喫煙を続けると、禁煙後15年経っても冠動脈性心疾患リスクがゼロにはならないケースがあります。
喫煙関連疾患とは、喫煙・受動喫煙によって発症または増悪が確認されている疾患群の総称です。 代表的なものは「4C疾患」と呼ばれ、英語表記の頭文字がすべて「C」である4つのカテゴリに整理されます。 具体的には、悪性新生物(Cancer)、冠状動脈疾患(Coronary artery disease)、脳血管疾患(Cerebrovascular disease)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の4つです。 hiroshima.med.or(https://www.hiroshima.med.or.jp/assets/docs/pdf/kenmin/kinen/atlas/18.pdf)
これは覚えておくだけで患者説明に使えます。
タバコ煙には、ニコチンや一酸化炭素をはじめとして7,000種類以上の化学物質が含まれています。 そのうち約70種は発がん性物質として同定されており、単一臓器ではなく循環器・呼吸器・消化器・生殖器・中枢神経系と全身に影響を及ぼします。 つまり「肺の病気」という狭いイメージで捉えると、他臓器への影響を見逃すリスクがあります。 kyoukaikenpo.or(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/drkawasaki20180515.pdf)
医療従事者として改めて確認しておくべき点は、喫煙関連疾患は「能動喫煙」だけでなく「受動喫煙」によっても成立するという事実です。 厚生労働省は受動喫煙と疾患の因果関係を4段階で評価しており、肺がん・虚血性心疾患・脳卒中・乳幼児突然死症候群(SIDS)が最高評価の「レベル1(因果関係を推定するのに十分な科学的根拠がある)」に位置づけられています。 hiroshima-med.jrc.or(https://www.hiroshima-med.jrc.or.jp/blog/blog-wisdom/blog-3114/)
喫煙関連疾患の種類は多岐にわたりますが、大きく3つのグループに分類すると整理しやすいです。 kyoukaikenpo.or(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/drkawasaki20180515.pdf)
また、消化器疾患(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)や生殖器系の異常(妊娠合併症など)、アルツハイマー型認知症といった疾患も喫煙との関連が報告されており、単純な「4C」の枠を超えた幅広い理解が求められます。 kyoukaikenpo.or(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/drkawasaki20180515.pdf)
喫煙が臓器を傷めるメカニズムは、大きく「酸化ストレス経路」と「炎症反応経路」の2つに分けて理解するのが基本です。 j-circ-kinen(https://www.j-circ-kinen.jp/participants/damage/index.html)
タバコ煙中の一酸化炭素(CO)は、ヘモグロビンとの親和性が酸素の約250倍あります。そのため血中COヘモグロビン(COHb)が増加し、組織への酸素供給が慢性的に低下します。これが虚血性心疾患・脳血管疾患リスクを底上げする直接的な機序です。 禁煙すると12時間以内に血中一酸化炭素値が正常化するデータがあり、この可逆性は患者への禁煙動機づけにそのまま使えます。 ganjoho(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/smoking/tobacco07.html)
ニコチンはもう一方の軸を担います。交感神経を刺激して心拍数と血圧を上昇させ、血管内皮機能を障害し動脈硬化を促進します。 発がん性については、タバコ煙に含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)やニトロソアミンがDNAに直接結合(DNA付加体形成)し、p53遺伝子などの変異を誘発する経路が確認されています。 つまり「じわじわと遺伝子を書き換える」作用があるということですね。 jrs.or(https://www.jrs.or.jp/citizen/nosmoking/data/)
慢性気管支炎については、喀痰を伴う咳が3か月以上、かつ2年以上にわたって反復することが臨床的定義であり、気道粘膜の慢性炎症が背景にあります。 この炎症が可逆性を失うと肺気腫へと進行し、最終的にCOPDの病態を形成します。 srf.or(https://www.srf.or.jp/history/10nen/10nen_09.html)
禁煙治療は「気持ちの問題」ではなく、薬物療法を含むエビデンスベースの医療行為です。 ganjoho(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/smoking/tobacco05.html)
禁煙補助薬(ニコチン代替療法:NRT)の110件のランダム化試験を統合した解析では、NRT単独または併用により6か月後の禁煙率がプラセボと比較してRR 1.58(95%CI:1.50–1.66)と有意に改善することが示されています。 これは使えそうです。禁煙外来での5回の診察を完遂した患者の約75%が治療終了時に禁煙に成功し、9か月後でも約50%が継続しているというデータもあります。 cancerinfo.tri-kobe(https://cancerinfo.tri-kobe.org/summary/detail_view?pdqID=CDR0000062879)
医療従事者が介入する際に押さえておくべきタイミングは以下の通りです。 ganjoho(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/smoking/tobacco07.html)
日本循環器学会の禁煙推進部会では、喫煙関連疾患における心血管リスクの軽減に向けた介入ガイドラインを公開しています。外来での簡易禁煙介入(5A・5R法)の実践ツールとしても活用できます。
日本循環器学会 禁煙推進部会:喫煙の健康影響・禁煙の効果(医療関係者向け)
喫煙歴がある患者でも、受診時に「現在は吸っていない」と言えばリスクが消えると思われがちです。 厳しいところですね。しかし禁煙後も冠動脈性心疾患リスクが非喫煙者レベルに戻るには15年を要するのが現実です。 ganjoho(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/smoking/tobacco07.html)
もう一つの盲点は、「たばこを吸ったことがない患者でも扁平上皮癌(喫煙が主因とされる肺がんタイプ)になるケース」です。広島赤十字・原爆病院の報告によると、喫煙歴がないにもかかわらず扁平上皮癌を発症した患者の多くは、配偶者がヘビースモーカーであったケースだったとしています。 受動喫煙による肺がんリスクは受動喫煙のない人と比べて約1.3倍増加します。 「本人が吸っていないから低リスク」は誤りです。 hiroshima-med.jrc.or(https://www.hiroshima-med.jrc.or.jp/blog/blog-wisdom/blog-3114/)
さらに見落とされやすいのが、口腔内・上部消化管の病変です。口腔がん・咽喉頭がん・食道がんは禁煙後10年でリスクが低下することが確認されており、 逆に言えば長期喫煙者の口腔・食道スクリーニングを怠るリスクは高いということです。医科歯科連携の視点で患者を診ることが、喫煙関連疾患の見落とし防止につながります。 ganjoho(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/smoking/tobacco07.html)
国立がん研究センターのがん情報サービスでは、禁煙による各種がんリスク低下のエビデンスを一覧できます。患者説明資料としても活用可能です。
国立がん研究センター:禁煙による健康への効果(エビデンス一覧)