しびれが出ても「どうせ軽症だから続けて大丈夫」と判断するのは危険で、Grade3以上では治療中止を余儀なくされる場合があります。
カドサイラ(一般名:トラスツズマブ エムタンシン)は、HER2に結合する抗体「トラスツズマブ」と、微小管を阻害する化学療法薬「DM1(メルタンシン)」を結合させた抗体薬物複合体(ADC)です。 がん細胞内に取り込まれたDM1が微小管重合を阻害しますが、末梢神経の神経細胞(特に軸索内の微小管構造)にも一定の影響を与えることが、しびれ発現の主な機序と考えられています。 chigasaki-localtkt(https://chigasaki-localtkt.com/kadosairanokoukiryounosaishinjouhou/)
末梢神経障害(CIPN:Cancer treatment-induced peripheral neuropathy)として現れるしびれは、感覚神経が主な標的です。 手足の先端から始まるしびれ・感覚低下は、靴下・手袋型の分布を示すことが多く、「ストッキング・グローブ型」と呼ばれます。重要なのは、この障害が蓄積性である点です。 marianna-u.ac(https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/data/media/marianna-u_hospital/page/departments/pharmaceutical/a01/47f5b47b85f4d430a78af40789c86011.pdf)
つまり投与回数が増えるほどリスクが高まります。 marianna-u.ac(https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/data/media/marianna-u_hospital/page/departments/pharmaceutical/a01/47f5b47b85f4d430a78af40789c86011.pdf)
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 作用機序 | DM1が微小管重合を阻害→軸索輸送障害 |
| 発現部位 | 手足の末梢(ストッキング・グローブ型) |
| 進行パターン | 蓄積性(投与サイクルごとに悪化しうる) |
| 回復 | 治療終了後も回復に時間を要する場合あり |
DM1はパクリタキセルと同様に微小管に作用するため、既存の神経障害を持つ患者では初期から症状が出やすい点も把握しておく必要があります。 投与前の神経学的ベースラインを必ず確認することが、継続管理の第一歩です。 oncolo(https://oncolo.jp/news/171130kn)
カドサイラの末梢神経障害(しびれを含む)の発現頻度は13.8%と報告されています。 ほかの主な副作用と比較すると、倦怠感43.8%・血小板減少28.0%より低頻度ですが、「もとに戻りにくい」蓄積性の性質から、慎重なグレード管理が求められます。 medpeer(https://medpeer.jp/drug/d2343/product/20874)
グレード分類にはCTCAE(有害事象共通用語基準)が使われます。 Grade1は症状があっても日常生活に支障なし、Grade2は日常的な手の使用に支障あり、Grade3は日常生活動作(ADL)に支障、Grade4は機能障害を来す感覚性または生命を脅かす運動性ニューロパチーです。 maizuru.kkr.or(https://maizuru.kkr.or.jp/common/pdf/rejimen/GE063.pdf)
Grade3・4は投与中止の判断が必要になる可能性があります。 oita.hosp.go(https://oita.hosp.go.jp/section/files/402_yakuzaibu/regimen/B_nyugan/B_16.pdf)
| グレード | 症状の目安 | カドサイラの対応 |
|---|---|---|
| Grade1 | 症状はあるが日常生活に支障なし | 用量変更なし・継続 |
| Grade2 | 手の細かい動作に支障(例:ボタンかけが困難) | 休薬→Grade1以下に回復後1段階減量で再開 |
| Grade3 | ADLに支障(歩行・身の回りの動作が困難) | 休薬→Grade2以下に回復後1段階減量で再開 |
| Grade4 | 生命を脅かす・麻痺に至る重度障害 | 投与中止 |
特筆すべき点として、末梢神経障害のGrade3・4は休薬後の回復を確認したうえで「減量不要で再開可」という施設もあり、施設ごとのレジメン差に注意が必要です。 厚生労働省のPMDAが公表する重篤副作用対応マニュアルも参考にすると、より精度の高い判断ができます。 oita.hosp.go(https://oita.hosp.go.jp/section/files/402_yakuzaibu/regimen/B_nyugan/B_16.pdf)
PMDAの重篤副作用疾患別対応マニュアル(末梢神経障害のグレード別用量変更基準を確認できます)
しびれの評価で最もよく使われる患者報告ツールがPNQ(Patient Neurotoxicity Questionnaire)とCTCAEの2種類です。 PNQは患者自身が「手・足それぞれの症状の程度」を回答する形式で、日常生活への影響を定量的に把握できます。 brca.kuhp.kyoto-u.ac(https://brca.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/12/%E6%89%8B%E8%B6%B3%E3%81%AE%E3%81%97%E3%81%B3%E3%82%8C%E3%81%AE%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E6%B4%BB%E5%8B%95%E5%A0%B1%E5%91%8A.pdf)
問診では「しびれがあるかどうか」だけでなく、具体的な生活場面への影響を聞くことが重要です。
- 🧤 ボタンがかけにくくなっていないか(手指の巧緻性低下)
- 🚶 転倒が増えていないか(足底の感覚低下)
- 🥢 箸がうまく使えているか(日本人患者では特に重要な指標)
- 👟 靴がきつく感じるほど足がむくんでいないか(しびれと浮腫の鑑別)
これが基本の確認項目です。
「しびれがあっても我慢している患者が多い」という点は特に注意が必要です。 国内のデータでは、日常生活に支障をきたすCIPNの発症割合がPNQの評価で約10%・CTCAEの評価で約15%にとどまっていたという報告があります。 これは圧迫療法などの予防介入を行った場合の数値で、予防なしでは発現率がさらに高くなると考えられます。 brca.kuhp.kyoto-u.ac(https://brca.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/12/%E6%89%8B%E8%B6%B3%E3%81%AE%E3%81%97%E3%81%B3%E3%82%8C%E3%81%AE%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E6%B4%BB%E5%8B%95%E5%A0%B1%E5%91%8A.pdf)
患者が「この程度は仕方ない」と報告を控えるケースを防ぐには、診察ごとに「先週と比べてどうですか?」と変化を問う質問が有効です。定点的に繰り返す観察が原則です。
カドサイラによる末梢神経障害(しびれ)を完全に予防する薬剤は現時点で確立されていません。 ただし、いくつかの非薬物的アプローチが注目されています。 ameblo(https://ameblo.jp/3h-medisolution/entry-12962163485.html)
まず注目されているのが「弾性圧迫グローブ・ストッキング(ECGS)」を用いた圧迫療法です。 京都大学附属病院が実施した研究では、ECGSを使用した群で日常生活に支障をきたすCIPNの発症がPNQ評価で約10%・CTCAE評価で約15%にとどまり、予防なし群と比較して低下傾向が示されました。これは使えそうです。 brca.kuhp.kyoto-u.ac(https://brca.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/12/%E6%89%8B%E8%B6%B3%E3%81%AE%E3%81%97%E3%81%B3%E3%82%8C%E3%81%AE%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E6%B4%BB%E5%8B%95%E5%A0%B1%E5%91%8A.pdf)
手足の冷却療法(クライオセラピー)は、パクリタキセルに対しては有効性が確認されています。 ただし、カドサイラ(DM1成分)への応用については現時点でエビデンスが限られており、「パクリタキセルで有効だったから当然カドサイラにも効く」という単純な類推は禁物です。 oncolo(https://oncolo.jp/news/171130kn)
医療従事者としての役割は「副作用が出てから対処する」ではなく、「出る前から観察し、段階的に介入する」姿勢です。治療計画のなかにCIPNモニタリングのスケジュールを組み込むことが、QOL維持と治療継続率の向上に直結します。
日本がんサポーティブケア学会:末梢神経障害 診療ガイドライン(カドサイラを含む各種CIPNの管理指針が網羅されています)
医療現場でしびれの対応が後手に回りやすい理由のひとつが、「投与前のリスク評価が十分でない」ことです。これは意外な盲点です。
カドサイラ投与前にリスクを高める背景因子として、以下が挙げられます。
投与前にこれらの因子を系統的にスクリーニングするだけで、初回投与から密な観察計画を立てることができます。スクリーニングシートを外来カルテに組み込むなど、仕組みとして機能させることが重要です。
「しびれが出たら相談してください」と伝えるだけでは不十分です。 「どんな小さな変化でも次の診察時に必ず報告する」というコミットメントを患者と事前に共有し、観察の継続性を担保することが、現場レベルでできる最も実践的な取り組みです。 marianna-u.ac(https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/data/media/marianna-u_hospital/page/departments/pharmaceutical/a01/47f5b47b85f4d430a78af40789c86011.pdf)
「投与前評価」が充実するほど、投与中の対応がスムーズになります。
カドサイラを使う患者の多くは複数サイクルにわたる長期治療を行っており、末梢神経障害は「いつか出るかもしれない副作用」ではなく「想定して管理すべき副作用」と位置づけることが、医療の質を高める第一歩です。
中外製薬 カドサイラ患者サポートサイト:手足のしびれ(末梢神経障害)の症状・相談タイミングの目安が記載されています