プロラクチンが上昇しても、ほぼ90%のケースで臨床症状は出ません。
イトプリド塩酸塩は、消化管運動改善薬の中でも特異な二重作用機序を持ちます。まずドパミンD2受容体拮抗作用により、消化管神経叢レベルでのドパミンによるアセチルコリン(ACh)放出抑制を解除します。さらにアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用によって放出されたAChの分解を防ぐことで、消化管平滑筋への刺激を増強します。
つまり「AChを増やして、かつ分解させない」という二段構えです。
同系統のドンペリドンにはAChE阻害作用がなく、メトクロプラミドは中枢移行のリスクがあります。イトプリドは消化管選択性が比較的高く、中枢性副作用が少ない点が処方上の優位性として挙げられます。 ただし、後述するプロラクチン上昇はドパミン拮抗に起因するため、完全に無視できるわけではありません。 igaku.co(http://www.igaku.co.jp/pdf/1405_resident-02.pdf)
イトプリドの作用部位は消化管のドパミン受容体です。 image.packageinsert(http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2399008F1098)
| 薬剤 | D2受容体拮抗 | AChE阻害 | 中枢移行 |
|---|---|---|---|
| イトプリド塩酸塩 | ✅ | ✅ | 低い |
| ドンペリドン | ✅ | ❌ | 低い |
| メトクロプラミド | ✅ | ❌ | 高い |
国内第III相試験では、慢性胃炎患者111名を対象に1日150mg(50mg×3回)投与を実施。「中等度改善」以上の有効率は79.3%という結果でした。 これは約5人に4人が改善するという数字で、東京ドーム5つ分の客席を埋めたとすると、そのうち4つ分の客が有効と判断されるイメージです。 carenet(https://www.carenet.com/drugs/category/digestive-organ-agents/2399008F1110)
一方、*NEJM*掲載の機能性ディスペプシア国際試験(Holtmannら)では、イトプリド群の奏効率73%に対しプラセボ群は63%(P=0.04)。 有意差は確認されましたが、プラセボ効果の高さにも注目する必要があります。これは意外ですね。 nejm(https://www.nejm.jp/abstract/vol354.p832)
症状スコアの改善は、100mg投与群と200mg投与群で最も大きく(−6.24と−6.27)、プラセボ群の−4.50を有意に上回りました(P=0.05)。 機能性ディスペプシアへの適応については医療現場での認識がまだ高くない施設もありますが、エビデンスは存在します。 nejm(https://www.nejm.jp/abstract/vol354.p832)
NEJM日本語版:機能性ディスペプシアに対するイトプリドのプラセボ対照試験(Holtmann et al., 2006)
上記リンクでは、国際的なプラセボ対照二重盲検試験における症状スコアの改善データおよび奏効率の詳細が確認できます。
通常、成人にはイトプリド塩酸塩として1日150mgを3回に分けて食前に経口投与します。 用量は年齢・症状により適宜減量します。食前投与が原則です。 med.nipro.co(https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=00P5h00000DTvM4EAL)
吸収は非常に速く、健康成人男子への絶食時単回経口投与(50mg)でTmaxは約0.8時間(約48分)と報告されています。 食事前に飲めば、食事中にはすでに消化管で効果を発揮し始めている計算になります。 med.nipro.co(https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=00P5h00000DTvM4EAL)
これは使えそうです。
ただし、食後投与との比較データが現場でよく質問されるポイントです。食前投与が推奨される理由は、胃内容物がない状態でAChを増加させ、食事刺激に対する胃排出促進の準備をさせるためと考えられています。食後に飲み忘れた場合の対応は、基本的に次の食前まで待つよう指導することが原則です。
重大な副作用としてショック・アナフィラキシー(いずれも頻度不明)が報告されており、血圧低下・呼吸困難・喉頭浮腫・蕁麻疹などの症状が出た場合は直ちに投与中止が必要です。 また、頻度不明ながら肝機能障害・黄疸の報告もあります。 medley(https://medley.life/medicines/prescription/2399008F1110/doc/)
プロラクチン上昇は0.1〜5%未満の頻度で起こり、女性化乳房は頻度不明です。 ドパミン拮抗薬共通の機序によるもので、長期投与時は特に注意が必要です。厳しいところですね。 medley(https://medley.life/medicines/prescription/2399008F1110/doc/)
その他の副作用として、消化器症状(下痢・便秘・腹痛・嘔気・唾液増加)、精神神経系(頭痛・イライラ感・睡眠障害・めまい)、肝機能値の上昇(AST・ALT・γ-GTP・Al-P)、腎機能値の上昇(BUN・クレアチニン)なども報告されています。 med.nipro.co(https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=0155h000000ecYi)
image.packageinsert(https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2399008F1152)
image.packageinsert(https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2399008F1080)
image.packageinsert(http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2399008F1098)
2022年9月、小林製薬が「イラクナ」という名称でイトプリド塩酸塩配合のスイッチOTC薬(要指導医薬品)を日本初として発売しました。 これは医療現場にとって見落とせない変化です。 kobayashi.co(https://www.kobayashi.co.jp/newsrelease/2022/otc_1/)
患者がOTCを自己判断で使用した後に受診する、あるいは処方薬と並行して使用するケースが今後増える可能性があります。重複投与のリスクは現実的です。
外来で「市販の胃薬を飲んでいます」と聞いた際に、それがイトプリド含有製品かどうかを確認する視点が必要です。要指導医薬品の「イラクナ」は薬局で薬剤師による指導のもと販売されますが、処方薬と同成分であることを患者が認識していないケースが考えられます。処方時の重複確認が1つの対策です。
小林製薬プレスリリース:日本初イトプリド塩酸塩配合スイッチOTC薬「イラクナ」新発売(2022年)
上記リンクでは、スイッチOTCとしての承認背景と対象症状の詳細が確認できます。OTC使用患者への重複投与リスク管理に役立ちます。