけるBAFFシグナルの役割に関する和文レビューが複数掲載されており、国内臨床研究の知見を確認する際に活用できます。