カルバペネム耐性菌(CRE)感染症への対応で「とりあえずコリスチン」を選んでいると、治療成績が大きく下がる可能性があります。
国内では感染症法の届出対象であり、施設内でのCRE検出が増加傾向にあるため、迅速な感染経路の特定と標準予防策の徹底が求められます。 治療においてはまず「保菌か感染か」を明確に区別することが出発点です。CRE保菌者(感染症を発症していない患者)に対して除菌目的で抗菌薬を投与することは推奨されておらず、むしろ無用な抗菌薬投与がCREをさらに増やすリスクをはらんでいます。 id-info.jihs.go(https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/diseases/ka/cre/3306-carbapenem-qa.html)
CREにおけるカルバペネム耐性の機序は大きく2つに分けられます。一つは酵素的機序であるカルバペネマーゼ(β-ラクタマーゼの一種)の産生、もう一つは非酵素的機序であるポーリン(外膜孔)の変異やABCトランスポーターを介した排出ポンプの亢進です。 radionikkei(https://www.radionikkei.jp/kansenshotoday/docs/kansenshotoday-230925.pdf)
ポーリンとは抗菌薬が外膜を通って菌体内に侵入する際の通路のことで、いわばトンネルのような役割を持ちます。 そのトンネルの形が変わることで抗菌薬が侵入できなくなります。これが非酵素的耐性の本質です。 radionikkei(https://www.radionikkei.jp/kansenshotoday/docs/kansenshotoday-230925.pdf)
| クラス | 代表的な酵素 | 対応する新規抗菌薬 |
|---|---|---|
| クラスA(セリン系) | KPC | レレバクタム・イミペネム・シラスタチン(レカルブリオ®)、AVI/CAZ |
| クラスB(メタロ系 / MBL) | IMP、NDM、VIM | アズトレオナム系(要感受性確認) |
| クラスD(オキサシリナーゼ系) | OXA-48 | AVI/CAZ(セフタジジム・アビバクタム) |
なお、国内で多く検出されるMBL産生菌はIMP型が主体であり、NDM型やVIM型は海外からの輸入例が中心です。 渡航歴の確認が臨床判断を助けることもあります。 id-info.jihs.go(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/pathogens/vol46/540/540t.html)
KPC産生菌(クラスA)への対応:
レレバクタム・イミペネム・シラスタチン(商品名:レカルブリオ®)が有効と考えられています。 セフタジジム・アビバクタム(AVI/CAZ)もKPC産生菌を含むCREに対して高い活性を持ち、承認国では第一選択薬となっています。 この2剤は国内での使用経験も積み上がってきています。 chemotherapy.or(https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/073S1/073S10024.pdf)
MBL産生菌(クラスB)への対応:
MBLはアビバクタムやレレバクタムでは阻害されないため、両薬剤は原則無効です。 アズトレオナムは固有の耐性機序を持たないため有効な場合がありますが、他の耐性機序を合わせ持つ可能性もあるため、薬剤感受性結果に基づいた判断が不可欠です。 id-info.jihs.go(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/pathogens/vol46/540/540r07.html)
OXA-48産生菌(クラスD)への対応:
セフタジジム・アビバクタム(AVI/CAZ)が選択肢となります。 ただしOXA-48型は国内での検出例は相対的に少なく、主に中東・南アジアからの渡航歴がある患者での報告が多い現状があります。 chemotherapy.or(https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/073S1/073S10024.pdf)
非CPEのCREへの対応:
参考:感染症情報センターによるCRE感染症の治療に関する詳細情報(国立感染症研究所・感染研ウェブサイト)
CREはEnterobacterales(腸内細菌目細菌)の話ですが、臨床現場ではカルバペネム耐性緑膿菌(CRPA)やカルバペネム耐性アシネトバクター(CRAB)も同様に問題となります。 これらはノンフェルメンター菌(NF菌)と呼ばれ、CREとは菌種も耐性機序も異なります。 antibiotics.or(https://www.antibiotics.or.jp/wp-content/uploads/72-3_253-262.pdf)
CRPAに対しては、薬剤感受性試験の結果によってPIPCやCAZ、CFPM、CPFXなどが治療の選択肢となりうる場合があります。 全例で感受性が失われているわけではなく、感受性検査の結果を丁寧に確認することが重要です。新規薬剤としては、カズトレオナム・アビバクタム(TAZ/CTLZ)とレレバクタム・イミペネム・シラスタチン(REL/IPM/CS)が治療選択肢として挙げられています。 これらの新規合剤は有力な候補です。 antibiotics.or(https://www.antibiotics.or.jp/wp-content/uploads/72-3_253-262.pdf)
参考:カルバペネム耐性グラム陰性菌治療に関する最新論文(日本化学療法学会誌)
カルバペネム耐性グラム陰性菌感染症の治療選択(日本化学療法学会)
CRE感染症に対する治療は静注抗菌薬が基本とされてきましたが、近年の知見では適切な症例選択のもとでの経口抗菌薬への切り替えが静注と同等の治療効果を示す可能性が報告されています。 これは臨床実践に影響を与える重要な知見です。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/aff94462-13c3-4b29-a4cf-abb493be065d)
具体的には、非尿路感染や重症例の標的治療では一般的にβ-ラクタム系の静注抗菌薬が選択される一方、退院時の切り替えや外来治療においては非β-ラクタム系の経口抗菌薬が有力な選択肢となります。 特にST合剤(トリメトプリム・スルファメトキサゾール)やフルオロキノロン系は経口利用が可能な系統として有用です。 id-info.jihs.go(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/pathogens/vol46/540/540r07.html)
退院時の切り替えが「現実的な選択肢」として成立するためには、以下の条件が求められます。
静注から経口への切り替え(IV to PO switch)は、入院期間の短縮・医療コストの削減・カテーテル関連感染リスクの低減という複数のメリットをもたらします。 患者にとっても医療機関にとっても有益な戦略です。なお、切り替えを検討する際は感染症専門医や薬剤師との協議を行うことが、適正使用の観点から推奨されます。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/aff94462-13c3-4b29-a4cf-abb493be065d)
参考:退院時の経口抗菌薬切り替えに関する最新情報
退院時の経口抗菌薬切り替えは静注と同等の効果(CaroNet Academia)
カルバペネム系抗菌薬はグラム陰性菌感染症の治療において最も重要な抗菌薬の一つですが、その使用量が多いほどCREを含む耐性菌の出現リスクが高まります。 実は「最も使用を減らすべき抗菌薬の筆頭はカルバペネム」とも言われています。 使えば使うほど将来の選択肢を失うことになります。 nihon-eccm(https://nihon-eccm.com/icu_round2018/%E6%9C%80%E3%82%82%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%82%92%E6%B8%9B%E3%82%89%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%8D%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC%E3%81%AF%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%9A%E3%83%8D%E3%83%A0%EF%BC%81/)
Antimicrobial Stewardship(AMS:抗菌薬適正使用支援)の観点では、以下の実践が求められます。
2023年以降、国内でもCPEに高い抗菌活性を示す新規β-ラクタム薬(セフタジジム・アビバクタム、レレバクタム・イミペネム等)が承認されてきており、治療の選択肢は着実に広がっています。 しかし新薬が登場しても適正使用の原則は変わりません。カルバペネマーゼ遺伝子型の診断を踏まえた適応の見極めが、新規薬剤の有効性を長期的に維持するうえでも欠かせません。 id-info.jihs.go(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/pathogens/vol46/540/540t.html)
耐性菌との戦いは新薬開発だけでは解決しません。感染制御・適正使用・迅速診断の三本柱を日常的な医療の中で実践することが、CRE感染症による死亡率の上昇を防ぐ最も現実的なアプローチです。
参考:厚生労働省によるCRE感染症の詳細資料
カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症について(厚生労働省)
参考:国立感染症研究所によるCRE感染症の最新動向(2024年現在)